写真)ペロブスカイト太陽電池設置イメージ
出典)国立研究開発法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)
- まとめ
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- 「曲がる太陽電池」、ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術。
- 複数企業が実証実験をおこなっている。
- 欧州、中国などが官民挙げて開発を加速しており、日本も警戒が必要。
ビルそのものが発電すれば、都市のCO₂排出量を劇的に減らせるはずである。しかし、これまでそれは困難だと思われており、せいぜい屋上の太陽光パネルで発電した電力を利用するくらいしかなかった。
こうしたなか以前、「窓ガラスが発電する 京大発スタートアップの挑戦」という記事で紹介した「窓ガラス発電」など、ビル自体が発電する技術の開発が活発化してきた。
出典)株式会社OPTMASS
窓ガラス発電で使用されている「透明太陽電池」は、人間の目では見えない赤外線を吸収し、可視光だけを通すことができるため、透明性を保つことができる点において、ビルの窓ガラスに適しており、実用化が期待されていた。
現在、ENEOSホールディングス株式会社が、すでに透明な太陽光発電窓パネル「UE Power」の発電性能を評価する実証実験を、JR東日本旅客鉄道株式会社の山手線高輪ゲートウェイ駅構内で実施している。
期待が高まる透明太陽電池だが、そのエネルギー変換効率はまだそれほど高くない。
こうした中、透明太陽電池の実用化を待たずして、ビルの壁面に太陽光電池を取り付けることが可能になるのでは、と思える技術が開発された。
曲がる太陽電池
それが、「ペロブスカイト太陽電池」だ。ペロブスカイト(英:perovskite)とは灰チタン石(かいチタンせき)のこと。その結晶構造を持つものを総称して「ペロブスカイト」と呼ぶ。
従来の「シリコン製太陽電池」は、いわゆるメガソーラーや、住宅の屋根、ビルの屋上などに使われているが、見るからに重量級だ。
しかし、ペロブスカイト太陽電池は、フィルム状でフレキシブル、まるで下敷きのようなのだ。まさに「曲がる太陽電池」。
この画期的なペロブスカイト太陽電池、実は日本発の技術である。2009年に最初に提案したのが桐蔭横浜大学の宮坂力(みやさか・つとむ)教授だ。当初低かったエネルギー変換効率も、シリコン製太陽電池に迫る21.6%を達成している。各国が開発にしのぎを削っている最先端技術だ。
出典)桐蔭横浜大学宮坂力研究室
半導体に光のエネルギーが当たると、電子(-)と正孔(ホール)(+)が発生し、それらが移動することで電気が生まれる。半導体にシリコンを使ったものが従来のシリコン製太陽電池で、鉛のペロブスカイトを使ったものがペロブスカイト太陽電池だ。
ペロブスカイト太陽電池の特徴
このペロブスカイト太陽電池、いくつかの特徴がある。
まず第1に、低コストなことだ。材料を塗布、または印刷で作ることができるので、大量生産が可能になり、製造コストが大幅に下がる。また、材料に高価な貴金属を使わないこともコストを低く抑える要因となっている。特にペロブスカイト太陽電池は、材料に鉛とヨウ素の化合物を使用しているが、日本はチリに次いで世界第2位のヨウ素の生産量を誇っている。原材料を特定の国に依存しなくてもよいというメリットは大きい。
出典)K&Oヨウ素株式会社(上記割合は同社調べ)
第2に、軽量であることだ。シリコン製太陽電池は、シリコンウエハをガラスに貼り付け、ポリマーシートで挟む構造となっており、1㎡あたり重量が10kg以上もある。それに比べ、ペロブスカイト太陽電池は薄い膜状の形態なのでもともと軽い。シリコン製太陽電池のおよそ10分の1程度にまで軽量化できる。
第3に、曲がる太陽電池との呼び名の通り、フレキシブルなことだ。折り曲げることができるので、あらゆる形状の構造物に設置可能となる。第2の特徴「軽量」であることと相まって、設置場所を選ばない。耐荷重の低い樹脂製の屋根のような場所にも取り付けることができる。建築物の壁も設置可能となるのは大きい。これまで屋根のみだったのが壁面も使えると設置場所を飛躍的に増やせる可能性があり、発電量が一気に増えることになる。
太陽パネルの国産化に向けて
国もペロブスカイト太陽電池の可能性に注目、「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」(第3回2023年4月4日)にて、「再生可能エネルギーの導入拡大に向けた関係府省庁連携アクションプラン(概要案)」を公表した。
その中で、ペロブスカイト太陽電池について、「量産技術の確立、需要の創出、生産体制整備を三位一体で進め、2030年を待たずに早期の社会実装を目指す」とし、その用途として「公共施設・ビルの壁面、工場・倉庫・学校施設等の屋根、空港・鉄道の未利用地などへの導入を推進」すると明記した。
政府がこうして積極的に旗を振る背景には、官民上げて大規模投資した中国勢にシリコン系太陽電池のシェアを奪われた苦い経験がある。同じ轍(てつ)は踏みたくないとの思いがある。
今後の課題
ペロブスカイト太陽電池の普及にあたって、解決しなければならない課題も残されている。
1つ目は、大型化である。
安定して高い効率で発電するためには、太陽電池の面にペロブスカイト結晶を均一に配列させることが鍵となる。しかし、面積が大きくなればなるほど結晶のばらつきが生じ、変換効率が低下する。そのため、均一な結晶の形成技術の開発や、工程の最適化が必要だ。
2つ目は耐久性の問題だ。
ペロブスカイト太陽電池の主要材料のヨウ素は安定性が低く、劣化が早い。このため、耐久性の高い材料への代替や保護層の開発が必要だ。
3つ目が、材料に含まれる鉛による環境への影響だ。
潜在的な漏れを物理的に防止するより、鉛に代わる材料に転換することが求められている。
今後の展開
日本企業は開発スピードを上げている。
積水化学工業株式会社は、ペロブスカイト太陽電池の建物外壁への設置による国内初の実証実験へ向け、取り組みを開始している(株式会社NTTデータのNTT品川TWINSデータ棟の外壁に設置予定)。積水化学は、発電効率15%のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の製造に成功しており、2025年の実用化を目指す。
出典)積水化学
また、東芝エネルギーシステムズ株式会社は今年2月、桐蔭学園、東急、東急電鉄、横浜市の4者が東急田園都市線・青葉台駅正面口改札前自由通路にて実施するペロブスカイト太陽電池の先行実証実験向けに、大面積のフィルム型同電池を提供すると発表した。屋内の光の下で発電実証実験をおこない、今後、既存建物、駅、車両、高架橋への導入など活用方法を検討するとしている。
一方、海外でも官民一体となった開発が加速している。
経済産業省によると、イギリス・オックスフォード大学発のスタートアップ「オックスフォードPV」は、複数の太陽電池を組み合わせたタンデム型太陽電池技術の開発に力を入れている。また、ポーランドのスタートアップ「サウレ・テクノロジーズ」は、電子商品タグにペロブスカイト太陽電池を組み込んだものを発表するなど、積極的な商品化をおこなっている。
また中国では、2015年頃からスタートアップ企業が複数設立されている。多数の企業や大学が研究開発をおこなっており、一部の大学や企業がエネルギー変換効率20%以上を達成したと報じられている。日本としてもうかうかしていられない状況だ。
2050年に世界の市場規模は約5兆円と推定されている新型太陽電池市場。日本が勝ち残るためにやるべき課題は多い。
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