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ためになるカモ!?

Vol.25 辛い!花粉症対策最前線

写真)イメージ図
出典)AC photo

まとめ
  • 今春は例年比約1.2倍の花粉量、国民の2人に1人が花粉症。
  • 戦後植林された、樹齢30年を経たスギから花粉が大量放出。
  • 花粉が飛ばない時期からの治療と花粉症対策が重要。

今年の花粉

今年も花粉症の季節がやってきました。くしゃみ・鼻水・目のかゆみなどの諸症状に悩まれている方も多いと思います。かくいう筆者も花粉症とは長年付き合っている一人です。

花粉症患者は年々増えており、近年では国民の2人に1人が花粉症ともいわれています。そもそも花粉症とは季節性アレルギー性鼻炎のことを指し、原因となる花粉の飛ぶ季節にだけ症状が生じます。スギ・ヒノキ・ブタクサなど、日本では約60種類の植物が花粉症を引き起こすと報告されているそうです。

写真)ブタクサ
写真)ブタクサ

出典)Père Igor

東京都の発表によると、今春の花粉量は昨年の6割程度と予測されていますが、それでも例年(過去10年平均)に比べると約1.2倍は飛散するそうです。

写真)2019年の花粉飛散量
写真)2019年の花粉飛散量

出典)日本気象協会

2016年度の東京都の調査によると、スギ花粉有病率は48.8%。10年前に比べて20%近く増加しています。特に若い人(15歳〜29歳)は年齢別トップの60%で、今後さらに患者数は増加するとみられています。

図)都内の年齢区分別すぎ花粉症推定有病率
図)都内の年齢区分別すぎ花粉症推定有病率

出典)花粉症患者実態調査報告書(平成28年)東京都福祉保健局

では、なぜ花粉症患者数は増えるのでしょうか。

その理由は

  • 戦後植林されたスギが成長し 花粉が大量に飛散するようになった
  • 自動車の排気ガスなどによる大気汚染
  • たんぱく質の過剰摂取でアレルギーが起きやすくなった
  • 都市型社会生活によるストレス増大の影響

などが考えられています。

戦後の森林政策で成長スピードの速いスギの植林が進められたことにより、樹齢30年以上を経たスギから花粉が大量に放出されていることが大きな要因の一つです。日本の森林率は約7割、その中で最も広い面積を占めるのがスギ林です。

写真)スギ林
写真)スギ林

出典)AC photo

林野庁はその対策として、

  1. 人工林のスギを伐採
  2. 花粉症対策スギ(花粉の出ないスギ)」の苗木への植え替え促進
  3. スギ花粉の発生を抑える

という花粉発生源対策「3本の斧」を方針として掲げています。

下図を見ると、花粉症対策苗木は平成19年度から生産が伸び始め急速に増え続けています。林野庁によると、15年後の2032年度までに全スギ苗木生産量に占める花粉症対策苗木の生産量の割合を約7割とすることを目標としています。しかし、国内林業の不振から国産材の伐採が進まず、花粉症対策新品種への植え替えがなかなか進まないのが現状です。

図)花粉症対策スギ苗木生産量等の推移
図)花粉症対策スギ苗木生産量等の推移

出典)林野庁

一方、花粉症を乗り越えるために、近年さまざまな治療法が確立されています。

花粉症の治療

花粉症の治療は、大きく分けて2つあります。症状を軽減する対症療法と、根本的に治す根本療法です。

①対症療法

  • 内服薬による全身療法
  • 点眼、点鼻薬などによる局所療法
  • 鼻粘膜への手術療法

花粉症の症状が出る前や、出てから症状を軽減する方法です。主に第2世代抗ヒスタミン薬等、治療薬を服薬することによって、症状に対処します。ある程度症状が進むと「鼻噴霧用ステロイド薬」が処方されます。

