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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.51 「走るスマートフォン」、中国で誕生 「アップルカー」構想を実現へ

写真)Mobile World Congress 2024に出品されたXiaomi SU7 Max 2024年2月26日 スペイン・バルセロナ

写真)Mobile World Congress 2024に出品されたXiaomi SU7 Max
2024年2月26日 スペイン・バルセロナ
出典)Xavi Torrent/Getty Images

まとめ
  • 中国の家電メーカー、シャオミが「走るスマートフォン」を発売。
  • 自社の経済圏へのユーザーの囲い込みを狙う。
  • EV市場が持続可能なものになるためにやるべきことは多い。

2年半ほど前に「アップルカー」について書いた。(「日本の自動車メーカー襲う、アップルカーの衝撃」2021.09.07)

アップルが自動車産業に興味を示したのは2014年に遡る。「プロジェクト・タイタン」という名のプロジェクトを立ち上げ、10年後の2024年に向けてEVの自動運転車の開発を進めている、と報道された。

アップルカーが自動車業界の注目を集めた理由は、なんといってもそのビジネスモデルだろう。他の自動車メーカーと異なり、アップルはiPhoneやiPod、Macなどのデジタル家電製品を開発・販売するIT企業だ。

自分たちで製品を製造はせず、開発・設計のみおこなう。世界中のサプライヤーから部品を調達し、専門メーカーに組み立てを委託する、いわゆる「水平分業ビジネスモデル」が、アップルを現在の地位に押し上げた。このように自社で生産設備を持たず、外注先に100%製造委託しているメーカーを「ファブレス企業」と呼ぶこともある。ファブレス(fabless)とは、「Fabrication facility less」の略である。

しかしこの10年間、待望されたアップルカーは一向に世に姿を現さなかった。そして今年2月末、なんと「アップル、EV開発から撤退」のニュースをブルームバーグが報じ、他のメディアも一斉に続いた。アップルがEV開発を中止し、2,000人におよぶ人員を生成AIの部門に移すという。

最近のEV販売の鈍化や、自動運転技術の開発の状況などを踏まえ、より利益を生む可能性が高い生成AI分野にリソースをシフトさせる経営判断を下したものと思われる。

こうした中、もう一つの大きなニュースが飛び込んできた。

ベールを抜いた中国版「アップルカー」

その「アップルカー」と同じコンセプトのEVが、中国の家電メーカーから突如発表されたのだ。

その企業の名は「Xiaomi(シャオミ:小米)」(以下、シャオミ)。
設立は2010年、わずか14年前である。最初はスマートフォンのみだったが、2016年頃からスマート家電に進出。いまや、中国国内で有数の総合家電メーカーになった。日本には2019年にスマートフォンで参入、現在では自社販売以外に、KDDI(au)、ソフトバンク、楽天モバイル向けにも販売している。

そのシャオミが突如EV、「Xiaomi SU7」を発表したのが3月末。受注台数は、発売開始27分で約5万台、1日で約10万台に達したという。アップルがなしとげられなかったEVの開発を実現させたことになる。いわば、中国版「アップルカー」の誕生の瞬間だった。雷軍最高経営責任者(CEO)は、中国のスティーブ・ジョブス(アップル創業者)と呼ばれていたが、今後は中国のイーロン・マスク(テスラ創業者)とよばれることになるだろう。

Xiaomi SU7」は、4月24日から5月4日まで開催された北京モーターショーでも人気の的となり、観客が殺到した。

まずは、そのスペックを見てみよう。

「Xiaomi SU7」のスペック

3月28日に発表・発売となった「Xiaomi SU7」は、プレミアムセグメントのミディアムサイズセダンだ。ちょうどテスラのモデル3のクラスに相当する。

セダンといっても、そのスタイルはスタイリッシュ。長いフロントノーズからリアまで流れるようなボディラインは、ポルシェのタイカンに通じるものがある。クラスは違うがトヨタのGR86にも似ている。

