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エネルギーと環境

Vol.20 やめようマスク「ポイ捨て」環境汚染も

写真) 海岸に流れ着く様々なごみ

写真) 海岸に流れ着く様々なごみ
出典) Pixabay

まとめ
  • 廃棄マスクが環境汚染を拡大したり、野生動物に死をもたらす脅威になったりしている。
  • リサイクル出来ない不織布マスクは新型コロナウイルス感染症の予防に効果的。
  • 環境汚染を招く「マスクのポイ捨て」は厳に戒めたい。

新型コロナウイルス感染症の拡大が始まってから1年ほどたった今、マスクを着用することがあたり前の世の中になった。しかし、そんなマスクの需要の増加に伴い、思わぬ弊害が発生している。廃棄されたマスクが環境汚染を拡大したり、野生動物に死をもたらす脅威になったりしているのだ。

環境保護団体「OceansAsia」は、新型コロナウイルスが流行した2020年に、15億枚以上の使い捨てマスクが世界中の海に破棄されたと発表した。その報告書によると、昨年の世界マスク生産量合計520億枚のうち、少なくとも約3%のマスクが海に流出しているということだ。重さにすると4680~6240トンにも及ぶ。

一般的に、使い捨ての不織布マスクの多くは、プラスチックの1種であるポリプロピレンが原材料として使われている。海洋プラスチックごみのリサイクル団体であるWFO(Wast free oceans) によると、プラスチックである使い捨てマスクは自然分解するまでに約450年はかかるとされている。

分解するのに途方もない時間を有する使い捨てマスクが、海の生物や私達にどのような影響を及ぼすのかを説明していく。

プラスチックが海洋生物に与える影響

世界最大規模の自然環境保護団体であるWWF(World Wide Fund for Nature)によると、毎年100万以上の海鳥と、10万匹にのぼる海洋哺乳動物やウミガメが、破棄されたプラスチックを誤飲、誤食した事が原因で死亡している。また、世界経済フォーラム(WEF)は報告書、「The New Plastics Economy」で、現状のペースでプラスチックごみが増え続ければ、2050年までに海中のプラスチックごみは魚の量を上回るという試算を発表した。

図) 2014年と2050年のプラスチックごみと魚の比率
図)2014年と2050年のプラスチックごみと魚の比率

出典) WWFジャパン

これらのデータから分かるように新型コロナウイルス以前から、海に破棄されたプラスチックの問題は深刻化していた。これまでもエネフロでは、「対策急げ!プラスチックごみ問題」や「バイオプラスチックは環境問題の救世主?」などの記事を掲載した。

こうした従来のプラスチックごみに加えて、使い捨てマスクなどの「コロナごみ」により、環境汚染に拍車がかっている。

何故、マスクが環境に悪影響?

海に破棄された使い捨てマスクは、紫外線や波の影響を受けて徐々に小さなプラスチックの粒子となる。5mm以下になったプラスチックは、「マイクロプラスチック」と呼ばれ、海の生態系を崩す原因になっている。

写真) 顕微鏡でみた様々な形状のマイクロプラスチック
写真)顕微鏡でみた様々な形状のマイクロプラスチック

出典) Martin Wagner「Microplastics in freshwater ecosystems」

マイクロプラスチックは非常に小さいため、海洋生物は餌であるプランクトンと勘違いして食べてしまう。その結果、消化器官の内部がプラスチックで傷つけられたり、栄養失調になったりして死亡してしまうのだ。

さらに、海洋生物はプラスチックの粒子を食べることで、有害な化学物質を摂取している。環境省の「平成28年度海洋ごみ調査の結果」では、マイクロプラスチックは、残留性有機汚染物質(POPs)と呼ばれる海中の有害化学物質を吸収しやすいことを発表している。そのような有害な化学物質の中には、魚の肝臓障害を引き起こすものやホルモン失調を引き起こし、生殖を妨げるものがあると明らかになっている。(参考:WWFジャパン「海洋プラスチック問題について」)。

また、海の小さな生物がマイクロプラスチックを取り込み、食物連鎖で魚や海鳥に取り込まれていくことから、有害化学物質が多くの生き物の体内に蓄積する可能性も懸念されている。

