出典)LEGO
- まとめ
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- 世界的玩具メーカー、レゴ社、ペットボトルを再利用したブロックの試作品発表。
- 背景にあるのは、欧米で広がる「企業の社会的責任」を問う意識。
- 日本企業にも、「社会的責任」を意識した大胆な取り組みが求められる。
誰でも一度は触ったことがあるのでないか。子供から大人まで、世界中の多くの人に愛されているレゴブロック。それもそのはず、一年間に製造されるレゴブロックの量は実に10万トンを超える。
そう聞くと、まてよ、と思った読者もいるはず。そう、レゴブロックはプラスチックでできている。脱プラスチックをテーマにエネフロは何本か記事を出している。(エネルギーと環境 Vol.14 バイオプラスチックは環境問題の救世主?)(エネルギーと環境 Vol.11 対策急げ!プラスチックごみ問題)当然、脱プラの流れにレゴもさらされているはず。そう思って調べてみたら、やはり。レゴはいち早く、使用済みのペットボトルを再利用した新しいブロックの試作品を発表していた。
ペットボトルから作られるレゴブロック
レゴ社は以前より、環境問題の解決に向けた取り組みに力を入れており、今回の試作品の完成はその一つの成果だ。
レゴ社の発表によると、新ブロックの開発のための研究は150人以上のチームによっておこなわれ、これまでに250以上のPET素材と、それ以外の100種以上のプラスチック素材について実験をおこなってきた。しかしそれだけ多くの素材で実験がおこなわれたにも関わらず、レゴ社が求める強度や耐久性に関する高い基準をクリアしたのは、今回のペットボトルを利用した試作品が初めてだったという。
出典)レゴ社HP
レゴグループの環境部門で副代表を勤めるティム・ブルックス氏は、今回の発表に際して、「私たちはこの突破口にとても興奮しています。私たちのサステナビリティへの取り組みで最大の課題は、既存のブロックと同じくらいの耐久性、強度、品質を持ち、過去60年以上にわたって作られてきたレゴのブロックに適合する新素材を再考し革新することです。この試作品は、私たちが前進していることを示しています」と語っている。
レゴ社によると、新しい素材のブロックに色をつける効果的な方法などはまだ定まっておらず、商品として発売するためにはさらに研究・開発が必要だという。研究チームは今後もPET素材を中心に試験をおこない、早い時期での商品化を目指している。
レゴ社の環境への取り組みは消費者の声から始まった
今回の発表に象徴されるように、環境問題への意識の高さで知られるレゴ社だが、実は従来のレゴブロックの原料は石油由来のプラスチックであり、環境保護活動家などから批判を受けてきた。
そんなレゴ社が環境問題の解決に向けた取り組みに力を入れ始めたのは、2014年にヨーロッパの環境保護団体グリーンピースが行った「#北極圏の環境を守ろう」というキャンペーンだった。同団体は、このキャンペーンの一環として、北極圏での石油採掘を行おうとしていたシェル石油、そして当時シェル石油から購入した石油で大量のブロックを生産していたレゴ社を批判するために、ある動画を作成した。
石油が流出した海で溺れるレゴのキャラクターの様子を描いたこの動画は、特にヨーロッパで反響を呼び、シェル石油とレゴ社に対する批判の声が消費者の間で大きくなった。そしてその影響によって、100万人以上の人が、レゴ社に対してシェル石油との業務提携をやめるように求める請願書に署名する事態になった。
これを受けたレゴ社は、すぐさまシェル石油との販売促進提携契約を更新しないことを発表し、環境問題への取り組みに力を入れることを宣言した。これ以降同社は、大量の資金を投入して、ブロックの原材料の変更など、地球環境に優しい製品開発を進めるようになった。
ブロック素材の変更だけではない、レゴ社の環境問題への取り組み
レゴ社は、今回発表されたペットボトルから作られるブロックの開発の他にも、環境問題の解決や持続可能性の実現に向けて様々な取り組みをおこなっている。
例えば、ブロックの包装に使われているビニールの廃止や、ブロックの製造過程における二酸化炭素排出量の削減などに取り組んでいる。包装のためのビニールについては、2025年までの廃止を目指していたが、これをさらに前倒しにする方針も今年に入って明らかにされた。
また、使わなくなったレゴブロックを親戚や友人、地域のコミュニティなどに寄付、譲渡し、再利用する「LEGO Replay」という取り組みも始まっている。この取り組みは現時点ではカナダとアメリカのみでおこなわれているが、今後さらに範囲を拡大する予定だという。
これらの取り組みは、同社ホームページ上の「Sustainability」のページで、レゴのキャラクターやブロックが登場する動画によって詳しく紹介されている。こうした遊び心ある演出によって、子供にも触れやすい形で環境問題や持続可能性の意識の向上に努めている。
