記事  /  ARTICLE

グローバル・エネルギー・ウォッチ

Vol.05 加速する自動運転技術の未来

Photo by BP63Vincent

まとめ
  • 自動車メーカーは次々と自動運転の実用化を目指し始めた。
  • ハードウェアの開発は自動車メーカー、センサーやAI、ビッグデータ、クラウド等の開発はIT企業、と協働が進む。
  • 自動運転の課題は事故の法的責任をどうするか。保険制度の整備が急務。

「自動運転」と聞いて、まだまだ先のことと思っている方も多いのではないでしょうか。しかし、現実は私たちの想像をはるかに超えています。

トヨタとホンダは、2020年を目途に、高速道路における自動運転の実用化、日産は2018年には高速道路、2020年までに交差点を含む一般道での自動運転技術の導入を目指す計画を発表しています。つまり、決して遠い未来の話ではないのです。

自動車メーカーは「完全自動運転」の実現を2030年頃からそれ以降と想定しています。自動運転技術は今どのような状況なのでしょうか。また自動運転技術により社会はどう変わるのか探りたいと思います。

自動運転の定義

自動運転の定義については、以下の通り、米国のSAEインターナショナルレベル0〜5までの6段階が世界的に採用されています。(図1)

  • レベル0(ドライバーのみ)
  • レベル1(運転支援あり)
  • レベル2(一部自動化)
  • レベル3(部分的自動化)
  • レベル4(条件付き自動化)
  • レベル5(完全自動化)

レベル0〜2までは自動運転というよりも高度な運転支援と言っても良いでしょう。自動走行システムの実現が期待される時期については図2に示します。

図1:自動運転レベルの定義概要
図1:自動運転レベルの定義概要

出典)内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 自動走行システム 研究開発計画」(2017年4月)

図2:自動走行システムの実現期待時期
図2:自動走行システムの実現期待時期

出典)内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 自動走行システム 研究開発計画」(2017年4月)

日本の自動運転の現状

日本では、安倍政権の3本の矢の一つ、民間投資を呼びこむ成長戦略の一環として、2014年5月に戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)が立ち上がりました。

5年計画で11の課題に取り組むもので、「自動走行システム」はその一つです。自動走行システムプログラムでは、完全自動運転を含めた各種の自動運転実証を、最先端の専門チームが集結し、オールジャパンで産官学の協調領域の技術開発を行っています。

2017年度の研究開発の課題は、高齢者など交通制約者にやさしい公共バスシステム等を確立し、事故や渋滞を抜本的に削減しながら、移動の利便性を飛躍的に向上させることです(17年度予算は33.2億円)。

2017年3月から、内閣府沖縄担当部局と沖縄県南城市が連携して、公道での公共バスの自動運転の実証実験を開始しています。車椅子や高齢者も乗り降りしやすいよう、センサー技術を使ってバス停にほぼ隙間なく正確に横付けする正着制御機能や、車線維持制御の安定性などを検証しています。実証実験は2018年度までに3回程度実施の予定です。(図3・4)

図3:バス自動運転実証実験
図3:バス自動運転実証実験

出典)内閣府「沖縄でのバス自動運転実証実験について」(2017年2月)

図4:バス自動運転実証実験
図4:バス自動運転実証実験

出典)内閣府「沖縄でのバス自動運転実証実験について」(2017年2月)

2017年9月には、自動車専用道路(首都高、東名・新東名高速道路、常磐自動車道の一部)の全長300キロにおける大規模な実証実験を行う予定です。国内の自動車メーカーや部品メーカー、大学・研究機関、海外自動車メーカーが参加し、国土地理院の協力も得ながら、AIに画像データ等を覚えさせ、「ダイナミックマップ(3次元高精度デジタルマップ)」を生成し、情報収集や配信の検証などを行う予定です。(実証期間は2019月3月まで)(図5)

図5:自動走行システムに必要な技術
図5:自動走行システムに必要な技術

出典)内閣府「SIP自動走行システム;ダイナミックマップ」(2016年1月)

ダイナミックマップは、自動走行システムを構成する重要な要素の一つです。今回の検証結果をもとに、2018年には自動車メーカーにダイナミックマップを安く提供できるようにするのが目的の一つです。また併せて、国際標準化機構(ISO)技術委員会へ、ダイナミックマップの標準化の提案も進めていく計画です。(図6)

