写真)洋上風力発電所 イメージ
出典)ELG21/Pixabay
- まとめ
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- 2021年のエネルギー関連ニュースを振り返る座談会開催。
- 今年は、CO2削減目標とエネルギー基本計画の見直しがおこなわれた。
- 環境問題やテクノロジーを取り上げた記事が多く読まれた。
新型コロナウイルスの感染拡大で社会が大きく変化した2021年。2017年4月に創刊した「エネルギーフロントライン」、略称「エネフロ」は来年創刊5年目に入る。皆さんのご愛読に心から感謝したい。
さて、恒例年末座談会。「2021年のエネフロを振り返る」と題して、今年掲載した記事や、エネルギーに関するニュースを振り返る。
【オンライン座談会参加者】
安倍宏行(エネルギーフロントライン編集長)
ミキ(エネフロ編集部)
テッペイ(エネフロ制作会社)
モモコ(大学生・エネフロ編集部インターン)
エリ(大学生・エネフロ編集部インターン)
エネフロで今年よく読まれた記事
安倍閲覧数の資料を見ると、環境系、テクノロジー系記事の閲覧数が多いですね。「食品ロス問題 私たちに出来ること」、「使い捨てプラ容器禁止の波、日本にも」「やめようマスク「ポイ捨て」環境汚染も」など、環境に関する記事が上位を占めている一方で、「台風をエネルギーに変える!「垂直軸型マグナス式風力発電」とは?」、「空飛ぶ携帯基地局、実現間近?」、「ローテク“重力蓄電”は再生の救世主か」、「CO₂を大気中から回収!?驚きの新技術」などのテクノロジー系に2極化しているという印象があります。
ミキ記事を読んでいてエネフロの良いところを感じています。煽るだけ煽るような報道が多い中、問題提起しながらも、未来に繋がる希望的なメッセージがエネフロの記事には込められていると思います。
私が特に関心を持ったのは人類の宇宙進出に関する記事です。先日も前澤友作さん(株式会社ZOZOファウンダー)が宇宙に滞在していましたが、この間の宇宙エレベーターの記事も、「SFの世界がここまで来ているんだ!」と驚きました。
安倍ミキさんは子育て中ですが、環境に関する情報に接して感じることはありますか。
ミキSDGsに関する記事は多くの人の関心を集めているのかなという気がしますが、政治的な一面が垣間見えたりとか、一筋縄ではいかないイメージもあります。
© エネフロ編集部
安倍確かに環境対策は外交など政治的な思惑に左右されていますね。日本では菅前首相による昨年のカーボンニュートラル宣言から、今年4月の気候変動サミットを経て「2013年比で46%削減」という大胆なCO2削減目標を打ち立てました。その後10月にエネルギー基本計画が閣議決定されましたが、こうした一連の流れが日本にどのようなインパクトを与えるかはあまり報じられないですね。
出典)首相官邸
見出しにはなるけれど、実際にそれがどういうことを意味するのか、そして我々生活者にとってどのような負担が増えるのかまで考えなければと思いました。加えて、電力会社の役割や電力会社がどのように業態を変えていこうとしているのも含めてエネフロは読者の皆さんに提供するべきだと思っています。
今年印象的だったニュース
© エネフロ編集部
安倍今年はやはり、新たなCO2の削減目標の設定、エネルギー基本計画の見直しで再生可能エネルギーを主力電源とする方針が強化されたことが1番大きかったですね。
エリ日本のエネルギー政策を考えるうえでは、アメリカを始めとした世界の動きが大きいと思います。以前、リサーチでバイデン政権の環境政策について調べる機会があって、バイデン政権がどれだけ環境問題に危機感を持っていて積極的な政策を構想しているのか知ることができました。(参考記事:日本に追い風?米新政権エネルギー政策)こうした国際社会全体の動きも今年は注目でした。
出典)米国務省
テッペイ私はカーボンニュートラルに向けた動きが1番印象に残っています。「海の炭素貯蔵庫「ブルーカーボン」とは」の記事は興味深かったです。CO2削減には目がいきますが、排出されたCO2の吸収はあまり注目されてないと思うので。
出典)経済産業省
そういう意味でブルーカーボンは非常に重要な視点だと思いました。記事では中部電力が海洋保全に取り組んでいることが紹介されていましたが、こうした事業にもっと注目すべきだと感じました。
また、CO2吸収量をクレジットとして取引する制度が整備されようとしていて、新たな社会貢献とビジネスが生まれている点が素晴らしいと思いました。渋沢栄一の「論語と算盤」のように、いかに環境問題をビジネス化できるかがますます重要になるでしょう。
