テスラのソーラー充電ステーション アメリカ・カリフォルニア州
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- まとめ
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- 世界で一番厳しいとされてきた米カリフォルニア州の排気ガス規制が他国のEVシフトの中、出遅れ感が出始めている。
- 経済効率を優先した規制緩和が技術進歩の足を引っ張ったことが主な原因だった。
- そうした中、排気ガスを一切出さない自動車(ZEV)しか販売を許さない規制案が提出検討されている。
米国のカリフォルニア州は、1960年代からその環境対策において、全米の牽引役を務めただけでなく、特に自動車の排気ガス規制で世界の自動車メーカーに大きな影響力を持った。その先見性と先進性は、やがて世界的な環境保護の潮流につながってゆく。「カリフォルニアで起こることは全米に、そして世界に広まる」と言われた所以である。
だが、1970年代から1980年代に環境規制の緩和と巻き返しが起こり、カリフォルニア州の先進性の一部が失われるとともに、排気ガスの排出が増え、その結果健康問題が起こるようになった。
こうした結果を受けて、カリフォルニア州では電気自動車(EV)などの、排気ガスを一切出さない自動車(ZEV)しか販売を許さない規制が議論されるなど、再び世界の環境保護リーダーの地位を目指している。米国内や世界の環境政策に絶大な影響力を持つカリフォルニア州の排気ガス規制の近未来を探ってみた。
欧米や中国に遅れ
カリフォルニア州では、毎年2百万台の新車が販売される。これは全米の販売台数の12%に相当し、新車市場として同州は一国並みの規模を持つ。
そのカリフォルニア州のブラウン州知事は10月に、環境問題を統括する州大気資源局のメアリー・ニコラス局長に対し、「なぜわが州は炭素排出車の販売を全面禁止にする方向に動いていないのか」といら立ちを見せた。
出典)flickr photo by Neon Tommy
このエピソードには伏線がある。カリフォルニア州議会のフィル・ティン議員(台湾系二世、中国名は丁右立)は9月に、炭素排出車の販売を2040年に全面禁止する法案を提出する意向を明らかにしているからだ。民主党員でサンフランシスコ地区選出のティン議員は、「わが州は、以前は環境問題で世界の先端を走っていたのに、今や追いつかなければならない立場だ」と述べた。
今年の夏に英国とフランスがガソリン車とディーゼル車の販売を2040年に全面禁止する方針を発表したばかりでなく、以前は「後進国」と呼ばれたインドが炭素排出車の販売を2030年に全面禁止する方針を打ち出し、新興国の中国も後に続く意向を表明している。ブラウン知事やティン議員の焦りは、もっともだ。ブラウン知事は、「中国にできて、なぜカリフォルニアにできないのだ」と語ったとされる。
しかし、ティン議員の法案は自動車業界から強い抵抗を受けることが予想されている。また、環境問題で規制緩和を進めるトランプ大統領からの支援は望み薄だ。現地『ロサンゼルス・タイムズ』紙の11月1日付社説は、「(政府の強制力が働きにくい)自由市場は、化石燃料を使用する自動車へのわれわれの依存を断つことを遅らせているのは明らかだ」と論じた。その上で同紙は、「トランプ政権は当てにならないが、カリフォルニアは世界の進歩的なリーダーたちと力を合わせるべきだ」と主張した。
では、カリフォルニアの指導者たちが嘆く不十分な環境規制の現状とは、どのようなものなのだろうか。
それはカリフォルニアから始まった
米国における自動車の排気ガス規制の発端は、1961年にカリフォルニア州で施行された「クランクケース・エミッション規制」であり、同州では1967年に大気資源局が設立されて排気ガス規制も始まった。この大気資源局設立法案に署名したのが、当時のロナルド・レーガン州知事である。
出典)著者 Unkown
同州のロサンゼルスでは第2次世界大戦中の1943年の夏にスモッグが全米で初めて観測されるなど、自動車の利用率が高く、地形的な特徴も合わさり大気汚染が深刻であったため、環境規制の先駆けとなったのだ。
こうしたカリフォルニア州での流れを受ける形で、1968年には連邦レベルで排気ガス規制が実施されて、カリフォルニアから始まった大気汚染に対する規制が全米に拡大されてゆく。さらに、1970年12月にはマスキー法(大気浄化法)が成立して、同州の先見性と先進性が証明されたのだった。
現在でもカリフォルニア州は、連邦法より厳しい排気ガス規制を施行しており、その規制や基準はアリゾナ、コネチカット、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ニュージャージー、ニューメキシコ、オレゴン、ニューヨーク、ロードアイランド、バーモントなど他州でも採用されている。
だが、1970年代から1980年代にかけての石油ショックや米自動車産業の衰退による米経済の弱体化を避けるため、排気ガス規制を骨抜きにする連邦レベルの緩和が行われた。これを米大統領として推進したのが、1960年代にカリフォルニア州知事として大気汚染問題と取り組んだロナルド・レーガン氏であったことは、歴史の皮肉だ。
このような規制緩和による後退や堅調な経済発展もあり、カリフォルニア州における交通・運輸関係の排気ガスの排出量は2014年から2015年の間に前年比2.7%上昇した。この悪化の「主犯」は、乗用車からの排気ガスが3.1%増えたことであった。喘息や癌など健康被害の報告も増加している。
現在カリフォルニア州では約2500万台の乗用車が使われているが、CO2をまったく排出しない自動車のうちの33万4000台に過ぎない。
