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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.07 「空飛ぶタクシー」実現近づく

写真)乗客航空機(Passenger Air Vehicle:PAV)
出典)AuroraFlightSciences Boeing Company

まとめ
  • 経済産業省と米ボーイング社が電動化された航空機で技術協力。
  • 「空の移動革命に向けた官民協議会」でロードマップをまとめ、2023年以降の実用化を目指している。
  • 「空飛ぶクルマ」普及の障壁になるのは法規制、実現するための課題は多い。

昨年からたびたび話題になるEVシフト。言わずと知れた、EV=電気自動車がガソリン車に取って代わる世界的潮流の事をいう。しかし、この電動化の波は地上から空をも覆おうとしている。

こうした「空飛ぶタクシー」は、急速に開発が進む、eVTOL (Electric Vertical Take-Off and Landing:電動垂直離着陸機)と呼ばれる電動航空機によって実用化が目前に迫っている。まさしく、“空の移動革命”とも言える動きが一気に加速してきた。大手航空機メーカーやITベンチャー、さらには国も熱い視線を注ぐこの動きは私たちに一体何をもたらすのだろうか。

海外企業の攻勢

今年1月15日。世界最大の航空機メーカー、米ボーイング社の技術部門トップ、グレッグ・ハイスロップCTO(最高技術責任者)が経済産業省を訪れた。技術協力の強化を目的とし、両者は「日本国経済産業省とボーイング社との間の航空機の技術協力に係る合意書」に署名した。合意の概要は以下の通りだ。政府も本腰を入れ始めた。

  • 経済産業省とボーイング社は、航空機に関する電気推進に必要な電動化技術、 複合材製造技術、自動化技術等について協力
  • 経済産業省は、上記の協力分野の日本の適切な可能性のあるパートナーの特定、ボーイング社への紹介、日本企業に対する支援の実施
  • ボーイング社は、将来の航空機輸送に関する戦略的ビジョンの情報提供及び技術の実用化に向けた努力により、上記分野での協力を強化
写真)磯﨑経済産業副大臣、ボーイング社 チーフ・テクノロジー・オフィサー
グレッグ ハイスロップ CTO 署名式にて
写真)磯﨑経済産業副大臣、ボーイング社 チーフ・テクノロジー・オフィサー グレッグ ハイスロップ CTO 署名式にて

出典)経済産業省

ボーイング社の「空飛ぶタクシー」

1月23日、米ボーイング社は操縦士なしで飛行する、いわゆる「空飛ぶタクシー」の試験飛行に成功したと発表した。マナサス(バージニア州)で実施された飛行試験では、長さ9.14メートル、幅8.53メートルの試験機は垂直離陸し、そのままの状態で空中に浮揚した後、垂直着陸した様子が動画で紹介された。

動画)OUR FIRST FLIGHT: Passenger Air Vehicle

出典)ボーイング社

各社の開発状況

こうした「空飛ぶタクシー」は、大きな需要が見込まれ、近年世界各社の開発競争が激化している。

配車サービスでおなじみのUber社は、将来的に顧客がボタンひとつで都市内及び周辺地域を高速で飛行できる、新しいオンデマンド VTOL (Vertical Take-Off and Landing:垂直離着陸機)ネットワークの構築を目指している。不動産企業、航空機メーカー、電気自動車充電器メーカー、自治体などと提携、最初のパートナー都市は、米テキサス州ダラスとフォートワース、 アラブ首長国連邦ドバイだ。2020 年までに 初のデモンストレーションを目指すというからその本気度が伝わってくる。

図)Uberの VTOL (Vertical Take-Off and Landing:垂直離着陸機)予想図
図)Uberの VTOL (Vertical Take-Off and Landing:垂直離着陸機)予想図

出典)Uber

また、2017年9月には、ドイツのVolocopter社が開発した無人の「空飛ぶタクシー」に使用するドローンの試験飛行にドバイで成功しており、こちらも、試験開始から5年以内の実用化を目標としている。

写真) The Volocopter 2X
写真) The Volocopter 2X

出典)Volocopter

Airbus社も2018年1月にVTOL、Vahana(ヴァーハナ)の試験飛行を米オレゴン州にて成功している。

写真)Airbus社のVTOL Vahana
写真)Airbus社のVTOL Vahana

出典)Airbus

無論、中国メーカーも黙っていない。中国企業ジーリー(吉利)は2017年に折りたたみ翼式「空飛ぶクルマ」を開発していた米Terrafugia社を買収した。ジーリー(ジーリー・ホールディンググループ=浙江吉利控股集団)は、中国の自動車メーカーとして国内屈指の規模を誇り、スウェーデンのボルボ・カーズの親会社であり、2010年にはボルボ・カーズを買収、2013年には英タクシーメーカー「ロンドン・エレクトリック・ビークル・カンパニー」を買収。2017年にはマレーシアの自動車メーカー「プロトン」の株式49%を取得し、英スポーツカー・メーカー「ロータス・カーズ」の株式51%も取得するなど、積極的なM&Aを進めている。

