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グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.8 天然ガス?再エネ?それとも原子力?悩むアジア

ジャカルタ市外の夜景

まとめ
  • インドネシアの主な電源は現在、石炭火力発電と天然ガス火力発電。
  • 同国は再エネの割合11%(2015年)を23%(2025年)に引き上げる構想。
  • 当面、石炭、天然ガス、再生可能エネルギーそして原子力とさまざま選択肢を視野に手探りで最適な電源構成を模索していくことになりそう。
写真1:送電線も整備され新たに開発された地域
写真1:送電線も整備され新たに開発された地域

©大塚智彦

世界第4位の約2億5000万人の人口を擁する東南アジアの大国インドネシアが次世代のエネルギー政策を原子力に頼るのか、時代の流れでもある再生可能なエネルギーに依存するのか、はたまた天然ガスによる火力発電を充実するのか、暗中模索の状態での手探りが続いている。

インドネシアでは現在、主な電源は石炭火力発電と天然ガス火力発電である。しかし、人口の約3分の2が集中するジャワ島であっても他の島に比べて決して電力事情が特段いいという訳ではない。

ジャワ島西部にある人口1千万人超の首都ジャカルタ、その中心部でもかつてほど頻繁ではなくなったものの、2017年11月現在でも短時間で復旧する停電は発生しているのが現状だ。これまでは豊富な石炭資源に頼って石炭火力発電が中心だったが、今その政策が見直されようとしている。

写真2:ジャカルタ市内の電線 混線状態で盗電は日常
写真2:ジャカルタ市内の電線 混線状態で盗電は日常

©大塚智彦

10月12日、イグナシウス・ジョナン・エネルギー鉱物資源相は会見でジャワ島に今後石炭火力発電の建設は認可しない、との方針を明らかにした。そして石炭に代わり天然ガスを燃料とする火力発電所の建設が今後の電力政策の柱になるとの見方を示した。

天然ガス火力発電所は建設が高コストのため、今後財政的にどう予算が確保できるかがカギとなる、としたうえで再生可能エネルギーへの期待も明らかにした。

現在インドネシア全体の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合は2015年時点で11%だが、これを2025年までに23%にする構想をインドネシア政府は掲げている。

(参照:平成28年度 国際エネルギー使用合理化等対策事業(インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー政策分析調査)

ジョナン大臣は2017年の1月~9月に新規で1,023メガワットの再生可能エネルギー事業の契約を結んだことを指摘し、「これは3年前と比較すると倍増である」と期待を示したのだった。

写真3:イグンシウス・ジョナンエネルギー鉱物資源相
写真3:イグンシウス・ジョナンエネルギー鉱物資源相

出典)Indonesian Ministry of Energy and Mineral Resources

現在インドネシアは電源の58%(2015年)を石炭火力発電に頼っているが、これを天然ガス火力発電、再生可能エネルギーに順次重点を移行していく政府の方針が改めて示されたことになる。

図1:インドネシア全国の電源構成見通し
(RefケースとFIT+LILケース)
図1:インドネシア全国の電源構成見通し(RefケースとFIT+LILケース)

出典:日本エネルギー経済研究所推計(平成28年度 国際エネルギー使用合理化等対策事業(インドネシアにおける省エネルギー・再生可能エネルギー政策分析調査

(注)
Ref:レファレンスケース:低金利融資(Low Interest Loan, LIL)を導入しないケース
FIT+LIL:全量買い取り制度と低金利融資(Low Interest Loan, LIL)を導入するケース

さらにジョナン大臣は「スマトラ・ジャワ・バリの各島を結ぶ海底電力ケーブルの整備にも力を入れる」ことを明らかにした。これは人口が密集し、電力需要が高いジャワ島で電力が不足した場合にスマトラ島の発電所から電力を常時供給できるネットワークを早急に整備することでも電力不足の解消に役立てたいとの考えを示したものだ。

石炭火力発電に伴う環境汚染も指摘

ジョナン大臣の会見の数週間後、国際的な環境保護団体「グリーンピース」が、ジャカルタ首都圏の石炭火力発電所が排出している大気などの環境汚染に関する報告書を発表した。