安倍確かに電力会社が海洋保全にまで関わっていることはほとんどの人は知らないと思います。こうした環境への取り組みはもっと電力会社がアピールしても良いでしょうね。
テッペイ太陽光発電はイメージが良いからいっぱい作ってどんどんアピールするのですが、太陽光発電所を作るために山を切り崩して環境破壊に繋がっては元も子もありません。何事も一長一短あることを知るべきだと感じます。
第6次エネルギー基本計画を考える
安倍今年策定された第6次「エネルギー基本計画」では、脱炭素に向けて2030年までに再生可能エネルギーの電源構成の割合を36〜38%に引き上げることが定められました。再生可能エネルギーといっても、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどさまざまな種類があります。その一つ一つにメリット、デメリットがあるので、それを多くの人に知ってもらいたい。我々生活者の電気料金の負担だけではなく、環境に与える影響などにも注目してほしいと思って記事を書いています。
出典)『第6次エネルギー基本計画の概要』経済産業省資源エネルギー庁
また、大きな期待が寄せられている洋上風力ですが、実はまだ洋上風力発電所は日本にほとんどなく、まだまだ実証実験の段階なのです。再生可能エネルギーを拡大していくには、さまざまな課題があることを読者の皆さんには知ってもらいたいです。
モモコ脱炭素化に向けてどのような道筋が示されるのか関心を持っていました。2021年は自民党総裁選や衆院選もおこなわれ、そこでも重要な争点となっていたことが印象深かったです。
またエネルギー政策は、家庭の電気料金だけでなく日本の産業競争力にも影響することを、記事「日本の自動車メーカー襲う、アップルカーの衝撃」から学びました。日本の自動車産業が国際競争に負けないためには、「ただEV化を進めるだけでは戦略として十分ではない」という指摘が印象的でした。LCA規制(注1)というEUが主導して進めている環境負荷評価では、火力発電が多い日本の電源構成が不利に働き、企業努力だけではどうにもならないからです。
ミキ農業と太陽光発電事業を同時におこなう「ソーラーシェアリング」も面白いと思いました(「太陽光と農業「ソーラーシェアリング」の未来」)。
安倍エネルギー基本計画では再生可能エネルギーの主力電源化が打ち出された一方、原子力発電所のリプレースと新増設並びに新型の小型原子炉、核融合炉などの新技術については触れられないまま閣議決定されたことに私は疑問を抱きました。
テッペイこれについては、政府が決断することから逃げているように思えました。今決断しないと、カーボンニュートラルが進まないだけでなく、エネルギーコストの増大で産業競争力も失われる恐れがあります。また核のゴミ問題については「高レベル放射性廃棄物の地層処分 北海道2町村で「文献調査」始まる」で取り上げましたが、北海道の二つの自治体が調査に手を挙げました。この一連の流れを踏まえて、国が国民に原子力利用の道筋を示し、国民的な議論がおこなわれることを期待しています。
ミキ子育てをしている周りの人を見ていると、やはり東日本大震災以降、原子力と聞くと「良くないもの」と、そこで思考停止してしまうイメージはまだあると思います。
安倍私がつい最近、静岡県の高校生たちがエネルギー問題について提言するコンテスト、「30年後の現役世代が2050年を構想する「第3回高校生が競うEnergy Pitch!」」の取材をした時に驚いたのは、優勝した静岡県立三島北高等学校の生徒たちが、新型原子炉を使って海水を電気分解し水素を取り出して、水素社会を構築しようというアイデアを提言していたことです。
しかも、彼らは原子力発電による電気を利用することについて、全校生徒にアンケートを取りました。そうしたら7割の生徒が「原子力利用やむなし」と回答したのだそうです。自分たちの考えが社会に受け入れられるのかどうか、検証しながら提言をまとめ上げたのには感心しましたね。
© エネフロ編集部
エネルギーの大部分を化石燃料に頼っている日本は、市況に影響される側面もあるので、再生可能エネルギーに原子力も含めたバランスのとれたエネルギー計画を進めていかなければと思っています。2030年に向け、実際に脱炭素がどのように進んでいくのか、政策面、技術面含めて見ていきたいと思っています。
来年、取り上げたいテーマ
