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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.12 原子力発電比率低下でGDP減少

写真)一般財団法人電力中央研究所社会経済研究所 主任研究員 浜潟純大氏
©エネフロ編集部

まとめ
  • 2030年の原子力発電の電源構成比見通しが未達成の場合、日本経済への影響を試算。
  • それによると実質GDPが減少し、家計にも大きな影響が出る。
  • 原子力発電比率の維持が重要。

今年出た第5次エネルギー基本計画は、2030年の原子力発電の電源構成比を3年前の計画と同じ20~22%とした。この見通しが達成されなかった場合、日本の経済にどのような影響が及ぶのか試算をした、電力中央研究所社会経済研究所の主任研究員浜潟純大氏に話を聞いた。

浜潟氏は、震災後1回、原子力の経済的評価の試算をしている。今回は、2018年のエネルギー基本計画に先立ち、前回の内容を改めて評価したという。具体的には、社会経済研究所で開発したマクロ計量経済モデル、産業連関モデル、エネルギー間競合モデルを用いて、2030年断面の原子力発電比率が長期エネルギー需給見通しで想定された22%から7ポイント低下し、その不足分をLNG火力発電や再生可能エネルギー発電で補てんした場合(以下、LNG補てんケース/再エネ補てんケース)と、長期エネルギー需給見通しで想定するエネルギーミックスが達成された場合(需給見通しにおける省エネ徹底ケース:以下、基準ケース)との間で、実質GDPや業種別生産額、設備投資額、CO2排出量、電力コストにどのような差が生じるかを試算したものだ。その中身を見て行く。

図)利用するモデル群の構造
図)利用するモデル群の構造

©電力中央研究所社会経済研究所

表)前提条件
表)前提条件

©電力中央研究所社会経済研究所

実質GDPへの影響

試算によるとまず、実質GDPの減少分だが、2030年断面の実質GDPは基準ケースと比べ、以下のように減少する。

LNG補てんケース -約2.5兆円
再エネ補てんケース -約2.7兆円
表1)主要経済指標の比較
表1)主要経済指標の比較

©電力中央研究所社会経済研究所

2017年~2030年までの累計では、両ケース約11~13兆円となる。

表)分析結果(基準ケースからの乖離)
表)分析結果(基準ケースからの乖離)

©電力中央研究所社会経済研究所

こうした実質GDPの減少は、

  • 化石燃料輸入の増加に伴う輸入増
  • 電気料金上昇を通じた物価上昇に伴う実質所得の減少がもたらす消費減
  • 物価上昇を通じた国際競争力(海外価格/国内価格)の低下による輸出減や投資減

などによる。

図)実質GDPの減少分(2030年断面)
図)実質GDPの減少分(2030年断面)

©電力中央研究所社会経済研究所

11〜13兆円と聞いてもピンとこないかもしれないが、2017年の日本の実質GDPは約530兆円だから、その2.0〜2.5%に相当する。この数字をどう見るか、浜潟氏に聞いた。

「11〜13兆円程度という数字ですが、本来であればこの損失は必要ないものと考えると、決して小さくはないと思います。加えてその損失が2030年で打ち止めになるかというと、必ずしもそういうことではありません。その状況が続けば、2030年以降もマイナス幅は当然拡大すると考えています。」

では業種別の生産額への影響はどうだろうか?

写真)メガソーラーしみず
写真)メガソーラーしみず

©中部電力

業種別生産額等への影響

業種別の影響を見ると、やはり影響が大きいのは製造業だ。2030年の基準ケースと比べ、以下のように減少する。

LNG補てんケース 製造業 -約3.0兆円
第三次産業 -約1.7兆円
再エネ補てんケース 製造業 -約3.3兆円
第三次産業 -約1.9兆円
図)実質生産額の減少分(2030年断面、兆円)
図)実質生産額の減少分(2030年断面、兆円)

©電力中央研究所社会経済研究所

この図から明らかなのは、LNG補てんケースより再エネ補てんケースの方が実質生産額の減少が大きいということだ。また、インパクトは第3次産業より製造業が大きい。さらに製造業の中を見てみると、素材、機械産業に影響が大きいという結果となった。特に輸出比率の大きい機械産業への影響が大きく、日本経済の足を引っ張ることになろう。

表)製造業の実質生産額減少分の内訳(2030年断面、兆円)
表)製造業の実質生産額減少分の内訳(2030年断面、兆円)

