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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.35 中国EV、ついに日本乗用車市場参入 日本メーカーは?

写真)記者発表会に臨むBYDジャパン株式会社劉学亮社長(左)と執行役員東福寺厚樹氏

写真)記者発表会に臨むBYDジャパン株式会社劉学亮社長(左)と執行役員東福寺厚樹氏
© エネフロ編集部

まとめ
  • 中国の大手EVメーカーBYDが、本格的に日本乗用車市場に参入する。
  • 海外メーカーのEV国内進出が相次ぐ中、日本メーカーのEV化は遅れている。
  • 日本市場で中韓EVはすぐには受け入れられないとの見方もあるが、日本メーカーは戦略の見直しを迫られよう。

「黒船来る」

そんな見出しが各紙におどるかと思ったら、意外なほど日本のメディアは冷静だった。

中国の大手電気自動車(EV)メーカーBYDが7月21日、3モデルのEVを日本市場に投入すると発表したのだ。4月に「EVウォー 日本メーカーに襲いかかる中韓勢」の記事で紹介したが、これで既に日本のEV市場に参入している韓国の現代自動車に続き、中韓勢がそろったことになる。

相次ぐ海外EVメーカーの日本参入は国内自動車メーカーにどのようなインパクトをもたらすのか。

中国大手BYDの日本参入

21日、都内で会見を行ったBYDジャパン株式会社は、EV乗用車の日本市場投入を発表。会場には内外メディア約130人が集まり、10台近くのテレビカメラも並ぶなど、関心の高さが見て取れた。

写真)記者会見にのぞむ取材陣
写真)記者会見にのぞむ取材陣

© エネフロ編集部

今回ベールを脱いだのは、ミドルサイズSUVの「ATTO 3(アットスリー)」(2023年1月発売予定)、コンパクトカー「DOLPHIN(ドルフィン)」(2023年中旬発売予定)、それにセダン「SEAL(シール)」(2023年下期発売予定)の3車種だ。価格は11月ごろ発表される。

写真)今回発表されたBYDの3車種
写真)今回発表されたBYDの3車種

© エネフロ編集部

BYD(Build Your Dreamsの頭文字)は1995年創業。電池事業を皮切りに、EVに進出、電池、モーターなど重要部品を内製している。

特にBYDの「ブレードバッテリー」と呼ばれる電池は、他社の多くのEVが搭載する三元系リチウムイオンバッテリーと異なり、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーで、熱安定性が高く発火しにくい特徴がある。

同バッテリーは、細長く平らなブレード(刀)のような形状をしており、一般的な車載用バッテリーのモジュールをなくし、薄型形状のバッテリーセルをバッテリーパックに収めて空間利用率とエネルギー密度を高めたという。「ATTO 3(アットスリー)」の満充電での航続距離は485km(社内データ)だ。

写真)ボディーの床下に収められたブレードバッテリー
写真)ボディーの床下に収められたブレードバッテリー

© エネフロ編集部

2005年設立のBYDジャパン株式会社の劉学亮社長は、BYDのEVバスがすでに70以上の国で計約7万台走っている実績を強調した。また、日本市場でもEVバスが65台走行しており、EVバス市場でシェア7割を占めていると述べた。

何故、このタイミングで日本市場に参入したかについて劉社長は、日本の消費者の30%がEVを買う用意がある、との調査結果があるとしたうえで、現在日本ではEVに対し、「価格が高い、インフラができていない、走行距離が短い、選択肢が少ない」という声がある、と指摘した。

こうした声を受け止め、「BYDの高い安全性と航続性能を持つ、そして豊富なラインナップ、かつ手に届きやすい価格で日本の乗用車市場に参入する」と述べた。

写真)プレゼンテーションに立つBYDジャパン株式会社劉学亮社長
写真)プレゼンテーションに立つBYDジャパン株式会社劉学亮社長

© エネフロ編集部

印象的だったのは、劉社長のこの一言。

これからは電気自動車を買うか買わないかではなく、いつ買うかという時代になった

「eモビリティーをみんなのものに」とのキャッチフレーズのもと、「日本のあらゆる人にとってeモビリティーが身近な選択肢になる新たな社会を皆さんと共に創造していく」と宣言した。

今回日本市場への本格参入を表明したBYDの他、既に韓国大手現代自動車は、EVのIONIQ 5(アイオニックファイブ)や、水素で走るFCVのNEXO(ネッソ)を日本国内で販売しており、海外EVの日本進出が進んでいる。

日本メーカーのEV化

中韓勢の積極さが目立つ中、国内メーカーのEV化は進んでいない。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員でもある自動車評論家の国沢光宏氏に話を聞いた。

写真)全米最大のクラシックカーラリー、グレートレースにスバル360で参戦する国沢光宏氏
写真)全米最大のクラシックカーラリー、グレートレースにスバル360で参戦する国沢光宏氏

© 国沢光宏

国沢氏は開口一番、中国製EVの日本市場投入の意味を「終わりの始まり」と称した。どういうことか。

「ガソリン車がなくなるなんて本気で思っている人は日本にはいないかもしれません。しかし、2040年位になるともうガソリン車は作れないし売れません。日本の自動車産業は今後間違いなく電気自動車がメインになるのです」

そう国沢氏は断言する。

「しかし、現時点で日本メーカーのEVは正直言って既に韓国のEVにかないません」

その理由として、国沢氏はEVの心臓部である電池の競争力を挙げた。

「日本の電池メーカーは世界で見たら負け組です。コストが高く、価格競争力がない」

中国が得意とするリン酸鉄リチウムイオンバッテリ-は先に述べたように発火しにくく、安全性が高い。コストも安い。国産の三元系リチウムイオンバッテリーにこだわっている時点で、日本製EVは国際競争力を失っていると国沢氏は説明する。

そう聞くと、中韓EVは日本メーカーにとって脅威になると思えてくる。しかし、そうとも言えないようだ。

「海外では脅威ですが、実は日本市場では脅威とはなりません」

どういうことか?

「それはやはり日本のユーザーはまだ日本車を信頼しているからです。短期的にみて中韓メーカーはそう簡単にはいかないと思います」

しかしそんな見方をものともせず、BYDは国内販売にギアを入れる計画だ。今後3年間でディーラーを全国47都道府県に100を超える店舗網を作るというのだ。

そのために販売からサービスまでを担う専門会社、「BYDオートジャパン」を設立すると、BYDジャパン執行役員の東福寺厚樹氏が発表した。東福寺氏は「BYDオートジャパン」の代表取締役社長を兼務する。

写真)BYDジャパン執行役員東福寺厚樹氏
写真)BYDジャパン執行役員東福寺厚樹氏

© エネフロ編集部

「マーケットを見て、お客さまから見て手の届きやすい、バリューフォーマネーを感じていただけるような価値をプロモーションしていきたいと考えている」

東福寺氏はそう述べ、競争力のある価格戦略を打ち出す考えを示した。

果たして日本の消費者は、中韓EVを受け入れるのだろうか。2023年、自動車市場の動向から目が離せない。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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