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エネルギーと環境

Vol.30 「水不足とSDGs」今、日本ができること

写真)イメージ

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出典)jbelimedによるPixabayからの画像

まとめ
  • 世界全人口約78億人中、約22億人が安全な飲み水を確保できず、約42億人が安全なトイレを使うことができない。
  • 日本は海水淡水化や排水再利用技術などで途上国支援をおこなっている。
  • 今後もそれらの国が自力で持続可能な水・トイレのインフラを構築できるよう、支援を続けていくことが求められる。

世界で深刻な問題となっている水不足。日本は水が豊かなため、気づきにくいが、今回は世界の「水不足」問題に、日本がどう関わっているのかについて紹介する。

深刻化する水不足

昨年も、「世界の水不足、私たちにできること(2020年8月5日掲載)」と題する記事で取り上げたが、世界の水不足は想像以上に深刻だ。

近年注目されるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の17の目標の1つとして「安全な水とトイレを世界中に」が設定されているほどだ。

ユニセフ(UNICEF : 国連児童基金)によると、世界では全人口約78億人中、約22億人は安全な飲み水を確保できていない。そして30億人が基本的な手洗い施設のない暮らしをしており、6億7,300万人がまだ野外排便を行っています。

2050年には、世界人口はほぼ100億人に増加すると予測されており、水不足問題は今後ますます深刻になっていくだろう。

さらに、地球温暖化による降水量の変化は水資源にさまざまな悪影響を与えると予測されている。

図)地球温暖化が水資源に与える影響
図)地球温暖化が水資源に与える影響

出典)国土交通省

深刻な水不足は、紛争を引き起こす。世界中で水資源の配分などを巡り、争いが絶えないのだ。

先ほどのSDGsの目標安全な水とトイレを世界中に」の中には、「2030年までに、集水、海水から真水を作る技術や、水の効率的な利用、排水の処理、リサイクル・再利用技術など、水やトイレに関する活動への国際協力を増やし、開発途上国がそれらに対応できる力を高める」という具体的な方法が記されている。

食糧自給率の低い日本は大量の食料を海外から輸入しているが、肉でも穀物でも、作るには大量の水が必要だ。つまり、日本は海外から食料を輸入することによって、その生産に必要な分だけ水を使わずに済んでいるわけで、見方を変えれば、食料の輸入は、水を輸入していることと同義だともいえる。

多くの食糧や水を海外に依存している日本は、その持てる技術で、世界に「安全な水とトイレ」を供給する責任がある。

水不足解消へ 日本の技術

海水淡水化

まずは、日本が誇る海水淡水化技術だ。逆浸透膜(Reverse Osmosis Membrane)という特殊な水処理膜を使う。英語の頭文字をとってRO膜ともいう。東レや東洋紡、旭化成など日本メーカーが得意とする技術だ。

写真)東レ逆浸透(RO)膜 製品イメージ
写真)東レ逆浸透(RO)膜 製品イメージ

提供)東レ株式会社

サウジアラビア最大規模の海水淡水化プラントには、東レのRO膜が使われている。同社は2009年からこのプロジェクトに関わっており、2019年10月に、シュアイバー第3海水淡水化プラント増設2期、ならびにシュアイバー第4海水淡水化プラント向けにRO膜納入を受注した。

図)「プラント及びTMME(Toray Membrane Middle East LLC)所在地」図
図)「プラント及びTMME(Toray Membrane Middle East LLC)所在地」図

出典)東レ株式会社

また、海水淡水化は、海水に圧力をかけてRO膜を通すことにより塩分を取り除き、淡水を作り出す技術だが、使わない排水には塩分が濃縮されてしまう(濃縮海水)。これをそのまま海に流すのは環境上好ましくない。

そこで東洋紡は、「中空糸型正浸透膜(Forward Osmosis Membrane=FO膜)」というものを使い、その濃縮海水を希釈し、再び淡水化に再利用する技術を開発した。システム内で発生するエネルギーも造水に必要なエネルギーの一部として利用する。既存の海水淡水化プラントに簡単に設置できるという、まさに一石二鳥の新技術だ。