2018年4月には、世界初の「貼る花粉症薬(経皮吸収型アレルギー性鼻炎治療薬)」が発売されました。効果は24時間、決めた時刻に1日1回貼付するだけという簡単さが注目されています。

厚生労働省の資料によると、「これらの薬剤を上手に使い分ければ、花粉が多い年でも約5~6割の患者さんが大きな副作用もなく、花粉症の症状がほとんど出現せずに、高いQOL(生活の質)を保ったまま花粉飛散の季節を過ごせる」とのことです。

ですが、これらの薬は鼻水・鼻づまり・目のかゆみ、といった症状を緩和する治療です。花粉症そのものの治すものは、根本療法と呼ばれます。

②根本療法

根本療法とは、花粉症の根本的な原因を治す方法で、

  • 原因抗原(花粉など)の除去と回避
  • 減感作療法(抗原特異的免疫療法)

の2つがあります。

「花粉の除去と回避」は、昨年のエネフロ記事「空気清浄機最前線 花粉と戦うために」でも紹介しましたが、新種の無花粉スギ「はるよこい」がすでに開発されています。ただ、この方法は多くのコストが予想されますし、上に挙げた理由で現在のスギの国産林がすぐに新品種に変わるのは難しい状況です。

写真)さし木増殖した「はるよこい」
写真)さし木増殖した「はるよこい」

出典)富山県農林水産総合技術センター森林研究所

一方、減感作療法は、定期的に花粉の抽出液を注射することによって、花粉を防御する免疫を獲得する療法です。体質を変化させるため、長期間注射を続ける必要があります。

また、最近では「舌下免疫療法」と呼ばれる治療法が注目されています。減感作療法と同様に、花粉に対して防御する免疫を獲得するよう体質改善を図ります。舌下免疫療法は、減感作療法よりも副作用が起こりにくく、薬剤を舌の下に含むだけなので簡単に治療が続けられるとされています。

ただし、これらの療法は花粉が飛ばない時期から治療を始めることが重要で、3~5年は継続しなければいけないようです。また、治療施設が限定されていたり、口の中にはれやかゆみがあらわれたりすることもあるとのことですので、専門医によく相談することが重要です。

今後の対策

花粉症シーズンが始まった今、花粉に触れる機会を減らすために、以下の対策を心がけてみてください。

・マスク・眼鏡を着用する

下図をご覧いただくと一目瞭然ですが、マスクや眼鏡を着用することで、大幅に花粉を防ぐことができます。

図)鼻の中と眼に入る花粉数-実験的なマスク、メガネの効果
図)鼻の中と眼に入る花粉数-実験的なマスク、メガネの効果

出典)厚生労働省 的確な花粉症の治療のために(第二版)大久保 公裕

・衣服の花粉をよく払ってから入室する

花粉対策のための、衣類用花粉クリーナーがあるのをご存じですか。
玄関先に置いておき、家に入る前に付着した花粉を取り除き、屋内に花粉を入れないことが重要です。

写真)衣類用花粉クリーナー
写真)衣類用花粉クリーナー

出典)ベルーナ

・洗濯ものを外に干さない

2月1日より環境省の専用サイト、花粉観測システム(通称:はなこさん)では、リアルタイムで観測した花粉の飛散状況を確認することができます。天気予報とあわせて花粉情報を確認し、花粉の多い日は洗濯物を部屋干しした方がよいでしょう。

・空気清浄機を使用し、空気中の花粉を無効化する

(昨年2月の『ためになるカモ!?』で紹介)

これから本格的な花粉症シーズンの到来になりますが、治療と対策を組み合わせて乗り切りたいものですね。繰り返しになりますが、症状が重いときは迷わず専門医に相談しましょう。

【参考】
・厚生労働省 「はじめに~花粉症の疫学と治療そしてセルフケア~」
・厚生労働省 「的確な花粉症の治療のために(第2版)」
・東京都福祉保健局 花粉症患者実態調査報告書 (平成 28 年度)

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