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テクノロジーが拓く未来の暮らし

Vol.09 社会が一変 「無線電力伝送」の実力

図)ワイヤレス給電レーン(イメージ)
出典)CanStockPhoto

まとめ
  • 無線電力伝送 (WPT)システムの開発が世界で進んでいる。
  • 伝送距離が短い「近接結合型」と長い「空間伝送型」がある。
  • 日本は国際競争力を確保する為、世界に先駆け制度化を進めるべき。

スマートフォンやタブレットにPC、オフィスのデスク周りはさまざまな電化製品を充電する無数のコンセントとケーブルでごちゃごちゃ。よく見る風景だ。

そんな時、ワイヤレスで機器に給電できたら便利だとつくづく思う。実はすでに一部の携帯電話はワイヤレス給電できる。「Qi(チー)」と呼ばれる規格がそれだ(NTTドコモは「おくだけ充電」と呼んでいる)。ワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC:Wireless Power Consortium)が策定したワイヤレス給電国際標準規格である。現在は、15W以下の低電力向け規格のみ。呼称は中国語の「気(チー)」から来ているという。Androidの一部機種が搭載で先行していたが、iPhoneも8から実装されている。

写真)ワイヤレス携帯給電器
写真)ワイヤレス携帯給電器

©エネフロ編集部

写真)ワイヤレス給電モバイルバッテリー
写真)ワイヤレス給電モバイルバッテリー

©エネフロ編集部

また、さらに進化したモバイル機器給電システムもアメリカで開発された。「Pi(パイ)」と呼ばれる規格がそれだ。下の写真のように富士山型で周りにデバイスを置くだけ、同時に4台、もしくはそれ以上の機器のワイヤレス給電が可能だという。実用化されたら大いに注目を集めそうだ。

写真)Piによる給電イメージ図
写真)Piによる給電イメージ図

出典)Pi Inc.

・無線電力伝送「近接結合型」

こうした技術を、無線電力伝送 (WPT:Wireless Power Transmission/Transfer)システムという。先ほど紹介したモバイル端末が給電できるような装置は「近接結合型」と呼ばれており、コイルを介した磁界共振や、送受電の電極を介した電界結合などにより電力伝送するもので、伝送距離は短いが、大電力化・高効率化が可能で、既に実用化されている。

図)ワイヤレス給電システムの使用シーン
図)ワイヤレス給電システムの使用シーン

出典)東芝HP

高速道路などで電気自動車(EV)へのワイヤレス給電も実現するだろう。「未来のモビリティ」の姿は以下の動画のように、EVはワイヤレス給電装置が埋め込まれたレーンを走るようになる。もうEVの航続距離を気にせずにドライブを楽しむことができる。

動画)Imagine a 2040 Future (Nissan)

さらに一歩先を行く研究成果も出ている。それが「切り取り可能なワイヤレス充電シート」だ。科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業のERATO川原万有情報網プロジェクトが開発したこの充電シートは、好きな形に切って給電することができる。家具・バッグ・衣服など身の回りの製品の形状に合わせてシートを切断し、貼り付けるだけで、ワイヤレス給電が可能な製品を手軽に作製できるという。ケーブルに縛られないで街を闊歩できるのもそう遠い未来ではなさそうだ。

写真)切り取り可能なワイヤレス充電シート
写真)切り取り可能なワイヤレス充電シート

出典)東京大学

写真)ワイヤレス充電可能な鞄・衣服
写真)ワイヤレス充電可能な鞄・衣服

出典)東京大学

・無線電力伝送「空間伝送型」

一方、まだ実験段階なのが「空間伝送型」。空中線を用いて空間へマイクロ波などの電波を輻射(ふくしゃ=放射)することで電力を伝送するものだ。まずは、工場内のセンサー機器への給電などを目指して国内外で実験が進んでいる段階だが課題も多い。

・実用化への課題

夢の技術WPTだが、その実用化に向けては以下の課題が指摘されている。

1 人体防護・安全性の確保

WPTを安心して利用できるよう、人体への高い安全性を確保する必要がある。

  • 電波防護指針やICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)ガイドラインの遵守。そのための評価法や測定法の明確化。
  • 高度伝搬路推定による人体検出技術と高度ビーム制御による人体回避技術開発。

2 他の無線システムとの共用化

周波数が逼迫している状況下、他の無線システムとの共用化を推進する必要がある。

  • 他の無線システムとの共用化を実現するための技術要件の明確化。
  • 高度ビーム制御などによる干渉低減や干渉回避技術の開発。

3 世界最先端技術の開発による高度利用化

産官学が連携して研究開発を進めることで、高効率的な電波利用を実現する必要がある。

  • マルチパス(マルチビーム)による電力伝送の高効率化技術の開発。
  • 複数受電機器への同時電力伝送技術の開発。

いずれにしてもWPTの技術開発競争は世界レベルで行われている。日本はこの分野で国際競争力を確保するために、世界に先駆けて制度化を進め、国際標準を獲得するとともに、高度利用のための新技術開発を産業界として積極的に推進することが求められる。

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