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「安全」を考える

Vol.02 廃炉への道 新たなステージへ 福島第一原子力発電所

©エネフロ取材班

まとめ
  • 東京電力福島第一原子力発電所を取材した。
  • 構内の放射線量は大幅に低減。
  • 廃炉のステージは新たな段階に入った。

福島第一原子力発電所へ

今回筆者が福島第一原子力発電所を訪れるのは2年半ぶりとなる。JR東日本常磐線富岡駅から向かうのは初めてだ。それもそのはず、常磐線が富岡駅まで開通したのは、2017年10月のこと。つい半年ほど前なのだ。

この町は2017年3月まで帰還困難区域であった。福島第一原子力発電所に向かう国道6号線は無論通行可だが、その6号線と交わる支線のほとんどは通行止めとなっている。

今回案内してくれたのは東京電力福島第一廃炉推進カンパニー山田直人さんだ。

「毎日通勤でここを走るのですが、道に面して民家がありますよね。その入り口に柵が設置されているのを見ると、胸が痛むんです。」

自分の家にいまだに戻れない・・・その悲しさは想像を絶するものだろう。

写真)国道6号線 JR東日本常磐線富岡駅から福島第一原子力発電所へ向かう国道6号線に面した民家の入り口は金属製の柵で封鎖されている。
写真)国道6号線 JR東日本常磐線富岡駅から福島第一原子力発電所へ向かう国道6号線に面した民家の入り口は金属製の柵で封鎖されている。

©エネフロ取材班

3号機の内部へ

前回来たときは線量が高すぎてとても3号機に近寄ることは出来なかった。フルフェイスマスクを着けて、遠く離れた高台から3号機を短時間望むしかなかったのだ。それが、今回はハーフマスクでOKになっていた。タンクエリアを中心に簡易マスクのみで行動できるGエリア(グリーンエリア)が95%に広がったからだ。作業効率も大幅にアップした。

そして今回、いよいよ3号機の中に入ることになった。3号機前で線量を測ると90マイクロシーベルト(μSv)/h。がれき撤去前は500~700μSv/hだったというから、激減していることがわかる。建屋の上のかまぼこ型の燃料取り出しカバーは、2017年1月から2018年2月にかけて放射性物質の拡散の抑制のために新たに設置された。建屋は3.11と同規模の地震が起きても耐えうる免震構造になっている。

早速、エレベーターに乗って使用済み燃料プールに向かった。プールを見ることができるフロアは地上36メートルで、カバーのてっぺんまでは約50メートルの高さだ。3号機内は100ミリシーベルト(mSv)/hと、さすがにやや高い。

燃料の取り出しは、2018年度半ばにも予定されている。燃料集合体566体以上の搬出を2年かけて無人で作業をしていくために天井には大型クレーンなどが設置されている。作業は1日1体で、年稼働240日だと、約500体を運び出すのに2年ほどかかる計算だ。

3号機前の数値
3号機前の数値

©エネフロ取材班

3号機内
3号機内

©エネフロ取材班

3号機外観
3号機外観

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巨大な使用済み核燃料プールをのぞき込むと一気に線量計の数値が上る。(図:線量計が733μSv/hを示している)ここから数メートル後ろへ下がるだけで65μSv/hと10分の1以下になった。今回の取材で許容されたのは、合計70μ㏜/hだ。それを超すと警報音がなる。取材を終えて戻らねばならないのだ。

3号機建屋内燃料プール(写真上、下)
3号機建屋内燃料プール
3号機建屋内燃料プール

©エネフロ取材班

水深12メートルの燃料プール中に長さ約4メートルの燃料集合体がある。水中で水平移動し、容器に入れて密閉してから引き上げ、慎重に搬出するのだ。時間がかかる作業であることは間違いない。

東芝製のマニピュレータ。ペンチ上の先で小がれきを取り除く。
小がれきを引っ掛けて取ることもできる。
東芝製のマニピュレータ。ペンチ上の先で小がれきを取り除く。小がれきを引っ掛けて取ることもできる。

©エネフロ取材班

3号機建屋内
3号機建屋内

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門型クレーン
この棒状のもので燃料を取り上げる。
門型クレーン この棒状のもので燃料を取り上げる。

