画像)byBiehl:Ocean Flow Collection
筆者撮影)
- まとめ
-
- エシカルでサステナブルなデンマークのジュエリーブランドbyBiehlが注目を集めている。
- 100%リサイクル素材を実現し、自然環境再生にも貢献している。
- 持続的な生産を可能にするため、金細工職人の労働環境の整備などに取り組んでいる。
筆者撮影)
2019年にサービスを開始した「byBiehl(バイ・ビー)」は、近年、北欧の若者を中心に注目を集めている新進気鋭のジュエリーブランドである。
なぜ、若者に注目されるようになっているのか、その理由は、シンプルに「エシカル」で「サステナブル」だからだ。「エシカル」とは「倫理的な」という意味だが、「人や地球環境、社会に配慮した(消費やサービス)」を指す。「サステナブル」は「持続可能な」という意味で、こちらも「人の活動が地球環境や資源に悪影響をおよぼさず、その状態が続く」ことを意味している。
エシカルやサステナブルという言葉は、イメージが先行しやすい言葉であるが、byBiehlのどのあたりがエシカルで、サステナブルなのか。そして、どのような点が注目されているのか。本稿では、そんな「サステナブルな新進気鋭のコペンハーゲン発ジュエリーブランド」byBiehlを紹介したい。
ジュエリー産業が抱える問題
ジュエリー産業のあり方に関して、今まで多くの課題が指摘されてきた。例えば、宝石の発掘に関わる環境破壊、宝石取引の収益が内戦の資金源として使われているなど南北問題にも関係する課題、さらに、発掘に関わる児童労働などの社会問題もある。また、関係者の労働環境という面でもたびたび課題が指摘されている。例えば、ジュエリーデザイナーをはじめとした、ジュエリー産業で働く人の劣悪な労働環境が指摘される。
このようなジュエリー産業における社会課題は、認識されつつも今まで消えることがなかった。しかしながら、そのような表に出てこなかったジュエリー界の悪弊を正面切って変えていこうという動きが少しずつであるが見られてきているようなのだ。
起業家であり、CEO兼デザイナーのシャルロッテ・ビー(Charlotte Biehl)は、エネルギー削減、環境保護の観点をデンマーク・ジュエリー界に持ち込んだ立役者だ。そして、そのシャルロッテ・ビーのジュエリーブランドbyBiehlは、彼女の強い信念のもと、ローンチから数年、欧州のジュエリー業界に新しい世界観を打ち出している。
出典)byBiehl
byBiehlの目指すアプローチ
byBiehlの注目すべきアプローチは次の3つである。
①100%リサイクル素材を実現
②自然環境再生への貢献
③ ”時を超越した美しさ”を目指したサステナブル・デザイン
では、その詳細についてみていくことにしよう。
①100%リサイクル素材を実現
我々が身に着けるアクセサリーには、さまざまな種類のものがある。中でも、金・銀を材料とするアクセサリーは洋の東西を問わず、人類の長い歴史において広く普及してきた。
しかし、その材料を獲得するためにおこなわれる金・銀鉱山での発掘作業は、ヒ素やシアン化物などの有毒な化学物質を放出する汚染産業であること、その上、一つの指輪の製造に20トンもの鉱山の爆破が必要な自然破壊をともなうとみなされていること、また、鉱山労働者の劣悪な労働条件も合間って、環境汚染産業とみなされる傾向にある。
そのような現状を考えてみると、環境に配慮してリサイクル素材を使うメリットは大きい。しかしながら、実際にアクセサリーをリサイクルすることは、それほど簡単なことではない。すでにアクセサリーとして使用したゴールドやシルバーを100%再利用して新たな製品に生まれ変わらせるプロセスは、大変な作業である。
しかし、byBiehlはこの壁を乗り越えた。
遂に2020年のSS20コレクションで、100%リサイクル製品を発表した。さらに、byBiehlは、そこで終わらせず、包装や展示においても環境配慮にこだわった。例えば、ラッピングや箱にはFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)が認める生分解性の紙を使用している。さらに、店内のアクセサリー展示用の台の素材にはbyBiehlの本社デンマークを始めとし、店舗の立地する場所(例えば、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、オランダ、ベルギーなど)の木材を使用している。
その他、byBiehlでは、顧客に素材の再利用を目的としたゴールドやシルバーの持ち込みを奨励し、引き換えにクーポン(金券)を配布するなどのインセンティブを提供している。これは顧客の環境保護への貢献意識を高めるのに、役立っている。
②自然環境再生への貢献
byBiehlは、サステナブルなジュエリー産業の展開という企業理念に基づき自社製品を通して、顧客とともに継続した環境保護活動に貢献することを目指している。だからこそ、byBiehlが提供するジュエリーは、どれも物語性のあるサーキュラー・エコノミー・コレクションになっている。
では、2つの特徴的なコレクションを紹介しよう。1つは、Jungle Ivy Collection(ジャングル・アイビー・コレクション)である。
