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編集長展望

Vol.03 エネルギー教育の今を考える

まとめ
  • 政府は小中高のエネルギー教育事業を展開している。
  • しかし、国民のエネルギーに対する関心は高まっていない。
  • 背景には議論を避ける国民性、メディアの委縮などが考えられる。

エネルギーは国民的関心事だと思うが、では実際に日常多くの人と接していて関心が深まっているかというと、なかなかイエスと答えにくいところがある。

東日本大震災から6年経ち、震災そのものの記憶が薄れつつある。あれから日本のエネルギー需給環境は大きく変わり、我が国は原子力発電に代わり、火力発電に大きく依存するようになった。石炭、石油、LNGなど化石燃料を使用する火力発電。それらの燃料の9割近くは中東地域からの輸入に頼る。日本のエネルギー安全保障は極めて脆弱な状態にあるのだが、それを認識している国民は果たしてどのくらいいるのだろうか。

原子力に対する意識

東日本大震災後、原発の大半は停止状態だ。この6年間、原子力発電についての私たちの関心はどう変化しているのだろうか?ここに一つの調査がある。一般社団法人エネルギー総合工学研究所が、毎年行っている「エネルギーに関する公衆の意識調査」だ。残念ながら最新の調査が2015年のものだが、以下の図を見てみよう。(図1)

図1:原子力発電についての関心度
図1:原子力発電についての関心度

出典)一般社団法人エネルギー総合工学研究所 平成27年度エネルギーに関する公衆の意識調査

「原子力発電に関心があるか?」という質問に対し、「関心がある」(関心がある+どちらかといえば関心がある)という回答は2010年10月の66.0%だったが、2011年の福島第一事故以降、86.4%に増加した。(2011年11月)しかしその後、79.2%(2012年11月)、75.8%(2013年11月)、73.0%(2014年11月)、71.4%(2015年11月)と減少し続けている。

対する、「関心がない」(関心がない+どちらかというと関心がない)の割合は、2010年10月には34%だったものが、2011年に一旦13.6%に下がったものの、その後増え続け、2015年には28.6%と東日本大震災前の水準に近づいている。

やはり、関心は年々薄れているといってよさそうだ。背景にはエネルギーに関する政府からの情報発信がほとんどない事やメディアがエネルギー関連のニュースを取り上げることが少なくなっていることなどがあげられよう。

一方で、政府はエネルギーに関する教育に力を入れている。具体的に見てみよう。

エネルギー教育

知らない人もいるかもしれないが、政府は「エネルギー教育」に真剣に取り組んでいる。経済産業省資源エネルギー庁が実施しているエネルギー政策等普及広報事業がそれだ。その目的は以下の通り。

「エネルギー基本計画」等のエネルギーに関する知識の普及を図るため、エネルギーに関する広報や学校のエネルギー教育活動の支援等を行い、これを通じて、エネルギー問題について深く理解し自ら考え、必要な行動が取れるような素地が形成されることを目指すため、エネルギー政策等広報媒体の作成及びエネルギー教育に取り組もうとする小学校、中学校等を広く全国から募り、その実践を支援します。

引用)経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー政策等普及広報事業」より

資源に乏しい日本において、エネルギーについて小学生から学ぶことはとても重要だと思われる。その「エネルギー政策等普及広報事業」は3つに分かれている。それが:

  1. エネルギー政策広報事業
  2. エネルギー教育推進事業
  3. 総合エネルギー広聴・広報・教育事業

である。一つずつ見てみよう。

1のエネルギー政策広報事業は、「『日本のエネルギー』~エネルギーの今を知る20の質問~」という広報冊子を毎年作成しているほか、エネルギー教育検討評価委員会を設置して、エネルギー教育の在り方などを議論している。この「日本のエネルギー」という冊子はとても分かり易い。まず前書きで

2011年の東日本大震災以降、日本は

  • ① エネルギー自給率の低下
  • ② 電力コストの上昇
  • ③ CO2排出量の増加

などの課題に直面しています。 これらの課題を克服していくために、まずは 国民一人一人が、我が国の現状を知り、理解し、 エネルギーについて考えることが重要です。

と謳った上で、20の質問を図表で分かり易く説明している。

質問と回答は例えば;

日本は、国内の資源でどのくらい エネルギーを自給できていますか?
もともと、日本は石油や天然ガスなどの資源に乏しい国です。 2014年の日本のエネルギー自給率は6.0%であり、他のOECD諸国と 比較しても低い水準となっています。
日本はどのような資源に依存していますか?
海外から輸入される石油・石炭・天然ガス(LNG)などの化石燃料に 大きく依存しています。第一次石油ショック時よりも海外への依存度は 高まり、2014年度は88%(電源構成ベース)となりました。
電力コストはどのように変化していますか?
2010年度と比べて、2014年度には家庭向けの電気料金は約25%、産業向けの電気料金は約39%上昇しました。
再エネだけでエネルギーを賄うことはできないのですか?
再エネは季節や天候によって発電量が大幅に変動し、不安定なものが多く、安定供給のためには火力発電などの出力調整が可能な電源をバックアップとして準備する必要があります。

