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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.68 ニセコで「積雪発電」お湯も電気も融雪も

写真)積雪発電による融雪の実証実験。アルミ板と温められた不凍液が流れる銅管で構成された融雪システム。60℃位に温められるため、雪が降ってもすぐに溶けて積もらない。2024年1月18日 ニセコ東急 グラン・ ヒラフスキー場の駐車場にて

写真)積雪発電による融雪の実証実験。アルミ板と温められた不凍液が流れる銅管で構成された融雪システム。60℃位に温められるため、雪が降ってもすぐに溶けて積もらない。2024年1月18日 ニセコ東急 グラン・ ヒラフスキー場の駐車場にて
© エネフロ編集部

まとめ
  • 「積雪発電」は温度差発電の一種で、雪を利用することで生まれる温度差で駆動するピストンを用いて発電する。
  • 北海道ニセコで、発電機で温めた不凍液による融雪実証実験がおこなわれた。
  • 蓄電池、エコ給湯器などと組み合わせ、より効率的なエネルギーシステムが構築できる可能性がある。

雪国に本格的な冬が訪れた。道路に積もった雪を溶かすために消雪パイプを使ったり、除雪車をフル稼働させたり、大変な労力が春まで続く。

たとえば世界でも有数の降雪量を記録する北海道札幌市。その年により降雪量にバラツキはあるが、過去30年間の平均年間積雪量は4m79cmにも達する。人口180万人以上の都市でこれほど雪が積もる都市は世界でもまれだ。

図)札幌市の冬の降雪量推移(平年値は1991年から2020年の30年間の平均値)
図)札幌市の冬の降雪量推移(平年値は1991年から2020年の30年間の平均値)

出典)札幌市

その年の積雪量により増減はあるが、除雪にかかる費用は莫大だ。札幌市では年間200~300億円を道路除雪費や雪対策費に使っている。また金銭面のみではなく、除雪をおこなう人員不足の問題も近年深刻になっている。

図)札幌市の雪対策費決算の推移
図)札幌市の雪対策費決算の推移

出典)雪対策費実績/札幌市

そんなやっかいものの雪だが、その雪で発電する技術を以前紹介した。(参考:「太陽光だけじゃない!雪で発電?」2020.02.11)「摩擦帯電型ナノ発電」と呼ばれるもので、雪がプラスに帯電する性質を利用して、マイナスに帯電した物質と接した際に生じる摩擦帯電から発電する。

積雪発電とは

今回紹介するのは、これとは異なる「積雪発電」と呼ばれるものだ。温度差発電の一種であり、雪を利用することで生まれる温度差で駆動するピストンを用いて発電する。

温度差を得るために高温熱源と低温熱源が必要で、低温熱源(大気や海水など)は熱エネルギーの廃棄場所となる。例えば、自動車はオーバーヒートを防ぐために、ガソリンから得る熱エネルギーの多くをラジエーターやマフラーなどから大気中に逃がしているが、これは地球温暖化につながり好ましくない。積雪発電は、熱エネルギーの廃棄場所を雪にしている。それにより、融雪もできるし、大気中に熱を逃がすより高温熱源と低温熱源の温度差は大きくなる。その結果発電効率が上がるという、画期的なアイデアなのだ。

この発電方法の開発に取り組むのは、国立大学法人電気通信大学(東京)榎木光治准教授と青森のIT企業株式会社フォルテ(以下、フォルテ)だ。創業者で現社長の葛西純氏は、東日本電信電話株式会社出身、2011年に創業した。その後、IoT製品の先駆けとして、自転車×インターネットをテーマにした「ナビチャリ」をリリース。以降、リアルタイムの位置情報測位に特化したIoT端末「FBシリーズ」を研究開発した。

「地方の課題解決が全国の課題解決に結びつく」がフォルテのテーマ。

葛西社長は除雪に膨大な予算を使っている現状を見て、道路や駐車場にたまった雪をなんとか有効利用できないものかと考えていた。インターネットで検索をしている時、榎木准教授の研究に目が留まった。榎木准教授は熱エネルギーをほぼ100%の効率で回収できる伝熱管を非鉄金属大手と研究開発していたのだ。

2022年9月末、葛西社長はさっそく榎木准教授にホームページ経由でコンタクトを取り、東京都内の榎木研究室で会談した。それがすべての始まりだった。

「葛西社長から、雪をどうにかできないかということだったので、それならこういう発電方法がありますよ、と簡単な実演をして提案したら、ではそれでやりましょう!ということになりました」(榎木准教授)

