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エネルギーと環境

Vol.01 地下500m!超深度トンネルの正体

瑞浪超深地層研究所 研究坑道掘削工事
出典)株式会社大林組HP

まとめ
  • 日本には、ガラス固化体換算で25,000本分の使用済み核燃料(放射性廃棄物)がある。
  • その廃棄物を地下300メートル以深に埋めるのが「地層処分」。
  • 日本はまだ処分場が決まっていない。現世代の責任として解決に向けた議論を重ねていく必要がある。

どんな電源にもメリットもあればデメリットもあります。例えば石炭火力発電は、燃料の石炭が世界に広く賦存しているため調達しやすく、しかも安価です。その一方で燃やすと多くのCO2を出してしまうので地球温暖化対策に逆行するとして、強い批判を浴びています。

天然ガス火力発電は、石炭に比べればCO2の排出量は半分程度とエコですが、値段が高く(特に日本の場合は、天然ガスをガスのままパイプラインで輸入することができず、温度をマイナス162℃という超低温にして液体にし、タンカーで運び、荷揚げしてからまた温度を上げて気体にして使うという手間がかかるので尚更コスト高になるのです)、産出する国も石炭より少なくなります。

原子力発電は、少量の燃料で莫大なエネルギーを起こせるので、国産エネルギーにカウントしてよいという国際的な考え方が採られている通り自給率にも貢献し、発電時にCO2を出さず、しかも資金調達を安価でできるような制度的支援や順調な稼働が可能になれば、安価な電気を供給できる技術です。しかしその原子力発電のアキレス腱とも言われる欠点が、「ごみの処分」の難しさです。

現在世界では「地層処分」と言って、地下300メートル以深に埋めてしまうことが最も妥当な処分方法であると考えられていますが、ではどこに埋めるのか。一般的なごみであっても処分場が自宅近くにできるとなったら、全力で反対運動をする人が多いでしょう。自分も社会の一員としてごみを出しているとはいえ、なぜ自分だけが自宅近くにそんな場所があることを受け入れなければならないのか。

こうした考え方を「Not in my backyard(私の裏庭にはお断り)」を略して“NIMBY”と呼びますが、誰だって実際にその立場に置かれたらそう思うものだと思います。特に原子力のゴミについては、政府あるいは電力会社の責任で対処すべきと突き放される方も多いでしょう。

とはいえ、日本はこれまで約半世紀にもわたって原子力発電を利用してきました。ではこれまで出たごみはどうしてきたのか?これからどうするつもりなのか?そもそも、原子力発電の「ごみ」とは何か?これまであまり語られてこなかった、語ることを避けられてきたこの話題が今回のテーマです。

原子力発電の概要—ごみはどうやってできるのか—

原子力発電は、ウランでできた核燃料を燃やして蒸気を作り、その蒸気でタービンを回して電気を起こすのですが、核燃料は一度使ってもまだ多くの資源を含んでいます。日本は石油や石炭などの化石燃料も輸入に頼っていますが、ウランも海外に依存しており、日本が原子力発電を始めた当初は特に、長期的にウラン価格が上昇していくと予想されていました。そうした背景から、一度使用した核燃料をリサイクルして再び使う「核燃料サイクル政策」の実現を目指したのです。

日本の原子力発電所から出た使用済み燃料は、長い時間保存して温度を下げ、そののちイギリスやフランスなど海外の再処理工場に運んでそこで再処理してもらっていました。現在、青森県六ケ所村に、使用済みの燃料を再処理する工場を建設していますが、様々な技術的トラブルなどでまだ稼働していません。

写真1:日本原燃再処理工場 青森県上北郡六ヶ所村大字尾駮字沖付
日本原燃再処理工場 青森県上北郡六ヶ所村大字尾駮字沖付

出典)日本原燃「 再処理事業の概要

問題は再処理する工程で、放射線の非常に強い廃液が出ることです。海外の工場では、再処理はしてくれますが出る廃液を引き取ってくれるわけではありません。再処理された燃料と同様、廃液も日本に返却されます。但し液体のままではなく、溶けたガラスと混ぜ合わせて形状を安定させ、分厚い金属で覆うなどした「ガラス固化体」(高さ130㎝、重さ約500kg)という形状になって帰ってきます。現在日本にある使用済み核燃料をこのガラス固化体に換算すると、約25,000本分あります。

図1:ガラス固化体概要図
図1:ガラス固化体概要図図1:ガラス固化体概要図

出典)日本原燃「 返還されるガラス固化体について

ガラス固化体に加工してもまだ強い放射線を発するから厄介です。ほとんど生物が存在しない地下300メートル以深に埋め、人間が管理しなくても良いようにするというのが「地層処分」ですが、それは放射性廃棄物を生んだ国がそれぞれで処分する場所を決めるというのが、今の国際的な取り決めです。(但し、当事国同士で合意すればそうではない形も可能なので、例えばロシアは放射性廃棄物を引き取ることを条件に自国の原子力技術の売り込みをかけています)

地下はどんな世界なのか
—岐阜県瑞浪市超深地層研究所を訪ねて—

地下に埋めてしまうといっても、地震国日本に住む私たちにとって、地面は動くもの。水豊かな日本では地下水の流れも気になります。本当に地下に埋めてしまって問題ないのでしょうか?実は、原子力発電が始まった1950年代当時からいずれごみを地下に埋める可能性が出てくることはわかっていたため、地下深くの研究が行われてきました。先日、エネフロ編集長の安倍さんと一緒に、そうした研究施設の一つである岐阜県瑞浪(みずなみ)市の「超深地層研究所」を訪ねる機会を得ました。そこで見た、地下500メートルの世界をご紹介したいと思います。

