記事  /  ARTICLE

エネルギーと私たちの暮らし

Vol.13 火力最適運転支援システムとバーチャルパワープラント

写真)中部電力上越火力発電所
出典)中部電力株式会社

まとめ
  • 電力事業者と協力企業や研究機関、大学などによる技術発表会「テクノフェア2018」を取材。
  • IT技術で火力発電設備の高効率・高稼働運転の維持や保全コストの低減。
  • 豊田市の再エネ地産地消の取組みにバーチャルパワープラント活用。

電力事業者の使命は良質なエネルギーを安全に安く、安定的に需要家に届けること。日夜、さまざまな技術について研究開発が行われているが、なかなか人の目に触れることはない。今回、電力事業者と関連協力企業や研究機関、大学などによる技術発表会、「テクノフェア2018」(主催:中部電力株式会社技術開発本部)を取材する機会があったので前回に引き続き、その一部を紹介したい。

火力発電所で使われる最新IT技術

今回の技術発表にはIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を使ったものが多かった。その中で私が興味を持ったのは、火力発電設備の高効率・高稼働運転を維持するために最新テクノロジーが使われている研究だった。

ほとんどの原子力発電所が稼働していない現在、日本の電力を支えているのは火力発電だと言っても過言ではない。火力発電の設備を高効率で運転することは、資源に乏しい我が国のエネルギー環境を考えれば極めて重要だ。

これまで火力発電所は運転員の知識と経験による監視と警報値による監視により、発電設備の異常を認識していたが、警報値に至るまでの異常予兆を認識することが難しかった。

そこで、最新のIT技術を活用することで、これまで検知が難しかった警報値未満の異常兆候を網羅的・継続的に分析することが可能になったのだ。「いつもと違う」挙動を検知するシステム、すなわち発電設備の異常予兆の超早期検知は、稼働率の向上と保全コストの低減につながる。では具体的にどのように異常兆候を検知するのか見てみよう。

図)火力最適運転支援システム概念図
図)火力最適運転支援システム概念図

出典)中部電力株式会社

システムの概要

このシステムは中部電力と日本電気株式会社(以下、NEC)との共同研究により生まれた。電力会社はもともと火力発電所の運転・保守により蓄積した温度や圧力などに関する大量の運転データ(ビッグデータ)や火力発電に関する運転保守技術を擁する。

一方NEC は、「インバリアント分析技術」や「要因分析技術」といったAIによる分析エンジンを持つ。「インバリアント分析技術」とは、さまざまなセンサーが大量に収集したデータの中に埋もれているシステムの特徴を表す不変的な関係性(インバリアント)をモデル化し、そのモデルと一致しない「いつもと違う」挙動を予兆段階で検出するAIエンジンである。

「要因分析技術」とは、プラント設備に取り付けられたセンサーの時系列データをさまざまな統計分析により特徴量を分析することで、効率低下や故障など品質の劣化要因を分析するAIエンジンだ。

写真)システム画面イメージ
写真)システム画面イメージ

出典)中部電力株式会社

こうした技術を組み合わせることでどのような事が可能になるのか詳しく見てみよう。

システム導入のメリット

上記システムの導入により:

  1. 火力発電設備の故障の早期発見
  2. 火力発電設備の運転保守の高度化
  3. 火力発電設備の高効率、高稼働運転の維持

が期待できる。

最新IT技術の活用により、これまで運転員による監視などに頼っていた運転・保守が、より効率的に、より安全になる。発電効率が上がることはCO2削減につながるわけで、地球環境を考える上でもよいことだ。設備保全のコストが下がれば、電気料金にもよい影響がでるはずだ。実際に研究の内容を聞いて最新技術のメリットが実感できた。説明員によると、発電設備の運転状態は気温や燃料の性状といった外的要因にも影響を受けるという。そうした要因の影響も補正するシステムになっているのは凄いと思った。人間の能力を補い、精度の高い発電設備の運転・保守が電力会社、電機メーカーの技術者の手で行われることに感動を覚えた。

次に見学したのは、愛知県豊田市の「バーチャルパワープラント(VPP:仮想発電所)」だ。

豊田市の再エネ地産地消

愛知県豊田市は、2030年までに1990年比でCO2を30%削減するアクションプランを掲げ、地域の低炭素化に向けた取り組みを進めている。2016年10月には企業と連携し、仮想的に市の再生可能エネルギーを約70の施設に供給する、いわゆる「地産地消」に取り組んでいる。

その実現のために、再生可能エネルギーで発電した電力の供給に合わせて家庭や企業の需要などを制御し、さまざまな需要家のエネルギーリソースをあたかもひとつの発電所のように機能させる「バーチャルパワープラント(仮想発電所)」を構築する研究が行われている。豊田市とともに実施している共同実証先は、中部電力株式会社、株式会社デンソー、トヨタ自動車株式会社、株式会社トヨタエナジーソリューションズの4社である。

図)豊田市バーチャル・パワー・プラント・プロジェクト概念図
図)豊田市バーチャル・パワー・プラント・プロジェクト概念図

提供)中部電力株式会社

この研究で期待できる成果は:

①豊田市の再エネの地産地消を実現できる

家庭や企業が保有するプラグインハイブリッド車(PHV)、ヒートポンプ給湯機、蓄電池などをICT(情報通信技術)によって連携させる。それにより、PHVの充電時間や蓄電池の充放電を制御することができる。

写真)TOYOTA プリウス PHV
写真)TOYOTA プリウス PHV

出典)トヨタ自動車株式会社

写真)愛知県豊田市パナソニック創蓄連系蓄電池を設置
写真)愛知県豊田市パナソニック創蓄連系蓄電池を設置

出典)株式会社松原電機

さらに、再生可能エネルギーによる電力供給に合わせて節電要請(デマンドレスポンス)することで、再エネの地産地消を見据えた需給調整や、送配電会社からの依頼に基づいて調整することができる。

図)需要側エネルギーリソース
図)需要側エネルギーリソース

電気自動車 施設・工場などの蓄電池 家庭の空調・給湯器 施設などの空調

出典)中部電力株式会社

②再エネの更なる普及拡大を可能とする電力系統を実現できる

実配電系統へ蓄電池を設置し、コントロールすることで、配電系統の電圧・電流を最適に制御する。それにより、再エネ導入量の拡大や、配電設備の投資コストが削減できる。

今後の展開

2018年6月から実証実験は始まっており、現在市の施設の空調、蓄電池やEVの制御試験を進めている。この空調制御で最大1,000kWh(100世帯の1日の電力消費量に相当)の節電効果が確認された。この秋以降、再エネと需要家のリソースをさらに活用していく予定だ。各設備を繋げる情報通信システムの構築がかぎとなる。

こうした取り組みのメリットは、①CO2削減の推進②地域エネルギーの有効活用③自治体のイメージ向上④資産の有効活用⑤電力システムの効率化、など大きい。今後、豊田市の実証実験で得られた知見を他の自治体に展開していくことが求められよう。その際、電力事業者と自治体、関連企業との密接な連携が必要だ。多くの人がこうした技術研究発表の成果を知るメリットは大きいと感じた。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
Japan In-depth

RANKING  /  ランキング

SERIES  /  連載

エネルギーと私たちの暮らし
私達が普段なにげなく使っている電気。しかし、新たなテクノロジーでその使い方も日々、変化しています。電気がひらく「未来の暮らし」、覗いてみましょう。