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出典)Couleur/Pixabay
- まとめ
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- 規格外野菜の廃棄問題が深刻。
- フードシェアリングなどの取り組みが始まった。
- 熱回収(発電)・肥料化・飼料化による循環的利用も進んでいる。
昨年度、新型コロナウイルス感染症の拡大で緊急事態宣言が発令され、学校給食として提供されるはずだった野菜が大量廃棄に追い込まれるという問題が生じた。
また飲食店の休業・時短営業により、外食で用いられる野菜の需要が一気に縮小した。需要と供給のバランスが崩れると、生産者は、出荷調整・産地廃棄せざるを得なくなる。
野菜の需給バランスはもともと天候による価格の上下に左右されやすい。そこへ新型コロナの要因が加わった。去年夏の天候不良により価格が上昇したことはあったが、その後は一部を除き、安値が続いている。
緊急事態宣言が明けた後も安値が続いている。今年10月中旬から11月上旬の野菜主要14品目の日農平均価格(注1)は1キロ127円。平年比を下回る傾向が続いている。また、昨今の原油高で、営農用の燃油や石油製品を原料とする生産資材などの値上げが相次いでいる。さらに、肥料や飼料の価格も高騰しており、野菜の生産現場はまさに“四重苦”の状態だという。
各地で11月に入っても気温が比較的高く、野菜の増量が進んでいる。新型コロナウイルス禍からの外食産業や飲食店のいわゆる業務需要の回復も鈍く、今後も野菜の相場は軟調が続く見込みだ。
見えにくい産地廃棄
一方、わが国では「食品ロス」の問題が深刻だ。エネフロでも度々特集している(エネフロ記事:「食品ロス問題 私たちに出来ること」)。
「食品ロス」とは、売れ残りや、規格外品、返品、⾷べ残しなどにより廃棄された食品のこと。2018年度には、600万トン(推計)が廃棄された。これは、国民一人当たりに換算すると1日130g。一人当たり茶碗約1杯のごはんを、毎日捨てていることになると聞くと悲しくなる。(参照:農林水産省「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢 <令和3年9⽉時点版>」)
しかも、「食品ロス」の定義は「国⺠に供給された⾷料のうち本来食べることができるにもかかわらず廃棄されている⾷品」。つまり、産地廃棄は含まれない。
農林水産省のデータによれば、2019年産野菜の収穫量は1,340万7,000t、出荷量は1,157万4,000t。つまり、収穫量の約14%が出荷されず処分されているのだ。
出典)「野菜生産出荷統計」(令和元年産)農林水産省
産地廃棄の原因
産地廃棄が発生する主な原因には、災害・病虫害・鳥獣被害や、需給不一致による調整の必要に加えて、意外なものがある。それが「規格」だ。
「規格」とは、形の大小や、形状そのもの、傷の有無による等級区分の他、計量や包装のきまりごとを指す。もとは取引の円滑化などを目的に定められたが、産地間の競争や販売先のニーズに対応するため、細分化した。たしかに、スーパーなどで私たちが目にする野菜はみな画一的な形をした野菜ばかりだ。
産地廃棄を減らすために
では、この規格外野菜は、本当に消費者に受け入れられないのだろうか。
2020年に消費者庁がおこなった調査では、消費者は意外にも規格外農水産物の消費に積極的な傾向が見られた。「規格外等の農水産物を購入したことがあるか」との質問に対して、「購入したことがある」との回答は77.4%に上った。「購入したことがない」理由は「買えるところがないから」が76.1%で最も多く、「おいしくなさそうだから」など品質を懸念する声は少なかった。
こうした中、規格外品に対する潜在需要を掘り起こそうと、消費者と農家を直接つなげる取り組みが始まっている。バリュードライバーズ株式会社が2018年6月に運営を開始した「tabeloop(たべるーぷ)」がそれだ。
「tabeloop」は、規格外で出荷できない農水産物や食品ロスを販売するオンラインプラットフォーム。形や傷、包装や賞味期限の問題で出荷できない食品のほか、コロナ禍で販売先が見つからない食品も出品される。売り手は、各地の生産者や、食品メーカー、食品卸売業者、小売業者。買い手は、一般家庭、飲食店、こども食堂などの施設や、企業・団体が登録している。