2019年にも市販が予定されているTransitionは、ガソリンエンジンとモーターのハイブリッドであり、完全なる電動航空機ではないが、より実用的なことから、他社より先に商業ビジネスを開始できるかもしれない。

図)Transition 完成予想図
図)Transition 完成予想図

出典)TERRAFUGIA

日本では、トヨタグループやNEC、パナソニックなどの支援を受けた「CARTIVATOR(カーティベーター)」や愛知県の「プロドローン」などが名乗りを上げているが、まだプレイヤーが少ないのが残念だ。上記に上げた海外企業が早ければ2020年代前半には何らかの形で商用化にこぎつけるのではないだろうか。

図)SKYDRIVE イメージ
図)SKYDRIVE イメージ

出典)CARTIVATOR

日本国内の動き

「空飛ぶタクシー」を含む、“空の移動革命”は国土の広いアメリカや中国、もしくは中東などでは大きなビジネスを生むと予想されるが、国土の狭い日本で現実的なのだろうか?そう思う読者は少なからずおられるはずだが、実は政府内で検討は既に進んでいる。

経済産業省は、国土交通省と、日本における「空飛ぶクルマ」の実現に向けて、官民から成る「空の移動革命に向けた官民協議会」でロードマップをまとめた。

その中で「空飛ぶクルマ」は、都市の渋滞を避けた通勤、通学や通園、離島や山間部での移動手段(「空飛ぶタクシー」はこれに含まれる)、災害時の救急搬送や迅速な物資輸送、さらには「娯楽」などに使われることを想定している。

経済産業省制作のプロモーションビデオによると、物の輸送は2023年に、地方での人の移動は2020年代半ばの実用化、都市での人の移動は2030年代以降実用化拡大を予定しているようだ。

出典)経済産業省

図)都市で移動する「空飛ぶクルマ」の予想図
図)都市で移動する「空飛ぶクルマ」の予想図

出典)経済産業省 Designed by KEN OKUYAMA

いずれにしても、重要なのが「空飛ぶクルマ」が社会に受容されるルール作りだ。ロードマップには、機体の安全性や技能証明の基準等の制度整備や、安全性・信頼性を確保し証明する技術や自動飛行・運航管理・電動推進に関する技術の開発などが載っている。

しかし、そうした技術面の制約よりも、法規制が「空飛ぶクルマ」普及の壁になるのは間違いない。道路交通法や航空法などの現行法下では、地上を走る「クルマ」が空に飛び立つことは出来ない。経済産業省、国土交通省だけでなく、警察庁や他の関係省庁を巻き込んで、法改正や場合によっては新たな立法に取り組まねばならないだろう。そうなると実現には強い政治のイニシアチブが必要不可欠だ。

図)空の移動革命に向けたロードマップ
図)空の移動革命に向けたロードマップ

出典)経済産業省

ドローンハイウェイ構想

こうした中、電力事業者が保有する「送電鉄塔、送電線、変電所、電柱など」のインフラデータと、地図情報を販売する会社が開発する「空の3次元地図」を組み合わせ、「安全・安心な空の道」を実現する取り組みが始まっている。

それが「ドローンハイウェイ構想」と呼ばれるものだ。東京電力グループの東京電力ベンチャーズと地図情報調査・制作・販売会社のゼンリン、それに楽天が提携、すでに荷物をドローンで送電線に沿って運ぶ実証実験が行われている。送電線の周辺には障害物が少なく、ドローンが安全に飛行するのに向いている。

出典)東京電力ベンチャーズ株式会社

こうした取り組みは現時点ではあくまでドローンの飛行を想定したものだ。今後は、「空飛ぶクルマ」の為の空中専用道路網をどう構築するかが最大の課題となろう。その場合、地上権などの問題をどうクリアするかや、上空で事故が起きたときの法規制の問題、さらには、空から物が落ちてきて損害が出た場合の保険のカバーの範囲なども今後議論されることになると思われる。いずれにしても、2020年前半に「空飛ぶクルマ(タクシー)」が実用化するためのハードルはかなり高いと言えよう。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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