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編集長展望

Vol.40 Z世代が語る、エネルギーの未来 2024年大総括!エネフロ編集部座談会

写真)座談会の様子

写真)座談会の様子
© エネフロ編集部

まとめ
  • 今年よく読まれた記事は、「自動運転」、「ライドシェア」などEV関連。
  • 「積雪発電」、「窓ガラス発電」、「バイオマス発電」など、新たな発電方法が注目された。
  • 2025年は原子力発電との上手な付き合い方が注目。

早いもので、今年も1年を振り返る時期がきた。2024年もさまざまな記事を掲載してきたが、エネルギーフロントライン(以下、エネフロ)では毎年恒例の年末座談会を開催した。今回は6名の学生インターンが参加し、Z世代の意見も聞くことができた。

【座談会参加者】

司会:安倍宏行(エネルギーフロントライン編集長)

エネフロ編集部:
マヨ
トエ

インターン:
イロハ (大学4年生)
サキ (大学4年生)
ミズキ (大学4年生)
トモカ (大学2年生)
カズキ (大学2年生)
ロコ (大学1年生)

今年読まれた記事ランキングTOP10は以下のとおり。

1位にランクインしたのは海底熱水鉱床から金を採取する技術についての記事だ。かつて金を採掘できた金山が日本にはいくつかあったがやがて廃坑に。近年、注目されている都市鉱山に続き、海中にも金鉱があるという意外性が読者の興味を引いた。

2位以下をみると、これまでにない新たな発電方法が多く取り上げられた。ランキングの中では3位の窓ガラス発電、8位の天然水素がみられる。

4位の自動運転や5位の自動物流道路、そして6位のライドシェアなど未来の運転技術についても読者の関心が高そうだ。運転手不足が深刻さを増す中、このようなテクノロジーは今後の社会に大きな影響を与えそうである。

7位の感染を防ぐ蚊についても興味深い。コロナ前ほどに戻ってきた海外渡航も不安が軽減される。新たな技術と生態系バランスの変化という観点からも注目したい。

編集サイドの感想

安倍さて、今回は多くの学生インターンに来ていただきました。普段エネフロのリサーチなど手伝ってもらっていますが、早速みなさんにお聞きしたい。今年気になった記事はどれですか?

ミズキ私は「直播・節水型栽培による環境負荷の低い米生産が日本の農業を変える」です。湛水しなくてもお米が生産できる農法が斬新でした。また、人手不足、後継者不足に悩む農家にとって、大きな助けにもなるという点からも興味深い記事でした。

写真)節水型の田で育つ稲 千葉県・木更津市
写真)節水型の田で育つ稲 千葉県・木更津市

©エネフロ編集部

サキ私は、建っているだけでCO₂の削減に寄与し地球のためになる画期的な木造高層ビルを紹介した記事、「世界最高55階建て!木造超高層ビルが実現へ」です。今後の課題はやはり、コストダウンだと思いますので、いかに資材や建築のコストを下げることができるかが重要になってくるのかな、と思いました。

安倍カズキさんが気になった記事はなんでしたか?

カズキ「タイヤ革命 環境に優しいエアレスタイヤ登場」では、パンクしないタイヤというこれまで聞いたことのない技術を知って興味を持ちました。素材もリサイクルできるということで、環境対策という視点からも興味を持ちました。また、海外の自動物流道路を紹介した、「『2024年問題』解決の切り札か『自動物流道路』貨物は地下トンネルで」では、スイスの具体的な取り組みを知ることができました。また、「ニセコで『積雪発電』お湯も電気も融雪も」では、雪を使った温度差発電で得られた排熱を融雪に使う、という実験は雪国にとってとても重要な技術だと感じました。実験の様子から今後の展望まで紹介されていて、興味深かったです。

トエ私も北海道に住んでいた時期があり、雪の影響から高速道路の閉鎖や交通事故の多さに不便さを感じていました。除雪の様子を見るたびにどうにかならないものかと思っていたので、温度差によるこの新しい発電方法はとても楽しみです。

写真)融雪実験用のプレハブの屋根の上でデモンストレーションする電気通信大学榎木光治准教授(2024年1月18日 北海道ニセコにて)
写真)融雪実験用のプレハブの屋根の上でデモンストレーションする電気通信大学榎木光治准教授(2024年1月18日 北海道ニセコにて)

©エネフロ編集部

安倍ロコさんはどうですか?

