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ためになるカモ!?

Vol.28 紅葉で知る植物とエネルギー

写真) 光明寺もみじ参道

写真) 光明寺もみじ参道
出典) 663highland

まとめ
  • 落葉の理由は冬の間のエネルギーの消費を極力抑えるため。
  • 落葉までのプロセスとしてクロロフィルを破壊し枝に吸収していくことで紅葉が生じる。
  • 緑、黄色、赤色の3色素の量の比率により紅葉の色調が変わる。

秋も深まり、全国各地で紅葉シーズンが到来した。皆さんはもう紅葉狩りには行かれただろうか。筆者は毎年京都に行くなど、紅葉ハンターを自認している。

写真) 京都東福寺
写真)京都東福寺

© Photo by 663highland

燃えるような赤色のもみじや、黄金色の銀杏、色鮮やかな景色は何度見ても心を奪われる。みなさんも紅葉マップを見ながらさてどこに行こうかと思案中なのでは?

でも、植物の葉が秋になると色が変化するわけは意外と知られていない。今回は、紅葉がもっと楽しくなるように、そのメカニズムをご紹介しよう。

落葉とエネルギーの関係

紅葉は主に落葉樹に見られる現象だが、そもそもなぜ落葉するのだろうか。それには光合成が関係している。植物は、葉に日光を受けて生活や成長に必要なデンプンなどの栄養分をつくり出している。このはたらきを光合成という。

光合成は十分な光が葉に与えられ、気温が25度程度の場合に最も効率が良い。例え十分な光があっても気温が低いと光合成効率は悪くなる。従って寒い冬の間は植物のエネルギー生産量が落ちる。それなのに養分を消費しつづける葉があるのは都合が悪い、というわけで落葉するようにできている。

つまり植物は、春から秋まで多くのエネルギーを生産して、冬の間は落葉してエネルギーの消費を極力抑えているのだ。また落葉は、冬の乾燥した空気によって葉の表面から水分が蒸発することも防いでおり、寒く厳しい冬も越せるという訳である。

葉の色の仕組み

次は紅葉の仕組みを見ていこう。紅葉の仕組みは、葉の内部にある葉緑体に隠されている。葉緑体の中には、クロロフィルと呼ばれる物質が含まれているのだが、このクロロフィルは光合成を行なうために光を吸収する役割をもっている。

写真) 細胞内に見える葉緑体
写真)細胞内に見える葉緑体

出典) Photo by Kristian Peters

私たちの肉眼で感じることのできる光、可視光線の波長は380~770ナノメートル程度で、太陽光線や電気の光などがこれに含まれる。波長の長短によって赤から青紫まで色の感じ方が違ってくるが、クロロフィルは550ナノメートル付近の光をほとんど吸収しない。その結果、クロロフィルに吸収されずに反射されてきた緑色の光だけが目に入ることで、植物の葉が緑っぽく見えているのだ。要するに普段、葉が緑色に見える時期は葉にクロロフィルが含まれているということである。

図) さまざまな波長の電磁波における可視光線
図)さまざまな波長の電磁波における可視光線

出典) Tatoute and Phrood

落葉樹は秋になると光合成に適さない冬を迎える前に、落葉の準備を始める。まずタンパク質の分解作用によりクロロフィルを少しずつ破壊し、枝に吸収していく。同時に葉と枝の間に離層と呼ばれる壁をつくり、水や栄養の行き来を少しずつ遮断して動物でいう冬眠の準備を初めていく。その結果、葉が落ちていくのだ。

クロロフィルが分解され始めると葉の緑色が薄くなり、他の色素が見えてくるようになるので、葉の色が変化する。ちなみに、幹へと回収されたクロロフィルなどの養分は翌年の春に再利用される。

赤色や黄色の違いはなぜ

それでは何故、紅葉に黄色や赤色などの違いが生じるのだろうか。

一般に葉の中の3種の色素、緑色のクロロフィル、黄色のカロチノイド色素、赤色のアントシアン色素の量の比率によって色調が変わると考えられている。

イチョウのように「黄葉」する葉には、若葉の頃から黄色のカロチノイド色素が含まれている。にんじんやかぼちゃにも含まれている色素だ。しかし、春から夏にかけてはクロロフィルの影響により視認できない。それが、クロロフィルの消失により緑色が無くなることでだんだんと黄葉してゆくのだ。

一方赤に見える「紅葉」は、クロロフィルの分解と同時に赤色のアントシアン色素の形成がおきるからである。クロロフィルとアントシアン色素との量比で、クロロフィルが多ければより黒ずんだ赤に、少なければ鮮明な赤色になる。

イロハモミジなど「紅葉」する葉をよく観察すると、初め緑の葉は赤と緑が混じった茶褐色の時期を経て、次第に全体が赤色に変わっていく。葉のより深い部分は比較的後までクロロフィルが残るので、葉先から色が変化していく。

写真) カエデの紅葉の各段階
写真)カエデの紅葉の各段階

出典) Chris Glass, Cincinnati, USA

紅葉のきっかけとなるシグナルはまだ明確にされていないが、日中の気温が20~25℃、朝晩は8℃以下と昼夜の寒暖の差が大きいこと、十分な日が当たること、適度な水分があることなどの条件が重なることで、美しい紅葉が生まれると考えられている。滝などの水辺の近くでは適度な水分が葉に保たれるので、ピンと張った葉の紅葉の場合が多いそうだ。

今年の紅葉狩りは、植物とエネルギーの関係を考えながら楽しむのも一興ではないだろうか。

参考)
国立科学博物館 https://www.kahaku.go.jp/index.php
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 https://www.ffpri.affrc.go.jp/ffpri.html
一般社団法人 日本植物生理学会 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=0425&target=number&key=0425
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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