車両サイズは全長4,997×全幅1,963×全高1,455mmで、ホイールベースが3,000mm。日本車と比べるとかなり大柄だ。テスラのモデル3(全長4,720×全幅1,933×全高1,442mm)と比べると、全高、全幅はほぼ同じだが、全長が277mm、「Xiaomi SU7」のほうが長い。

写真)Mobile World Congress 2024に出品されたXiaomi SU7 Maxのリアビュー 2024年2月26日 スペイン・バルセロナ
写真)Mobile World Congress 2024に出品されたXiaomi SU7 Maxのリアビュー 2024年2月26日 スペイン・バルセロナ

出典)Xavi Torrent/Getty Images

そして特筆すべきはそのパフォーマンス=性能だろう。ラインアップは「Xiaomi SU7」、「Xiaomi SU7 Pro」、「Xiaomi SU7 Max」の3モデル。SU7とSU7 Proは後輪駆動。SU7 Maxは4輪駆動だ。ProやMaxなどのネーミングからして、iPhoneを意識しているとみられる。

EVの心臓部には、モーター、インバーター、減速機をモジュール化した、自社開発の電動パワートレイン、いわゆる「3-in-1モーター」を採用。SU7 MAXはデュアルモーターを搭載し、0→100km/h加速が2.78秒、最高速265km/hに達するという。ポルシェのEV・タイカンターボ並の加速を誇る。(0→100km/h加速2.7秒)

写真)ポルシェ タイカン・ターボ
写真)ポルシェ タイカン・ターボ

出典)Manfred Schmid/Getty Images

航続距離は、フル充電時で、「Xiaomi SU7」が700km、「Xiaomi SU7 Pro」が830km、「Xiaomi SU7 Max」が800kmとなっている。

自動運転技術でも総合家電メーカーならではのテクノロジーをふんだんに活かしている。例えばSU7 MAXには、LiDAR(ライダー)1基、高解像度カメラ11台、ミリ波レーダー3台、超音波レーダー12台など、現段階で考え得るあらゆるセンサーを搭載しており、自動運転と安全性向上に対する並々ならぬ意欲がうかがえる。

そして注目の価格だ。「Xiaomi SU7」が21万5,900元(約475万円:1人民元=約22円で計算)、「Xiaomi SU7 Pro」が24万5,900元(約541万円)、そして4駆の「Xiaomi SU7 Max」は29万9,900元(約660万円)だ。

競合であるテスラのモデル3とベースモデルで比べると、モデル3が24万5,900元(約541万円)なので、「Xiaomi SU7」の方が、約66万円安い。タイカンに至っては、ベースモデルでも88万8,000元(約1,954万円)なので、いかに「Xiaomi SU7」の価格がリーズナブルかわかるだろう。

シャオミの狙いは

なぜ、ここまでシャオミは新型EVの価格を低く設定したのか。

そのヒントがアップルのビジネスモデルにある。

アップルの収益性が高いわけは、App Store、iTunes、iCloudなどのサービスを通じて、顧客に絶えず新しい価値を有償で提供し続け、アップル経済圏に囲い込むことに成功したからだ。

世界中のアップルファンは、スマートフォンはiPhone、タブレットはiPad、パソコンはMacbookを持ち歩く。音楽やPodcastはiTunesからダウンロードし、アップル製のワイヤレスヘッドフォンで聴く。そして日々、Apple Watchで運動量や心拍数など健康情報を管理している。あらゆる情報はiCloudに格納されているから機種変更しても何のトラブルもなくデータを買い換えた機器に引き継ぐことができる。

このアップルが築き上げた経済圏=エコシステムを、シャオミも構築しようとしている。たしかに、シャオミのスマートフォンや家電を使っているユーザーがEVに手を伸ばし、シャオミ経済圏にどっぷり浸かる可能性は高い。「Xiaomi SU7」の車載OSは、シャオミが開発した「HyperOS」であり、このOSを搭載しているシャオミ製スマートフォンやタブレットとEVがつながるからだ。

