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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.32 30年後の現役世代が2050年を構想する「第3回高校生が競うEnergy Pitch!」

写真)Energy Vault社の重力蓄電実証機 Castione, Switzerland

写真)第3回「高校生が競うEnergy Pitch!」参加校メンバー・教員・審査員ら
© エネフロ編集部

まとめ
  • 第3回「高校生が競うEnergy Pitch!」開催。
  • 静岡県内の5高校が「社会の課題解決with Energyプラン」を競った。
  • 最優秀賞は、SMR・核融合発電による水素エネルギー活用を提案した静岡県立三島北高等学校。

電気新聞によるエネルギー教育事業の特別企画「高校生が競うEnergy Pitch!」。3回目の開催となる今年度の課題は「SDGsの達成に、エネルギーができることは?」だ。社会課題を解決する、未来のエネルギーのあり方について、高校生たちがアイデアを競った。

コロナ禍の状況をかんがみ、参加校は静岡県内に限定して募集。次の5校が参加した。

・静岡聖光学院高等学校
・静岡県立三島北高等学校
・静岡県立駿河総合高等学校
・学校法人誠心学園・浜松開誠館高等学校
・静岡県立科学技術高等学校

11月21日、本選の日を迎え、参加校のメンバーたちが静岡県立大学大講堂に集合。有識者の講義やフィールドワークを通じて磨き上げたアイデアを発表した。

写真)「グラフィックレコーディング」。専門のスタッフが、発表を聞きながら同時進行で発表内容を絵と文字で表現するもの。生徒たちが自分たちのプレゼンがわかりやすいかどうか確かめるため、予選段階でも活用された。
写真)「グラフィックレコーディング」。専門のスタッフが、発表を聞きながら同時進行で発表内容を絵と文字で表現するもの。生徒たちが自分たちのプレゼンがわかりやすいかどうか確かめるため、予選段階でも活用された。

© エネフロ編集部

各校の発表

・静岡聖光学院高等学校
「0円ソーラーに関する新たなビジネスモデルの提案」

5校のうち唯一、高校1年生によるチーム。災害に強い電力システムを確立すべきとの問題意識をもとに、ソーラーパネルと蓄電池を家庭に普及させるための、新しいビジネスモデルを提案した。

「0円ソーラー」とは、家庭用ソーラーパネル設置の初期費用を事業者が負担するもの。一部の電気事業者が既に事業化している。事業者は費用の回収を、住宅所有者からのリース料、または使用電力料、住宅所有者が使用しなかった余剰電力の販売によって賄う。

提案したのは、「0円ソーラー」をEVとセット販売することにより、買い手の購入インセンティブを高め、普及を促進する計画だ。静岡県内での導入を想定。南海トラフ地震の危険、日照時間の多さ、車の保有台数の多さ、という静岡県の特徴を生かした提案だ。

写真)「グラフィックレコーディング」
写真)「グラフィックレコーディング」

© エネフロ編集部

・静岡県立三島北高等学校
「Fantastic Future ~魔法のエネルギーたち~」

静岡県立三島北高等学校は、「Energy Pitch!」の常連校。2019年度は技能賞、2020年度は静岡新聞社賞を獲得している。

今年度は、脱炭素社会に向けて水素エネルギーの導入を促進する方策を提案した。まず、水素利用における現状の課題を、製造コストの高さ、化石燃料を使用する製造方法に設定。解決策として、小型モジュール炉(SMR)による原子力発電と核融合発電を水素製造のエネルギーに使用することを提案した。これらの発電方法は、従来の原子力発電よりも安全性や効率性で優れるとされている。

写真)「グラフィックレコーディング」
写真)「グラフィックレコーディング」

© エネフロ編集部

・静岡県立駿河総合高等学校
「生分解性バイオマスプラスチック生産と分別リサイクルの確立」

静岡県立駿河総合高等学校も、「Energy Pitch!」の常連校だ。過去2回のコンテストで、最優秀賞を連取している。

今年度は、生分解性バイオマスプラスチックに着目。カーボンニュートラルで持続可能な生産・回収のサイクルを提案した。従来のプラスチックが抱える、CO2排出、海洋プラスチックごみ、ごみの埋立地の問題を解決することができるとした。また、廃プラスチックのリサイクル方法として注目されている固形燃料化技術を、生分解性バイオマスプラスチックに用いることも提案。化石燃料に代替する燃料になりうるとの構想を示した。

