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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.03 見直そう、水とエネルギーの関係

まとめ
  • 水道水は水源から家庭に給水されるまで厳密に水質が管理されている。
  • 水質が良い木曽川水系の水は「高度浄水処理」の必要はない。しかし、将来の水質変化のリスクを考えておく必要がある。
  • 品質の良い水を作るためには多くのエネルギーが必要である。

みなさん、毎日何気なく使っている水道水。どうやって作られているか考えたこと、あるでしょうか?

水道水ができるプロセス

水道水として皆さんのご家庭に届けられるには以下のプロセスを経ています。

  • ① 水源   ダムや堰などで水源を確保し、下流に流れる水量を調節しています。
  • ② 取水場   取水口から水を取り入れ、荒い砂やごみを取り除き、浄水場へ送ります。
  • ③ 浄水場   水を浄化し飲料水用にします。
  • ④ 配水場   水道水として家庭などに送ります。

個別に見ていきましょう。

まず①の水源ですが、水道水を作るには「水利権」(注1)を確保しなくてはいけません。「水利権」とは、水道水を作るために水を継続的に使用する権利のことをいいます。つまり、河川などから勝手に水を取ってはいけないということですね。

ここで、「水道水」が美味しいと言われている名古屋市を例に挙げてみましょう。もともと名古屋市の水源は木曽川がメインでしたが、その後岩屋ダム、木曽川大堰(写真1)などや味噌川ダム(写真2)によって水利権を確保してきました。さらに渇水対策として、長良川河口堰、徳山ダムの水源開発に参加し、水源の多系統化をはかってきました。

図1を見ると、岐阜県や長野県、三重県にまたがって複数のダムが水源となっていることがわかります。先人たちの水資源確保のたゆまぬ努力のおかげで今私たちは水に困ることなく生活できているのですね。

図1:名古屋市の水源
図1:名古屋市の水源
写真1:木曽川大堰
写真1:木曽川大堰
所在地 三重県桑名市
事業主体 (独)水資源機構
ダムタイプ ローラーゲート
目的 治水、水道用水、工業用水
竣工 1995年

出典)愛知県土地水資源課HP

写真2:味噌川ダム
写真2:味噌川ダム
所在地 長野県木曽郡木祖村
事業主体 (独)水資源機構
有効貯水量 5,500万立方メートル
ダムタイプ ロックフィルダム
目的 治水、水道用水、工業用水、発電
竣工 1996年

出典)愛知県土地水資源課HP

②の取水場(写真3)は、水を取り入れてから粗い砂やごみを取り除く重要な役割を持っています。水を浄化する第一段階ですね。後工程の浄水場に水を送る役割も果たしています。

写真3:朝日取水場
写真3:朝日取水場

所在地 一宮市上祖父江字川田21
朝日取水口、沈砂池及び圧送ポンプ所などの施設からなり、犬山取水場の下流約30キロメートル、一宮市内木曽川左岸に位置する。

出典)名古屋市上下水道局HP

そしていよいよ③の浄水場です。(写真4)実は私たちが普段飲んでいる水の質は、①の水源の段階から徹底的にチェックされています。ダムから木曽川上流域、そして取水口まで水質調査が定期的に行われています。取水場と浄水場では水質を常時監視しています。送・排水管内の水質も常時監視されているなど、水源から私たちの口に入るまで水の品質は徹底管理されていることに驚かされます。

写真4:春日井浄水場
写真4:春日井浄水場

所在地 春日井市鷹来町4957番地
給水能力 590,000立方メートル/日
昭和44年4月から一部通水開始。名古屋市最大の供給能力を持つ。配水塔は地上式としては日本でも有数の大きさ。

出典)名古屋市上下水道局HP

さて、浄水場も地域によって処理技術が異なります。木曽川は流域のほとんどが山地で人口密度が低く、工場排水の影響も小さいので、良質な水源を保ち続けています。したがって、後述する「高度浄水処理」技術を導入しなくてもおいしい水道水を作ることができるのです。では、どのような浄水処理技術を採用しているのでしょうか。

その処理の仕組みは以下の図(図2)をご覧ください。かなり複雑ですね。着水井→薬品混和池→フロック形成池→沈殿池というプロセスの中で、水質によって薬品などを加え、攪拌して砂やごみをくっつけて大きな粒子(フロック)にし、沈殿しやすくします。そして急速ろ過池(写真5)へと送られます。

図2:浄水場の仕組み
図2:浄水場の仕組み

出典)愛知県水道部水道事業課HP

写真5:急速ろ過系凝集沈殿池(鍋谷上野浄水場)
写真5:急速ろ過系凝集沈殿池(鍋谷上野浄水場)

所在地 愛知県名古屋市千種区宮の腰町1番33号
給水能力 290,000立方メートル/日
名古屋市で最初につくられた浄水場で、明治43年5月に建設工事に着手、大正3年3月に完成、同年9月から給水を開始。緩速ろ過系統と急速ろ過系統がある。

