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トランプ後の世界

Vol.07 都会に綺麗な空気を取り戻せ!デンマークの挑戦

COWI社によるコペンハーゲンの交通分析
出典)Youtube Date From Sky & COWI

まとめ
  • デンマークは再エネ国家を目指し大気汚染対策にITを活用。
  • 交通量や速度を把握し交通渋滞を解消したり、大気汚染の状況を計測したりしている。
  • 大気汚染対策市場は世界で急拡大、今後も大きな成長が期待されている。

再エネ国家を目指すデンマーク

車通りの多い基幹道路の脇を通った時に、喉にイガイガを感じたり目が痛くなったりした経験はないだろうか。私たちが生活の大半を過ごす町において、大気汚染は目に見えないところで進行している。

排気ガスばかりでない。空気中に潜む目に見えない有害粒子がどこからか飛散してくることもある。この何処からか来る有害粒子の飛散で健康被害が懸念され、日本のメディアを賑わしたことは多くの人の記憶に新しいのではないだろうか。

実は、大気の有害含有物は目に見えないがゆえに意識しにくいけれども、健康被害の一大要因だ。2015年にはWHOが病気や死をもたらす健康被害要因の最たるものとして大気汚染を上げており、近代都市が抱える課題の一つになっている。

本稿では、住みたい、訪れたいと思わせる魅力的な街づくりの一環として、デンマークの各都市で進む、綺麗な空気作りの仕組みを紹介したい。

写真1:サイクリングを楽しむコペンハーゲン市民
サイクリングを楽しむコペンハーゲン市民

出典)Flickr

2012年3月、デンマーク政府は「エネルギー供給の100%を2050年までに再生可能エネルギー(RE:Renewable Energy)で賄う」という目標を掲げる長期エネルギー計画を発表。その後、首都コペンハーゲンはさらに野心的な「2025年までにRE都市にする」という目標を掲げた。

この野心的な目標値の達成に不可欠なのが交通分野におけるエネルギー削減であり、電気自動車や電気バスの積極的な導入と活用、排気ガスを排出しない交通手段として自転車専用道路の整備などが進められている[参考:「トランプ後の世界Vol.03 グリーンな社会目指すデンマーク 自転車ハイウェイとIoT」]。

この政策は、実はエネルギー対策ばかりでなく、大気汚染の解決にも一役買っており、環境保全に敏感なデンマークの人々ばかりか、毎日のより良い生活空間を求めるもっと普通のデンマーク人にも好意的に受け取られている。

より良い住環境に対する市民の関心は年々高まっているがゆえに市民視点でも喜ばれ、海外からの観光客の誘致にも一役買う、そんな大気汚染のない魅力的な街づくりの一歩をデンマークの多くの自治体は進めている。

写真2:デンマークの風力発電
デンマークの風力発電

出典)Flickr Photo by Thomas Rousing

ITによる交通環境管理の取り組み

大気汚染をもたらす要因の一つは自動車の排気ガスだ。排気ガスの削減は、交通渋滞の解消や緩和が対策の一つとなる。この課題に対しデンマークの建設コンサルティングCOWIBlipTrackが提案するのは、シティセンス(City Sense)とよばれるソリューションだ。

シティセンスは、「交通管理システム」で、自治体と共同で首都コペンハーゲン、オルボー、ランダースなど都市エリアへの配備が進められている。

シティセンスは、携帯電話やスマートフォン、タブレットから発信されるWi-Fiやブルートゥース機器のシグナルを道路に設置されたセンサーで取得する仕組みを提供し、交通量や速度の把握を通して渋滞状況が分析されるシステムだ。

COWIの交通計画チーフスペシャリストのヨナス・オルセン氏によると、トラッキング情報から、信号機のプログラミングを変更し交通渋滞を緩和させたり、リアルタイムデータ取得により事故などで発生する交通渋滞をできるだけ早く解消させる試みを進めているという。

適切な分析のためには、適切なデータの取得が不可欠になる。現在、設置センサーやブルートゥース、Wi-Fiシグナルに基づくデータが主流だが、ドローンによる空からのデータ収集も試みが進められる。

前出のCOWIがチェコのRCEシステムズと開発を進めるソフトウェアDataFromSkyでは、ドローンで道路上空の画像を収集し分析を行う。2016年の実験では、65m上空から5時間の撮影が行われ、強風にもかかわらず映像は「分析に問題ない」質が確保された。

映像データを用いることにより、交通量、交差点の交通量、速度分析、衝突などのニアミス分析、混雑度分析、車間分析などが可能であり交通量の調整、渋滞の把握、事故時のより適切なルート設定に活用されることが期待されている。

写真3:ドローンによる交通分析
写真3:ドローンによる交通分析

引用)DataFromSky

大気汚染の可視化

都市におけるより良い住空気環境を維持するためには、交通渋滞を減らし排気ガスを減らすばかりでなく、大気の現状を理解することも不可欠である。大気汚染状況を把握し、悪い点を改良していくこと、また良い空気環境が提供されているのであればそれを維持すること、そして改良の際には、その新しい施策が役に立つものであるのか、といった 評価が不可欠となる。

