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ためになるカモ!?

Vol.11 交通事故より怖い「ヒートショック」防止策9つ

バスルームパネルヒーター
flickr:Wonderlane

まとめ
  • 冬場急激な温度差で肉体的ダメージを受けるのが「ヒートショック」。毎年2万人近くの人が亡くなっている。
  • 風呂場が寒い日本に「ヒートショック」が多い。
  • まずは風呂場を温め、脱衣所との温度差を無くす工夫を。

本格的な冬将軍の到来です。この時期から気を付けたいのが「ヒートショック」です。ヒートショックとは、「急激な温度変化により、血圧の乱高下や脈拍の変動が起きて肉体的ダメージを受けること」を言います。

冬場、温かい居室から寒い浴室に移動する時や、夜中に暖かい布団からトイレに立つ時などに起こりやすく、脳出血や心筋梗塞などの深刻な疾患につながる恐れがあります。

図1:温度差によって変動する血圧イメージ
図1:温度差によって変動する血圧イメージ

出典)Rinnaiホームページ

なんと1年間で約19,000人もの人々がヒートショックに関連した入浴中急死をしたと推計されており、その死亡者数は交通事故による死亡者数(4,612人)をはるかに上回ります。

図2:交通事故死亡者数と入浴中死亡者推定数
図2:交通事故死亡者数と入浴中死亡者推定数

出典)厚生労働科学研究費補助金 入浴関連事故の実態把握及び予防対策に関する研究 平成25年度 総括・分担研究報告書、警察庁「平成25年中の交通事故死者数について」をもとに編集部作成

ヒートショックが起こりやすいのは体の弱い高齢者で、気温が下がる11月から発生率が格段に高くなることが分かっています。

図3:東京都23区における入浴中の事故死
図3:東京都23区における入浴中の事故死

出典)消費者庁

では、どれくらいの温度差で血圧が急上昇し心臓に大きな負担がかかるのでしょう?医学的にはおよそ10度以上の差があるといけないと考えられています。寝室・廊下・トイレの温度差は20度以上にもなることもあります。

図4:寝室・廊下・トイレの温度差イメージ
図4:寝室・廊下・トイレの温度差イメージ

出典)近畿大学 建築学部 岩前研究室

「ヒートショックが問題となっているのは世界でも日本ぐらい」(東京都健康長寿医療センター研究所元副所長高橋龍太郎氏)そう、日本の家屋はヒートショックを起こしやすいのです。

住居の温熱環境が健康などに及ぼす影響を研究する福岡女子大学国際文理学部教授の大中忠勝氏は「高齢者が住んでおられる古い戸建て住宅が問題。もともと断熱対策があまりできておらず、暖まりにくい構造になっている上、風呂やトイレなどの水回りが家の中心から遠くにある。」と言います。

そして意外にも、高齢者人口当たりでの発生件数をみると、47都道府県の中で、北海道と沖縄県が最も低く、他の45都府県の発生頻度よりも明らかに少ないことがわかります。Vol.9で二重窓を紹介しましたが、北海道も二重窓などの断熱住宅がほとんどです。

これは、外気の寒さよりも「住宅の防寒対策」のほうが重要であることを示しています。つまり、ヒートショックは外気温が低くても住宅内の環境温度条件が保たれれば十分に予防できるということです。

図5:都道府県別高齢者1万人当たりCPA(入浴中心肺停止状態)件数
図5:都道府県別高齢者1万人当たりCPA(入浴中心肺停止状態)件数

出典)都道府県別ランキング:地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 報道発表資料より

では、海外はどうでしょうか?諸外国では、セントラルヒーティングの住宅が圧倒的に多く、またほとんどの家庭で浴室に暖房が設置されています。欧米の寒い地域に海外旅行したとき、ホテルなどでラジエーター(放熱器)と呼ばれる暖房機器が浴室や個々の部屋に設置されているのを見たことがある人も多いでしょう。ボイラーで沸かしたお湯を通し、輻射熱と自然対流で部屋を暖めるものです。冬場は家全体を暖めるもの、という発想が日本とは根本的に違うのですね。