などとなっている。どれも重要な質問ばかりであり、大人も知っておきたいものばかりだ。是非、ご一読されることをお勧めする。

3の「総合エネルギー広聴・広報・教育事業」は、東日本大震災前の2010年まで行われていたもので、

  • エネルギー教育副読本等の制作
  • エネルギー教育実践校事業
  • エネルギー教育推進会議事業

などを行っていた。

そして、2の「エネルギー教育推進事業」は以下のような内容となっている。

その目的は

様々な教科(理科、社会、技術・家庭、総合的な学習等)や課外活動を通じてエネルギーについて幅広く学び、生徒が将来のエネルギーに対する適切な判断と行動をするための基礎を構築することを目的とし、その実践に取り組む学校に対して様々な支援を行います。

となっている。毎年、エネルギー教育モデル校を選出するなど、エネルギー教育の普及に力を入れている。

図2:小学生向け副教材の一部
図2:小学生向け副教材の一部

出典)「かがやけ!みんなのエネルギー

エネルギーに対する国民の関心は?

こうした政府の地道な取り組みは評価できるが、では実際に国民の間にエネルギーに対する関心が高まっているかというと、必ずしもそうではないようだ。

ここに去年行われた参議院議員選挙(2016年7月10日)前の世論調査がある。(読売新聞2016年6月17-19日実施)

参議院選挙で、投票する候補者や政党を決めるとき、
最も重視したい政策や争点を、次の6つの中から、1つだけ選んで下さい。
1. 景気や雇用 26
2. 年金など社会保障 34
3. 子育て支援 13
4. エネルギー政策 2
5. 外交や安全保障 10
6. 憲法改正 9
7. その他 0
8. とくにない 2
9. 答えない 3

投票を決める際に重視する政策を問うた時、エネルギー政策は一番最下位の2%しかなかった。社会保障や景気などが最大関心事となるのはわかるが、それにしてもエネルギーへの関心が低すぎないかと筆者は懸念する。

無論、一世論調査の結果で一般化するつもりは毛頭ない。しかし、実際に学生や社会人と話していて、この世論調査の結果が大きく外れているとは筆者は思わない。

実際、社会人に日本のエネルギー自給率などを聞いても正確に答えられる人はそう多くはない。エネルギーをどう確保するかは安全保障上きわめて重要であることに異論がある人はいないであろう。しかし、一桁台のエネルギー自給率に甘んじていることや、電力のほとんどを火力発電で賄っていること、その燃料のほとんどを輸入に頼っていること、などの現状にほとんどの人が疑問を持たず、今のままで何も問題ない、と思っているかのようだ。一体、どうしてこうなったのか?

日本人がエネルギー問題に無関心なわけ

こうした政府の地道な取り組みにもかかわらず、エネルギー問題に対する関心が高まらないのはなぜだろう。

ひとつ考えられるのは、日本人は、世論が二分するような問題は避けて通る傾向があるということだ。例えば、憲法9条改正の問題、子宮頸がんワクチン接種再開の問題、原発再稼働の問題などがそれにあたる。本来、国民の間でしっかり議論されてしかるべき問題だ。ものによっては、科学的に判断しなければならない。しかし、こうした国民的議論を呼ぶ問題を議論する時、感情論が先行しがちであり、それが故に議論することを止めてしまう傾向が私達の中にあるのではないか。いわば、思考停止状態だ。これでは物事は解決しないし、前に進まない。

次に考えられるのは、そうした問題について国民に説明しようという、政治のリーダーシップが見えないことだ。国民に重要な問題を説明し、考えてもらうような環境を作ることが、政治本来の役割であろう。行政機関は政治の意向で動く。経済産業省が勝手に「日本のエネルギー政策はこうあるべきです」、とか、厚生労働省が「子宮頸がんワクチンは積極的に接種しましょう」、などということはないのだ。政治家がこうした問題に積極的に取り組むべきだと思うのは筆者だけではないだろう。

また、メディアの委縮も深刻だ。エネルギーの問題も、健康関連の問題も、読者や視聴者からのクレームや訴えを恐れ、取り上げようとしないメディアが多い。これでは国民の知る権利は守れない。

私たちが「エネルギーフロントライン」を創刊した理由はまさにそこにある。普段新聞、テレビなどを見ていても今一つわからないエネルギーの問題を分かり易く紐解き、そして一人一人に考えてもらいたい、というのが私たちの願いだ。

また、家庭でも是非エネルギーについて話題にしてもらいたい。例えば電気はどのようにして作られているのか、そのために我が国は燃料をどのくらい輸入しているのか?燃料の輸入にいくら払っているのか、等々。親子で考えてみてもらいたい。すべてはそうした何気ない会話から始まるのではないだろうか。大切な問題から目をそらすことは、子供たちの未来を素晴らしいものにする、という今の世代の責任放棄にすら見える。

エネルギーなくして私たちの生活は成り立たない。だからこそ、エネルギーについて理解を深め、これから日本はどういうエネルギー政策をとるべきなのか考えることが大事なのだ。エネフロがその一助となれば幸いだ。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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