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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.40 ドイツ、原子力発電所全3基の運転延長を承認

写真)イーザル 2 原子力発電所 2022年8月14日 ドイツ・エッセンバッハ

写真)イーザル 2 原子力発電所 2022年8月14日 ドイツ・エッセンバッハ
出典)Photo by Alexandra Beier/Getty Images

まとめ
  • ドイツ政府は昨年末に運転停止予定だった原子力発電所3基を4月半ばまで運転延長すると決定。
  • EUはロシア産化石燃料依存からの早期脱却計画「リパワーEU」を進めている。
  • 日本もエネルギー価格高騰にどう対処するか、原子力発電の利用を含め議論を深める必要あり。

ウクライナ危機 独で「脱原発」見直し論浮上」という記事を掲載したのが去年の3月。ロシアのウクライナ侵攻を受け、ドイツはロシア産天然ガスの供給をストップさせた。さらに、「脱原発」の政策の見直し論が一時浮上したことをこの記事で報告した。

その後議論が進み、ドイツ連邦参議院(上院)は去年11月25日、原子力発電所3基について、2023年4月15日まで運転延長を認める原子力法改正案を賛成多数で可決した。実にウクライナ侵攻から9カ月が経っていた。

環境立国」として知られている同国にとって、原子力発電所の運転延長は大きな方針転換だ。

図右下 Isar(イーザル)原子力発電所
その北西 Neckarwestheim(ネッカーベストハイム)原子力発電所
北西の国境近く Emsland(エムスランド)原子力発電所
図右下	Isar(イーザル)原子力発電所 その北西	Neckarwestheim(ネッカーベストハイム)原子力発電所 北西の国境近く	Emsland(エムスランド)原子力発電

出典)World Nuclear Association

まずはドイツのエネルギー政策の基盤となる気候変動対策を見てみよう。

ドイツのエネルギー政策と脱原発

ドイツは、2045年までに温室効果ガス(GHG)の排出量を実質ゼロにする、いわゆる「気候中立(Climate Neutral)」の達成を目指している。産業別にGHG排出量の削減目標を設定し、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を進めている。

もともとはEUレベルの目標である2050年までの気候中立を目指していたが、気候中立目標の達成を5年前倒しして、2045年とした経緯がある。

こうした目標の下、「脱原子力発電」も進んだ。2011年の東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を受け、メルケル前政権は、2011年に8基、2015年に1基、2017年に1基、2019年に1基、2021年に3基、2022年に3基と、段階的な原子力発電所の停止を決めた。

今回の原子力発電所運転延長は、こうした環境政策を取るなかで決定された苦渋の選択だった。

運転延長に至った理由

ドイツの政策変更の背景にロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー環境の激変があったことは明らかだが、ドイツ特有の理由もあった。

そもそも、ドイツの天然ガスはロシアからのパイプライン経由が主流であり、ロシアへの輸入依存度は約55%にも達していたのだ

にもかかわらずドイツは、ロシアに対する制裁措置として、EUの制裁決定を待たずして、天然ガスパイプライン事業「ノルドストリーム2」の承認手続き停止を決定した。報復としてロシアはもう一本のパイプライン「ノルドストリーム1」も去年11月にストップさせている。ドイツの天然ガス供給は危機的状況に陥った。

ドイツは、この冬の国内電力の安定供給に加え、原子力発電所が停止して電力不足に陥ったフランスなど他の国への電力供給のため、原子力発電所の運転延長を決断せざるを得なかった。

しかし、今年4月16日以降の運転延長や、2023~24年冬季の再稼働の予定はないという。追加燃料も調達せず、保有する燃料のみを利用するとしている。

ドイツ国内の反応

従来の方針と大きく異なる決定に対し、各政党や国民の間では賛否両論が巻き起こった。原子力発電所運転延長の決定にあたり、現政権を担う社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)のうち、脱原子力発電を掲げる緑の党と、原子力発電所の運転延長を求めるFDPの間で対立が先鋭化した