図6:ダイナミックマップの構築
図6:ダイナミックマップの構築

出典)内閣府「SIP自動走行システム;ダイナミックマップ」(2016年1月)

この他、自動運転に関する実証実験としては、経済産業省と国土交通省が連携した「ラストマイル自動走行」が、福井県永平寺町、石川県輪島市、沖縄県北谷町などで行われています。

ラストマイル自動走行(端末交通システム)は、限定された地域において、自動走行技術を搭載した小型モビリティを使った交通システムによって、新たな移動サービスを提供するものです。

ラストマイル自動走行(郊外地域の場合)のイメージとしては、
①利用者(高齢者等)が無人自動走行車(小型バス、小型カート等)を呼び出し乗車→②無人自動走行→③利用者は最終目的地(自宅等)で降車→④無人自動走行車が自動回送という流れになります。

写真1:ラストマイル自動走行 デモンストレーションの様子
写真1:ラストマイル自動走行 デモンストレーションの様子

引用)沖縄県・北谷町

写真2:実証評価の車両(スマートEカート)
写真2:実証評価の車両(スマートEカート)

引用)国立開発研究法人 産業技術総合研究所

国土交通省は、秋田県や熊本県などの道の駅を基点とした自動運転の実証試験も実施しています。

自動運転の米国での動き

2014年5月内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」設立と時を同じくして、米国ではGoogle(グーグル)がAI(人工知能)を活用した自動運転の開発に乗り出しています。

100年にわたり技術を積み上げてきた自動車メーカーは、いきなりAIに運転させることに飛びつくことはありませんでしたが、自動運転に関する世間の注目度が高くなるにつれ、本腰を入れるようになりました。

米国ではグーグルが先行した形になりましたが、自動車の設計は、様々な安全基準を遵守する必要があり、自動運転車を自社で設計し製造することが困難だとグーグルは最終的に判断したようです。

ハードウェアの開発は自動車メーカーに任せ、要素技術として不可欠なセンサーやAI、ビッグデータ、クラウド等の開発に注力するようになりました。2016年頃から、IT企業と自動車メーカーが協働し、それぞれの得意分野の開発を進める流れに変わってきています。

写真3:グーグルの自動運転車
写真3:グーグルの自動運転車

出典)flickr Photo by Ed and Eddie(2015/1/28)

2016年6月1日には、ホンダと米Waymo(ウェイモ:親会社はグーグルを傘下に持つアルファベット社)はカリフォルニア州の走行試験場で、自動運転車のプロトタイプ車両2車種を公開しました。両社は今後米国での自動運転技術に関する共同研究を実施していく予定です。

自動運転機能は追加コストがかかることから、各自動車メーカーでは高級車を中心に搭載の動きがありますが、ホンダは「事故に遭わない社会」の実現に向けて、すべての車を対象に自動運転機能を搭載することを発表しています。(写真4)

写真4:ホンダ全自動運転車Acura RLX
写真4:ホンダ全自動運転車Acura RLX

出典)Honda in America

日本の現状

日本政府も自動運転の実現に力を入れています。具体的には、東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年までに完全⾃動運転を含む⾼度な⾃動運転(レベル3以上)の市場化・サービス化の実現を目指しています。私たちが思っているより早く自動運転の世界は実現しそうです。

写真5:国会の前庭で自動走行車両に試乗する安倍首相
写真5:国会の前庭で自動走行車両に試乗する安倍首相

出典)首相官邸(平成25年11月9日)

具体的に政府は、

  • ① 自動走行トラックの隊列走行や、
  • ② 無⼈移動⾃動⾛⾏による移動サービス

などの事業化を目指しています。

①の「自動走行トラック」は2020年度に新東名高速道路での無人隊列走行の実現を、2022年度に東京〜大阪間での事業化を目指しています。昨今問題となっている物流業界におけるドライバー不足の解消に貢献するでしょうし、居眠りやわき見運転など人的要因による事故の削減にも効果が有りそうです。(図7)