写真4:グリーンピース報告書「ジャカルタの沈黙の殺人者」
写真4:グリーンピース報告書「ジャカルタの沈黙の殺人者」

出典)グリーンピース

報告書は現在ジャカルタから半径100キロ圏内で稼働している石炭火力発電所は8か所22基で、今後7年間にさらに4か所7基が稼働予定であることを指摘。全てが今後稼働すると首都圏一体に住む約3000万人が世界保健機構(WHO)の基準値を超える微小粒子状物質(PM2.5)の影響を受ける、としている。

写真5:ジャカルタ北部ムアラカランの火力発電所
写真5:ジャカルタ北部ムアラカランの火力発電所

©大塚智彦

政府が今後新たな石炭火力発電所の建設を凍結した背景にはこうした環境汚染の人体への影響の懸念もあったとみられるが、すでに稼働、建設途中の石炭火力発電所だけでも環境汚染は十分に深刻である、と報告は指摘しているのだ。こうした指摘に政府はこれまでのところ公式のコメントを控えているが、現在建設中や稼働中の石炭火力発電所について見直すことは考えていないとみられる。

天然ガス火力発電へのシフト

2017年1月の安倍晋三首相とジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領による日本・インドネシア首脳会議でインドネシアの電源開発計画への日本の協力が協議された。

それに基づき3月には国営電力会社(PLN)の天然ガス火力発電事業を三菱商事が受注、国際協力銀行(JBIC)などが総額で約200億円の協調融資を行うことも決まった。

写真6:ジャカルタを訪問した安倍総理とジョコ・ウィドド大統領(2017年1月15日)
写真6:ジャカルタを訪問した安倍総理とジョコ・ウィドド大統領(2017年1月15日)

出典)首相官邸

この融資はジャカルタ市内北部ムアラカランに建設中で2019年に完成予定の天然ガスコンバインドサイクル火力発電所の日本製タービンや発電機の購入資金に当てられるという。

インドネシアのジョコウィ政権は天然ガス火力発電への石炭火力発電からのシフトを徐々に進めており、それに伴い天然ガスの増産を図っている。10月31日にはカリマンタン島東部に今年5月から稼働しているジャングリック沖の液化天然ガス処理設備が新たに始動した。開所式にはジャカルタからエネルギー鉱物資源省のジョナン大臣がはせ参じるなど、政府の期待が表れていた。

急浮上する原子力発電導入の可能性

2015年12月、インドネシア政府は原子力発電の導入を凍結する方針を明らかにした。これはスディルマン・エネルギー鉱物資源相(当時)が「2050年までインドネシアは原子力発電所の建設には着手しない」と明確に原子力発電を新たなエネルギー源としては長期にわたり採用しない方針を示したのだ。そしてその際、不足する電源確保の方策として今後「太陽エネルギーなどの再生可能エネルギー」を重点的に開発することを明示した。

原子力発電導入凍結の背景には、原子力発電所建設予定地周辺の住民の反対運動が根強く、また周辺環境への影響を懸念する声が強いことなどを挙げている。

インドネシアでは2000年にジャワ島中部北海岸に面したムリア半島にもともとあった原子力発電所建設計画の再提案が具体化した経緯がある。しかしこの再提案も周辺住民や反原子力発電・環境保護団体などの強い反対で計画断念に追い込まれている。

スディルマン大臣は「電源については他にも選択肢がある。住民らの反対が根強い原子力発電をあえて選択することはない」と強調、インドネシアは脱原子力発電路線を歩むことになった。

ところが、融通無碍の東南アジアである。2017年5月には再びインドネシアが原子力発電を導入する可能性が急浮上したのである。閣僚による明確な「脱原子力発電路線発言」があったにも関わらず。

PLN(インドネシア国営電力会社)がこのほど改定した電力供給総合計画の中で今後の電源確保に一義的には現在の火力、天然ガスによる発電に再生可能エネルギーの割合を増やしていくことで需要に応える方針を示している。