同州は法律によって、2020年までに地球温暖化をもたらす排気ガスの排出を1990年以前のレベルに下げるよう義務付けている。2030年には、排気ガスを1990年レベルから40%カットすることが定められている。だが、排気ガスが逆に増加する現在、目標達成が危うくなっており、2020年から2030年の間に毎年5%という非常に大規模な削減を行わなくてはならない計算だ。
さらに、州法で義務付けられてはいない将来的な目標として、2050年には排気ガスを1990年のレベルから80%削減することが掲げられている。このため、排気管をもたず、排気しない自動車(ZEV)しか販売を許さない法律が議論されているのである。「自動車販売大国」カリフォルニアでZEV規制が強化されることは、全世界の自動車産業を揺るがし、その規制が全世界に広まるきっかけとなる。
2018年から規制強化
カリフォルニア州のZEV規制は1990年代から存在し、改正が重ねられてきた。この規制が存在することで、全世界の自動車メーカーが次世代自動車開発に取り組む動機となってきた。
現在は、州内で年間6万台以上の自動車を販売するメーカーに対し、ZEVの比率を14%以上にすることを義務付けている。2018年からは年間2万台以上と、より小規模なメーカーにもZEV比率義務が適用され、さらに一律義務比率が16%に引き上げられる。また、日本のトヨタ自動車の「プリウス」などハイブリッドカーはZEVとは認められなくなる。
さらに重要なのは、前述の他の9州でも「カリフォルニア基準」が採用されており、それらを合わせた全米の自動車市場の約25%で規制が強化されることだ。時代はまさに、電気自動車(EV)などのZEVを求めている。
現行のZEV比率義務では、ZEVの販売台数が一定比率を上回った場合にクレジット(CO2削減量/実績係数)が得られる一方、下回った場合は1クレジット当たり5000ドルの罰金を支払うか、クレジットを多く保有する他メーカーからクレジットを購入しなければならない。
トヨタは2017年8月末までの1年間で、義務量を大幅に超過した余剰枠がある米EV大手でカリフォルニア地元企業のテスラモーターズから3万5200クレジットと、業界で最も多くのクレジットを購入している。ZEVクレジットは、EVモードの航続距離に応じて付与されるため、テスラなどは電池容量の大きなモデルの投入に注力している。
出典)Tesla
同州フレモントに工場を構えるテスラは、2017年4~6月期にZEVのクレジット販売で1億ドル(113億円)の売り上げがあった。だが、同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、「ZEV規制が存在するおかげで、自動車メーカーはEVの開発や生産に力を入れなくても済んでしまう」との懸念を表明している。
出典)Flickr Photo by JD Lasica
こうした面でも、排気ガスを一切出さない自動車(ZEV)しか販売を許さない方針を打ち出した欧州諸国やインド・中国に、「環境先進州」のカリフォルニアは後れをとってしまっているとの認識が高まっている。そうした文脈で、炭素排出車販売を2040年に全面禁止する前述の法案が提出されているのである。
それでも先駆的・先進的
なぜ半世紀前に世界に先駆けて環境規制を導入できたカリフォルニア州は、中国やインドにさえ後れをとってしまったのだろうか。まず、経済効率を優先した規制緩和が進歩の足を引っ張ったことが挙げられる。トランプ政権の環境政策は、そうした緩和をさらに進めるものだ。
それに加え、カリフォルニア州の経済成長が順調であったことが、温暖化の原因となるガスの排出量を急激に増やしてしまい、現行の規制がそのペースに追い付いていないことも大きな理由だ。
だが何より、現状維持に利益を見出す業界ロビー団体などの働きかけで、環境保護に対する政治的意思が弱まってしまったことが大きい。炭素排出車の販売を2040年に全面禁止する法案が、2018年1月からの州議会の審議で強力な抵抗に直面することが予想されるのは、そのためである。この法案が通過するかは予断を許さない。
だが、同法案が可決・成立して知事が署名すれば、連邦レベルで環境規制緩和が進んでも、カリフォルニアが再び規制の先駆者となるだろう。同州で自動車が売れなければ、メーカーはもうからないから、ZEVの開発が世界中のメーカーで盛んとなる。「腐っても鯛」ではないが、カリフォルニア州が世界の環境政策に及ぼす潜在的な影響力は今も絶大なのである。
また、現行規制で同州が採用しているアプローチは、自動車と燃料の統合的規制や、自動車(集団)全体として平均値で遵守させるという柔軟性のあるもので、技術開発を促進する効果が高く評価されている。これまで自動車メーカーは、セダンタイプなどに比べて排気ガス規制が緩かったライト・トラック(特にメーカーの利益率が高いSUV)の生産販売を増やすことで規制を逃れてきたが、段階的に厳しくなるカリフォルニア州の規制で、そうした「抵抗」が高コスト化している。
こうしたなか、米ビッグスリーの一角であるゼネラルモーターズ(GM)が2023年までに20車種のフルEV車を開発すると宣言。規制に抵抗してきた米大手自動車メーカーは、自動運転機能を備えるようになるEV車が多大な利益をもたらすものとして、認識を変えたと言えよう。欧州のメーカーも続々とEV開発を発表している。
こうした流れの基調を作ったのは、半世紀にわたるカリフォルニア州の排気ガス対策だったと言っても過言ではない。同州が炭素排出車の販売全面禁止に至れば、その潮流は世界的なものになる。世界はいまだ、カリフォルニアの動きから目が離せない。
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