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エネルギーと環境

Vol.43 注目!エコなバンブー素材とは?

写真)嵐山の竹林 京都府京都市

写真)嵐山の竹林 京都府京都市
出典)Photo by Franciscus Tan/GettyImages

まとめ
  • プラスチックに代わる環境に優しい素材として竹に注目が集まる。
  • 竹を原料とした雑貨や衣服などが人気を呼んでいる。
  • 海洋プラスチック問題や地球温暖化問題を解消する鍵になると期待されている。

今、エコな素材として竹が注目を集めている。

古来、日本ではさまざまな用途で竹が使われていた。伝統的な日本家屋の壁や床の資材として用いられてきたほか、かごやざるなどの日用品、茶道や華道の道具、笛や尺八などの楽器に至るまで竹は活用されており、日本の生活や文化に根ざした素材であったと言える。

ところが、戦後以降のプラスチック普及により、日用品の多くがプラスチック製品に取って代わり、竹を素材とした日用品の多くは姿を消した。

写真) 伝統的な竹細工で有名な松山市の竹製品
写真) 伝統的な竹細工で有名な松山市の竹製品

出典)松山市

そんな竹がなぜ今になって注目を集めているのか。

背景には、近年世界的な問題になっている、海洋プラスチックごみの存在がある。過去記事「対策急げ!プラスチックごみ問題」(2019.4.30)でも触れているが、

私たちが使っているプラスチック製のペットボトルや包装材などが海に流れ出ることによって発生する海洋プラスチックゴミ。その大量発生により、魚類や海鳥、海で生きる海洋哺乳類などへも甚大な影響が出始めており、海洋プラごみの削減は世界的に重要なミッションの一つとなっている。

こうした事情を背景に、竹を原料とした製品は環境への負荷が大きいプラスチックの代替品として期待を集め始めている。しかし、他にもさまざまな素材がある中で、なぜ今、竹がプラスチックの代替品として注目を集めているのだろうか。

エコフレンドリーかつサステナブルな「バンブー素材」

その答えは素材としての竹の特徴にある。

しなやかで折れにくい竹は、実は生育も早く、繁殖力が非常に強いため、栽培にあたって農薬や肥料、大量の水などを必要としない。竹の生育の早さを表すデータとして、24時間の間に、マダケで121cm、モウソウチクで119cm成長したという記録もあるほどで、再生力に優れ、伐採しても植えなおす必要がないという点も竹という素材の魅力の一つだ。(参考:農林水産省「竹のおはなし」

近年では、竹のみを利用して作った竹製品だけでなく、パウダー状にした竹をコーンスターチ(トウモロコシ由来のでんぷん)やアミノ酸由来の樹脂などで固めた「バンブー素材」と呼ばれる素材を利用した製品の裾野が広がってきている。

写真)バンブーファイバー(竹の繊維)、トウモロコシ繊維、コーンスターチ、アミノ酸由来の樹脂などから作られたコーヒーカップ
写真)バンブーファイバー(竹の繊維)、トウモロコシ繊維、コーンスターチ、アミノ酸由来の樹脂などから作られたコーヒーカップ

出典)ecoffee cup (ダイヤモンド株式会社)

生産過程でのCO₂排出量が少なく、化学物質を含んでいないので燃やしてもダイオキシンが発生する心配がない。土に埋めると微生物により生分解され、土に還るのもメリットだ。こうした特徴から、竹はプラスチックに代わる環境に優しい材料として、アウトドア用の食器などに使われ、人気を呼んでいる。

バンブー素材と海洋ゴミ

では、バンブー素材は、なぜプラスチックのように海洋ごみになりにくいのか。ここで改めて、その理由を確認しておこう。

写真)エーゲ海のビーチにすてられたプラスチック製品 
2018年6月26日、ギリシャ・アテネ
写真)エーゲ海のビーチにすてられたプラスチック製品 2018年6月26日、ギリシャ・アテネ

出典)Photo by Milos Bicanski/Getty Images

そもそもプラスチック製品が海に流れると問題になるのは、プラスチック製品が海中で完全には分解されず、半永久的に海洋ごみとして海中を漂い続けるからだ。

一方、竹を原料とした素材は、たとえ海まで流れてしまったとしても、自然由来のものなので環境中で分解されてゆき、海洋ゴミにはならない。したがって、プラスチック製品を竹由来の製品に置き換えることで、分解されることなく海洋中を漂う大量のプラスチックごみを、減らすことができるのだ。