「積雪発電」のアイディアが誕生した瞬間だった。

「とにかくスピードが大事だと考えました」と葛西社長。11月には榎木准教授は青森に飛び、葛西社長とともに、積雪発電の実証実験に向けた青森市長との面談および記者会見をおこなった。年が明け、2023年3月には第1回目の実証実験を青森で実施するという、驚くべきスピードで研究開発が進んだ。

写真)電気通信大学榎木光治准教授(左)と株式会社フォルテ葛西純代表取締役(右)2024年1月18日 ニセコ東急 グラン・ ヒラフスキー場の駐車場にて
写真)電気通信大学榎木光治准教授(左)と株式会社フォルテ葛西純代表取締役(右)2024年1月18日 ニセコ東急 グラン・ ヒラフスキー場の駐車場にて

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1回目の実証実験

その3月の実証実験は青森市浪岡の旧大栄小学校のプールに積もった雪を用いて、発電効率の確認実験をおこなった。

雪が積もったプールの中に管を埋め、その中に冷えた不凍液を通す。その不凍液を、太陽光で140〜220℃まで熱した発電機(スターリングエンジン)に送ると温度差が生まれ、ピストンが上下に動いて発電する仕組みだ。

「学術的なエビデンスを取るためにたくさんの機材、例えば流量計や、精度の高い温度計や圧力計などを準備するのは、半導体不足もあって難しかったです。またどこの企業もこういう実験をやったことがなかったので、研究室の学生たちと夜遅くまで話し合い、全てを一から設計して自分たちで構築しなければならず、加えて部品点数が多くて大変でした。学生たちが何重にもチェックをしてくれました。小さな発電プラントをつくるのですからそれは大変です」と榎木准教授は振り返る。

写真)1回目の実験の様子(2023年3月23日 青森市内)
写真)1回目の実験の様子(2023年3月23日 青森市内)

提供)榎木光治研究室

この時の実験では、「100-200W」の出力を観測し、最大200Wの発電に成功した。しかし、熱交換の効率が思ったほど上がらなかったことが課題として残った。なぜか。

「雪の中に水道管のゴムホースを通したのですが、ホースの周りの雪が溶けて雪と接触しなくなるので、熱の伝導が悪くなるという現象が起きました。つまり冷熱が取れなくなってしまったのです」。

雪国でよく見る「かまくら」のような状態になったということだ。周りは雪だが中は寒くない。熱が伝導しないからだ。九州の宮崎県出身である榎木准教授にとって机上だけでは解らない、「雪の奥深さの一部を痛感させられた」実験となったようだ。

ニセコでの実証実験

そして満を持して新たな実証実験が2024年1月18日に北海道虻田郡ニセコ町でおこなわれた。東急不動産株式会社、株式会社フォルテ、および榎木研究室(国立大学法人電気通信大学)が共同で実施した。

前回の知見を活かし、今回の実証実験では「ホースという線ではなく、面で雪を溶かす」仕様に変えた。ホースの上に熱伝導性の良いものを被せることで、全体的に一気に雪を溶かすのだ。

実験用のプレハブの建物の屋根の半分に、誰でも入手可能で安価なアルミシートを敷き、その下に発電機で温められた不凍液が流れるチューブを這わせた。その部分は雪が溶け、全く雪が積もっていなかった。反対側には雪が積もっており、その効果は一目瞭然だ。

写真)建物の屋根で融雪実証実験のデモンストレーションをする榎木准教授。2024年1月18日 ニセコ東急 グラン・ ヒラフスキー場の駐車場にて
写真)建物の屋根で融雪実証実験のデモンストレーションをする榎木准教授。2024年1月18日 ニセコ東急 グラン・ ヒラフスキー場の駐車場にて

© エネフロ編集部

もう一つの課題は、発電機(スターリングエンジン)をどう熱するか、だった。北海道は冬場、曇りや雪の日が多く、日照時間が短いのがネックとなる。

そこで自社のスノーリゾートを100%再生可能エネルギー化している東急不動産がバイオマスのボイラーの熱を自社ゴルフ場大浴場の熱源として利用している事例から、これを太陽光の代わりの熱源にできないか検討した。今回は、積雪発電実験用に別のバイオマスのボイラーを準備することになった。

今回の実証実験が実現したきっかけは東急不動産がフォルテに声をかけたことだという。

「新聞で去年の青森での実験の記事を見て、雪で発電するというコンセプトが素晴らしいなと思い、すぐにフォルテのホームページ経由で連絡しました」と語るのは東急不動産白倉氏。

「温暖化で降雪がどんどん減っていくと、スキーができなくなってしまい困ります。やはりスキー場が自ら主体的に脱炭素の取り組みを発信していくことは重要で、今回の取組みがきっかけになって他のスキー場にも広がっていくとよいなと思っています」。

