写真)海水淡水化プラント(イメージ)
出典)tifonimages/GettyImages
- まとめ
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- 太陽熱エネルギーで海水を淡水化する技術が日本で生まれた。
- 融点が低く、熱が伝わりやすい錫に太陽光を集めて熱し、海水を吹き付け水分を蒸留させ真水を得る仕組み。
- この技術は海水中の希少資源を分離回収することもできるため、拡大する世界の水ビジネス市場で日本が主導権を取る鍵にもなりそうだ。
世界の水不足は深刻だ。ユニセフ(UNICEF:国連児童基金)によると、2022年時点、世界では22億人が安全に管理された飲み水を利用できず、このうち1億1,500万人は、湖や河川、用水路などの未処理の地表水を使用しているという。
日本の海水淡水化技術はこうした世界の水不足問題解決に貢献している。(参考:海水淡水化施設の挑戦「浸透圧発電」海水から電気をつくる技術とは(2024.03.05)、「水不足とSDGs」今、日本ができること(2021.08.17)
世界の海水淡水化プラントには、日本の逆浸透(RO=Reverse Osmosis)膜システム(以下、RO膜)が多く採用されている。このシステムは、海水に高圧をかけ、RO膜で塩分や不純物をろ過するものだが、大量の電力を消費するのが課題だった。
こうしたなか今年2月、株式会社日本触媒は、電力消費を従来の3分の1に抑えた海水淡水化システムを米Trevi Systems社と開発した。
海水と、海水より高濃度のDS(Dissolved Solid:溶解性物質)溶液を、FO膜(FO=Forward Osmosis:正浸透膜)を隔てて接触させることで浸透圧が発生し、海水からDS溶液に水のみが移動する。そしてできたDSと水が均一に混ざり合った水溶液を加熱して水だけを取り出す原理だ。圧力を逆浸透膜にかけて海水を押し出すシステムに比べ、電力消費を抑えることができる。
2022年6月から米ハワイで1日500ⅿ³の海水淡水化の実証実験を実施した。今後は1日6,000m³の海水を処理できるプラントの稼働を計画している。
太陽熱エネルギーによる海水淡水化技術
そして、さらに画期的なシステムが開発された。
電力をほとんど使わない海水淡水化の技術が生まれたというのだ。開発したのは東京工業大学(以下、東工大)で、核融合発電技術のベンチャーで最近知名度が上がっている株式会社EX-Fusion(以下、エクスフュージョン)と工業化を進めている。
どのような技術なのか。
実は意外とシンプルなものだ。太陽光で熱した液体金属に海水を吹き付け、水分を蒸留させて真水を得る仕組みである。
太陽熱エネルギーを直接利用して液体金属を高温にするため、電力消費を大幅に削減することができ、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する。
出典)「液体金属流体を用いた革新的な海水淡水化技術 ~オアシスの創成~」東京工業大学 工学院機械系 原子核工学コース 修士課程 1 年 堀川 虎之介
もともと東工大ゼロカーボンエネルギー研究所の近藤正聡准教授らは、核融合炉を冷やすのに必要な液体金属の研究をおこなっていた。そのなかで、融点が約232℃と低く、熱伝導性の高い「錫(すず)」に注目したことがこの海水淡水化技術の開発につながった。
この技術のもう一つの特徴は、海水内の有価資源であるリチウムやマグネシウムなどを分離回収できることだ。リチウムは、エクスフュージョンが実用化を目指すレーザー型核融合炉で燃料としての活用を検討する。
この液体金属流体を用いた海水淡水化技術は、電力が不十分な途上国などに適している。海水から回収された資源の一部は地産地消されるか、輸出して外貨を稼ぐこともできるだろう。また、従来のRO膜を使う海水淡水化技術のように濃縮海水が生成されることはないため、海洋環境にもやさしい技術といえる。
世界の水ビジネス市場は、新興国における人口増加や都市化進展などにより拡大基調だ。2030年には112.5兆円に拡大するとの試算もある。(経済産業省「水ビジネス海外展開施策の10年の振り返りと今後の展開の方向性に関する調査」令和3年3月)
エネルギー負荷と海洋環境負荷が小さいこの海水淡水化技術は、海水中にある希少な有価資源を分離回収することもできる革新的なものだ。この分野で日本が主導権を握ることができるのか、期待をもって見守りたい。
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