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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.31 高レベル放射性廃棄物の地層処分 北海道2町村で「文献調査」始まる

図)地層処分イメージ

図) 地層処分イメージ
出典) 原子力発電環境整備機構

まとめ
  • 「高レベル放射性廃棄物」の地層処分に関する「文献調査」が北海道の2町村(寿都町・神恵内村)で始まった。
  • 「文献調査」の実施に伴い、寿都町と神恵内村では、それぞれ地域住民が参加する「対話の場」が設置され、意見交換がおこなわれる。
  • 処分事業の実施主体である原子力環境整備機構は、引き続き全国各地での対話活動に取り組んでいくとしている。

今から4年前、「地下500m!超深度トンネルの正体」(2017年10月10日掲載)という記事を掲載した。

岐阜県瑞浪(みずなみ)市の「超深地層研究所」(2020年3月31日研究終了)を訪ねた時のものだ。同研究所では、日本原子力研究開発機構が「核のゴミ」と呼ばれる「高レベル放射性廃棄物」を深い安定した地下に処分する(地層処分)技術の信頼性向上のためのさまざまな研究開発をおこなっていた。地下500メートルの深さの地底におこなったのは初めての経験だった。

その「地層処分」だが、普段余りニュースで取り上げられることもないので、一般的には知られていないかもしれない。しかし、最近になって処分地の選定をめぐる「文献調査」が北海道の寿都町(すっつちょう)、神恵内村(かもえないむら)で始まったとのニュースが流れたことで、この問題の関心が高まってきたのではないか。

今回は改めて、「高レベル放射性廃棄物」の地層処分の安全性と、処分地選定のプロセスについて、原子力発電環境整備機構(NUMO)広報部本堂貴士氏と、技術部兵藤英明氏に話を聞いた。

写真) 原子力発電環境整備機構 技術部 部長 兵藤英明氏
「わが国では1976年から地層処分の研究が行われ、1999年には、日本において地層処分は技術的に実現可能であることが示されています」
写真)原子力発電環境整備機構 技術部 部長 兵藤英明氏

© エネフロ編集部

高レベル放射性廃棄物処分の安全対策は?

エネルギー資源に乏しい日本は、原子力発電所で使い終えた燃料(使用済燃料)再処理し、ウランやプルトニウムを取り出して再び燃料として利用する、いわゆる「原子燃料サイクル」を推進することにしている。

再処理の際に生じる放射能レベルの高い廃液を高温でガラスと溶かし合わせて、ステンレス製容器に流し込んで固めたものを、「高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)」という。(参考:「原子燃料再処理のかなめ「ガラス固化」とは」2019年1月18日掲載)

図) 高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)ができる過程
図)高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)ができる過程

出典) 原子力発電環境整備機構

写真) ガラス固化体とオーバーパックなどの模型
写真)ガラス固化体とオーバーパックなどの模型

© エネフロ編集部

その「高レベル放射性廃棄物」は、人間の生活環境に影響を及ぼさない地中深くに埋めることになっている。これを「地層処分」と呼ぶ。

地下深部に埋設する理由は:

・人間の生活環境から隔離されている
・物質が移動しにくい
・物質が変化しにくい

からだ。

海底や宇宙など、様々な場所での処分が検討され、「地層処分」が最適な方法であることが国際的に共通認識となっている。日本でも法律(最終処分法)によって地層処分をおこなうことが定められている。

多重バリアシステム

「高レベル放射性廃棄物」処分の考え方のベースになっているのが、「多重バリアシステム」だ。このシステムは「人工バリア」と「天然バリア」からなる。

「人工バリア」とは、先に述べた、高レベル放射能廃液をガラス固化(ガラス固化体)したうえで、オーバーパックと呼ばれる厚さ約20センチの分厚い金属製容器に封入し、さらに厚さ約70センチの緩衝材(粘土:ベントナイト)で包むものだ。オーバーパックは放射能が大きく減少するまでの期間(少なくとも1000年間)は、放射性物質を地下水と接触するのを防ぐという。

それを埋設する地下深くの岩盤が「天然バリア」だ。地下深部は、酸素が少ないため、錆びなどの化学反応が発生しにくいのでオーバーパックはなかなか腐食せず、また、ガラス固化体に閉じ込められた放射性物質は地下水に極めて溶けにくい。

これに加え、地下深くの岩盤のなかでは地下水の動きが非常に遅く、放射性物質は緩衝材や岩盤中の鉱物に吸着するため、放射性物質を長期間にわたって地下深くに閉じ込めることができるという。両バリアを組み合わせた「多重バリア」により、「高レベル放射性廃棄物」を人間の生活環境から安全に隔離するのだ。

