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「安全」を考える

Vol.04 原子力防災へのたゆまぬ努力 美浜原子力緊急事態支援センター

写真)美浜原子力緊急事態支援センター
出典)電気事業連合会

まとめ
  • 美浜原子力緊急事態支援センターを取材した。
  • 被災現場を想定し、災害対応用ロボットなどを使った訓練を各電力事業者に提供している。
  • 遠隔操作機材を使った事故対応、原子力防災に関わる知識を習得してもらうこうとが使命。

原子力発電所の緊急事態に原子力事業者はどのように備えているのか、実はあまりよく知られていない。

今回は福井県三方郡美浜町にある、「美浜原子力緊急事態支援センター」(以下、支援センター)を取材した。

支援センターは、電力協定事業者9社と日本原子力発電、日本原燃が、万一原子力災害が発生した場合でも、迅速に対応できるよう万全の支援体制を整備している。

支援センターは国内全ての原子力発電所をカバーしており、遠くは北海道電力の泊(とまり)原子力発電所だという。こうした拠点を複数持つ考えはなかったのだろうか?

岸本所長に話を聞いた。

「この施設は日本で初めての施設であり、まだ出来てから2年ということもあるので、まずは知見の収集に努めるとともに、現状組織の運用に全力を挙げて取り組んでいくことになる。」

写真)日本原子力発電株式会社 敦賀事業本部 美浜原子力緊急事態支援センター 岸本輝夫氏
写真)日本原子力発電株式会社 敦賀事業本部 美浜原子力緊急事態支援センター 岸本輝夫氏

©エネフロ編集部

支援センターの使命について、岸本氏は

  • 電力事業者の為になること
  • 支援要請があったら速やかに対応できること

の2点を挙げた。

支援要請とは原子力災害対策特別措置法第10条(注1)に基づくものだが、災害で陸送が困難な時はどうするのか?

「自然災害等の複合災害により車で搬送できない時は各電力事業者との協定書の中で、その会社がチャーターしたヘリでロボットなどの機材を運ぶようになっていますし、事業者がチャーターした船を使うことも想定しています。」

あらゆる手段を使って、できる限り迅速に支援要請があった場所に届けるということだ。搬送車両は全て緊急車両登録済。優先的に現地にたどり着くことができるようになっている。

写真)遠隔操作資機材コントロール車
写真)遠隔操作資機材コントロール車

©エネフロ編集部

支援センターの任務は、単に支援機器や要員を届けることだけではない。より重要な事は、被災現場で何ができるかを想定し、訓練することだ。

「発災現場に近い環境を想定した訓練を提供できないか検討しています。福島第一原子力発電所の事故当時、現場の状況はどうだったのか、こういう訓練をやろうじゃないかというのを今考えてもらっています。それを集大成して、電力事業者の訓練生の皆さんに提供できるように努力しているところです。」

「例えばロボットの訓練に来た時に、そのロボットを使って何かできるようなことはありますかというような事をアンケート形式で聞いて、これは有効だ、というものについてはどんどん採用しています。」

各原子力発電所でそれぞれ建物の構造も違うし、ニーズも違うだろう。各電力事業者から来る訓練生たちとの意見交換で新たな発見があるという。一例を岸本所長が教えてくれた。中部電力浜岡原子力発電所のケースだ。

「構内のバルブの表面の放射線量が非常に高くなっている場合、バルブそのものを撤去するわけにはいかない。線量を下げるために遮蔽材をロボット(Kobra)に持たせて被せる訓練はできないかというような提案を受けてやってみました。」

支援センターが想定しているのは現場の放射線量が高い過酷状況だ。重要なのは、支援センターの要員が実際に対応するときに、現場が一体どうなっているのか、最新状況を把握することだ。

遠隔操作機材を投入するシナリオはこうだ。

① 現場に行ったらまず無線ヘリコプター(UAV:Unmanned Aerial Vehicle 通称:ドローン)を飛ばす。

  • ドローンからの可視映像をみて、どこに瓦礫などがあるか確認する。
  • ドローンの放射線測定器と赤外線カメラで、発災現場の状況をチェックし、放射線量率を測る。