ロコ私はまず「見えない電波から電力を生み出す!未来を変えるスピントロニクス」です。ここ数年間で電気代の高騰や電力の需給逼迫が話題となる中、普段飛んでいる微弱電波から電力を得るというこの技術の普及が日常生活や産業分野における電力問題を解決する可能性があり、非常に価値のある情報だと感じました。

次に「未来を紡ぐ、CO₂から生まれた繊維 私たちの暮らしを変えるサステナブルな素材」も興味深かったです。高校時代に取材をした「RENU」プロジェクトでは、「繊維から繊維」をつくり出すという持続可能な再生繊維が注目されていました。しかし、この記事を通して「CO2から繊維」をつくり出すカーボンリサイクル技術があることを知り、驚くと同時に興味を持ちました。

サキ私もその記事に興味を持ちました。ただ、ファストファッションも日常に浸透しているので、サプライチェーンのコストダウンも課題となりそうだと感じました。SNSなどのブランドマーケティングでどう消費者の意識改革につなげていくのかが大事かなと感じています。

ロコ最後に「スリーマイル島原子力発電所、再稼働に向け始動! 原子力発電が再び脚光を浴びる」の記事で、アメリカで原子力発電所の再稼働が進んでいる点に注目しました。再稼働の背景を多くの人が理解すれば、日本での原子力発電に対するマイナスイメージは払拭される可能性があると思います。

写真)スリーマイル島原子力発電所
写真)スリーマイル島原子力発電所

出典)Chip Somodevilla/Getty Images

トモカ私もその記事は印象的でした。原子力発電所の再稼働に関する議論がある中で、世界のエネルギー情勢を知ることは、日本の原子力発電やエネルギー問題の現状を考えるきっかけになりますよね。

安倍なるほど。トモカさんが他に気になった記事はありますか?

トモカ「脱炭素と花粉症対策、一石二鳥!バイオマス発電の新たな可能」はエネルギー問題について身近である花粉と絡めて発信していて分かりやすく、興味を持ちやすいと感じました。

安倍では、イロハさんはどのような記事をピックアップしましたか?

イロハTOP10にも入っていた「加速する自動運転 日本の現状は?」です。韓国を訪れた際、深夜2時でも多くのタクシーが走っていたことや価格の安さに驚き、日本はモビリティの面で、近隣諸国や世界と比べるとまだまだという印象を受けました。そもそも「車で移動する」ことに対するハードルの高さや文化の違いも一因となっていると考えています。

写真)Waymoの自動運転タクシー 2024年4月2日 米カリフォルニア州サンフランシスコ
写真)Waymoの自動運転タクシー 2024年4月2日 米カリフォルニア州サンフランシスコ

出典)Eli Wilson/GettyImages

そして、実際に実物を取材した「世界初!鉄道設備メンテナンスに巨大人型重機ロボット登場」は想像以上の動きの滑らかさと規格外の大きさに度肝を抜かれました。しかも操縦者がVRを活用し、人の動きと連動して滑らかに操作できる技術にも驚きました。建設業の就業者数減少という社会課題を解決するためにも、人型ロボットのさらなる発展を期待しています。

写真)「零式人機 ver.2.0 デモ」2024年9月20日 東京都江東区東京ビッグサイト
写真)「零式人機 ver.2.0 デモ」2024年9月20日 東京都江東区東京ビッグサイト

©エネフロ編集部

今後知りたいテーマ

安倍ありがとうございます。では、来たる2025年みなさんが特に知りたいトピックを教えてください。

トエ個人的にはファッション業界のサステナビリティについてもっと知りたいです。「サステナビリティとはパスポートのようなもの」だという言葉を耳にしますが、価格問題も含めてファストファッションとの二極化が著しくなるのか、あるいは脱炭素などを意識し全体的に基準が底上げされるのか、注目しています。学生のみなさんはどうでしょう?

