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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.48 世界の新設原子力発電所 中露が6割

写真)ロシア製のインドのクダンクラム原子力発電所 2023年 インド タミル・ナドゥ州クダンクラム

写真)ロシア製のインドのクダンクラム原子力発電所
2023年 インド タミル・ナドゥ州クダンクラム
出典)Photo by Pallava Bagla/Corbis via Getty Images

まとめ
  • 世界では原子力発電所の建設ラッシュが起きている。
  • 中国とロシアは自国での原子力発電所建設に加え、他国への輸出にも積極的。
  • 日本は原子力に対する信頼を取り戻し、技術力を風化させることなく磨きをかけ、より安全で安心なものにしていかなければならない。

世界では原子力発電所の建設ラッシュである。

各国、カーボンニュートラルを目指し、再生可能エネルギーの導入を増やしているが、24時間発電できてCO₂を排出しない原子力発電は、火力発電に頼っている多くの国にとって有力な選択肢なのだ。

しかし、世界で原子力発電所を建設できるメーカーは限られている。フランスのEDF・フラマトム(旧アレバ、三菱重工出資)、中国の上海電気、アメリカのウェスティングハウス(かつて東芝と提携、現在はカナダの投資会社が保有)、三菱重工GE日立、ロシアのロスアトム、韓国の韓国水力・原子力会社(KHNP)などだ。

つまり、新興国が原子力発電所を建設しようと思ったら、これらのメーカーに発注するしかない。原子力発電所の建設費は膨大だ。1兆円を超すことも多い。また、建設後も保守点検を建設したメーカーが請け負うのが通常だ。原子力発電所を建設する技術を持つメーカーがある国にとっては、長期的に外貨収入が見込める。いきおい、国レベルで原子力発電所の輸出に力が入ることになる。

日本政府は2000年代半ばから成長戦略の1つとして、原子力発電所の輸出を掲げてはいるが成果は上がっていない。

そうしたなか、中国とロシア2か国が原子力発電所の輸出に力を入れている。

各国の原子力発電計画

まず、世界の原子力発電の現状を見てみよう。稼働している原子力発電所の発電容量(kW)が大きい順に国を並べてみた。(原子力発電容量は2021年実績値)

アメリカが92基、9,842万kWでトップ。2位はフランス56基、6,404万kW、3位中国53基、5,559.6万kW、4位ロシア34基、2,951万kW、5位韓国25基、2,481.6万kWと続く。

日本は再稼働が遅れており、稼働中10基、発電容量で8位にとどまっている。

表)国別原子力発電容量
表)国別原子力発電容量

出典)日本原子力産業協会の資料よりエネフロ編集部作成
*1)(  )内記載のデータ、3,308.3万kWは、2023 年 5 月 1 日現在の再稼働炉(新規制基準に合格して運転再開した原子炉) と安全審査申請炉/未申請炉の合計。

際立つ中国、ロシアの存在感

次に、各国の原子力発電所で建設中、計画中のもので、中国、ロシアがかかわっているものを確認した。いわゆる「原子力発電所の輸出」といわれるものだ。

39か国で建設中の原子力発電所は72基、計画中は86基で、合計158基ある。

ロシア国内の建設中・計画中は23基であるが、海外における建設中・計画中のもの23基を足すと46基になり、全体の約30%を占める。

中国も同様に数えると、47基+3基=50基となり、こちらも全体の約30%だ。両国を合計すると96基になり、全体の約60%を占めることが分かった。いかに中国とロシアが原子力発電に力をいれているかわかる。

写真)中国の天湾原子力発電所 2021年5月18日 中国江蘇省連雲港
写真)中国の天湾原子力発電所 2021年5月18日 中国江蘇省連雲港

出典)Photo by TPG/Getty Images

もう少しくわしく見てみる。

まずロシアだが、自国の建設中・計画中23基と同数の23基が他の国のものである。つまり、ロシアは他国への原子力発電所の輸出を積極的におこなっていることになる。

ウクライナ侵攻により西側諸国がロシアの天然ガスや石油などエネルギー分野に制裁を加えているはずなのになぜ、と疑問に思うかもしれないが、実は原子力分野に制裁はかかっていない。理由のひとつは歴史的にロシアに依存している国が多く存在していることがあげられるだろう。また、核燃料製造の初期工程であるウラン濃縮において、ロシアが世界シェアの50%近くを占めていることも無関係ではないだろう。