2019年9月の台風被害をきっかけに設立された「チバベジ」という取り組みもある。規格外野菜を買い取り、オンライン・オフラインで販売しているほか、規格外野菜を加工して提供するキッチンカー・レストランの運営もおこなっている。
食品廃棄物のリサイクル
以上のような、味に問題のない野菜を買いたい消費者に届ける、いわゆる「フードシェアリング」だけでは、廃棄野菜を救うことができない場合もある。
激しい損傷、腐敗や病虫害、食味に問題がある場合は、食品として販売することはできない。規格品の販売価格やブランドを維持し、生産者の収入を保障するために、出荷調整をおこなわざるを得ない場合もある。
このような作物は、廃棄されるしかないのだろうか。
2001年に施行された「食品リサイクル法」は、食品関連事業者に対して、食品廃棄物の削減に加え、リサイクルに取り組むことを求めている。これに従い、収穫した作物を無駄にしない方策がさまざま探られている。
規格外野菜の熱回収
リサイクルの1つめは、「熱回収」だ。
熱回収とは、食品廃棄物などを発酵させメタンガスを生成し、発電の燃料とすることだ。化石燃料を用いるより環境負荷の低い発電方法として期待されている。
北海道帯広市の北、音更町(おとふけちょう)にある「JAおとふけバイオガスプラント」では、規格外野菜と家畜のふん尿を用いて発電している。年間77万5000kWhを発電し、売電もおこなっている。
また、神奈川県三浦市の「三浦市バイオマスタウン構想」(「バイオマスタウン構想」注2)を担う「三浦バイオマスセンター」も熱回収に取り組む。三浦市の特産物である大根、スイカなどの廃棄分を農家から受け入れ、処理の過程で生じるメタンガスを発電に利用。その電力で、施設を動かすためのエネルギーの一部を賄う、循環型の施設だ。
規格外野菜の肥料化
リサイクル方法の2つ目は、「肥料化」だ。
「JAおとふけバイオガスプラント」と「三浦バイオマスセンター」は、肥料化のための設備も備える。「JAおとふけバイオガスプラント」の例でいうと、まず野菜残渣は家畜ふん尿ともに、約1か月かけて微生物によりバイオガスと消化液に分解される。消化液は、固液分離棟で固形と液体に分離され、固形分は家畜ふん尿に混ぜて堆肥の水分量を調整するために使われる。液体は有機肥料として畑へ散布される。この液体は堆肥と比べ悪臭が少なく、肥料成分も高いことから、化学肥料の削減が可能だという。また、土壌改善効果もあるというからまさに一石二鳥だ。廃棄物の徹底的な循環的利用といえよう。
出典)JAおとふけ
規格外野菜の飼料化
リサイクル方法の3つ目は、「飼料化」だ。
株式会社バイオマスソリューションズでは、規格外農産物のほか食品加工に出る廃棄物や売れ残り、賞味期限切れの食品などを、家畜飼料に再資源化している。
飼料化の課題は、廃棄物の量や内容物が時期により大きく変動することだ。飼料化してから実際に利用されるまで、保存する技術が重要になる。株式会社バイオマスソリューションズは、大学と共同で研究をおこない保全性を高めることに取り組んでいる。
熱回収・肥料化・飼料化。このようなリサイクルの仕組みを利用すれば、ごみとして処理されるはずだった廃棄野菜を有効に活用し、エネルギーを回収したり、再び農業者に還元したりすることが可能になる。
私たち消費者ができること。まずは、規格外野菜やそれを用いた加工品についての知識を得ることだろう。そして、生産者の思いを良く理解することではないだろうか。ふだんの私たちの消費行動を見直すきっかけになればと思う。
- 日農平均価格
当日の青果市況で全国の中心価格がひと目で分かるように、各地区大手卸7社の総平均1キロ価格と販売量・販売額合計を算出して示したもの。 - バイオマスタウン構想
政府の「バイオマス・ニッポン総合戦略」(2002年閣議決定。地球温暖化防止、循環型社会形成、戦略的産業育成、農産漁村活性化等を目指す)に基づき、2011年までに318地区が公表した。「域内において、広く地域の関係者の連携の下、バイオマスの発生から利用までが効率的なプロセスで結ばれた総合的な利活用システムが構築され、安定的かつ適正なバイオマス利活用がおこなわれている」ことを目指す構想。
(参照:「バイオマスタウン構想策定マニュアル」農林水産省、「バイオマスタウン構想を公表した318地区 《平成23年4月末現在》」農林水産省)
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