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凍土壁

次に向かったのが、「陸側遮水壁(凍土壁)」だ。凍土壁は、1~4号機を囲むように約1500本の管を地下30メートルまで打ち込み、氷点下30度の冷媒を循環させて凍った壁(全長約1.5キロ)を造る。原子炉建屋に地下水が流入を防ぎ、汚染水の発生を抑制するために建設されたもの。説明によると汚染水発生量が1日95トン抑えられ、ほぼ半減しているという。効果は出ているようだ。

陸側遮水壁(凍土壁)
陸側遮水壁(凍土壁)

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冷媒が流れている管。実際に手を触れると少しひんやりしている。
冷媒が流れている管。実際に手を触れると少しひんやりしている。

©エネフロ取材班

凍土壁の内側の砂はさらさらしている
凍土壁の内側の砂はさらさらしている

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浄化処理をした水を貯めているタンク。
約900基のタンクのうち1割は組み立て型、9割は溶接型。
浄化処理をした水を貯めているタンク。約900基のタンクのうち1割は組み立て型、9割は溶接型。

©エネフロ取材班

福島第一原発構内を走る、自動運転による電気バス(EVバス)。省力化と、1日5000人に上る作業員の利便性を高めることなどが狙い。全国すべての発電所で初となる。
福島第一原発構内を走る、自動運転による電気バス(EVバス)。省力化と、1日5000人に上る作業員の利便性を高めることなどが狙い。全国すべての発電所で初となる。

©エネフロ取材班

廃炉への道

新たに福島第一廃炉推進カンパニーの社長に任命された小野明さんに話を聞いた。

写真)福島第一廃炉推進カンパニー小野明社長
写真)福島第一廃炉推進カンパニー小野明社長

©エネフロ取材班

Q従業員に最初にどのような話をされましたか?

A廃炉の意義を再度伝えました。リスクをいかに下げるのか。安全にかつ着実に、いかに早く廃炉を進めるかということです。そして、仕事のやり方を見直すことも必要だと思っています。従業員のみんなと「未来志向でいこう!」と話しています。彼らの士気も高いですよ。

Q廃炉への道筋は見えてきましたか?

Aステージが変わってきています。以前は課題が毎日降ってきて、対応するのが精一杯でした。今は、製品の質が上がり、トラブルが減りました。廃炉のリスクをいかに下げるか、腰を落ち着けてしっかり考えられるようになってきましたね。

ロボットや遠隔技術は非常に進歩しており、世界の技術から学びながら3号機のプール燃料(の搬出)は遠隔でやろうとしています。そして、仕事の仕組みや体制を変えていく、いわば土台作りが私のミッションだと思っています。

Q福島第一の現状の対外発信については十分だと考えますか?

A対外発信については、海外も含め正しい情報が伝わっていない歯がゆさがあります。そこでなぜ伝わらないのか考えたところ、相手のニーズとマッチしていなかったのだと思います。例えば、地元の人に福島第一原子力発電所を直接見てもらうのもよいことだと思います。昨年は1万人を超える人に見学に来てもらったのですが、それを2万人に引き上げたいと思っています。直接お越しになった人と話すことで、みなさんのご要望を伺えば、情報発信の工夫もできるのではないでしょうか。

写真)福島第一廃炉推進カンパニー小野明社長
写真)福島第一廃炉推進カンパニー小野明社長

©エネフロ取材班

終わりに

今回の取材で、福島第一原子力発電所の廃炉作業は着実に前進している、と感じた。しかし、廃炉が終わるまで30年から40年かかるという。その道のりはまだ長い。

使用済み燃料プール内の燃料の取り出しの次には、燃料デブリ(注1)取り出しが待っている。現段階で決まっているのは、2019年度に初号機の燃料デブリ取り出し方法を確定することと、2021年内に初号機の燃料デブリの取り出しを開始することだ。その為に内部調査や、取り出しに向けた技術開発が進んでいる。

図)福島第一原発廃炉に向けたロードマップ
図)福島第一原発廃炉に向けたロードマップ

出典)経済産業省

あらゆる関係者が英知を振り絞り、この困難なプロジェクトに取り組んでいる。私たちはこの壮大な廃炉プロセスから目を離すことなく、見守り続けねばならない。それが日本の、そして私たちの責任であろう。

  1. 燃料デブリ:1号機~3号機の原子炉格納容器内にある、融解して周りの構造物とともに固化した燃料のこと。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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