ジャングル・アイビー・コレクションとは、マングローブの木のような熱帯雨林のつる植物をコンセプトにデザインされたジュエリーコレクションである。このコレクションの製品は、リサイクル100%のスターリング・シルバー(sterling sliver:銀の含有率(純度)92.5%の割合で鋳造された銀合金)と 14K ゴールド(金の含有率58.3%の純度の金)加工されたスターリング・シルバーの2種類で提供されている。
このコレクションの特徴は、顧客が製品を一つ買うごとに、マダガスカルやインドネシアなど、森林破壊や土壌浸食が懸念されている土地にマングローブの木が一本植えられるというコンセプトに基づいた商品であるという点だ。つまり、ジャングル・アイビー・コレクションから、1つジュエリーが売れるたびに、世界でマングローブの木が1本増えるのだ。
マングローブの木は、他の熱帯植物と比較すると多くのCO₂を吸うといわれる。byBiehlは、2019年よりマダガスカルやインドネシアなどに植林を始め、今や60,000本の植林を達成しているそうだ。
筆者撮影)
2つ目の例は、Ocean Flow Collection(オーシャン・フロー・コレクション)である。
出典)byBiehl
オーシャン・フロー・コレクションは、海水の流れにひらめきを得たデザインであり、また海洋保護を目指したジュエリーコレクションである。byBiehlの他のコレクションと同様、リサイクル100%の14kゴールド加工されたスターリング・シルバー製品で、1つが売れる毎に、海のプラスチックゴミを1キログラム減らすというコンセプトのコレクションである。
このコレクションのプログラムは、自然界に放出されたプラスチックを回収・再利用する、Plastics For Changeという団体と提携して運営している。
2つの例からもわかるように、環境配慮のコレクションは、byBiehlのみでおこなっているのではなく、他の団体との提携が鍵となっている。1社ではできない事業を多くのサポーターを得ることで実現させている。
③ ”時を超越した美しさ”を目指したサステナブル・デザイン
シャルロッテ・ビーは、一生涯飽きることなく使えるジュエリーの提供が重要であると考えている。その考えのもとデザインされたbyBiehlのジュエリーは、顧客が購入してから一生使えることを担保しなければならない。そのためには、耐久性の高い、長期間変化なく使える素材であることが重要である。byBiehlは、それを実現するためのコーティングやメッキなどに取り組んでいる。
たとえば、シルバーにはロジウムコーティングが施されている。コーティングをすることで、硫化・塩化による変色(黒ズミ)を防ぐ仕上がりになる。またゴールドには何層にも重ねた強力なリサイクル素材の金メッキを施しており、耐久性を高めている。
持続的な生産を可能にする金細工職人の労働環境の整備
そして、注目すべきアプローチとしてあげた3点の他に、もう一つ重要な取り組みがある。それは、労働環境の整備だ。前述のように、今までジュエリー業界は、必ずしも良い労働環境を提供していると見られてこなかった。その認識や状況を変えようという試みである。
まず取り組んでいるのは、金細工職人の労働環境の向上である。パートナーとなる金細工職人は、宝飾業界の規範と規格を定める国際的な組織であるRJC:Responsible Jewellery Council(責任あるジュエリー協議会) のメンバーから選ばれている。
また、職人の”人権”、”良好な労働条件”、”社会的責任”が守られているか、常にチェックを怠らないという。
最後に
byBiehlの3つのグリーンへの挑戦とエシカルな職場環境の整備は、社会的に重要であるにも関わらず、ジュエリー界では見逃され続けてきた観点である。
職人とともに事業を進め、SNSを駆使し、クライアントとの交流を重視するbyBiehl のアプローチは作り手や利用者を大切にし、しかもファッショナブルを追求することを否定しない、とても北欧らしい試みだ。
北欧での「グリーン」そして「エシカル」は、幅広い。近年、世界的にも盛り上がりを見せている購入時の包装紙の非使用、洋服や靴などのリサイクル、そしてそれらのリメイクやリユースにとどまらず、環境とエネルギー消費に対する配慮が産業界の隅々まで浸透しつつある。
そして今回紹介したbyBiehlは、近年増加傾向にある北欧的環境配慮型サステナブル・ファッションのスタートアップの一角を確実に担っている。
多くの日本企業も長年CSRを重視した事業活動をしてきている。しかしながら、どちらかと言えばアフリカ・アジアの貧困国へお金や物資を提供する事業が中心で、短期的かつ単独の活動に偏っているようだ。この行為自体は否定されるものではないが、残念ながら従来のこの方法では、せっかくの社会貢献であったとしても世界に向けたアピール力に欠け、社会的なインパクトも限定されてしまうだろう。
日本とデンマークでは、もちろん文化や国民性の違いもあるが、視野をグローバルに広げ、社会貢献をビジネス戦略として全面に打ち出し、成功しているデンマークの例は、日本にとっても、参考になるのではないだろうか。
Recommend Article / おすすめ記事
RANKING / ランキング
SERIES / 連載
- エネルギーと環境
- エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。