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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.22 2019年大総括!エネフロ編集部座談会

イメージ(Plastic Waste)

写真) イメージ(Plastic Waste)
出典) Pixhere

まとめ
  • 2019年の人気記事ランキング発表、1年を振り返る座談会を実施。
  • 今年は特に環境に関する話題がよく読まれた。
  • 来年はスマートグリッド最新情報や親子で話し合うことができるようなテーマも。

2017年4月に創刊した「エネルギーフロントライン」、略称「エネフロ」は創刊3年目に入った。敬遠されがちなエネルギー関連の情報を、分かりやすく解説するという編集方針は変わらない。多くの皆さんのご愛読に心から感謝したい。

さて、恒例年末座談会。「2019年のエネフロを振り返る」と題して、今年掲載した記事をふりかえる。

【座談会参加者】
安倍宏行(エネルギーフロントライン編集長)
ナオ(エネフロ編集部)
テッペイ(エネフロ制作会社)
アスミ(大学生・エネフロ編集部インターン)

2019年一番印象に残った記事は?

安倍2019年の人気記事ランキングはこのような結果なりました。

安倍最初に、今年一番印象に残っている記事を順番に聞いていきたいと思います。まずは4月から大学院に進学するインターンのアスミさん。2年間エネフロのリサーチを担当してくれました。2019年はアメリカに留学していましたね。

アスミはい、アメリカのワシントンDCに留学していました。あちらでは皆さん、環境意識が高く「東京オリンピックで、日本はどんな環境対策を取るんだ」とよく聞かれます。「日本では水素自動車が走るそうじゃないか」とか、「東京オリンピックはすごいエコだと聞いてるけど本当にそうなのか?」とか聞かれましたね。それでエネフロの記事を読み返したら、東京オリンピックのメダルはすべて「都市鉱山」から作るという情報があって、「これはみんなに自慢しなきゃいけないな」と思ったのを覚えています。このような海外に発信していけるネタが印象に残っています。

写真)

© エネフロ編集部

安倍なるほど。ナオさんはリサーチだけでなく、取材や原稿の校正を担当してくれていますが、今年、どの記事が一番印象に残っていますか?

ナオ一つ目は2位にランクインしていた、「日の丸衛星が地球温暖化防止に貢献」という記事です。編集長と一緒にJAXAに取材に行き、「いぶき2号」の開発を担当された前プロジェクトマネージャー平林毅さんに話を聞きました。温室効果ガスの観測地点がそもそも地上で240点しかなかった、という話は衝撃的でしたね。しかし、温室効果ガス観測の専用衛星として世界で初めて運用された「いぶき」のおかげで、3日間で5万6000点も観測できるようになったという話には、読者の皆さんも驚いたのではないでしょうか。

写真) 温室効果ガス観測技術衛星2号「GOSAT-2」軌道上外観図
写真)温室効果ガス観測技術衛星2号「GOSAT-2」軌道上外観図

© JAXA

もう一つは、中部電力主催の「環境エネルギー塾」の取材です。参加した大学生が、見聞きしたものを冷静に分析して質問している姿がとても印象的でした。また、浜岡原子力発電所の安全対策見学を踏まえ、日本のエネルギーミックスについて真剣に議論していた姿も印象に残っています。

写真) 環境エネルギー塾 発表の様子
写真)環境エネルギー塾 発表の様子

© エネフロ編集部

安倍記事の校正やウェブ管理などを担当しているテッペイさんはどうですか?