ロシアが原子力発電所の建設に関与している国を見てみると、もともと外交上のつながりが深いところが多い。例えばインド。クダンクラム5、6号機はロシア製である。

トルコのアックユ1〜4号機、バングラデシュのルプール1、2号機、エジプトのエルバダ1〜4号機、イランのブシェール1、2号機もロシア製だ。

写真)パキスタン ループール原子力発電所 ダッカの西140キロのパドマ川のほとり、パブナ地区のイシュワルディ郡ループール
写真)パキスタン ループール原子力発電所 ダッカの西140キロのパドマ川のほとり、パブナ地区のイシュワルディ郡ループール

出典)MD Ariful Islam/GettyImages

また、東ヨーロッパ諸国のロシア依存も明らかだ。ハンガリーのパクシュ5、6号機、スロバキアのモホウツェ3、4号機、ベラルーシのベラルシアン原子力発電所2号機、ウズベキスタンの2基(立地調査中)、カザフスタンのアルマトイ州の1基などがロシア製である。

こうしてみると、これらの国は旧ソ連時代からのつながりから、今でも原子力発電事業でロシアの影響を強く受けていることがわかる。

一方中国はというと、パキスタンのチャシュマ5号機、メキシコのアトーチャ3号機と計画中1基、合計3基とロシアに比べ少ないが、最近、アフリカや中南米に経済外交を展開していることから、今後、それらの国に原子力事業で関与を強めていくだろう。

また、韓国も原子力発電所の輸出に力を入れ始めた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領がトップセールスに力を入れている。今年初めに中東や欧州に行き、原子力発電所や兵器の売り込みをおこなった。アラブ首長国連邦のバラカ3、4号機は韓国製である。今後、エネルギー安全保障上、中国、ロシアの影響を受けたくないと考える国にとって、韓国の原子力発電所は魅力的なオプションとなるだろう。

写真)アラブ首長国連邦 バラカ原子力発電所
写真)アラブ首長国連邦 バラカ原子力発電所

出典)@ENEC_UAE

こうしてみてくると、世界の原子力産業が外交の手段として利用されていることがよくわかる。中国とロシアの影響力が一方的に強まることは、日本を含む西側諸国にとって必ずしも好ましいことではない。こうしたなか、日本は原子力に対する信頼を取り戻し、その技術力を風化させることなく、むしろ磨きをかけ、より安全で安心なものにしていかなければならないのではないだろうか。

グローバルなエネルギー安全保障の枠組みで、原子力についても考えてみたい。

参考リンク
インド
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/1261152_4115.html https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/8924.html
https://www.pib.gov.in/PressReleseDetail.aspx?PRID=1913892
ルーマニア
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/10774.html
ベラルーシ
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/17030.html
イラン
https://www.fepc.or.jp/smp/library/kaigai/kaigai_topics/1259817_4815.html
ポーランド
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/11/8101853a31334d63.html
https://www.gov.pl/web/polski-atom/program-polskiej-energetyki-jadrowej-2020-r
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/15495.html
カザフスタン
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/7693e58ce95b0687.html
エジプト
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/11368.html https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/13800.html
スロバキア
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaesjb/64/7/64_393/_pdf/-char/ja
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/15142.html
ハンガリー
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/13324.html
ウクライナ
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/1260860_4115.html
アラブ首長国連邦
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/1260746_4115.html
アメリカ
https://www.yomiuri.co.jp/science/20230604-OYT1T50135/
トルコ
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/17651.html
バングラデシュ
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-russia-bangladesh-idJPKBN2WE0HF
https://atomica.jaea.go.jp/data/fig/fig_pict_14-02-10-01-06.html
ブルガリア
https://www.fepc.or.jp/smp/library/kaigai/kaigai_topics/1261050_4815.html
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/16217.html
ウズベキスタン
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/05/8e320cfb70a5d80e.html https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/1259330_4115.html
アルゼンチン
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/02/720e7972770b4462.html
パキスタン
https://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_topics/1261223_4115.html
ブラジル
https://www.jaif.or.jp/journal/oversea/6872.html
フィンランド
https://www.fepc.or.jp/smp/library/kaigai/kaigai_topics/1257919_4815.html
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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