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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.35 もう夢じゃない!宇宙エレベーター

写真)Energy Vault社の重力蓄電実証機 Castione, Switzerland

図)宇宙エレベーターが実現すれば、ケーブルを使って地球と宇宙を往復できるようになる
出典)大林組

まとめ
  • 地上と宇宙をエレベーターのように結び人や物を輸送できるようにする「宇宙エレベーター」を開発中。
  • 大きな荷物を低コストで宇宙に運ぶことができるのがメリット。
  • 今後はケーブルの素材、カーボンナノチューブの耐久性と長さが課題。

宇宙エレベーターって何?

宇宙エレベーター」をご存じだろうか。宇宙にエレベーター?と思われるかもしれないが、その名の通り、地上と宇宙空間をエレベーターのように結ぶことで人や物を輸送できるようにする仕組みが宇宙エレベーターだ。まさに現代版”ジャックと豆の木”だ。

しかし、一体どのようにして宇宙エレベーターを建設しようというのか。日本宇宙エレベーター協会のホームページを見てみた。

まず、一言でいうと人工衛星からヒモを垂らして、地球と宇宙とを結び、そこを人が移動できるようにするということらしい。

地球は自転している。その自転と同じ周期で地球を回る人工衛星があまた宇宙空間にあるのは周知の事実だ。(これらは、地球から見ると止まっているように見えるので「静止衛星」とも呼ばれている。止まっているように見えるだけであって、実際には止まっていない)

この人工衛星から地球側と宇宙側の両方向にケーブル(宇宙エレベーターの分野ではテザー:Tetherと呼ぶ)を伸ばして宇宙と地球とを1本に結びつけ、人やモノを乗せるカゴ(クライマー:Climerと呼ぶ)を移動できるように建設する。

なぜ両方向に伸ばす必要があるのか。人工衛星は重力(地球の中心へ向かう力)と遠心力(地球の外側へ引っ張られる力)でバランスを保っている。地球方向のみにケーブルを伸ばすと、人工衛星はその重みで落ちてしまう。そこで、地球と反対側にもケーブルを伸ばして重心を保つ。やがて地上にケーブルが到達し、宇宙と地球とを結びつけることができるという原理だ。

実際に、建設プロジェクトを進めている株式会社大林組は、さまざまな課題が解決できれば2025年に着工、2050年の実用化を目指す。約25年かけて全長9万6000mの宇宙エレベーターを完成させる計画だ。地球上の発着点は「アース・ポート」、またはアース・ターミナルと呼ばれ、静止軌道上には、最大規模の駅、「静止軌道ステーション」が作られる。

宇宙エレベーターのメリット

今まで宇宙に行くにはその都度ロケットを打ち上げるのが当たり前と思っていたが、どうやらその考えは古いらしい。

宇宙エレベーターをわざわざ建設するのはなぜなのか。実は大きなメリットがあるのだ。

主なものは、(1)コスト削減(2)運搬効率の向上(3)環境負荷の軽減の3つ。

大林組によると、ロケットは重量の90%にも及ぶ燃料を積み込まなくてはならず、打ち上げ時に積むことのできる物資はわずかとなってしまい、運搬効率が悪い。そして、打ち上げ時に燃料が大気に排出されるため、環境汚染の原因にもなる。

スペースシャトルはどうか。ロケットとは異なり、再利用可能だが、やはり打ち上げ時に莫大な費用がかかる。

ロケットやスペースシャトルの抱えるこれらのデメリットを宇宙エレベーターは一気に解決できる。

その理由はまず、宇宙エレベーターは電気で稼動するからだ。電源は宇宙空間での太陽光発電。電気エネルギーで動けば、ロケット打ち上げ時の燃料は不要となり、環境にもやさしい。燃料を積まない分、大量に物資を運搬することも可能となる。

そして、ロケットは打ち上げに巨大なエネルギーが必要だが、宇宙エレベーターは長時間かけて上昇するため、小さなエネルギーで宇宙空間に移動できる。当然、移動のコストも小さくなる。

さらに、人・モノを運ぶカゴは再利用可能だ。継続的な使用を考えれば効率の良い先行投資といえるだろう。

大林組の試算によると、宇宙へ物資を送る際、ロケットの場合では1kgあたりのコストが100万円以上なのに対し、宇宙エレベーターであれば数万円で済み、大幅な経費削減が期待できるという。

今までよりも格段に効率的に、そして経済的に宇宙開発を前進させることが可能になる。

具体的には、宇宙における太陽発電衛星の研究や、無重力・低重力を利用した研究が加速するだろう。静止軌道ステーションからは、静止衛星を投下することも可能になるし、それより更に宇宙側に別のステーションを建設すれば、そこから宇宙船を放出し、他の惑星の軌道に乗せることだってできるという。そうなると、もはや‟スタートレック”の世界だが、非現実的な話ではない。

図)静止軌道ステーション
図)静止軌道ステーション

出典)大林組

国内・海外での開発状況

この夢のような構想は長いこと実現が難しいと言われてきた。その大きな原因の一つがケーブルにかかる張力に耐えうるような素材が見つからないことだった。

しかし、1991年、NEC(日本電気株式会社)の飯島澄男特別主席研究員(当時、主席研究員)のカーボンナノチューブ(CNT)の発見により、宇宙エレベーター開発に一気に光が差した。

図)カーボンナノチューブ
図)カーボンナノチューブ

出典)NEC

カーボンナノチューブは今までにない強さ・軽さを併せ持つことから、宇宙エレベーターの材料の最有力候補として急浮上、国内外で宇宙エレベーター開発プロジェクトが始動した。

ケーブルの材料として注目されるカーボンナノチューブに関して、大林組は国立大学法人静岡大学や有人宇宙システム株式会社と共同研究を進めている。

海外では、宇宙エレベーター開発をおこなう目的としてNASAが出資するLifePort社がアメリカで設立された。

建設に向けての課題

実現に向けての一番の課題はやはりケーブルの耐久性だ。

株式会社大林組・国立大学法人静岡大学・有人宇宙システム株式会社が2015年から2年間、国際宇宙ステーションの実験装置(「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォーム)を用いて行った1度目のカーボンナノチューブの宇宙曝露実験では、チューブに損傷がみられたという。
その結果を受け、2回目の実験が2019年夏から行われており、結果は現在解析中だ。

図)国際宇宙ステーション
図)国際宇宙ステーション

出典)JAXA

宇宙エレベーターによって、宇宙インフラの構築が加速し、宇宙旅行を含むさまざまなビジネスが誕生することになるだろう。以前紹介した、月における水資源探査も進行中だ。(参考記事:月の水資源争奪戦に日本参戦!)宇宙が人類にとって新たなフロンティアになる日はもう目の前に来ている。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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IoT、AI・・・あらゆるものがインターネットにつながっている社会の到来。そして人工知能が新たな産業革命を引き起こす。そしてその波はエネルギーの世界にも。劇的に変わる私たちの暮らしを様々な角度から分析する。