参考)名古屋市上下水道局HP

急速ろ過池では、沈殿池から送られてきた上澄み水を更に砂や砂利の層を通してろ過し、さらに塩素を加えて消毒します。この急速ろ過に対して緩速ろ過という方式もあります。こちらは微生物の働きによって水を浄化する方法で、薬品を使わない為安価に水を浄化できますがより広い土地を必要とします。(図3)

水質変化のリスクと新技術

さて、木曽川水系の水質の良さについて前述しましたが、水質は未来永劫保証されるものではありません。将来的に原水が、微量化学物質や病原性微生物などに汚染される可能性もあります。こうしたリスクに対し、沈殿・ろ過処理技術の改善は絶えず行われていますが、「高度浄水処理技術」や「膜処理技術」の採用も場合によっては必要となってくるでしょう。

実は、「高度浄水処理技術」は既に東京都や大阪市などで採用されています。この技術は、従来の沈澱・ろ過・消毒処理では除去できない原水中の異臭のもととなる物質やトリハロメタンなどをオゾンなどで分解し、生物活性炭などで吸着する工程を加えた浄水処理です。

図4:高度浄水処理の仕組み
図4:高度浄水処理の仕組み

出典)東京都下水道局HP「高度浄水処理について」

オゾン(O3)は3つの酸素分子からなり強い酸化力を持っているので、殺菌、脱臭、有機物の分解などに威力を発揮します。(図5)オゾンは、発生器で高エネルギーの電圧をかける無声放電により、酸素からオゾンを作ります。作られたオゾンは接触池で水に注入されます。(写真4)その後、「生物活性炭吸着」処理工程へと送られます。図4にあるように、活性炭の吸着作用と活性炭に繁殖した微生物の分解作用を合わせてさらに不純物をろ過するのです。徹底していますね。

写真6:オゾン発生器とオゾン接触池内部(東京都金町浄水場)
写真6:オゾン発生器とオゾン接触池内部(東京都金町浄水場)

出典)東京都下水道局HP「オゾンによる水処理」

図5:オゾン処理イメージ図
図5:オゾン処理イメージ図

出典)東京都下水道局HP「オゾンによる水処理」

このオゾン生成器は大量の電気を使います。図3で分かるように、オゾンを使った「高度浄水処理」はエネルギー消費が「急速ろ過」のみと比べおよそ2倍となっています。

その他、「膜ろ過」処理というのもあります。これは、中空糸膜等を用い、水に含まれている不純物を除く方法です。(写真7)こちらもエネルギーを消費するのは言うまでもありません。

写真7:膜ろ過施設(東京都砧浄水場)
写真7:膜ろ過施設(東京都砧浄水場)

筒状の容器に精密ろ過膜が入っている。

出典)東京都水道局HP「膜ろ過」

私たちが普段何気なく飲んだり、お風呂に使ったりしている水道水にはこれだけのコストがかかっていることに驚かれた方も多いのではないでしょうか。図6で見てもわかる通り、東京都の給水原価は名古屋市より20%近く高くなっています。つまり将来的に水源の水質が悪くなり、「高度浄水処理」が必要になると水道料金も上がる可能性が高い、ということなのです。

先に述べたように、水源から下流工程まで水質管理が重要になってきます。皆さんも自分が住んでいる自治体の水道水がどこを水源とし、どのような浄水処理がなされているのか、調べてみてはいかがでしょうか?

水はタダではない。大量のエネルギーが使われていることを私たちは意識して生活したいものです。

図6:主要都市水道事業の比較(2015年度)
図6:主要都市水道事業の比較(2015年度)

「地方公営企業決算状況調査」による

出典)東京都水道局HP「水道事業紹介」

生活の中の水

一方で、私たちは普段水を随分と無駄にしています。自覚はないかもしれませんが、歯磨きの時の水や入浴中のシャワーなど出しっぱなしにしていませんか?また、台所での洗い物なども水を出しっぱなしにしていること、多くないですか?(図7)

図7:家庭での水の使われ方(東京都)
図7:家庭での水の使われ方(東京都)

出典)東京都水道局HP「くらしと水道」

東京都の場合、4人家族で1日当り使う水の量は、24.3m³です。(東京都水道局 平成28年度生活用水実態調査)図8を見るといかに普段大量の水を使っているかわかると思います。

図8:用途別水使用量(東京都)
図8:用途別水使用量(東京都)

出典)東京都水道局HP「くらしと水道」

食器洗いは手洗いが一番、と思ってらっしゃる方も多いでしょう。しかし、食器洗い乾燥機を使用すると洗う水の量は大幅に減ります。その他にも節水を心がけるところはたくさんありますよね。水のコストに目を向けて、環境とお財布、両方に優しい暮らしを考えてみたいものです。

  1. 水利権:水利権とは特定の目的(水力発電、かんがい、水道等)のために、その目的を達成するのに必要な限度において、流水を排他的・継続的に使用する権利のことをいいます。(出典:国土交通省HP「水利権について」
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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