写真)零式人機 ver.2.0 草津訓練線にて
出典)株式会社人機一体
- まとめ
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- 協働ロボットは人と一緒に作業し、安全柵が不要で小規模生産に適している。
- 建設業の技能者不足が深刻化し、ロボットの需要が増加。
- 多機能鉄道重機は高所作業の省人化と安全性向上に貢献し、鉄道設備メンテナンスに使用される。課題はコスト。
産業用ロボットを初めて見たのは、いまから40年ほど前。自動車の組み立て工場の中だった。溶接ロボットや塗装ロボットなど、人間の作業よりはるかに早く作業している姿に驚いたものだ。それらのロボットは人に代わって単独でもくもくと作業をこなしており、多くは安全柵で覆われていた。それらは人間の代わりとして導入されていたのだ。
しかし時を経て、人とロボットの関係に変化が訪れた。人とロボットが一緒に作業するようになってきたのだ。そうしたロボットを「協働ロボット(Collaborative Robots)」という。
協働ロボットは、人間の作業員と一緒に働くように設計されている。小型・軽量・省スペースで運用できるのが特徴だ。従来の産業用ロボットと異なり、安全柵や広いスペースを必要とせず、人と同じ空間で作業できるため、小規模な生産ラインに適している。また、レイアウトを柔軟に変えることができ、可搬重量が小さい場合でも対応できる。
それを可能にしたのは技術の進化だ。例えば、触覚センサーや3Dビジョンセンサー、温度・湿度・光などを感知する環境センサー、生体認証センサーなどが開発され、より繊細で安全な作業が可能になった。
安全柵で囲う従来の産業用ロボットは、一部の製造業でしか採用されていなかったが、人と協働できるロボットの需要は大きく、近年では、食品、化粧品、医薬品、物流、外食などの業界に導入されている。
人型重機ロボット登場
協働ロボットがさまざまな業界の製造現場に導入される中、屋外の重作業にもロボットが活躍を始めた。
西日本旅客鉄道株式会社(以下、JR 西日本)が、鉄道設備メンテナンスに今年7月に導入した「多機能鉄道重機」がそれだ。日本信号株式会社(以下、日本信号)が開発した。
JR 西日本、日本信号および株式会社人機一体(以下、人機一体)が共同研究開発した高所重作業ロボット試作機「零式人機 ver.2.0」をベースとし、同試作機に使用している人機一体の特許技術などのライセンスをメーカーである日本信号に提供して製品化された。当面は架線支持物の塗装や、支障樹木伐採に使用される。
出典)株式会社人機一体
独自のロボット工学技術により、直感的な操作が可能で、塗装や伐採など多様な作業に特化したツールを装備することができる。また、遠隔操作で重量物(最大40kg)をつかむことができるほか、高所作業(12m)も可能だ。操縦者がVR (Vertial Reality:仮想現実)ゴーグルを装着すれば、ロボット目線での作業も可能になる。
出典)株式会社人機一体
高所作業にこうしたロボットを導入する効果は大きい。省人化によって生産性が上がるほか、墜落や感電といった労働災害リスクが減る。さらに、性別や年齢によらず高所作業に従事できるようになるため、多様な人材に就業環境を提供することになる。
ではこうした人型重機ロボットが開発された背景にはなにがあるのだろうか?
© エネフロ編集部
深刻な建設技能者不足
国土交通省によると、建設業で就業者の減少と高齢化が加速している。就業者数は、1997年に685万人いたが、2022年には479万人になり、約3割減った。年齢階層別にみると、29歳以下が11.7%なのに対し、55歳以上は35.9%と4割に迫るなど、高齢化が進行している。
建設就業者のうち、建設工事の直接的な作業をおこなう建設技能者の減少はより深刻だ。1997年が455万人だったのに対し2022年は302万人と3割以上減った。年齢階層別にみると、60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.7%)を占めており、10年以内にその大半が引退することが見込まれている。一方、これからの建設業を支える29歳以下の割合は全体の約12%程度にとどまる。
建設業における人手不足、とりわけ技能者不足が、ロボット開発の背景にあることがわかる。
出典)国土交通省 第25回基本問題小委員会「建設業を巡る現状と課題」(2023年5月22日)
今後の課題
今回紹介した人型重機ロボットはまだ実用化されたばかりであり、普及するには、そのコストを下げることが課題となる。
JR 西日本、日本信号、人機一体は、今後、鉄道分野にとどまらず、他分野の高所重作業への導入を検討する計画だ。たとえば、土木や電気分野で高所重作業を担うことが考えられる。国内の技能者不足はあらゆる業種で深刻化しており、ロボットの進化は今後さらに加速していくものと思われる。
一方、世界的に見てもロボットの需要は拡大する見込みで、日本の新たな成長産業になる可能性を秘めている。
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