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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.31 EVウォー 日本メーカーに襲いかかる中韓勢

写真)上海モーターショーで公開されたXpeng P7 2021年4月21日中国・上海

写真)上海モーターショーで公開されたXpeng P7 2021年4月21日中国・上海
出典)Photo by Zhe Ji/Getty Images

まとめ
  • ソニーとホンダは、ソニー・カーの生産・販売を2025年におこなうと発表。
  • EV最大の市場、中国では低価格EVと高級EVで二極分化、日本製EVは存在感なし。
  • トヨタも日産も2030年に向けてEVのラインアップを増やす計画だが、国際的なEV開発競争に乗り遅れる可能性あり。

2月に「ソニー・カー参戦で自動車産業のパラダイムシフト加速」という記事を掲載した。あのソニーがEV(電気自動車)を作ると表明したことで自動車業界に衝撃が広がった。

その興奮冷めやらぬ3月、ソニーとホンダ(本田技研工業株式会社)の提携発表された。

両社は、「新会社を通じて、高付加価値のエレクトリック・ビークル(EV)を共同開発・販売し、モビリティ向けサービスの提供と併せて事業化していく」という。新会社の設立は2022年中、初期モデルの販売開始は、2025年を想定している。

車の製造ノウハウを持たないソニーは、ソニー・カーの製造を海外企業に委託するのではないか、との報道もあったが、実際に選んだのは国内自動車メーカー、ホンダだった。

ソニーがホンダを選んだ理由は極めて合理的だと思う。ホンダもEVでは後発であり、ソニーというブランドをまとうモデルを生産できることは大きなメリットであろう。また、ソニーも海外メーカーより日本のメーカーの方が、技術的な交渉はやりやすいと思われる。いずれにしてもトヨタ、日産にとって、新たなライバルが誕生したといってもいいだろう。

さて今回は、そのトヨタ、日産がグローバルなEVウォーの中でどう闘おうとしているのかを見てみる。

トヨタのEV戦略

EVについては消極的との見方が市場に広がっていたトヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)。豊田章男社長はそんな評判を一掃すべく、去年12月、満を持して思い切ったEV化戦略を発表した。

そのポイントは

2030年までに30車種のバッテリーEV注1)を展開。
・2030年にバッテリーEVのグローバル販売台数で年間350万台を目指す。
・グローバルに乗用・商用各セグメントにおいてフルラインでバッテリーEVを揃える。
・欧州、北米、中国でバッテリーEV100%、グローバルで100万台の販売を目指す。
・2035年にはグローバルでバッテリーEV100%を目指す。

というもの。

ついにトヨタも本気を出したかと受け止められたが、実際にこれまで市場に投入したのはレクサスのEV車「UX300e」ぐらいだ。それに加え今年は、スバルとの共同開発車「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」が投入されるが、他の自動車メーカーと比べると、出遅れ感は否めない。

写真)シカゴオートショーで展示されるトヨタ「bZ4X」イリノイ州シカゴ 2022年2月10日
写真)シカゴオートショーで展示されるトヨタ「bZ4X」イリノイ州シカゴ 2022年2月10日

出典)Photo by Scott Olson/Getty Images

一方、今をさかのぼる2010年、世界で初めて量産型EV「リーフ」を投入した日産自動車はどうだろう。去年の同社の発表によると

・今後5年間で約2兆円を投資し、電動化を加速。
・2030年度までに電気自動車15車種を含む23車種の新型電動車を投入し、グローバルの電動車のモデルミックスを50%以上へ拡大。
・全固体電池を2028年度に市場投入。

などとしている。

写真)ブリュッセルモーターショーに出品された日産リーフ 2020年1月9日 ベルギー・ブリュッセル
写真)ブリュッセルモーターショーに出品された日産リーフ 2020年1月9日 ベルギー・ブリュッセル

