写真)まみずピア
提供)福岡地区水道企業団
- まとめ
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- 逆浸透膜で海水から真水だけを浸透させる膜処理法は、日本が誇る技術。
- 真水が取り除かれたあとの「濃縮海水」を活用して電気を生み出す「浸透圧発電」が日本でおこなわれている。
- ①排水を利用している、②時間帯や気候に左右されず実稼働率が高い、③発電時にCO₂を発生させない、などの点で優れている。
日本が誇る海水淡水化技術、「膜処理法」
地球の70%以上が水で覆われている。淡水はそのうちの2.5%だけである。地球の水分の多くを占める海水を飲料水に変える技術を「海水淡水化」という。
古くからおこなわれてきた方法として、海水を加熱し、発生する水蒸気を凝縮させて淡水を得る「蒸発法」が挙げられるが、これは大量のエネルギーを消費するため造水コストが高く、さらに環境破壊の原因になるという難点があった。
そこで日本では現在、多くの企業で逆浸透膜を利用して海水を淡水化する「膜処理法」技術が進められ、海外に誇る日本の得意分野となっている。(参考:エネルギーと環境 Vol.30 「水不足とSDGs」今、日本ができること 2021.8.17)
例えば東レ株式会社は、逆浸透(RO)膜を利用して海水から塩化物イオンを除去して海水を淡水化する技術を開発し、2022年5月には、世界最大のRO膜法プラントであるアラブ首長国連邦のタビーラ海水淡水化プラントを受注、RO膜の累計出荷数量は、生産水量ベースで10,500万m³/日、生活用水換算で7.3億人相当の需要をまかなえる量に相当するまでに拡大している。
「海水淡水化」の課題
しかし、「海水淡水化」には課題もある。
蒸発法よりも低エネルギーな膜処理法で海水淡水化がおこなわれるようになったが、造水量の増加とともに、海水から真水を取り除いて濃縮した、いわゆる「濃縮海水」が海洋放流される量も増えた。その結果、環境問題が指摘されるようになったのだ。
濃縮海水は、海水と比べて水温や塩分濃度が高いことから海洋生物に対する影響を懸念する声が出ている。対策として、冷却処置をおこなったり、下水処理水などと混ぜて濃度を下げたりする対策が取られているが、いずれも根本的な解決策には至っていない。
排水から生みだす新たな価値
ところがその「濃縮海水」を活用して電気を生み出すという、新しい試みが日本でおこなわれている。それが「浸透圧発電」だ。
福岡都市圏の自治体などにより構成される「福岡地区水道企業団」、および「協和機電工業株式会社」(以下、協和機電工業)は2023年10月6日に海水と淡水の塩分濃度差によって生じる浸透圧を利用した「浸透圧発電」の実用化に向けた取り組みを発表した。福岡地区水道企業団の海水淡水化センター「まみずピア」に発電設備を設置し、2025年に稼働予定だという。
まみずピアが建設された背景には、福岡市が一級河川のない唯一の大都市で水資源が乏しいことが挙げられる。増大する水需要や頻発する渇水への対応策、また流域外の筑後川水系に多くを依存する福岡都市圏の自助努力のひとつとして、海水淡水化施設を建設したのだ。
まみずピアではこれまで海水淡水化の過程で生成される濃縮海水を、近接する和白水処理センターから排水される下水処理水で希釈して博多湾に放流することで、環境への配慮をおこなってきた。実用化を目指す浸透圧発電では、この濃縮海水と下水処理水を利用する。
浸透圧発電の仕組み
ここで、浸透圧発電の仕組みを詳しくみてみよう。
浸透圧発電とは、塩分濃度の低い水が浸透膜を通って塩分濃度の高い水側へと移動する「浸透圧」を利用するものだ。まみずピアの建設計画時に東京工業大学の谷岡明彦名誉教授が濃縮海水の有効利用方法として提案したのが始まりだ。
まみずピアでは、塩分濃度の高い濃縮海水と、淡水である下水処理水(和白水処理センターから排出)の濃度差を利用して発電する。両方とも処理後は海に捨てられていた「排水」であることがポイントだ。
出典)福岡地区水道企業団
上記図で示されているように、浸透圧によって移動することで運動エネルギーを得た水と、濃縮海水による高圧の水の流れでタービンを回し発電する仕組みだ。24時間稼働可能なうえ、天候の影響を受けないことから、実稼働率は約91%と高い。
建設予定の発電施設の年間発電量は88万kWhと見込まれている。これはサッカーコート2面分の太陽光パネルの発電量に相当する。
出典)福岡地区水道企業団
今回取り上げた浸透圧発電は、海水淡水化施設から排出される濃縮された海水と、下水処理場から排出される下水処理水を利用する発電であり、廃棄物から未利用エネルギーを回収する技術として世界中で展開可能なものである。
協和機電工業は、濃縮海水を使用する浸透圧発電を、特に多くの大型海水淡水化施設が稼働している中東諸国や欧米諸国へ事業展開する方針だ。
今後の展望
浸透圧発電は、①排水を有効活用している、②時間帯や気候に左右されず実稼働率が高い、③発電時にCO₂を発生しない、などの点で優れている。
現在開発が進められている浸透圧発電は、濃縮海水と下水処理した淡水の濃度差を利用しておこなわれるが、協和機電工業は今後、「通常の海水」と「淡水」での実用化も目指すという。そのため、本プロジェクトと並行して、新しい塩分濃度差発電膜も開発中だ。
この技術が確立したら、濃縮海水だけでなく、世界中の海水で発電が可能となる。海水淡水化と浸透圧発電は似た仕組みであることから、水不足に悩む地域でのプラント建設によって電力の供給もできる。浸透圧発電が世界に広がっていく日もそう遠くなさそうだ。
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