排水再利用

水不足地域では排水を無駄にせず、灌漑や、トイレ、清掃、公園の噴水などに再利用することが極めて重要だ。これまでは好気性微生物により汚水を浄化する「活性汚泥法」が多かった。しかし、クボタは、排水の分離を膜濾過装置で行う、膜分離活性汚泥法(Membrane Bio Reactor :MBR法)による排水処理技術を開発した。排水の浄化を膜ろ過装置でおこなうため沈殿池が不要で、施設がコンパクトになるのもメリットだ。

こうした環境に配慮した日本の水処理技術は世界の水不足解消に今後も貢献し続けるだろう。

途上国自立支援

一方、いくら先進技術を導入しても、途上国がそれを使いこなし、持続可能なインフラにしなければ意味がない。

独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency :JICA)は、世界各国で水資源確保のためのプロジェクトを実施している。

例えばJICAは1993年、内戦で荒廃したカンボジアの首都プノンペンの水道を復興させるため、プノンペン水道公社と協力して、24時間連続給水と安全な水質の確保を10年たらずで達成した。これは後に「プノンペンの奇跡」と呼ばれた。水道事業体の維持管理能力の向上など、持続可能性を考えた援助が続いている。

写真)カンボジア プンプレック浄水場
(老朽化が著しかった同浄水場の改修と給水能力の向上を支援)
写真)カンボジア プンプレック浄水場(老朽化が著しかった同浄水場の改修と給水能力の向上を支援)

出典)JICA「ODA見える化サイト

その他の日本の技術

水循環型手洗い機

新型コロナウイルス感染症の拡大で、世界中の人々は手洗いの重要性を思い知ったことだろう。私たちは、子どもの頃から「外出先から帰ってきたら手洗い・うがい」、とうるさく親から言われたものだが、そもそも水道インフラがない環境ではそれも難しい。

そうした中、ベンチャー企業、WOTA(ウォータ)が「WOSH(ウォッシュ)という手洗いスタンドを開発した。「WOSH」は水道を必要としない。電源と20リットルの水さえあれば、500回以上の手洗いが可能だ。複数のフィルター・深紫外線照射・塩素添加をセンサーとAIにより自律制御することによって、水の再生・循環利用を可能としている。また、スマートフォンを深紫外線照射により除菌する機能も搭載している。WOTAは、この手洗いスタンド「WOSH」の他にも「WOTA BOX(ウォータボックス)」という自律分散型水循環システムを開発しており、こちらは、水道インフラが機能しなくなった災害現場などでシャワーとして活用されている。今後、さまざまな場面での活用も期待されている。 

写真)WOSH 使用イメージ
写真)WOSH 使用イメージ

提供)© WOTA株式会社

バイオトイレ

トイレがなく、道ばたや草むらなど屋外で用を足す人は世界に6億7,300万人もいる。(UNICEF調べ)JICAは「中小企業海外展開支援事業」として、大分県のベンチャー企業「TMT.Japan」とタッグを組み、2017年にアフリカ中部のカメルーン共和国に、水を使わない「バイオトイレ」(株式会社ミカサ製のバイオミカレット®)を設置した。大分県とカメルーンの関係は、2002年に日韓サッカーワールドカップで、カメルーン代表が合宿して以来続いている。

写真)カメルーンの大学内に設置されたバイオトイレ「バイオミカレット®(株式会社ミカサ製)」
写真)カメルーンの大学内に設置されたバイオトイレ「バイオミカレット®(株式会社ミカサ製)」

提供)株式会社ミカサ

「バイオトイレ」は、微生物で排泄物を分解するため、下水道設備や浄化槽がなくても設置でき、くみ取り作業も発生しない。かつ、悪臭もなく、清潔なトイレ環境を保つことが出来るため、トイレ環境がない国では大いに歓迎されるだろう。

様々な日本の技術を見てきたが、先にも述べたように、技術援助だけでは世界の水不足やトイレ問題は解決しない。各途上国が自立し、自分たちの力でインフラを構築し、維持管理していかねばならない。我が国はそのための息の長い支援を続けていくことが期待されている。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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