そこでショルツ首相は自身の権限を行使し、政党間の対立を抑えて閣議決定に持ち込んだ経緯がある。

一方、政党間で意見が割れたのに対し、国民の間では賛成の声が多かった。去年8月におこなわれたものだが、世論調査会社ARD-DeutschlandTrendによると、回答者の41%が原子力発電所の運転延長に賛成した。また、別の調査会社 Civeyでは、回答者の 78% が運転延長に賛成だったという。(出典:World Nuclear News

ドイツではインフレも進行していることから、政府は去年11月、ガスや電気の上限価格設定を閣議決定し、今年1月分料金から実質的に適用することを決めた。

また、予備電源として石炭火力発電所も再稼働できることも決めた。もはやなりふりかまわぬ政策転換といえる。それが今のドイツの実態だ。

EU諸国のエネルギー事情

短期的にはエネルギー政策の見直しや混乱は見られるものの、中長期的にEUの大命題は、なんといっても、ロシア産化石燃料依存からの脱却だ。

そうした中、欧州委員会は去年5月、「リパワーEU:REpower EU Plan」を発表した。2030年の温室効果ガス削減目標(1990年比少なくとも55%削減)を達成するためのこれまでの政策「Fit for 55」に加え、省エネの推進、エネルギー供給の多角化、再生可能エネルギーへの移行を加速させる。

1点目の省エネの推進では、エネルギー効率の改善策を模索する時間的余裕がないとして、自発的な省エネの実施の必要性を強調している。例えば自家用車より公共交通機関を優先して使うことなどが挙げられ、国民に対する周知徹底が不可欠だとした。

次にエネルギー供給の多角化では、ロシア以外の国からの天然ガス供給の増大を掲げており、米国とは2030年までの液化天然ガス(LNG)の大幅な追加供給で合意している。

最後に再生可能エネルギーへの移行の加速のために、EUはエネルギー消費ベースに占める再生可能エネルギー比率を「少なくとも40%」から「少なくとも45%」に引き上げた。その目標達成のために太陽光発電とグリーン水素に特に注目している

ロシアへのエネルギー依存からの脱却を急ぐことが至上命題の欧州各国ではあるが、各国の国内事情はさまざまであり、再生可能エネルギーへの移行を一枚岩となって加速させることは容易ではなさそうだ。

日本への影響

こうした欧州のエネルギーを巡る議論を見ていると、日本との温度差を感じる。電気・ガスの料金が高騰している状況は同じだが、政府の対応は大きく異なる。

欧州はLNGを求めてアジア市場へも手を伸ばしている。LNG価格が今後更に高くなる可能性もある。LNG輸入大国の日本としては、円安もあり、エネルギー価格を押し上げる要因となる。

ドイツの原子力発電所の運転延長議論は、今後再延長の可能性も含め、続く可能性がある。ベルギー、フィンランド、スロバキアなどはドイツ同様、既存原子力発電所の運転延長に動いている。また、フランス、イギリスは原子力発電所を新設する計画だ。

翻って日本のエネルギー政策はどうだろう?電気・ガス料金価格の高騰対策など、目の前のものにとどまっているのではないか。

政府の総合経済対策は、電気料金の家庭負担約2割軽減を目指している。標準的な世帯で月2,800円安くなる計算で、家庭の電気料金は使用量1キロワット時当たり7円、企業向けは3.5円引き下げるとしている。

短期的にそうした政策は必要だろうが、資源小国の日本は、既存原子力発電所の活用や安定的な資源調達に加え、水素やアンモニア等の技術を磨き、中長期的な視点で多様化を図ることも重要だ。

1月の特集、「『カーボンニュートラルはまだ山のふもと』経済産業省資源エネルギー庁小澤典明次長インタビュー」<前編>」で、資源エネルギー庁の小澤典明次長は2030年のエネルギーミックスにおける原子力発電の割合20~22%について、「十分に到達できるのではないか」と話していたが、それは7年後の話であって、今現在の話ではない。

円安による輸入インフレや穀物価格の高騰で、12月の消費者物価指数(CPI)の上昇率は生鮮食品を除く総合で前年同月比4.0%と、41年ぶりに4%台となった。食料の伸び率は7.4%で46年ぶりの水準に達している。これにエネルギー価格の高騰が追い打ちをかける。2022年の貿易収支は19.9兆円の赤字だ。エネルギー安全保障の観点から抜本的な議論が必要なのではないだろうか。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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