写真)「グラフィックレコーディング」
写真)「グラフィックレコーディング」

© エネフロ編集部

・学校法人誠心学園・浜松開誠館高等学校
「太陽光窓ガラス」

現在開発が進められている技術「太陽光窓ガラス」を紹介し、導入のメリットをプレゼンした。現在の太陽光発電システムは、発電効率の低さや、設置場所を確保するために森林伐採をおこなうことが問題だと指摘。それに比べて「太陽光窓ガラス」は、透明で採光性が高いこと、比較的安価かつリサイクル可能な素材でできていること、設置場所を選ばず森林伐採の必要がないことなどを説明。公共交通機関の窓ガラスなどに導入することを提案した。

写真)「グラフィックレコーディング」
写真)「グラフィックレコーディング」

© エネフロ編集部

・静岡県立科学技術高等学校
「雷は授ける。(かもしれない・・・!)」

雷の電気を利用する可能性について発表した。雷が一瞬のうちに放出する莫大な電気を送電線にのせることは、現在の技術では不可能だと結論づけた。さらに、技術的に可能になったとしてもベースロード電源になる可能性は低いとした。しかし、電力需要の増加に対応するためには、発電方法の多様性を確保することが重要だと主張した。

加えて、「湿度電気」「湿度変動電池」「大気電流」といった、大気中から電気を得る仕組みについての研究報告を紹介。いずれも小規模だが、電気の需要量が小さくかつ大規模施設の導入が難しい地域では有効ではないか、との可能性を示した。

写真)「グラフィックレコーディング」
写真)「グラフィックレコーディング」

© エネフロ編集部

結果発表

最優秀賞:静岡県立三島北高等学校
優秀賞:静岡県立駿河総合高等学校
優秀賞:学校法人誠心学園・浜松開誠館高等学校
静岡新聞賞:静岡聖光学院高等学校
電気新聞賞:静岡県立科学技術高等学校

審査員:
・開沼博氏(東京大学大学院情報学環学際情報学府准教授、当コンテスト総合コーディネーター)
・萱野貴広氏(静岡大学教育学部教務)
・山本隆三氏(常葉大学名誉教授、国際環境経済研究所所長)
・築地茂氏(静岡新聞社 編集局 論説委員兼編集委員、当コンテスト共催者)
・間庭正弘氏(電気新聞 新聞部長、当コンテスト主催者)

写真)最優秀賞を受賞した静岡県立三島北高等学校のメンバー
写真)最優秀賞を受賞した静岡県立三島北高等学校のメンバー

講評

審査員から講評が述べられた。

写真)山本隆三審査委員(常葉大学名誉教授、国際環境経済研究所所長)
写真)山本隆三審査委員(常葉大学名誉教授、国際環境経済研究所所長)

© エネフロ編集部

山本氏は、各校の評点の差は本当にわずかと述べ、それぞれの健闘を讃えた。

萱野氏は、「真剣に取り組んだ経験は財産になる」とし「表彰をゴールとせずスタートとして」学び続けることの大切さを述べた。

築地氏は、「エネルギー問題に文理も男女もない、多様な視点が必要」と述べ、コンテストの参加者や発表内容が多様だったことを評価した。

間庭氏は、考えること・行動することのサイクルの大切さについて話した。コンテストでの発表が「行動」の第一歩だとして、高校生たちの今後に期待を述べた。

開沼氏は、プレゼンテーションの評価のポイントを説明した。「全体像を見ながら各論を話すこと」「社会問題解決の責任の一端を担う立場で考えること」「ファクトとオピニオンを分けること」。さらに、コンテストの常連校が最優秀賞・優秀賞を受賞したことについて「蓄積の大切さ」が表れたと述べた。コンテストの参加者が、「今日の蓄積を自分の未来につなげる」ことを期待した。

写真)開沼博氏(東京大学大学院情報学環学際情報学府准教授、当コンテスト総合コーディネーター)
写真)開沼博氏(東京大学大学院情報学環学際情報学府准教授、当コンテスト総合コーディネーター)

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最優秀賞受賞校インタビュー:静岡県立三島北高等学校

山梨睦先生

Q.指導する立場で一番大変だったことは?