モモコ興味のあるテーマは、「グローバル・エネルギー・ウォッチ」で扱うような、政策や市場の動向に関するタイムリーな話題です。出来事を大づかみに知るだけではなく、その影響を詳しく知ることができるからです。日本の産業、近所の町工場、家庭と、経済の末端までたどって、出来事の持つ意味を理解できるような記事が読みたいです。
エリ私は環境、エネルギー問題を取り上げたイベントにどんどん取材して欲しいなと思います。静岡県の高校が集まってエネルギー政策の立案コンテストがおこなわれていることはきっと記事を読むまで多くの人が知らなかったでしょう。高校生がこんなにエネルギーに関心を持っていることは大きな刺激になりました。情報を多くの人に発信できるのはメディアの良い所の1つだと思うので、各地でおこなわれている面白いイベントをもっと紹介してほしいです。
テッペイエネルギーの問題は知識がないと話せないとかハードルが高いとかいうイメージがあるので、若い世代の人が積極的に関わる事は重要です。それを上の年代の人が見て、価値観や考え方が変わることも期待できると思います。
安倍エネフロの1つの目的に、「家族でエネルギーを話題にしてもらいたい」というものがあって、そのきっかけ作りにエネフロの記事がなれればいいなと思っています。水、空気、電気はあって当たり前と日本人は考えていますが、ちゃんとした水道システムがない地域に暮らしている人は世界に何十億人もいる。日本にとって当たり前のことが海外でも当たり前だとは限らないということを知ってもらいたいです。
出典)photoAC
ミキ「親子間で話せる話題」というのは親としては嬉しいですね。先日は「ローテク“重力蓄電”は再エネの救世主か」の重力蓄電について親子で話題になりました。余っている電力で重りを上げて、足りない時に重りを下げるだけで電力を生むシンプルさが子供たちにとっても分かりやすかったようです。「こんな簡単な仕組みで発電できるんだね!」とすごく食いついてきて、そこから話が発展して「みんなで自転車を漕いで発電したらいいんじゃない?」など話が弾んで楽しかったです。
安倍2022年度私が注目しているのは、エネルギーミックスをどのように実践していくのか、そしてEV化の動きがどう加速していくのか、です。「自動車の巨人」とも呼ばれるトヨタが4兆円もの投資をして、2030年までに350万台というEVの販売目標を立てました。今年取り上げたアップルカーも注目ですね。(参考記事:日本の自動車メーカー襲う、アップルカーの衝撃)去年までは2021年に出ると言われていましたが、遅れて今は2025年に発売されるとの報道も出ています。テスラはなんと年産2,000万台を目標に掲げるなど、EV化に向けた流れが我々の想像を超えて加速していて、ワクワクすると同時に日本の企業が出遅れなければいいなと心配になります。
自動車業界も大きな変革を迫られていますが、電力会社もいろいろな技術革新や新たなビジネスの種を見つけなければならない時代になっています。そうした動きも紹介していきたいです。
また、今年は培養肉について、記事「地球環境に優しい「第3のミルク」と「代替肉」の可能性」で取り上げましたが、来年以降も食に関するテーマはさらに増えてくるのではないでしょうか。
エリ私は技術を分かりやすく伝えることの難しさを感じています。どうすればわかりやすく伝えられるか、という視点はこれからも大切にしていきたいです。
テッペイ読者の反応も2極化していて、技術的な話だと専門的な人が集まってきて議論がするし、とっつきやすい話題になるとライトな層が集まりやすい印象があります。なので、その間の接点となるようなアプローチができるといいのかなと思います。
安倍エネルギーについてさまざまな情報を分かりやすく手に入れられるというのがエネフロの謳い文句でもあります。ビジュアルについても、インターネットは新聞などと比べて紙面の制約が少ないので、海外の事例なども取り上げながら写真を積極的に使って、目で見ても分かりやすいように編集していて、それがエネフロの良いところかなと思っています。
来年も環境・エネルギー問題は世界を揺るがすことでしょう。5年目に入るエネフロの使命もますます重要になってくると感じています。読者の皆さん、これからもエネフロをよろしくお願いします。
- LCA(Life Cycle Assessment)規制
製造、輸送、販売、使用、廃棄・リサイクルまで、自動車の「ライフサイクル」全体を通じた環境負荷を評価する仕組み
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