しかし、「再生可能エネルギーによる発電目標が当初の計画に達しない場合」との条件付きながら「原子力発電導入もありうる」として、今後の推移次第では原子力発電に頼らざるを得ない可能性を示したのだ。

PLNの電力供給総合計画は2017年~2026年の事業方針を示しているもので、当然のことながら政府、エネルギー鉱物資源省の承認を得て策定、改定されている。このため、原子力発電導入の可能性については政府も了承していることになり、「凍結された原子力発電所が再び動き出す可能性」があるということになる。(参照文献

インドネシアに限らず、政権交代、大統領交代で政策が変更されたり、復活したりすることはよくあることで、日本も例外ではなく、自民党の小泉純一郎元首相は今では「原子力発電ゼロ」を強く主張している。

原子力発電、再浮上

PLNは電力総合計画の改定にあたり、2025年までに電源全体に占める再生可能エネルギーの占める割合を2015年時点の11%から2025年に23%に高める目標を掲げている。この目標が技術的、財政的諸問題が原因で達成することが難しくなった場合に「原子力発電」にシフトする可能性を残しているのだ。

「原子力発電は環境に配慮したクリーンエネルギーの拡大目標達成のための代替エネルギーになる。なぜなら低炭素エネルギー源であるからだ」との見解を政府は示している。

こうしたインドネシアのエネルギー政策の現状を見ると、主力の石炭火力発電から少しずつ天然ガス火力発電に移行しながら、再生可能エネルギーの割合を徐々に増やし、将来は原子力発電の導入も除外しない、という複合的な取り組み姿勢であることがわかる。

写真7:ジャカルタ北部ムアラカランで建設中の
天然ガスコンバインドサイクル火力発電所(手前)
写真7:ジャカルタ北部ムアラカランで建設中の天然ガスコンバインドサイクル火力発電所(手前)

©大塚智彦

現在のジョコウィ大統領は国内の高速道路、鉄道網、大量輸送高速交通システム、港湾整備などのインフラ整備を最重要課題として強力に進めている。その一方でエネルギー政策にも極めて前向きで、インドネシア全土で35ギガワットの発電所を建設整備することを目標に掲げている。

そしてこの目標達成のためにPLNに対してコストの抑制と効率性の向上を指示、「もし目標達成が難しいならPLNでなく、プライベートセクターにオファーすればいい」とプレッシャーをかけ続けている。

ジョコウィ大統領自身は自らの任期中の原子力発電導入には否定的、といわれてきたが電源確保の緊急性などから「最後の選択肢として原子力発電もやむなし」に姿勢が変化しているといわれている。というのも2019年に次期大統領選を控えており、再選目指して出馬する可能性が現時点では極めて高く、長いスパンでのエネルギー政策が必要とされるからだ。

ジョコウィ大統領は自転車に乗るパフォーマンスでも有名で、子供たちに自転車をプレゼントすることも多い。自転車は環境に優しく、体力増進にもなり、一般市民でも購入可能と飾らない庶民派の大統領にはお似合いの乗り物だ。もっともジャカルタなどの都市部ではまだまだ自転車は市民権を得ておらず、道路環境の悪さ、交通マナーの酷さに加えて歩行者より車・バイクが優先される既存の道路・交通システムでは自転車は決して安全な乗り物とは言えないのが実情だ。

写真8:ジョコ・ウィドド大統領
写真8:ジョコ・ウィドド大統領

出典)Photo by Pemerintah Kota Surakarta

とはいえ、自転車が大好きなジョコウィ大統領だけに、再生可能エネルギーへの思い入れは強く、PLNを通じて水力、地熱、太陽光、風力、バイオマスなどのエネルギー導入にも積極的だ。

インドネシアは今、今後の主要な電源確保を何に頼るのか、そしてどうそれを整備していくのか、石炭、天然ガス、再生可能エネルギーそして原子力とさまざま選択肢を前に、手探りで最善の道を模索しているところだ。

大塚智彦 Tomohiko Otsuka
大塚 智彦  /  Tomohiko Otsuka
Pan Asia News 記者
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1884年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。

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