写真2:地下に降りるための階段
写真2:地下に降りるための階段

©エネフロ編集部

写真3:深度500メートル連接部
写真3:深度500メートル連接部

©エネフロ編集部

地層処分とは高レベルの放射性廃棄物を、長期にわたり安定した岩盤を「天然のバリア」として、さらに、ガラス固化体にすることや金属製のオーバーパックと呼ばれる覆いや、地下に埋めるときにその周りに粘土の層を設けるといった「人工のバリア」で保護し、地下300メートル以深に埋めて、長期間人間の生活圏から隔離するという考え方だそうです。

地下は酸素が無いため金属は錆びにくく、地下深くになれば地下水の流れも非常に遅くなることから、放射性廃棄物の処分方法として最も妥当であると考えられています。瑞浪の研究所で地下500メートルの横孔を歩きましたが、ここの壁に滲みだしていた地下水は含まれている成分を解析すると数万年前に約10キロ先に降った雨であることがわかっているそうです。数万年かけて約10キロということは、1年で移動するのはわずか数ミリ。地下は私たちの時間軸とは違う世界があるようです。

写真4:地下500メートルの研究坑道
写真4:地下500メートルの研究坑道

©エネフロ編集部

写真5:地下500メートル坑道の壁面
写真5:地下500メートル坑道の壁面

©エネフロ編集部

なお、この施設は地下深くの様子を研究することを目的として設立されたもので、ここには放射性廃棄物を持ち込んだり使用したりすることは一切しない、将来においても処分場にはしないという地域との協定があり、現時点での土地賃貸借契約書によれば、平成34年1月には埋め戻して土地の所有者である瑞浪市に返還されることになっているそうです。

問題はここから
—ごみはどこに埋めるのか—

こうして地下の研究は進められてはいますが、どこに埋設するのかの決断は容易ではありません。諸外国を見渡しても、決定済みなのはフィンランドやスウェーデンなど一部の国のみで、米国、英国、ドイツそして日本はどこに処分するか白紙の状態です。

図2:フィンランドの放射性廃棄物の関連施設
図2:フィンランドの放射性廃棄物の関連施設

出典)NUMO(原子力発電環境整備機構)
高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する諸外国の情報

写真6:オンカロ地下調査施設とオルキルオト原子力発電所
写真6:オンカロ地下調査施設とオルキルオト原子力発電所

出典)NUMO(原子力発電環境整備機構)
高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する諸外国の情報

日本で原子力発電が始まって既に半世紀。必ず出るゴミの処分方法や場所も決めずに発電事業を始めたとはなんとも無責任だと感じる方も多いと思います。電気代をきちんと払い続けてきた消費者としては、この問題をいきなり自分たちの問題として突きつけられても当惑するばかりだと思うのです。必要なのはまず、政府、電力会社が消費者にきちんと説明すること、そして責任を果たすべく汗をかくことではないでしょうか。

原子力は技術として不完全であるとの批判と揶揄を込めて「トイレなきマンション」と言われてきました。しかし乱暴な言い方に聞こえるかもしれませんが、技術の利用とは案外そんなことも多いのかもしれません。

例えば火力発電について言えば、技術の進歩で大気汚染物質はかなり除去できるようになりましたが、CO2については今でも「トイレなきマンション」です。目の前のエネルギー確保を優先し、不完全な状態で技術の利用を始めたのかと先人を批判しても詮無いこと。解決に向けた努力をしないのであれば、私たちも後世の人たちからの批判を甘受せねばなりません。現世代の責任として解決に向けた議論を重ねていくことが必要です。

しかし現世代の責任でと言っても、実はまだまだ時間がかかります。具体的な候補地点が見つかっても、そこが本当に適地であるかどうかの調査に20年程度かかるので、技術進歩や情勢変化には柔軟に対応する必要があります。

例えば、今は各国がそれぞれ最終処分地を見つけるのが国際的なルールですが、保有する原子力の規模が小さい東欧諸国は、20年ほど前から共同処分を検討しています。この問題に悩んでいるのは各国共通ですので、国際的に集約するという選択肢も出てくるかもしれません。後世の人類や生物から見れば、世界のあちこちに危険なものが埋まっているよりは一か所にまとめられていたほうが避けやすいということもあるでしょう。

もちろん、自分たちの出したゴミは自分たちで処理することが大前提であり、自国の中での地層処分を前提に議論を進めるのが責任ある社会としてあるべき姿でしょう。しかし同時に、状況の変化に柔軟に対応する姿勢も持たなければなりません。エネルギー問題はバランス感覚を問われる議論が多いのですが、この原子力発電のゴミ問題もその一つであるといえるでしょう。

竹内純子 Junko Takeuchi
竹内 純子  /  Junko Takeuchi
NPO法人国際環境経済研究所理事・主席研究員
筑波大学客員教授。産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会委員。アクセンチュア株式会社シニア・アドバイザー。慶応義塾大学法学部法律学科卒業。1994年東京電力入社。「尾瀬」の自然保護に10年以上携わり、その後地球温暖化対策とエネルギー政策に関与。2012年より現職。環境・エネルギー政策の提言を行う。
主な著書は「誤解だらけの電力問題」(WEDGE)、「原発は“安全”か—たった一人の福島事故調査報告書」(小学館)、「2050年のエネルギー産業 Utility3.0へのゲームチェンジ」(日本経済新聞出版社)。

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エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。