欧米メーカーに広がる「企業の社会的責任」の意識
環境問題や持続可能性の向上に取り組んでいるのはレゴ社だけではない。欧米では多くのメーカーが、そうした課題に対する取り組みを進めている。
例えば、バービー人形で知られる米国最大級の玩具メーカー「マテル」社は、既に多くの製品をサトウキビ由来のプラスチックでの製造に切り替えている。今後も、バービー人形を含む多くの主力商品について、地球環境に優しい素材への転換を進めていくとしている。
出典)マテル社HP
欧米のメーカーでこうした取り組みが加速する背景には、「企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)」の浸透がある。CSRとは、企業は環境問題などの社会全体の課題について責任を果たすべきであるとする考え方のことで、最近日本でもよく耳にするが、企業側から積極的に消費者に情報発信している例は多くない。
欧米企業のCSRに対する意識は、レゴ社がペットボトルを再利用したブロックを発表した際の、ティム・ブルックス氏の以下のようなコメントからも伺える。
「私たちは、何世代にもわたる子供たちの持続可能な未来を築くために自分たちの役割を果たすことに取り組んでいます。私たちは、私たちの製品が、遊びだけでなく、私たちが使用する材料によっても、地球にプラスの影響を与えることを望んでいます (レゴ社HPより)」
出典)LEGO Twitter
このコメントから伺えるように、レゴ社が取り組む新しいブロックの開発は、社会の中で企業が果たすべき「役割」、あるいは「責任」として捉えられている。
日本企業にも問われる「社会的責任」
一方、日本でも2000年代に入ってから「企業の社会的責任」が注目を集めるようになってきた。実際に日本の大手玩具メーカーでも、パッケージの工夫や使わなくなったおもちゃの再利用など、地球環境を意識した取り組みが始まっている。
例えば、玩具大手の株式会社バンダイは、バンダイナムコアミューズメント、バンダイロジパルと協力して、子どもたちに人気のカプセルトイ、「ガシャポン」のカプセルを回収してリサイクルカプセルに生まれ変わらせる、循環型の取り組み「ガシャポン カプセルリサイクル」をおこなっている。
「リサイクルカプセル」は、不要になった空カプセルを回収して、リサイクル工場で粉砕・溶解し、プラスチックの原料(リサイクルペレット)をつくる。そのリサイクルペレットに通常のプラスチック原料を混ぜ、「リサイクルエコカプセル」にするというものだ。空きカプセル回収量は1年で約20トンに上り、直径5cmのガシャポンのカプセルにすると、なんと約400万個分に相当するという。
また、グループ会社のBANDAI SPIRITS(バンダイ スピリッツ) は、2021年からプラモデル製品の一部の材料に、石灰石が主原料の新素材・LIMEX(ライメックス)を使い、プラスチックの量を減らしている。この新素材は、これまでのプラスチック素材と同じように加工でき、着色も可能で、重量感があるなどの特徴を持つという。
また同じく玩具メーカーの株式会社タカラトミーも、遊び終わったおもちゃを回収し、リサイクルする「BRING PLA-PLUS プロジェクト」を2012年から続けている。
こうした活動をおこなっている企業がある中で、まだまだ過剰包装やプラスチック容器廃棄の問題は解消されていない。コンビニ業界では、弁当容器や、コーヒーカップ・ストローなどの脱プラスチック化を進めている。
お菓子業界は包装をプラスチックから紙に変えているところも出始めた。また、袋詰めの中のトレイを廃止したり、袋そのものを小さくしたりする取り組みも見られる。
それでも買い物をして中の商品を取り出してみると、あっというまにプラスチックごみの山となるのは家庭での日常の風景だ。
日本では2020年7月にようやくレジ袋の有料化が始まり、マイバッグを持ち歩く消費者は当たり前になった。マイボトルもそうだ。それでもなお、日本のプラスチック容器包装の年間廃棄量は368万トン、ペットボトルは58万トンで合計約426万トンに上る。これは使用済み製品廃棄量の約50%にあたる。(経済産業省)
こうした現状を見ると脱プラスチックはそう簡単ではないことが分かる。企業のリサイクルや代替素材の開発などの努力は今後も進むだろうが、レゴ社が環境問題に力を入れ始めたきっかけは、消費者が石油会社との業務提携をやめるように迫った請願書だった。すなわち、環境問題に敏感な消費者の声が、企業を環境問題の解決に向けた大胆な取り組みへと突き動かしたのだ。
日本においても、私たち消費者が環境問題や持続可能性などの社会課題により敏感になることで、多くの企業が「社会的責任」を意識した取り組みに力を入れるようになるはずだ。まずは身の回りからできる脱プラスチックを考えてみたい。
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