竹製品が解消できるのは海洋ごみの問題だけではない

竹製品が環境に優しいとされるのは、海洋ゴミにならないからという理由だけではない。

石油が原料となっているプラスチックは、海などに流れないよう適切に廃棄したとしても、それを焼却処分する際にどうしても大量のCO₂が発生する。そのため、プラスチック製品を竹を原料とした製品に置き換えること自体、プラスチック製品の処分に伴うCO₂の排出を抑えることにつながっていくのだ。

また近年、竹材、タケノコの国内生産量の減少などにともない、日本全国で急速に増えている「放置竹林」が問題となっている。竹は強い繁殖力ゆえに他の植物を侵食し、里山の生態系を変えてしまうほか、根が浅いために土砂崩れなどの災害を引き起こす恐れがあるという。厄介者扱いされている竹を原料として有効利用することは、竹林の再生と健全な里山の復活にも貢献するのではないだろうか。

プラスチック削減を求める法律が施行

こうした流れの中で、「使い捨てプラ容器禁止の波、日本にも(2021.10.26)」記事でも紹介した「プラスチック資源循環促進法」が今年4月1日に施行され、国としても法的なプラスチックごみの削減を義務付け始めた。この法律では、これまでプラスチック製が一般的だったホテルや旅館で利用されるアメニティ製品なども削減の対象となったため、こうした製品を竹製のものに置き換えようという動きが出始めている。

すでに竹製のアメニティ製品を販売している企業もあり、耐久性に優れ再利用にも適した竹製品は、そのおしゃれな風合いも相まって人気を集めている。

写真) すでに販売されている竹製のアメニティ製品(ホテル向け100%オーガニックの竹製アメニティシリーズ BAMBOO ONE 株式会社 アステップ)
写真) すでに販売されている竹製のアメニティ製品(ホテル向け100%オーガニックの竹製アメニティシリーズ BAMBOO ONE 株式会社 アステップ)

出典) 株式会社アステップ

こうしたアメニティ製品以外に、これまでプラスチック製が一般的だったカトラリー類も、竹製商品の開発が進んでいる。また、ペットボトルに代わるマイボトルの利用が広がる中で、竹製の水筒やタンブラーなども登場し始めた。

ただ、バンブー素材でできた製品は、熱に弱く、電子レンジや食洗機、オーブンなどには使えない、冷蔵庫に長期間入れておくと劣化するなどのデメリットもあるので注意が必要だ。

バンブー素材はファッション業界にも

こうした中、バンブー素材は、衣服の素材として注目されだした。天然繊維のうち最も生産量が多いのは「コットン」だが、それに代わる素材としてバンブー素材は注目を集めているのだ。

背景には、ファッション業界が、綿花栽培によって地球の水資源に大きな負荷を与えてきたことがある。世界資源研究所によると、綿花が栽培されているエリアの57%が、水リスクの高い地域(水資源の枯渇や、水質の悪化、洪水などが発生する地域)であるという。企業に対して原料の生産における水リスクの分析、持続可能な素材の調達が求められる現在、栽培時の水使用量が少ないバンブー素材を用いた衣服を開発するブランドが登場している。

例えば、ファッションブランド「メヤメ(MEYAME)」を手掛ける染谷裕亮クリエイティブディレクターは、バンブー繊維「タケフ(TAKEFU)」を核とした新ブランド「テイクス(takes.)」を2021年秋冬シーズンに立ち上げた。

「タケフ」は、ナファ生活研究所(東京、相田雅彦社長)が開発した竹原料100%で作られたセルロース繊維である。「タケフ」100%では型崩れなどの問題があるが、3種類のオーガニックコットンを混紡して糸を開発した。シルクのような肌触りと、消臭性や抗菌性、遠赤外線効果などの機能性を備えたTシャツが販売されている。

海外でもバンブー素材を使用したファッションブランドが増えており、今後さまざまな商品を目にする機会が増えそうだ。

バンブー素材活用の可能性と課題

しかし、こうしたバンブー素材にも克服すべき課題がある。

例えば、伐採におけるコストが高いことや、加工が難しいことなどだ。

竹の伐採は、チェーンソーなどによって竹を切り倒すところから始まり、一定の長さに切りそろえたり、枝を払って扱いやすい大きさに加工したりとさまざまな工程を踏むが、そのコストが現在は上昇しており、採算性を圧迫している。

また加工に関しても、プラスチックと比べると、自由な成形・加工ができない部分がある。

ただそれでも、地球温暖化や海洋プラスチックゴミ問題など、現在進行系の社会課題を解決する一つの方策として、日本人に親しまれてきた竹という素材は貴重な選択肢の一つとなるだろう。地球環境を守るために、私たちの身の回りの製品にこれからも気を配っていきたい。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。