写真)東急不動産株式会社 ウェルネス事業ユニットホテル・リゾート開発企画本部 ホテル・リゾート第二部 開発企画グループ 課長補佐白倉弘規氏
写真)東急不動産株式会社 ウェルネス事業ユニットホテル・リゾート開発企画本部 ホテル・リゾート第二部 開発企画グループ 課長補佐白倉弘規氏

© エネフロ編集部

今回実際にバイオマスボイラーと発電機を見たが、コンパクトで驚いた。小さなプレハブに収まるくらいのシステムであり、トレーラーなどで牽引すればどこにでも運搬できそうだ。

「バイオマスボイラーは24時間の連続運転が可能なだけでなく、エネルギー源である間伐材などは日本に多く存在するので、脱炭素を実現しつつ、国内のエネルギー自給率の向上に繋がります」と榎木准教授は説明する。

今後は、民生用と産業用に分けて研究開発をおこなう予定だ。民生用であれば、既に普及している暖房施設、例えば薪ストーブや石油ストーブ、災害時を想定したカセットガスコンロやたき火を利用することが可能だ。また産業用では、工場やごみ処理場の廃熱や地熱が利用できる。

写真)バイオマスボイラーの燃料である木質チップ。この後ろに発電機が接続されている。
写真)バイオマスボイラーの燃料である木質チップ。この後ろに発電機が接続されている。

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写真)発電機。上部はバイオマスガスボイラーで温められ、下部は冷たい冷却液が流れるチューブで冷やされる。
写真)発電機。上部はバイオマスガスボイラーで温められ、下部は冷たい冷却液が流れるチューブで冷やされる。

© エネフロ編集部

「使えるはずの熱エネルギーの無駄を徹底的に省きたい」というのが榎木研究室の掲げる研究と教育のポリシーだ。今回の実験の準備には多くの学生がかかわった。彼らだけでなく、これからも多くの若者が第一線で活躍し、エネルギー問題を解決していくだろうと思うと嬉しくなると同時に、応援したくなった。

蓄電池・エコ給湯とセットに

積雪発電は拡張性に優れている。蓄電池を併用すれば、発電量より多くの電力を短時間使うことができる。

さらにその電力で、空気の熱を利用してお湯を沸かす家庭用給湯システム「エコ給湯(自然冷媒ヒートポンプ給湯器)」を運転することで、多くのお湯をつくることができる。このお湯は融雪にも使える。ヒートポンプは投入エネルギーよりも多くのエネルギーを使えるので、脱炭素にも貢献する。榎木准教授によると、積雪発電に用いた1.2 kWの発電機を1日3〜6時間動かすだけでエコ給湯が運転可能なだけの電気を蓄電池に貯めることができる。

またこのシステムの重要な点は独立した電源であることで、豪雪による停電などに左右されることなく電力供給ができることにある。災害時にはエネルギーの観点から人命を救える可能性がある。

加えて寒冷地では冬期、太陽光パネルに雪が積もり発電効率が落ちるが、積雪発電で得られた温水を太陽光パネルの融雪として使えば、発電量が上がり、CO₂排出量削減につながる。

近い将来に、水素社会を見越した研究もおこなっているという。例えば、積雪発電で水素を製造する。その水素を燃料とする燃料電池を積雪発電と組み合わせるハイブリッド方式の発電方法が実現すれば、発電規模は桁違いに大きくなり、脱炭素社会へ大きく貢献できる。

今後の展望

今回の実験を終え、榎木准教授は課題として以下を挙げた。

・積雪発電に適した発電機に日本製はなく、かつ製造されている国が限られるため高価である。
・大出力で高効率な熱駆動エンジンが存在しない。
・雪にも粉雪やざらめ雪など種類があるうえに、氷の場合もあるため、工学的に融雪面積や融雪時間を正確に予測することが現状難しい。
・既存の民家や、一般道などに適用するために発電設備の簡易的な施工方法や導入方法を検討する必要がある。

これら課題点を早期に解決するために、各種問題へ特化した企業や研究者を募り、協力しあえるチームをつくりたいと語る。今後はさらに実証実験を重ね、積雪発電の早期実用化を図りたい考えだ。

積雪発電は本来廃棄する雪を利用し、電力と温水が得られるだけでなく、融雪もできる。そのうえ環境にも優しい有望なテクノロジーだ。日本だけでなく、世界の豪雪地帯において、この技術は今後注目されるのではないだろうか。今回、電気通信大学が中心となった実証実験を見て、発電方法の革命が起きるのではないかという期待感が高まる一日となった。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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