図) マイクロプラスチックが食物連鎖を通じて多くの生物に取り込まれている様子
図)マイクロプラスチックが食物連鎖を通じて多くの生物に取り込まれている様子

出典) WWFジャパン

マスクの原材料

さて、ここで改めてマスクの原材料を見てみよう。マスクの種類には、不織布、ウレタン、布などがある。不織布とは、「繊維を何らかの方法で絡ませたり、接着したりして作った繊維状のシート」だ。日本化学繊維協会による)複数の製法があり、それによって材料も変わるが、主にポリプロピレンやポリエステルなどの化学繊維だ。

この不織布をつかったマスクが、新型コロナウイルス感染症の予防に効果的だというから話がややこしくなる。

理化学研究所は、不織布マスク、綿製手作りマスク、ポリエステル製手作りマスクという素材の異なる3種類のマスクについてある実験をした。

感染の原因となる「飛沫」や飛沫が空気中で微小化したいわゆる、「エアロゾル」の飛散の仕方をスーパーコンピューター「富岳」でシミュレーションし、マスクによる飛散抑制効果を評価したのだ。

それによると、不織布マスクは約8割、手作りマスクは約7割の飛散を抑制した。特に不織布マスクはフィルター性能が高く、マスクを透過した粒径50ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)以上の飛沫はほとんどなく、エアロゾルも抑制することがわかった。

図) マスクの効果「不織布マスクと手作り布マスクの比較」
図)マスクの効果「不織布マスクと手作り布マスクの比較」

出典) 理化学研究所計算科学計算センター

こうした研究結果もあり(注1)、最近では不織布マスク着用を推奨する動きが見られるようになってきた。不織布マスクは基本、使い捨てのため、必然的にゴミとして捨てられることになる。環境団体などは使い捨てマスクではなく、使いまわしができるウオッシャブルマスクの着用を勧めているが、感染防止の観点からは不織布マスクを使わざるを得ないのが現状だ。

普通に街を歩いていて、道ばたにマスクが落ちていることがあるが、とんでもないことだ。使用済みのマスクは素材がなんであれ、表面にウイルスが付着している可能性が高い。間違って誰かが触って感染するかもしれないのだ。従って、ほとんどの自治体は使用済みマスクを「可燃ごみ」として分別・廃棄するように案内しているはずだ。(注:居住している自治体に要確認)つまり、ポイ捨てはあってはならないのだ。

マスクを捨てる際には、①表面は触らないでひも部分から外し、②ごみ袋に入れ、③しっかりと縛って、④捨てた後に手を良く洗う、ことが重要だ。

図) マスクなどごみの捨て方
図)スクなどごみの捨て方

出典) 環境省

現在のマスクの原料が生分解性プラスチックなど、環境に優しいものに変わるまで、マスクのポイ捨て行為は厳に戒めたい。

  1. マスクの効果「不織布マスクと手作り布マスクの比較」についての説明
    出典)理化学研究所計算科学計算センター

    「不織布マスク、綿製手作りマスク、ポリエステル製手作りマスクという素材の異なる3種類のマスクについて、飛沫・エアロゾルの飛散の仕方をシミュレーションし、マスクによる飛散抑制効果を評価。黄色の粒子はマスクの隙間から漏れ出た飛沫・エアロゾル、赤色の粒子はマスクや顔に付着した飛沫・エアロゾル、青色の粒子はマスクを透過した飛沫・エアロゾル。不織布マスクはフィルター性能が高い一方で、隙間から漏れる量が多いことがわかった。また、手作りマスクに関しては、綿製よりもポリエステル製の方がフィルター性能が高い一方で、綿製の方がマスクを透過する飛沫の量が多い分、隙間から漏れる量が少ないことがわかった。
    出典:坪倉誠(理化学研究所 神戸大学/教授)「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」(2020年8月24日記者勉強会資料)」

    また本研究では、不織布マスクは密着するように着用しないと隙間が大きくなり効果が薄れること、夏場・運動時には呼吸の観点から綿製マスクが有効であること、換気・加湿などの複合的な対策が必要になること等がわかった。

    (詳細は上記URLを参照のこと)
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。