テッペイ私は、社会で環境に対する意識がとても高まっていると感じました。「バイオプラスチックは環境問題の救世主?」の記事も、「対策急げ!プラスチックゴミ問題」も、ソーシャル上でたくさん拡散されました。また、男性だけでなく女性にもよく読まれているのがデータ上で出ています。環境負荷みたいなものをみんな意識し始めた年ではないでしょうか。

写真) イメージ図
写真)イメージ図

出典) pixabay photo by Hans

安倍今年、スウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥンベリさんの国連でのスピーチが話題になりましたよね。

写真) スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん
写真)スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん

出典) Twitter : @GretaThuberg

その直後に東京大学政策大学院の有馬純教授にインタビューしました。その時、有馬教授から、新聞とかメディアはグレタさんをもてはやすけど、冷静に考えると彼女の世界観はごく一部の国にしか当てはまらない。これからエネルギー需要が爆発的に伸びていくアフリカやアジアの国々に対して、グレタさんのメッセージは全く響かない、という話を聞いて、本当にそうだと思いましたね。再エネ100%というのは簡単ですが、それはすなわちエネルギーコストの上昇であるということもきちんと考えねばならない、と力説されていました。

写真) 東京大学政策大学院教授 有馬純氏
写真)東京大学政策大学院教授 有馬純氏

© エネフロ編集部

あと、今年、ホルムズ海峡で起きたタンカー攻撃の時、日本エネルギー経済研究所首席研究員の小山堅さんにインタビューしましたが、日本はエネルギー安全保障をしっかりと考えていかなきゃいけない、とおっしゃっていました。大事な視点だと思います。一般のメディアはエネルギー問題についてそこまで詳しく報道してくれないので、エネフロの役目は重大だと思います。

写真) 日本エネルギー経済研究所常務理事・首席研究員 小山堅氏
写真)日本エネルギー経済研究所常務理事・首席研究員 小山堅氏

© エネフロ編集部

周りのエネフロ読者の反応は?

安倍アスミさんの周りのお友達はエネフロを読んでどのような感想を持っていますか?

アスミプラスチックをやめたら、今度は紙を使わなきゃいけないということになりますよね。そうすると、紙を作るには木を切らなくてはいけない、という違う問題が出てくる。どうしたらいいのだろう、と友人と話していたときに、エネフロの中に「『紙の向こうに森が見える』間伐を促進するエコな取り組み」という記事があったので紹介しました。環境問題は複雑に絡み合っているということがわかって良かったと言っていました。

私たちが個人レベルでできることが記事の中で紹介されるといいですね。例えば、「東京オリンピックでこんなエコなボランティア活動があるので、参加してみたらどうですか?」とか、提案するといいと思います。

安倍なるほど、いい意見ですね。ナオさんの周りの意見はどうでしょうか。

ナオ先日、友人6人で食事をした時に、東大の有馬教授の「地球温暖化防止はエネルギー安全保障の観点から考えよ」について話をしたらすごく盛り上がったんですよ。

安倍盛り上がったんですか?(笑)どういう集まりなんですか?

ナオ40代のアメリカ人とフランス人、残り4人が日本人でした。日本人の女性1人が原子力発電はもう少し慎重に進めるべきだという意見だったのですが、有馬教授の記事を読んで、「確かに言っていることには納得できるし、冷静に考えられるきっかけになった」と言っていました。
フランス人とアメリカ人は、日本にエネルギーのことを話し合える人が少ないことにすごくびっくりしていました。彼らの国だと、自分たちの国のエネルギー問題について、パーティーなどで普通にディスカッションするそうですが、日本はエネルギーのほとんどを海外に頼っているのに、なんでこんなに危機感がないのか?と聞かれましたね。

安倍日本人の危機感のなさですか。

ナオ資源が少ない日本が、何故そんなに楽観的でいられるのか、とても不思議だと言われました。「有馬教授のような意見がもっと拡散されるといいよね。」とアドバイスされてしまいました。

安倍テッペイさん、社内の評判はどうですか?

