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Vol.36 「エネルギーは『多様性とバランス』が重要」経済産業省資源エネルギー庁小澤典明次長インタビュー <後編>

写真)経済産業省資源エネルギー庁小澤典明次長

写真)経済産業省資源エネルギー庁小澤典明次長
© エネフロ編集部

まとめ
  • 経済産業省資源エネルギー庁の小澤典明次長に話を聞いた。
  • 2050年カーボンニュートラル、日本は山登りに例えればまだ「ふもとにいる」状況。
  • 2030年エネルギーミックスの目標は高いが、到達できないものではない。

GX経済移行債

安倍エネルギー関係の投資が今後増えていくと思いますが、GDPの押し上げ要因にもなりますね。

小澤そうですね。そういったことに先鞭をつけるという意味で、GX経済移行債で国の方からこの10年で20兆円規模の資金を振り出し、それを呼び水にして民間に協力してもらい、150兆円規模の投資をすることになるとGDPに相当の効果が出ます。GXで経済社会構造を大胆に変えていくということに繋がりますし、暮らしも地域も変わることになります。

安倍一旦縮小してきた原子力関係の技術者の方々も増えていくことになりそうですね。

小澤原子力発電所の再稼働をしっかり進め、新しい次世代革新炉も開発していくということになれば、一定の規模で人材も増えてきて、原子力を支える人、支える資金が、確実に増えていくことが期待できるのではないか、と思います。

原子力の新技術

安倍今、核融合という新技術が注目されてきています。アメリカでは最近、新興企業がトカマク式とは別な形で開発しているようですね。

小澤レーザー核融合ですね。これまでの原子力発電は、核分裂を利用していますが、それと全く方式が違うという意味で、核融合というのは大いに期待できると思います。ただ、核融合は莫大なエネルギーが出るので、管理が非常に難しいですが、非常に高いレベルで制御できるようになってきましたので、可能性がさらに高まっていることは間違いないと思います。

安倍日本もいろいろな方式を研究しておかねばなりませんね。

小澤もちろんさまざまな方式を追求した方がいいと思います。技術者の方々が、新しい方式を含め実用に向けてチャレンジするのは、いいことだと思いますので、そういった動きが止まらないように、日本でも今、内閣府で核融合の戦略会議を設けて戦略を取りまとめようとしています。

カーボンニュートラルの目指す姿

安倍カーボンニュートラルの行きつく先にはどのような景色が待っているのでしょうか?

小澤温暖化防止という大きな目標の中で、GXとDXは繋がっていると思います。いろんな技術開発などの取り組みを考える時に、DXの技術で人同士のコミュニケーションのレベルも変わりました。GXとDXは一体となって、社会を変えていくのだと思います。

安倍エネルギーを中心として大きく社会が変わっていくイメージですね。

小澤家庭にとって電気が確実に来ることは大事ですが、電気がどういった状態で来るのか、その元は一体何で作られているのかが大事になってきます。電気が脱炭素の形になっていることを十分に国民の皆さんに理解してもらいながら、進めていくことが大事だと思います。それがまさにGXです。

一方で皆さんの働き方が、DXで相当変わってきている部分もありますけれども、その仕組みを支えている情報技術は、GXを進める中でも重要です。それこそスマートメーターをうまく使って、需要と供給のバランスがうまく取れるようにするとかは、GXとDXが融合しているということです。

そういう中で社会が大きく変わっていく。投資も変わっていく。それに伴って生活も変わり、より豊かになり、より安定的なエネルギーが供給されていく。そして、カーボンニュートラルの達成へと繋がっていく、というのが目指す姿かなと思っています。

資源エネルギー庁のDNA

安倍今までの話を伺っていると、資源エネルギー庁の役割がますます重要になってきますね。

小澤資源エネルギー庁(エネ庁)はオイルショックが起きた1973年にできました。今年が2023年で、ちょうど50年目なのです。その間もずっとエネ庁のいわばDNA、一貫した考えは、どうやってエネルギーを安定的に供給していくかということでした。

まずはとにかく石油をしっかり確保しようとした上で、当時は代替エネルギーと言いましたが、太陽光の研究開発や、原子力発電の推進に徐々に取り組みながら、化石燃料の海外依存度を減らしていくのを、一所懸命ずっとやってきた50年でした。

そこに東日本大震災が起き、続いてカーボンニュートラルが大きな課題となったわけです。再生可能エネルギー、原子力、それから化石燃料を使う場合にはCCS()、これらをうまく組み合わせて、水素、アンモニアなどを使う技術も開発していく。これらのエネルギーの開発をこれからも継続していく、ちょうど節目の年なんですね。

写真)経済産業省資源エネルギー庁小澤典明次長
写真)経済産業省資源エネルギー庁小澤典明次長

© エネフロ編集部

安倍これまでの50年もそうでしたが、さらにチャレンジングな目標が目の前にあるわけですね。

小澤カーボンニュートラルをどう形にしていくか、この新しい課題にしっかり対応することが、これからの継続する使命だと思っています。

私達がエネルギー源について追及しているのは、「多様性とバランス」なんですね。

アメリカのように、エネルギーの自給率が100パーセントなら、安定供給に対する対策は自国で賄えるわけですが、日本はエネルギー資源に乏しいので、エネルギーを多様化して、様々な選択肢で対応できるようにしないといけない。つまり、「多様性」を持つことが重要です。

もう一つは、「バランス」ですね。ある1つのエネルギーに偏りすぎるのではなくて、多様性とバランスをどう組み合わせるかが重要です。エネルギーミックスというのは、まさにそういう観点からできているわけです。

今後、自給率が上がっていくとしても、あるエネルギーだけに頼っていたらそれが何かの事情で難しくなった時に困る、補完的に代替できるものを用意しないといけないと思いますので、そこは怠りなく引き続きやっていくことが大事かと思います。

(前編はこちら)

  1. (注) CCS…「Carbon dioxide Capture and Storage」の略。発電所や化学工場などから排出されたガスからCO₂を分離して回収し、地中深くに圧入・貯留する技術。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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