写真) 川崎汽船が発表した船首に凧をつけるシステム「Seawing」
出典) 川崎汽船株式会社
- まとめ
-
- 海運は環境に優しい輸送手段であるが、温室効果ガスの更なる削減に取り組んでいる。
- 凧を船首につけて温室効果ガスの排出を抑える技術が開発された。
- 燃料のLNGへの転換や風力発電事業への参入など、海運各社の脱炭素化に向けた取り組みが加速している。
お正月の風物詩として、日本人の多くが親しんできた凧。そんな凧が大型船を牽引するという奇想天外なアイデアがどうやら現実となりそうだ。今回はそんな「凧船」の話題を紹介したい。
国際海運からのCO₂排出量は約ドイツ1か国分。
貨物やLNG(液化天然ガス)など、大型の船は世界の海をひっきりなしに航海している。そのエンジンは主に重油で動く。
国際海運で排出される温室効果ガスは2018年時点で約7億トンで、世界全体の約2%を占めている。これは実にドイツ一国が1年間に排出する温室効果ガスの量に匹敵する。
船による大量輸送を行う海運は、トラックや貨物飛行機などと比べ、輸送効率およびCO₂排出効率は優れているものの、世界経済の発展に伴い海上荷動き量が増え続けており、CO₂排出量は約7億トン(全世界の約2%)と大きく、ドイツ一国とほぼ同じ量であり、排出削減への取り組みは不可欠となっています。
出典)経済産業省資源エネルギー庁 第7回 2050年カーボンニュートラルを見据えた次世代エネルギー需給構造検討小委員会「国土交通省説明資料」p.10 2022年4月22日
国道交通省・海事局「海事分野の低・脱炭素化に向けた取り組み」p.2 2021年10月27日
日本に目を転じると、内航海運についても国際海運と同様、トンキロ当たりのエネルギー消費量は航空機、貨物車に比べて優れているものの、運輸部門に占めるCO₂総排出量の割合は内航海運5.3%、鉄道4.2%、航空2.8%となる。
出典)国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」
世界的な気候変動対策の流れを受け、国土交通省は2021年10月26日に、国土交通省と日本船主協会より、「国際海運2050年カーボンニュートラル(=GHG排出ネットゼロ)」を目指すことを発表した。もはやまったなしの状況なのだ。
(参考:国土交通省・海事局「国際海運2050年カーボンニュートラルに向けた取り組み」2022年4月19日)
「凧」を利用した省エネ船が開発
海運によるCO₂の削減が日本国内だけでなく世界で叫ばれている中、登場したのが、冒頭で触れた凧を船首に取り付けるというユニークなアイデアだ。
この取り組みを発表したのは、国内の海運大手川崎汽船株式会社。巨大なカイト(凧)を船首に装着し、風を動力に変えて省エネ航行するシステム「Seawing(シーウイング)」を、既存の大型バラ積み船(穀物、石炭、鉱石、木材などをばら積みして運搬する貨物船)に2022年12月に搭載を予定している。欧州エアバスから分社した仏エアシーズ(airseas)社と共同で開発を進めており、欧州で試験をおこなっている。
このシステムは、船首部に取り付けられた凧が、風力や風向が一定の条件を満たす時、ブリッジ(船橋)からの操作で展張(広げて張ること)され、風による推進力を利用して航行を補助するものだ。
簡単なスイッチ操作で自動で凧を展張・格納することができ、本船より収集された気象データ、海象データを用いて効果的に風をつかまえることが出来る仕組みになっている。
航路や天候によるが、川崎汽船によると、風力による船舶のけん引によって、約20%CO₂を削減する効果があり、1隻あたり年間5,200トンものCO₂削減が期待できるとされている。
船種を問わず、既存船も含め搭載可能な新技術であるため、 各船種への搭載を検討しており、2024年完成のJFEスチール向けの大型バラ積み船への搭載も決まっている。
海運業界のCO₂削減策
これまで多くの温室効果ガスを排出してきた海運業界は、各社とも脱炭素化に向けた取り組みに、近年力を入れ始めている。国内の海運大手、川崎汽船株式会社、日本郵船株式会社、株式会社商船三井の3社はいずれも、「2050年GHG(温室効果ガス)排出ネットゼロ」を掲げており、それぞれ取り組みを進めている。
川崎汽船株式会社の例をみてみよう。同社は先に紹介した「Seawing」の導入の他、いくつかの施策を打ち出している。
1つ目は、従来型の「重油燃料船をLNG燃料船に変える」ことだ。LNG(液化天然ガス)は、石炭や石油に比べてCO₂の排出量が少なく、環境負荷が少ない。2021年3月には同社初となるLNG燃料焚き自動車専用船“CENTURY HIGHWAY GREEN”が竣工している。LNG燃料を主燃料として採用することで、温室効果ガスを重油比で25〜30%削減できるという。
提供)川崎汽船株式会社
同社はLNG燃料船を30年までに40隻投入する計画で、24年には初のLNG燃料焚き大型バラ積み船が竣工する。またLNG燃料によるGHG削減に加えて、さまざまな省エネ技術の搭載にも取り組んでいる。
出典)川崎汽船株式会社プレスリリース 2022年4月19日
2つ目は「LPG燃料船の導入」である。LPGとは液化石油ガスで、2023年頃に大型LPG焚きLPG運搬船を投入する予定である。重油焚きに比べて、約20%のCO₂排出削減効果があるとされている。
3つ目は「アンモニア/水素燃料などのゼロエミッション船の導入」だ。アンモニア・水素燃料といった、いわゆるゼロエミッション燃料や、バイオLNG、合成燃料などのカーボンニュートラル燃料の導入を検討している。2020年代後半にはゼロエミッション船の実用化/導入を目指して取り組みを進めている。
以上の3つは新燃料によるCO₂削減だが、「効率運航強化」にも取り組んでいる。「K-IMS(統合船舶運航・性能管理システム)による効率運航強化」は、燃料消費量、機関出力、速力などの本船運航データをリアルタイムに把握し、更に安全かつ最小燃費の推奨航路を算出する最適運航支援システムも活用し、運航管理の高度化を追求するものだ。K-IMS搭載により、約3〜5%のCO₂排出削減効果があるとされている。
他の海運大手も脱炭素化に向け、LNGやLPGを燃料とする環境対応船の導入に積極的に取り組んでいる。
それ以外に各社に共通して見られるのは、脱炭素化の流れの中で成長が見込まれる洋上風力発電関連事業への参画の動きだ。
例えば株式会社商船三井は、2021年の春に風力事業に特化した部を立ち上げ、洋上風力発電関連の事業を将来的に社の中核事業とする構えだ。同社は、洋上風力の導入初期の海域調査から、送電ケーブル施設に至るまで、洋上風力全体のプロセスに積極的に関わっていくという。
温室効果ガスの排出量が多いことが指摘されてきた海運業界だが、こうした取り組みによって、地球環境に優しい業界へと生まれ変わろうとしている。
サプライチェーン全体のCO₂排出量削減が意識されるようになった今、今後は荷主側から脱炭素化に向けた取り組みを進めるよう求める声が上がってくるだろう。海運会社の脱炭素化に向けた対応次第で、受注が左右されかねない。各社の競争が激化しそうだ。
Recommend Article / おすすめ記事
RANKING / ランキング
SERIES / 連載
- エネルギーと環境
- エネルギーと環境は切っても切れない関係。持続可能な環境を実現するために、私達は「どのようなエネルギー」を「どのように使っていくべき」なのか、多面的に考える。