② 建屋へのアクセスルートを確保する。

  • 放射線量の高い瓦礫などを無線重機・ロボットで撤去する。
  • 発電所内の大型重機(ホイールローダーなど)も投入する。

ロボットにも放射線測定器がついており、細かい放射線量率マップを書くことができるという。災害対応用ロボットの役割がいかに重要かわかる。支援センターに配備されているロボットを見学した。現在あるのは、米 Endeavor Robotics社の「PackBot(パックボット)」と「Kobra(コブラ)」の2種。もう一つ、国産で偵察用の「SAKURA(サクラ)」がある。

写真)PackBot®
写真)PackBot®
  • 速  度:9.3㎞/h
  • 通信方式:無線100m
  • 稼働時間:8時間
  • 寸  法:幅50×長90×高20cm
  • 重  量:30kg
  • Endeavor Robotics社製

©エネフロ編集部

写真)Kobra
写真)Kobra
  • 速  度:12.8㎞/h
  • 通信方式:無線100m
  • 稼働時間:4時間
  • 寸  法:幅80×長140×高50cm
  • 重  量:200kg
  • Endeavor Robotics社製

©エネフロ編集部

写真)SAKURA
写真)SAKURA
  • 速  度:1.4㎞/h
  • 通信方式:無線100m、有線200m
  • 稼働時間:8時間
  • 寸  法:幅40×長70×高90cm
  • 重  量:50kg
  • 株式会社日南製

©エネフロ編集部

災害対応用ロボットの市場は小さく、軽量で高性能のモデルはなかなか出てこないという。そうした中で現時点ではこれらのモデルが最適だそうだ。一方で、性能向上が著しいのがドローンだ。旧型と新型を比べると搭載資機材の軽量化により小型化され、飛行時間も伸びているという。

写真)無線ヘリコプター(UAV :Unmanned Aerial Vehicle) 通称:ドローン
写真)無線ヘリコプター(UAV :Unmanned Aerial Vehicle) 通称:ドローン

©エネフロ編集部

筆者が様々な機材の説明を受けている間、電力事業者から来ている人たちが、無線重機による瓦礫撤去の訓練を受けていた。この日が初日だった。話を聞くと、実際に重機に乗って機器を操作するのと、リモコンを使いながら遠隔操作するのとでは全く感覚が違うという。訓練講師に話を聞くと、2日くらいで基本的な遠隔操作が出来るようにはなるが、完全に習得するには何回か訓練を繰り返す必要があるとのことだった。見るほど簡単ではないようだ。

写真)無線重機の遠隔操作訓練
写真)無線重機の遠隔操作訓練

©エネフロ編集部

写真)無線重機の遠隔操作の様子
写真)無線重機の遠隔操作の様子

©エネフロ編集部

次に、遠隔操作資機材コントロール車を見学した。中型トラック5台を架装し、被災地に迅速に到達できるよう大規模災害発生時の交通規制区域を通過できる緊急車両として登録済みだ。これらの車両は放射線量が高い場所で作業する可能性があるので、車両内部に放射線を遮へいするタングステンマットを装着できるようになっている。内部から各種ロボット、無線重機、無線ヘリコプターを操作することが可能だ。

写真)遠隔操作資機材コントロール車内部のタングステンマット
写真)遠隔操作資機材コントロール車内部のタングステンマット

©エネフロ編集部

写真)被ばくを防ぐタングステンエプロンを身に着ける筆者
写真)被ばくを防ぐタングステンエプロンを身に着ける筆者

©エネフロ編集部

岸本所長に支援センターの使命について聞いた。

「ここの第一の使命は、遠隔操作機材を使って事故対応にあたることです。もう一つはここに来ている10名の電力事業者の方が出向期間中に原子力防災に関わる色々な知識を習得していただくことです。彼らが発電所に帰った時にその知識をもっと発揮できるでしょう。」

所長の話を聞く前に、今年7月から出向している中部電力の朝比奈信夫氏によるロボットのデモンストレーションを見学した。驚いたことにロボットは階段の上り下りだけでなく、機器類の入っている扉の開け閉めや、中のスイッチを押すような細かい作業まで可能である。

写真)日本原子力発電株式会社 敦賀事業本部 美浜原子力緊急事態支援センター
課長 朝比奈信夫氏
写真)日本原子力発電株式会社 敦賀事業本部 美浜原子力緊急事態支援センター 課長 朝比奈信夫氏