図7:自動走行トラックの隊列走行
図7:自動走行トラックの隊列走行

出典)経済産業省「⾃動⾛⾏プロジェクト実現に向けた政府の取組」資料

写真6:自動走行トラック隊列走行のイメージ
写真6:自動走行トラック隊列走行のイメージ

出典)経済産業省「⾃動⾛⾏プロジェクト実現に向けた政府の取組」資料

②の「無⼈移動⾃動⾛⾏による移動サービス」も、2020年度の事業化の実現を目指しています。こちらも、ドライバー不足や、人口減などによる公共交通機関の廃止などの解決に資するものと期待されています。無人自動走行車が乗りたいときに呼び出せるのは高齢者などに歓迎されるでしょう。買い物難民対策にも、高齢者ドライバーの事故対策にもなると思われます。(図8)

図8:無人移動自動走行による移動サービス
図8:無人移動自動走行による移動サービス

出典)経済産業省「⾃動⾛⾏プロジェクト実現に向けた政府の取組」資料

課題を乗り越え、社会を変えるきっかけに

WHO(世界保健機構)によると、世界の交通事故による死者は年間約125万人。(参考:WHOファクトシート2017年5月)事故原因の9割は脇見運転などのヒューマンエラー(人為的過誤)です。自動運転はそうしたヒューマンエラーの芽を摘み、交通事故を減らすことができるでしょう

一方、自動運転技術にはまだ課題がいろいろあります。人が運転責任から開放されることに不安を感じる人もいますので、人々の信頼と社会的受容性を高めることが課題の一つです。

また、ドライバーによる運転を前提としたこれまでの交通関連法規の見直しが必要となってきます。政府は完全自動運転の実現に向け、以下を課題として挙げています。

  • ① 自動運転車両の特定
  • ② 安全基準の在り方
  • ③ 道路交通法などにおけるルール作り
  • ④ 保険を含む責任関係の明確化
  • ⑤ 国際動向や技術の進歩に即した制度設計

これらはどれも、政府各省庁横断的な検討と民間との意見調整が不可欠です。

特に④の「事故の法的責任の明確化」は大きな課題です。仮に自動運転で事故が発生した際、誰が責任を負うのか。法的責任問題は世界共通の課題です。自動車ジャーナリストで、内閣府SIPの自動走行システム推進委員会メンバーの清水和夫氏によると、日本とドイツが自動運転の技術開発を主導し、米国はシリコンバレーのAI技術等を主導する中、英国としては保険制度を含め法律面で主導権を取りたいという思惑があるようです。

写真7:公道ワイヤレス給電のイメージ図
写真7:公道ワイヤレス給電のイメージ図

出典)総務省「ワイヤレス電力伝送システムの実用化について

自動運転技術は電気自動車(EV)とセットで普及していく可能性が高いと思われます。自動運転のEVバスがワイヤレス給電を受けて都市内のモビリティを担う社会はすぐそこまで来ています。その時、自動車そのものの概念が今とは全く違ったものになっているかもしれません。日本の技術が世界標準を握ることが出来るかどうか、官民一体の取り組みを加速させる必要がありそうです。

松本真由美 Mayumi Matsumoto
松本真由美  /  Mayumi Matsumoto
東京大学 教養学部 客員准教授
熊本県生まれ。上智大学外国語学部卒業。東京大学 教養学部附属教養教育高度化機構 環境エネルギー科学特別部門 客員准教授。専門は科学コミュニケーション。研究テーマは、「エネルギーと地域との共存」「エネルギー問題と社会的受容性」「エネルギービジネス動向」等、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を追求する。大学在学中から、TV朝日の報道番組のキャスター、リポーター、ディレクターとして取材活動を行い、その後、NHK BS1でワールドニュースキャスターとして「ワールドレポート」等の番組を6年間担当した。2008年より研究員として東京大学での環境・エネルギー分野の人材育成プロジェクトに携わる。2014年4月より現職。現在は教養学部での学生への教育活動を行う一方、講演、シンポジウム、執筆など幅広く活動する。非営利活動法人・国際環境経済研究所(IEEI)理事。非営利活動法人・再生可能エネルギー協議会理事。

RANKING  /  ランキング

SERIES  /  連載

グローバル・エネルギー・ウォッチ
国際情勢が日本のエネルギー安全保障に与える影響について解説するシリーズ。