「原子力発電をメインに据えたことに葛藤がありました。生徒と一緒に、今(このテーマを)出すべき時なのか話し合って、あえて出そうと(決めました)」

「生徒にも葛藤はあったと思います。生徒のなかの何人かは、浜岡原子力発電所に見学に行き、刺激を受けていました。最終的に(原子力発電は)なくてはならないだろうと判断したということです。あとはいかに理解を得るか、説得をどうするかというところが苦労しました」

「学年280名、ほとんど全員から(原子力発電利用の是非について)アンケートをとりました。(チームは)その結果を参考にして、どういう意見で持っていけば納得が得られるかを考えながらやっていました」

「原子力発電と核融合と水素について専門家に話を聞いて、どう自分たちでまとめるかは、(本番前の修正で生徒たちが)一番苦労したところです。結果的にはうまくまとまって、評価いただけたのかなと思います」

Q.アクティブ・ラーニングに関する学校の方針は?

「私どもは学年全員が『課題研究』を選択しています。課題に対してアプローチし、ダメだったら次のアプローチを(考える)という思考を鍛えるカリキュラムがあります」

「本校は文科省指定のワールド・ワイド・ラーニング(WWL)指定を受けていて、今年は3年目です。その前にスーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)という世界的な問題を皆で議論して解決するプログラムも6年ぐらいやっています。ようやく成果が出てとても嬉しいです」

チームリーダー:植松湧太郎くん

写真)静岡県立三島北高等学校チームリーダー:植松湧太郎くん
写真)開沼博氏(静岡県立三島北高等学校チームリーダー:植松湧太郎くん

© エネフロ編集部

Q.原子力発電を取り扱うことについて葛藤があったそうだが、リーダーとしてまとめるのは苦労したか?

「誰がリーダーとかはなく、各々が『これが合理的で社会の役に立つんだ』と考えて集った仲間なので、議論して行くうちに自然に『こうなるべきだよね』と決まりました」

Q.大変だったことは?

「最初の方向性を決めるところです。最初は(水素製造のエネルギー源に)どの発電を使うか、各々意見があり全く決まりませんでした」

「2~3か月前までは、みんなで(リサーチを)やっていました。『自分は水素を調べる』、『わたしは核融合を調べる』という感じで。最近になってようやくみんなでまとめることができました」

Q.最優秀賞を受賞した気持ちは?

「先輩たちの過去の発表は、どれもクオリティの高いものでしたが、それでも優勝できなかったのが、やりきれない思いでした。3回目で、やっと僕たちが優勝の第一号をとることができたことがとても嬉しいです」

取材を終えて

高校生たちは、約4か月かけてこのコンテストに臨んだ。社会課題解決に奮闘するさまざまな専門家たちに直接話を聞けたこと、チームで議論を重ね意見をまとめ上げたこと、そして他校の発表を見て多様な考えを学んだことは、高校生たちにとってかけがえのない経験となったに違いない。

発表後の質疑応答では、審査員から厳しい指摘が飛んだ。アイデア実現の効果の試算、今時点でその技術が実現していない原因と解決策、具体的な数字を交えた説明が求められた。それに対して彼らなりに真摯に答えようとする姿が印象的だった。自ら問題意識を持って真剣に取り組んだからこそだろう。

「30年後の現役世代」の頼もしい姿が、エネフロ編集部だけでなく、主催や共催・協力会社の大人たちの胸を打ったのは間違いない。

■第3回「高校生が競うEnergy Pitch!」

主催:電気新聞(一般社団法人日本電気協会新聞部)
共催:静岡新聞社・静岡放送
協力:静岡ガス株式会社、鈴与商事株式会社、中部電力株式会社

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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