カズキ私は「2024問題」など、一度報じられて終わってしまうテーマの続編がみたいです。トピックとして知っていてもその後どうなっているのか、詳しくは知らないという人が多いと思います。記事を読むことで知識を得ることが出来れば、会話の種にもなりますし、需要と価値がありそうです。

ロコ私は発電に使われるエネルギーの未来について注目したいです。全く新しいものだけでなく、従来の発電方式にサステナブルな新技術が取り入れられる方法もあるようです。こうした最新動向を掘り下げたいと思います。

トモカ日本の挑戦ももちろんですが、過去記事「原子力発電に集まる期待 各国の政策は?」のように、各国の原子力発電に関する方針についても追っていきたいです。

特にドイツが脱原子力発電をした後の情勢がどうなっているのか。日本と似ている部分もあることを踏まえ、比較しながらみていきたいです。また、日本のスタートアップ、京都フュージョニアリングの核融合発電などの新たな技術にも注目していきたいです。

イロハ私も就活を通し、改めて「脱炭素」はどの企業でも重要視していることを知り、大きな課題だと思いました。引き続きエネルギー分野にスポット当てた記事が読みたいです。

安倍Z世代のみなさんにとってもそれだけエネルギー問題が身近になっているということですね。中学や高校で学ぶ機会があったのでしょうか?

ロコ私は高校の授業でファストファッションの現状やエネルギーなど、SDGsについて先生が題材をよく持ってきてくれました。その後興味を持ったテーマを自分で研究できる機会があり、エネルギーへの関心が高まりました。

学生たちはどう感じている?原子力発電について。

マヨ先生方の熱量も学生にしっかり伝わり、社会に対する問題意識を持った若者がこうして誕生しているのですね。今回、原子力発電について多くの意見がありましたが、そもそも原子力発電所はあったほうがいいのかどうか、今の学生さんたちはどう捉えているのでしょうか。率直な本音をお聞かせください。

カズキ福島原子力発電所のような事故が起こってしまった時の影響を考えると、なくせるならなくしたほうがいいとは思います。しかし、それに伴い他のエネルギーだけで回していくデメリットが大きすぎるのであれば、原子力発電も続けたほうがいいのではないかと思います。

ロコ私も「脱炭素」が重要な課題となる中、再生可能エネルギーだけで、必要とされる電力が供給できる世界が完全には確立していない中で、原子力発電を使わない手は正直ないと思います。東日本大震災があったのは私たちが5歳くらいで、原子力発電所の事故については小学生の頃から触れてきました。それでも、発電時には二酸化炭素を出さない発電法である点や、燃料価格上昇に伴う電気代の高騰リスクなどを考えると、2030年くらいまでは使ったほうがいいのではないかと思います。

トモカ私も原子力発電については賛成です。放射性廃棄物の安全性や処理の問題について、エネフロをはじめ各省庁や電力会社などからの確かな情報がより多くの人に知れ渡れば、見方も変わってくるのではないでしょうか。

イロハ私も同意見です。現在、新たな発電方法が次々と生まれているとはいえ、原子力発電所再稼働の動きも出ている時点で、なくてはならないものになっているのではないかというのが率直な思いです。一方で自分が原子力発電所事故の被害にあった当事者だとしたら、簡単ではないだろうなとも思います。

マヨありがとうございます。経済的な話と倫理的な話が盛り込まれていました。私たちも、分かりやすい説明で正しい情報を出すことや、多くの方々にしっかり伝えていかなければならないことを改めて肝に銘じました。

安倍まもなく改定されるエネルギー基本計画のなかで、原子力発電の位置付けがどのように変わっていくのか、気になりますね。皆様、本日はどうもありがとうございました。

2024年も沢山の方にエネルギーフロントラインをお読みいただきました。編集部一同、心よりお礼申し上げます。2025年もさまざまなトピックを取り上げていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

それではみなさま、良いお年をお迎えください。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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