出典)Photo by Sjoerd van der Wal/Getty Images

その日産もこれまで10年以上EVモデルを増やさず、今年になってようやくSUVモデルの「アリア」の販売が始まった。この10年の間に米テスラは躍進し、EVの開発で先行した日産は今やその後塵を拝している。2030年度までに15車種EVを増やす、というがこちらもそのスピード感が問われそうだ。

写真)日産「アリア」と日産自動車CEO 内田 誠(右)、COO アシュワニ グプタ(左)
写真)日産「アリア」と日産自動車CEO 内田 誠(右)、COO アシュワニ グプタ(左)

出典)日産自動車

そして、ホンダも2020年に「Honda e(ホンダ イー)」を、マツダも去年「MX-30 EV」を投入したのみだ。

写真)Honda e
写真)Honda e

出典)ホンダ

こうしてみると日本メーカーのEV戦略はどうみても、世界の自動車市場をけん引しているとは言い難い。いや、むしろこのままでいいのだろうか、と疑問を持ってしまうのだ。

急成長の中国EV市場で苦戦する日本メーカー

たしかにソニー・カーの登場は日本国内では注目を集めたが、海外勢に比べて見劣りしてしまう。具体的に見てみよう。

EV大国の中国では、2021年の新エネルギー車(New Energy Vehicle:NEV)注2)販売台数が、対前年比157.5%増の352万台で、自動車販売台数の全体に占める割合は13.4%に達した。2022年度は500万台に達すると予測している。全自動車販売台数の5台に1台はNEVになるのも目前だ。(中国自動車工業協会調べ)

市場を牽引しているのが低価格EVだ。中国の自動車メーカーの上汽通用五菱汽車(SAIC-GM-Wuling Automobile、SGMW)が製造した「宏光(ホンガン)MINI EV」は、下位グレードが50万円を切る激安EVで、発売以来大ヒットを記録している。

写真)上海モーターショーに出品された「宏光MINI EV」2021年4月19日 中国・上海
写真)上海モーターショーに出品された「宏光MINI EV」2021年4月19日 中国・上海

出典)Photo by Zhe Ji/Getty Images

一方、米テスラの「モデル3」や「モデルY」などの高級EVの売れ行きも好調で、中国市場は二極分化している。

新規参入も著しい。特に2014年ごろに創業したばかりの新興EV専業メーカーが気を吐いている。「NIO(上海蔚来汽車)」、「Xpeng(小鵬汽車)」、「Li Auto(理想汽車)」などが有名だ。

「NIO」は、なんと世界で唯一、バッテリー交換システムを採用している。以下の動画を見てほしい。

提供)NIO

かつて米ベンチャーのベタープレイスが同様のサービスをひっさげて日本市場にも参入を試みたがうまくいかず、結局2013年に破綻した経緯がある。それをNIOは実用化させたのだ。航続距離を心配することなく、EVに乗ることができる。

デザイン面でももはや中国車は海外メーカーに引けを取らないレベルに達している。Xpengのスポーツセダン「P7」は航続距離706kmと世界最高レベルを誇り、ライバル・テスラのそれを凌駕しているばかりでなく、自動運転レベルでも3.0を達成している。

これら3社の主要株主は中国のIT企業であることも注目すべきだろう。既存の自動車メーカーの発想ではなく、IT企業がソフトウェアを中心にモビリティの概念を設計している点で、日本とは根本的に異なる。ソニー・カーが10年前に誕生していたら、今の日本製EVも変わっていただろうと思わずにはいられない。

日本市場を脅かす中韓勢

そうこうしているうちに、日本市場に中国と韓国のメーカーが参入し始めた。韓国の自動車メーカー「ヒョンデ(現代自動車、旧ヒュンダイ)」がEVで日本への再進出を発表したのだ。

その日本法人「Hyundai Mobility Japan 株式会社」(旧:現代自動車ジャパン株式会社)が今回投入したのは、同社初のEV専用車、「IONIQ 5(アイオニック ファイブ)」と「NEXO(ネッソ)」の2車種、どちらもSUVタイプだ。