もともとアップルがEV参入を考えていたのはまさに経済圏をEVにまで拡大したかったからだろう。しかし、それを実際にやってのけたのは中国の家電メーカーシャオミだった。世界のEV市場がBYDはじめ中国勢に席巻されている現状をみれば、ある意味当然なのかもしれない。しかし、死角はないのだろうか。

EV市場に変調

去年あたりから世界のEV需要は「キャズム」に陥ったのではないかとの見方が出てきた。急速に拡大してきたEVの需要が「踊り場」を迎えているというのだ。

実際、IEA(世界エネルギー機関)の調べによると、PHEV(プラグインハイブリッド)とともにこれまで順調に販売台数を伸ばしていたBEV(バッテリーEV)の販売の伸び率が2023年に鈍化している。

具体的にBEVの伸び率を見ると、2022年は対前年比+ 55.3%だったのが、2023年は+ 30.1%に下がった。一方のPHEVは、2022年が+ 52.6%、2023年が+ 48.3%と好調だ。

世界最大のEV市場である中国国内で、EVより相対的に安いPHEVの販売が伸びていることもEVの販売に影響したとみられる。

表)世界の新車販売台数におけるBEV・PHEVの販売台数推移 (2010-2023)
表)世界の新車販売台数におけるBEV・PHEVの販売台数推移
							(2010-2023)

出典)IEA. All rights reserved.

こうした中国市場の価格競争のあおりを受け、今年の第1四半期の利益が振るわなかったテスラは4月15日、全世界の従業員10%以上を削減する方針を明らかにした。先に紹介したシャオミだけでなく、中国国内ではEV専業メーカーが乱立し、価格競争は今後も続く見通しだ。先行していたテスラにとって状況は厳しいものになっている。

こうしたなかテスラは、自動運転技術の中国導入を進めようとしているが、中国メーカーも当然のごとくこの分野に注力しており、テスラにとって事態の打開策になるかどうかは不透明だ。

実はこのテスラの苦境は中国のEVメーカーにとっても人ごとではない。

EV普及の鍵 価値の創造

ここで今一度、「スマートフォン・カー」の価値について考えてみたい。先に述べたように、アップルもシャオミも自社の経済圏にユーザーを囲い込みたいが故にEVを開発した。ただし、それはEVの価値が購入時から下がらないことが前提だった。

EVはスマートフォンと同様、高精度3D地図や安全性能などを絶えず更新し続けることで価値を高めていくと考えられている。だとしたら、EVのリセールバリューはガソリン車より高くなくてはいけないはずだが、実際はそうなっていない。それはEVを売っているメーカーによる中古車の価値を上げる努力が足りていないからだ。EV市場を持続可能なものにするには、EVの中古車の価値を上げることが鍵となるのではないだろうか。

一般的にEV普及の障壁は、走行距離の短さや充電設備の少なさなどがあげられてきた。しかし、EVがある程度普及してくると、上に述べたようにリセールバリューを含めたEVの価値をいかに高めるかが重要になってくる。

シャオミのEVユーザーに同社の車に乗り続けてもらうためには、車用ソフトの更新など「価値の向上」を与え続けることが鍵となる。そうすれば、その車の残存価値が下がらないので、また自社のEVに買い換えてもらえる。

中古EVの価値を落とさないためには、「電池使用履歴証明」などの仕組みも必要だ。中古EVを買う人にとって、その車のバッテリーの性能や残存寿命を知ることは極めて重要だからだ。

こうした包括的なサービスを開発してこそ、EVの価値が向上し、持続可能な市場が形成されることになる。そのためにEVメーカーが割かねばならない経営資源はかなりのものになるだろう。アップルがこの分野から撤退したのはそうした理由からではないか。

中国EVメーカーがこの挑戦に勝利するかどうか、判断するには早すぎる。勝負はまだ始まったばかりなのだ。EV戦略に慎重な日本の自動車メーカーにとっても、シャオミの動向は大いに参考になるだろう。
今後はトヨタや日産・ホンダ連合の動きからも目が離せない。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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