デンマークのデザインコンサルタント、リープクラフトが提供するコペンハーゲン・センス(CPH Sense)は、この課題に真正面から取り組む。

写真4:コペンハーゲン・センス(CPH Sense)のセンサー
写真4:コペンハーゲン・センス(CPH Sense)のセンサー

出典)leapcraft(リープクラフト)社HP

コペンハーゲン・センスは、都市に生活する人々の健康に影響を与える騒音・大気汚染要因となる汚染物質や粒子・渋滞の測定と分析をリアルタイムで可能にする都市の環境状況の可視化センシングプラットフォームと言える。

都市の環境向上につなげるための市当局の戦略的ツールとして活用することが期待される可視化ツールであり、2008年に定められた「空気環境の質(Air Qularity Directive)」を扱うEU指令に沿った空気環境の調査項目を網羅している。

図1:コペンハーゲン・センスによるデータ収集の仕組み
図1:コペンハーゲン・センスによるデータ収集の仕組み

出典)Leapcraft(北欧研究所訳出)

コペンハーゲン市は、最も交通量の多い基幹道路をリビングラボ=「生きた研究所」として世界各国の企業や団体の実験場として解放しているが、ここにコペンハーゲン市はリープクラフトの協力のもとコペンハーゲン・センスを設置、センサーとWi-Fiを活用し都市の道路環境に関係する指標を収集、道路環境汚染の傾向と分析、交通環境施策の評価を進めている。

自動車道路、特に都市の基幹道路で、いつ・どこで・どのように環境汚染が発生しているのか現状把握を行い、削減につなげていくことが目的だ。

写真5:歩道に設置されたコペンハーゲン・センス
写真5:歩道に設置されたコペンハーゲン・センス

提供)Leapcraft社

リープクラフトのコペンハーゲン・センスが可能にするのは、EU指令で定められる大気の環境維持に不可欠な指標群の収集で、温度、湿度、CO、SO2、NOx、各種環境に関連する粒子などのリアルタイム測定を行う。

データは、街角に設置された「コペンハーゲン・センス」ハードウェアからクラウドに収集される。集められたデータは補正され、リアルタイムに可視化され、デスクトップに表示される。自治体は、これらデータをダッシュボードで閲覧し自分たちで分析をすることも可能だが、生データの分析が可能な人材がいなくても、リープクラフトのカスタム分析、レポート作成などの分析サービスを利用することもできる。

拡大する大気汚染対策市場

リープクラフトは、この2年間の間にすでに8回のデザインやシステムの改良を繰り返し、現在のセンサーの形状やデザイン、通信プロトコルの利用に至っている。直近での改良は、高温に耐えるマテリアルに再デザインされたことで、高温多湿のエリア進出を念頭に改良が進められた。

すでにデンマーク各都市、ロンドンなど欧州の主要都市さらにはメキシコにまでサービスを展開し、地域の公共交通や自治体などとの連携を強固にしている。残念ながら、アジアへの進出予定は未定ということだ。また、近年は、屋外ばかりでなく室内の空気センサーも展開しており、快適な住環境整備に感度の高い北欧で注目が集まっている。

都市回帰が世界中で起こり、より魅力的な都市をデザインするために各都市がしのぎを削っている。欧州では、スマートシティの動きと相まって、大気汚染対策、交通渋滞対策などが急ピッチで進められている。

大気汚染対策市場は、2014–2019年で年平均率5.8%で成長し、2019年には780億米ドルと予想されており産業的な拡大が予想されているし、市民レベルでも、今後、都市に住む人々の快適な暮らしにさらに注目が集まって行くと予想される。

写真6:デンマーク・コペンハーゲン市内
写真6:デンマーク・コペンハーゲン市内

出典)Pixbay

そんな世界に先駆けて進む「空気環境コンシャスの街」コペンハーゲンに、より澄んだ大気の維持される生活がいかに実現されうるのか、是非一度足を運んで体感して欲しい。そして、綺麗な空気を目指す「大気コンシャス都市」が日本でも多く目指されていくことに期待したい。

【変更・修正】2017年9月27日 11時30分以下を変更・修正しました。

  • 写真5:歩道に設置されたコペンハーゲン・センス
    写真を修正致しました。
  • 図1:コペンハーゲン・センスによるデータ収集の仕組み
    訂正前:北欧研究所
    訂正後:Leapcraft (北欧研究所訳出)

【変更・修正】2017年9月28日 11時30分以下を変更・修正しました。

  • 写真5:歩道に設置されたコペンハーゲン・センス
    訂正前:北欧研究所
    訂正後:Leapcraft社
安岡 美佳 Mika Yasuoka
安岡 美佳  /  Mika Yasuoka
コペンハーゲンIT大学アシスタントプロフェッサー、北欧研究所代表
慶應大学で図書館情報学学士を取得後、京都大学大学院情報学研究科にて社会情報学を専攻し修士号を取得。東京大学工学系研究科先端学際工学博士課程を経て、コペンハーゲンIT大学より博士号を取得。京都大学大学院情報学研究科Global COE研究員などを経て現職。現在は「情報システムのための参加型デザイン」への関心から派生し、北欧のデザイン全般、社会構造や人生観、政治形態にも関心を持ち、参加型デザインから北欧を研究。また、参加型デザインで日本に貢献することを念頭に、最近ではデザイン手法のワークショップやデザイン関連のコンサルティング、北欧(デンマーク・ノルウェー・フィンランド・アイスランド・グリーンランド)に関する調査・コンサルティング業務に従事。

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今、大きく変化している世界のパワーバランス。グローバルな視点で国際情勢のダイナミックな動きを分析し、日本のエネルギー安全保障にどのような影響が出るのか予測する。