NEXOは韓国車初のFCV(燃料電池車)で、2020年からカーシェアサービス「Anyca(エニカ)」で一般向けに貸し出しており、IONIQ 5も同様のシステムを採用した。まずは試乗してもらい、購買につなげるという作戦で斬新ではある。魅力的な価格もあり、日本でも若者中心に受け入れられる可能性は十分にあるのではないか。

一方、中国産EVだが、すでに日本市場でじわじわとシェアを拡大している。その理由は、大手宅配業者が続々と採用を決めているからだ。

SBSホールディングス株式会社は、スタートアップのフォロフライ株式会社が輸入・販売を手掛けるEVトラック(1トンクラス)の全面導入を決定した。ベースは東風汽車集団系など中国の自動車メーカーのEVトラックだ。今後5年で2,000台、最終的に約1万台を保有する計画だ。1台380万円に価格を抑えたことが決め手につながった。

写真)SBSが導入するEVトラック
写真)SBSが導入するEVトラック

出典)SBSホールディングス株式会社

また、SGホールディングス傘下の佐川急便株式会社とEVベンチャーASF株式会社は、ASFが開発し中国自動車大手の広西汽車集団が生産する小型商用EVを2030年までに7,200台導入すると発表した。

宅配用商用EVだけではない。EVバス市場でも中国メーカーは気を吐いている。米投資家のウォーレン・バフェット氏が出資することで知られる中国のEV大手BYDの日本法人「ビーワイディージャパン株式会社」は2015年に中国自動車メーカーとして初めて日本にEVバスを納入して以降、約60台の納入実績を誇り、すでに日本のEVバス市場で約7割のシェアを握っている。2030年までに4,000台を普及させることを目指している。

日本メーカーはお膝元でも中韓メーカーのEV車進出を黙って見ているしかないのが現状だ。

写真)京阪バスに納入された小型電気バス「J6」4台
写真)京阪バスに納入された小型電気バス「J6」4台

出典)BYDジャパン

今後の展望

アップルカーに先んじて発表されたソニー・カーの登場は、モビリティとエンタテインメントの融合という意味で、近未来のEVのあり方を示してくれた。それはもちろん評価に値する。

しかし、グローバルな自動車メーカーの熾烈なEV開発競争を目の当たりにすると、日本の自動車メーカーの置かれている立場は決して楽観できるものではない。

テスラは中国市場はもとより、欧州市場でも存在感を示している。ドイツ・ベルリンにギガファクトリーを建設し、現地生産に乗り出した。当然のことだが、車は売る場所で作る方がメーカーは有利だ。輸送コストや保険料が節約できるからだ。

お膝元をおびやかされている独VW(フォルクスワーゲン)社は、テスラ車に対し、価格競争力のあるSUVタイプのEVを次々と市場に投入している。死闘のゴングはすでに鳴っているのだ。

そうしたEV化の潮流の中で、日本製EVは他のメーカーと戦うことすらできていない。周回遅れといってもいい。繰り返しになるが、トヨタ、日産ともに、EVのラインアップが揃うのは早くて2030年なのだ。

2050年カーボンニュートラルを掲げている日本。しかし、その日本市場が低価格を武器にした中国、韓国メーカーの草刈場になろうとしている。そして、EV最大の市場中国においても、北米、欧州市場においても、投入するモデルがないのが現状だ。

日本の自動車メーカーは、国内市場、海外市場、双方にどのような戦略を持って勝ち残ろうとしているのか。現在の熾烈なグローバルEV開発競争の行方を見誤ると、近い将来一層厳しい局面に立たされることもありうるだろう。

  1. バッテリーEV
    Battery Electric Vehicle:BEV(バッテリー式電気自動車)のこと。EV:Electric Vehicle(電気自動車)は、電気でモーターを駆動して走行する自動車全般を指すが、BEVはその中でも「バッテリーに充電した電気でモーターを駆動して走行する自動車」を指す。
  2. 新エネルギー車
    中国では新エネルギー車(NEV)のカテゴリーに、EV以外、PHV(プラグインハイブリッド車)やFCV(燃料電池車)なども含まれる。
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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