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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.14 拡大続くアジアのエネルギー市場 日本の最新技術に熱視線

写真)第42回インドネシア石油協会(IPA)展示会正面入り口
©大塚智彦

まとめ
  • インドネシアで石油や天然ガス、電力などエネルギーの世界的見本市が開催。
  • 日本企業が最新技術を紹介。
  • インドネシアは海底資源の新鉱区探査・開発に注力、日本企業に大きなチャンス。

インドネシアの首都ジャカルタの中心部にあるジャカルタ・コンベンション・センター(JCC)で5月2日から4日まで石油や天然ガス、電力などエネルギーに関する世界的な見本市である「第42回インドネシア石油協会(IPA)展示会」が開催された。

展示会にはエクソンモービル(米)、シェブロン(米)、ペトロチャイナ(中国)、ムバダラ・ペトロリウム(アラブ首長国連邦)、ペトロナス(マレーシア)、デュポン(米)など世界のエネルギー関連企業に、インドネシアのプルタミナ、プロウェル・エナジーなど118企業・団体などが出展。インドネシアを中心とする東南アジアでの企業活動や最新技術を紹介、PRした。

写真)ムバダラ・ペトロリウム(アラブ首長国連邦)のブース
写真)ムバダラ・ペトロリウム(アラブ首長国連邦)のブース

©大塚智彦

初日2日の開会式にはジョコ・ウィドド大統領が関係閣僚とともに出席し「自分の任期が終わる2019年までにインドネシアの石油、ガスの輝かしい時代を取り戻そう」と述べてここ数年続く天然資源の産出・生産量の低迷と海外からの投資停滞の再活性化に向けた期待を表明した。

インドネシアの石油・ガス部門への投資総額は2014年に207億2000万ドルだったが、2015年には173億8000万ドル、2016年には127億4000万ドル、2017年には79億8000万ドルと減少の一途をたどっている。

写真)開会式に参加するジョコ・ウィドド大統領
写真)開会式に参加するジョコ・ウィドド大統領

出典)第42回インドネシア石油協会(IPA)展示会

一方でジョコ・ウィドド大統領はエネルギー鉱物資源省がこれまでに海外からの投資に関する186の規制緩和を実施し、海外から投資しやすい環境の整備に努力していることを強調した。

写真)会場のあちこちで行われるプレゼンに多くの人が集まり活気を見せた
写真)会場のあちこちで行われるプレゼンに多くの人が集まり活気を見せた

©大塚智彦

高性能ガスタービンを提案の川崎重工業

こうした中、日本企業の持つ高い技術力に会場の熱い視線が注がれていた。

川崎重工業の産業用ガスタービンの販売・サービスを担うマレーシアの子会社「カワサキ・ガスタービン・アジア(KGA)」は、高性能のガスタービンをPR。KGAは2018年4月1日に電力需要が高まりを見せているインドネシアでのさらなる市場開拓、新規導入をにらみ、ジャカルタに新たに駐在員事務所(日本人駐在員2人)を開設したばかりだ。

写真)KGAのガスタービン
写真)KGAのガスタービン

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KGAの高橋滋セールスディレクターは「インドネシアは石炭による火力発電が中心ではあるが、今後に向けガスタービンの需要の潜在力はある」と話す。川崎重工業は欧州やパキスタンなどでガスタービンの実績があり、さらに東南アジアではマレーシアに次いでタイとインドネシアを主要ターゲットにしてビジネスを展開している。

写真)KGA高橋滋セールスディレクター(左)とインドネシア人スタッフ
写真)KGA高橋滋セールスディレクター(左)とインドネシア人スタッフ

©大塚智彦

タイは日本企業が多数進出しており、大型工場を持つ日本企業、タイのローカル企業さらに新たにタイに進出する日本企業を対象に積極的な提案を続けているという。

マレーシアでは2011年にクアラルンプール近郊のシャーアラムにガスタービンM7A全機種を対象としたオーバーホール工場を設置。2015年にはガス・マレーシア・エネルギー・アドバンス社のペナン州の工場に20MW級のカスタービン発電設備2台を納入するなど着々と実績をあげている。

また、インドネシアには2011年9月に7.2MWクラスのガスタービン発電設備を納入したほか、2016年3月には国営石油ガス会社「プルタミナ」の子会社がジャワ島北部で運営する洋上プラットフォーム施設に1.5MW級ガスタービン発電設備2台を納入している。このほかにもジャカルタ、ブカシ、スラバヤ、セプ、リアウなどで同社ガスタービンが稼働しているという。

海底資源探査の最新技術を紹介するJGI

IPAに8年間連続で参加している「地球科学総合研究所(JGI)」は、最新の「超高分解能力3次元探査」技術をPRした。

熊本地震でずれた日奈久断層が実際はどのくらい動いたのかを八代海の断層帯海域でこの最新の3次元調査によって明らかにした実績がある。この最新技術はもとはといえば海底の石油、天然ガスなどの資源探査が主目的だが、その高い探知能力から海底の地震による影響や断層調査にも活用されているという。

JGIの菊地秀邦HSCQ室長注1)は「この技術は日本ではJGIが唯一であり、今後海底の資源探査の分野で東南アジアに進出することも視野に入れている」と話す。

たとえば、海底資源を調べる井戸を掘る(リグを打つ)前にその地点の海底地層が固いのか柔らかいのか、「シャローガスと言われる浅層ガスがどうなっているのか」などの海底状況を事前に調べるいわゆる「サイト・サーベイ」が必要になるという。その調査にJGIの「超高分解能力」の技術によるデータ採取、分析が役立てるというのだ。

写真)JGIの超高分解能力3次元探査でデータ化された海底の3次元映像
写真)JGIの超高分解能力3次元探査でデータ化された海底の3次元映像

©大塚智彦

同技術は陸上でも可能だが、ノイズが多いことから「海底での調査のほうが良質のデータがとれる」(菊地室長)という。同社は新潟県沖の水深1000メートルの海底でメタンハイドレートの調査データをまとめたほか、日本海溝の水深8000メートルでの探査に携わるなどの実績を残している。

写真)JGIの菊池秀室長(左)と関係者
写真)JGIの菊池秀室長(左)と関係者

©大塚智彦

菊池室長は「提案があれば日本から技術者と機材も持ち込み、インドネシア人技術者とともに海底資源の探査のお手伝いをしたい」と意欲を示した。

インドネシアでは石油・ガスの消費需要は年々増加しており、供給が追い付かなくなる可能性も指摘されている。ジョコ・ウィドド大統領は開会式で国営エネルギー会社「プルタミナ」が何年もの間新たな大規模鉱区を探査、開発していないことについて「プルタミナは1970年代以降、大規模鉱区を探査していないというではないか。一体どういうことなのだ」と苦言を呈した。

IPAのロナルド・グナワン会長も「インドネシアは今後20〜30年は石油・ガスがエネルギー消費全体の約半分を占めることになるだろう。それだけに新鉱区の探査・開発は重要だ」と述べて、大統領と同じ認識を示した。

エネルギー関連ビジネスが急拡大するインドネシア。今後、日本企業が貢献できる可能性はますます高くなりそうだ。

  1. HSEQ:Health(衛生)、Safety(安全)、Environment(環境)、Quality(品質)の略。環境安全衛生及び品質室。
大塚智彦 Tomohiko Otsuka
大塚 智彦  /  Tomohiko Otsuka
Pan Asia News 記者
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1884年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。

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