©エネフロ編集部

写真)階段昇降のデモンストレーションを行うPackBot
写真)階段昇降のデモンストレーションを行うPackBot

©エネフロ編集部

写真)ロボットを操作する朝比奈氏
写真)ロボットを操作する朝比奈氏

©エネフロ編集部

また、作業ロボット1台だけでは遠近感が十分に得られず、作業に正確さを欠くことが分かったため、もう一台の監視ロボット(SAKURA)が作業ロボットの映像を操作員に届けることで、より正確に作業を行うことが出来るようになった。

震災後、新規制基準により原子力発電所建屋は水密扉・堰などが設置された。したがって、ロボットがこれらの設備の設置を踏まえて、どこまで作業ができるかを確認することが課題だと朝比奈氏は指摘する。

写真)浜岡原子力発電所 水密扉 (2018年2月9日取材時)
写真)浜岡原子力発電所 水密扉 (2018年2月9日取材時)

©エネフロ編集部

「引き続き、新規制基準をクリアしたプラントを視察し、どんなことができるのか確認していきたいと思います。訓練生からもしっかり聞き取ってロボットが生かせる訓練内容にしていきたいと考えています。」

実際、浜岡原子力発電所には29名がこのロボットの資格を持っており、反復訓練のため、毎月訓練生が来ている。既に、5回目、6回目の人もいて、普通の定着訓練のみならず、自らが自主訓練としてメニューを作り実践している。こうした取り組みを他の電力事業者に伝えていきたい、と朝比奈氏は話す。

ふと疑問に思ったのだが、各電力事業者がロボットなどの遠隔操作の機器を持てばよいのではないだろうか?その疑問はすぐに氷解した。

「ロボットなどの遠隔資機材は、定期的なメンテナンスなどが必要であり、支援センターで集中管理をして出動し、支援センターで育成した事業者要員と協働したほうが合理的だと思います。フランスとかドイツでも同様な組織形態でやっています。」

今後の課題を朝比奈氏はこう語る。

「やはり訓練の高度化ですね。例えば、高放射線下での作業でさらに被ばく線量を低減できないか、その為にはどんな作業が必要か、などを考慮した訓練メニューを考えて行きたいと思っています。」

「この組織に来た者は、出向元に戻って原子力防災の全般の中核的な役割を果たせるように、様々な知識と実践力を身につけて、即戦力になるよう期待されています。このためには、幅広い原子力防災の知識の習得とロボット操作に加え、ドローンや無線重機の操作が、出向期間中の3年間に可能となるよう取り組みたいと思っています。」

支援センターの役割は重い。原子力防災のために電力事業者が行っているこうした取り組みを、電気の需要家である私たちも知ることが大切だ。私たちの「安心」はこうした人々のたゆまぬ努力によって得られるものだから。

  1. 原子力災害対策特別措置法
    (原子力防災管理者の通報義務等)
    第十条 原子力防災管理者は、原子力事業所の区域の境界付近において政令で定める基準以上の放射線量が政令で定めるところにより検出されたことその他の政令で定める事象の発生について通報を受け、又は自ら発見したときは、直ちに、内閣府令・原子力規制委員会規則(事業所外運搬に係る事象の発生の場合にあっては、内閣府令・原子力規制委員会規則・国土交通省令)及び原子力事業者防災業務計画の定めるところにより、その旨を内閣総理大臣及び原子力規制委員会、所在都道府県知事、所在市町村長並びに関係周辺都道府県知事(事業所外運搬に係る事象の発生の場合にあっては、内閣総理大臣、原子力規制委員会及び国土交通大臣並びに当該事象が発生した場所を管轄する都道府県知事及び市町村長)に通報しなければならない。この場合において、所在都道府県知事及び関係周辺都道府県知事は、関係周辺市町村長にその旨を通報するものとする。
    2 前項前段の規定により通報を受けた都道府県知事又は市町村長は、政令で定めるところにより、内閣総理大臣及び原子力規制委員会(事業所外運搬に係る事象の発生の場合にあっては、内閣総理大臣、原子力規制委員会及び国土交通大臣。以下この項及び第十五条第一項第一号において同じ。)に対し、その事態の把握のため専門的知識を有する職員の派遣を要請することができる。この場合において、内閣総理大臣及び原子力規制委員会は、適任と認める職員を派遣しなければならない。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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