©電力中央研究所社会経済研究所

次に気になるのは家計への影響だ。浜潟氏はこう語る。

「GDPは国全体の付加価値の総額ですけれども、その減少が当然家計にも影響してきます。そういう意味で家計の所得は当然減少します。」

写真)中部電力西名古屋火力発電所
写真)中部電力西名古屋火力発電所

©中部電力

家計への影響

表1で示されている通り、可処分所得(家計)の金額の基準ケースと比べ、以下のように減少する。

LNG補てんケース -約1.0兆円
再エネ補てんケース -約1.2兆円

所得の指標として使われる、一人当たりGDPも基準ケースと比べ、以下のように減少する。

LNG補てんケース -約2.1万円
再エネ補てんケース -約2.3万円

この数字は各家計に平均的に影響が生じた場合の所得減であるから、所得階層別に考えると低所得者層への影響が相対的に大きくなるものと考えられる。消費税と同じ逆進性の問題が生じる可能性があるということだ。

経済規模が縮小するわけなので、当然就業者数も減少する。基準ケースと比べ、以下のように減少する。

LNG補てんケース -約12万人
再エネ補てんケース -約16万人

こうしてみてくると、原子力発電比率が長期エネルギー需給見通しの想定より低下すると、いかに国民経済に影響が大きいかが分かる。さらにその他のインパクトも当然想定せねばならない。それが電力コストの問題だ。

写真)筆者と浜潟純大氏
写真)筆者と浜潟純大氏

©エネフロ編集部

電力コストの上昇

基準ケースの電力コストは9.4兆円だが、それに対し以下のように増える。

LNG補てんケース +0.5兆円
再エネ補てんケース +1.5兆円

LNG補てんケースでは、追加的な化石燃料の輸入増が生じるためであり、再エネ補てんケースでは、再エネの買取費用が拡大し電力コストが拡大するからだ。つまり、原子力発電比率が下がると、長期エネルギー需給見通しで想定された2030年の電力コスト目標を達成することは難しくなるということだ。尚、再エネ補てんケースでは追加的な系統安定化費用は織り込んでいない。

無論こうしたモデル分析には限界はあるが、浜潟氏に苦労した点を聞いた。

「複数のモデルを使って分析をしました。経済がエネルギーの需要に与える影響と逆にエネルギーが経済に与える影響について、双方のモデルを使っています。例えば経済規模はエネルギーの需要に影響を及ぼします。逆にエネルギー価格が上がるとか化石燃料をたくさん輸入しなければいけないということになれば、GDPにマイナスの影響が出る。これらのモデルを使い、時間をかけて分析しました。そこがまあ苦労した点ですね。」

筆者は、輸入が今後増えると想定されるシェールガスについては同モデルに織り込んだのか気になったので聞いてみた。

「シェールのインパクトは考慮していません。まだウェートがかなり小さく、将来どうなるか不透明だからです。ですので、基本的には、いわゆる従来型の化石燃料の世界的な価格の推移を前提にしています。」

写真)LNG船
写真)LNG船

©日本郵船

試算の先は?

今回試算した数値が大きく変わる要因にはどのようなものがあるのだろう?浜潟氏は、再生可能エネルギーの導入が今後どうなるかが大きいと指摘する。

「2050年とかその先に、例えば再エネがものすごく安くなりましたというような時、現状の延長ではない世界が生じてくる可能性はありますね。」

写真)一般財団法人電力中央研究所社会経済研究所 主任研究員 浜潟純大氏
写真)一般財団法人電力中央研究所社会経済研究所主任研究員浜潟純大氏

©エネフロ編集部

「また2030年なり2050年に向けて、本当に電力需要が単調に下がっていくのか、というのも不確実なところです。」

世界的なEVシフトが進む中、電力需要が逆に増えると予測する研究者もいる。

いずれにしても、エネルギーは私たちにとって欠くことのできないもの。今回の試算を見て、やはり長期のエネルギー需給はマクロ経済の視点で見ることが重要だと痛感した。

今後の研究として浜潟氏は、例えば、CO2を排出しない原子力のゼロエミッション電源としての役割などについてどういった形で見せるか検討しているという。

「難しいところではあるのですが、国の目標でも2050年にCO2の8割減という指標もある中で、それを達成するのに再エネだけでやっていけるのか、というのが重要な論点だと思います。」

今回の試算が私たちに示唆するものは決して小さくない。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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