写真1:ラジエーター
写真1:ラジエーター

出典)Wikimedia

日本でヒートショックによる事故が多発する原因の一つに、浴室暖房が普及していないことや、浴室と脱衣所、廊下などとの温度差が大きいという日本家屋の特徴があることは否めません。つまり、ヒートショックを防止するには「家の中で温度差が出来るだけない状態を作る」ことが重要だということです。

浴室暖房を取り付けることができたら理想的ですが、機器本体と工事費を考えると二の足を踏んでしまいますよね。まずは今日から実践できるエコなヒートショック予防法をご紹介します。

① 風呂場にすのこやマットを敷く

お風呂の床がタイル貼りの場合、「はじめの一歩」は冷たくてとにかく苦痛ですよね。滑りにくい床マットか、木製の「すのこ」などを敷いて冷たい感触を防ぐと効果的です。段差の解消にもなり、つまずきを予防する効果も期待できます。

写真2:風呂場のすのこ
写真2:風呂場のすのこ

出典)志水木材産業株式会社

② 窓に「保温シート」を貼る

冬場は窓のガラス面から冷気が入り込み、浴室の温度はかなり下がります。保温シートを貼って浴室の温度低下を防ぐことができます。わざわざシートを買わなくても、荷物などに入っている「プチプチ」でも代用できます。

写真3:保温シート
写真3:保温シート

出典)Amazon

③ 湯船のフタを開けておく

いきなり浴室に入るのではなく、入浴数分前から浴槽のフタを開けておくと湯気で浴室が暖まるので、ヒートショックが起こりにくくなります。浴槽のお湯の温度が下がる効果もあります。

④ シャワーでお湯をはる

実はこれ、ホテルの部屋が乾燥している時も有効なんです。シャワーからお湯を出すと、湯気で浴室があっという間に温まり、ミストサウナ状態になります。湯船の温度が程良くなる効果も。一度お試しください。

⑤ 簡易式暖房機器を置く

写真4:ミニパネルヒーター
写真4:ミニパネルヒーター

出典)楽天

最近の小型電気パネルヒーターは人の動きをセンサーで察知し、自動的にスイッチオンしたり、万が一倒れても自動的に通電がオフになったりする安全設計のものが増えています。電気パネルヒーターなら音がしない、乾燥しない、臭わない、と3拍子揃ってますね。トイレや脱衣所などに置くのに便利です。電気ファンヒーターなどもお買い求めやすい商品が多く出回っています

⑥ 高齢者に「一番風呂」をすすめない

一番風呂は浴室が冷え切っており、ヒートショックが起こりやすい状態です。高齢者にはできれば2番風呂以降を勧めましょう。そもそもあまり熱いお湯に入るのも危険です。湯温41度くらいがよいとされています。

⑦ 夕食前に入浴する

食事をすると血圧が下がりやすくなります。その後脱衣所に行き、熱いお風呂に入ったりすると血圧が乱高下するので、ヒートショックが起こりやすくなります。食事をとる前に入浴するのがヒートショック対策には効果的です。また、人の生理機能がピークになるのは午後2時から午後4時頃だそうです。その間に入浴をすますことで、温度差への適応がしやすくなります。ということでご高齢の方は、日没前・夕食前の入浴、一考の余地ありですね。

⑧ “ヒートショック予報”をチェックする

日本気象協会は毎日の気象予測情報に基づくヒートショックリスクの目安を配信しています。今の時期は、毎朝の天気予報と合わせて確認することで予防ができます。

高齢者に多いヒートショックですが、誰にでも起こり得る症状でもあります。自分のことだけではなく家族が無事にお風呂に入っているのか、お互い気にかけることも有効な対策となるでしょう。お年寄りがいるご家庭では一度ヒートショック防止について考えてみてはいかがでしょうか?

参考)
独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所
ココカラクラブ「ヒートショックに注意!血圧と入浴の関係」

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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