図) 多重バリアシステム
図)多重バリアシステム

出典) 原子力発電環境整備機構

地層処分施設建設地の選定までのプロセス

地層処分施設建設地の選定にあたっては、2002年に、原子力発電環境整備機構(NUMO)が全国の自治体を対象に調査受け入れの公募を開始、2007年には高知県東洋町から応募があったものの、その後取り下げられ、以降、受け入れに応募する自治体が現れなかった。

それまでの地層処分施設建設地の選定の進め方に対する反省から、国によるさまざまな見直しがおこなわれ、2017年7月には、資源エネルギー庁が「科学的特性マップ」を公表、これに応じた広報・対話活動がおこなわれてきた。

その後、2020年10月に北海道の寿都町(すっつちょう)が文献調査に応募し、神恵内村(かもえないむら)は国からの文献調査の申し入れを受諾した。これを受け、NUMOは2020年11月から両町村において「文献調査」を開始した。この「文献調査」とは具体的にどのようなものなのだろう?

実は、調査といっても実際に現地に出向くわけではない。すでに公表された「科学的特性マップ」の作成に用いられた全国レベルの文献・データに加え、世の中に公開されている既存資料をより詳しく調べて、明らかに地層処分に適していない場所を除外していくものだ。

ある場所が地層処分に適しているかどうかを判断するためには、火山活動や断層活動など自然現象の影響や、地下深部の地盤の強度や地温の状況などの科学的特性を総合的に検討する必要がある。このため最終処分法では、文献調査の後、概要調査(ボーリング調査など)、精密調査(地下施設における調査など)を経て、施設建設地を選定することと定められている。概要調査を実施するかどうかの検討材料を集めるためにおこなわれるのが「文献調査(資料による調査)」である。

また、文献調査の実施に伴い、寿都町と神恵内村では、それぞれ地域の住民が参加する「対話の場」が設置され、地層処分事業の仕組みや安全確保、文献調査の進捗状況などについて意見交換がおこなわれる。寿都町で4月14日、神恵内村で翌15日に、第1回会合が開催され、今後は月1回程度のペースで開催されるということだ。

写真) 寿都町で開催された第1回「対話の場」
写真)寿都町で開催された第1回「対話の場」

「文献調査」は処分場の受け入れを求めるものではなく、概要調査、精密調査など次の段階へ進む際には、改めて地域の意見を聞き、地元自治体の反対があった場合は先に進まないことが法律で定められている。いずれにしても、対話は始まったばかりだ。率直な意見交換を積み重ねることが必要なことは言うまでもないだろう。

図) 「科学的特性マップ」提示後の流れ
図)「科学的特性マップ」提示後の流れ

出典) 原子力発電環境整備機構

今後の道筋

地層処分事業は、施設建設地の選定から建設・操業、閉鎖に至るまで100年以上の長期にわたる事業だ。

原子力発電環境整備機構は、今後も国内外の技術開発の成果なども反映し、地層処分技術のさらなる信頼性向上に自ら取り組むとともに、できるだけ多くの地域で処分事業への関心を持ってもらい、多くの自治体に文献調査を受け入れてもらえるよう、全国各地での対話活動に引き続き取り組んでいくとしている。

今回改めて話を聞いて、放射性廃棄物をどう処分するのか考え、実行することは、原子力発電をおこなっている国として大きな責任だと感じた。

福島第一原子力発電所の事故は重い教訓を残した。しかし、私たちは前に進み、原子力に関わる様々な課題を解決していかねばならない。

冒頭でも述べたとおり、日本はエネルギー資源に乏しい国だ。そして、今、世界的潮流のカーボンニュートラルな社会の実現を世界に向けて約束もしている。

そうした中で私たちはともすれば、火力なのか、原子力なのか、再生可能エネルギーなのか、と発電の形式に目を奪われがちだ。しかし、今回取り上げた「地層処分」も重要なエネルギー問題の一つであり、目を背けるわけにはいかないものだ。自分の町のことではないから関係ないということではなく、日本としてどうしていったらいいのか、是非、立ち止まって考えてもらいたい。私たちの子孫に胸を張ることが出来る解を見つけていきたいと思っている。

写真) 右から、原子力発電環境整備機構広報部本堂貴士氏、技術部兵藤英明氏、筆者。
写真)右から、原子力発電環境整備機構広報部本堂貴士氏、技術部兵藤英明氏、筆者。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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