テッペイ社内の若手3人に人気記事のランキングを見せて、気になる記事を選んでもらいました。入社3年目の男性は、「5Gで社会が変わる!超高速通信の衝撃」と、「夏本番!熱中症対策最前線」を選びました。5Gの話はコンパクトで分かりやすかった、と言っていました。また、熱中症の話で今話題のカジュアル衣料チェーンの「ワークマン」が取り上げられていて面白かったそうです。

また、日本の電力事情についてどう思うか聞いたら、「電力インフラも絶対的なものではないと再認識した。ある一定の所まで考える人は多いかもしれないが、自分で何ができるかと考えると、そこでみんな思考停止になるのかもしれない」と話していました。

次は入社3年目の女性ですが、選んだのが『「空飛ぶタクシー」実現近く。』と、季節のネタ、「インフルエンザにかからないために」でした。空飛ぶタクシーの記事は、切り口が面白そうだったので読みましたとのことでした。「ためになるカモ?」シリーズは身近な感じがして読みやすいという意見でしたね。

最後が、エネルギー業界とも関わりのある入社5年目の女性です。「対策急げ!プラスチックごみ問題」の記事を読んだものの、何をしたらいいかちょっとよく分からない、という意見でした。「南海トラフ地震に備えよ!広がる海底観測網」の記事も挙げていて、正常化バイアスが自分にも当てはまる、という点で非常に勉強になったと言っていました。

電力・エネルギー事情に関しては、持続可能な循環型社会である必要性は認識しているが、風力や太陽光だけでは安定せず、需要も満たせないという現実問題を直視すべきだ。また、短絡的なエコ議論ではなく、日本のエネルギーの理想的な需給バランスを徹底したうえで、政府がやること、我々ができることを見極めたいと思う、と意見をくれました。

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© エネフロ編集部

今後取り上げたいテーマ

安倍今後こんな記事が欲しいなとか、取り上げてほしいテーマはありますか?

アスミ日常で出来るようなこと、例えば食品ロスの記事で、ネギ味噌のレシピが載っていたと思うのですが、そういうちっちゃな「知れて得した」的な記事は楽しく読めますね。あと、お子さんがいる家庭だと、幼児の熱中症対策とか、しもやけ対策とか、そういう情報も読まれそう。

写真) ネギみそ(材料:長ネギの青い部分1本分、顆粒和風だし一つまみ、味噌大さじ3、砂糖小さじ1、オリーブオイル大さじ3)
写真)ネギみそ(材料:長ネギの青い部分1本分、顆粒和風だし一つまみ、味噌大さじ3、砂糖小さじ1、オリーブオイル大さじ3)

出典) Photo by 筆者

安倍ナオさんはどうですか?

ナオ私は来年、教育をもう少し取り上げたいなと思っています。理由は環境エネルギー塾で学生たちが、「小学生とか中学生の時にエネルギー問題に関わるきっかけがもっとあったら良かった」と言っていたからです。大人が子供に話したくなるようなネタとか、子供に何か考えるきっかけを与えるようなネタを提供出来たら、日本の未来に貢献できるのかなと思いました。

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© エネフロ編集部

安倍テッペイさんはどうですか?

テッペイ5Gは来年以降さまざまなサービスが出てきます。IoTも進化して、『「新しいコミュニティの形を創る」中部電力事業創造本部の挑戦』の記事にもありましたが、スマートグリッドがいよいよ本格化してきます。その辺の最新情報が知りたいですね。

安倍私は来年も地政学的に中東やアジアで緊張が高まる可能性はあると思っています。節目節目でグローバルな視点の記事を出していきたいと思います。あとは、2020年次の大きなテーマは「電力システム改革」総仕上げですね。日本の電力システム改革は現在進行中なので、実際にどのような影響がでてくるのか、注目して取材していきたいと思います。

そして、水素社会です。災害時に活躍、最新テクノロジー「東京モーターショー2019」の記事で書きましたが、JAXAが月に探査機を飛ばして水があるかどうか調査するそうです。そういう夢のある話も取り上げたいなと思っています。

2020年もエネフロは読者の皆さまの関心が高いテーマをどんどん取り上げていきたいと思います。こんな記事が読みたい、と思われる方は、編集部までご連絡ください。これからもエネフロをよろしくお願いします。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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