写真)これからの経済を担う若い世代も増加の一途。勢いのある国ならでは
©室橋裕和
- まとめ
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- フィリピン経済が急成長している。
- その為電力不足が深刻な問題となっている。
- 日系企業にとっては、「省エネ関連ビジネス」の分野でチャンスがある。
フィリピン経済が好調だ。2017年のGDP(国内総生産)成長率は6.7%。2012年からは毎年6~7%の高成長を遂げている。(JETRO参照)その原動力となっているのは旺盛な民間消費だといわれる。GDPの実に70%を占め、マニラ市内のきらびやかなショッピングモールでは購買力をつけた中間層がさかんに買い物をする姿が見られる。
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フィリピンの一人あたりGDPは2008年の1,917米ドルから2017年には2,976米ドルと、1.5倍に跳ね上がった。(JETRO参照)一説によると、一人あたりGDPが3,000ドルを超えたあたりで「マイカー需要」が爆発的に増えるともいわれ、フィリピンからはまさに「離陸前夜」の勢いを感じる。
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内需を支えるのは高い出生率(一人の女性が生涯に産む子供の数)だ。世界銀行によれば、フィリピンの出生率はアジア第4位の2.93と、日本の倍以上。2014年には人口1億人を突破したが、その平均年齢は23歳と、少なくとも今後30年は労働力と消費者に事欠かない「人口ボーナス期」が続く。
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高い英語力も強みだ。アメリカの植民地だった歴史から英語の普及度がアジアでは突出しているフィリピンだが、そのため国外で働く労働者が多い。彼らはOFW(Overseas Filipino Workers)と呼ばれ、建設や飲食、メイドから、専門性の高い医師や弁護士までさまざまな分野で働いているが、その数はおよそ1,000万人。中東湾岸諸国から欧米、香港やシンガポールなどで活躍している。彼らからの国際送金がフィリピンの国内消費を押し上げている。
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また英語圏の国から、コールセンターやITオフショア、ソフトウェア開発など遠隔でもできる仕事を請けている。これはBPO(Business Process Outsourcing)と呼ばれ、その売上は2016年に250億米ドルを突破した。
またドゥテルテ政権の目玉でもあるインフラ整備計画も好調だ。2017年から6年に渡り8兆ペソ(約16.5兆円)(1ペソ=2.05616002 円2018年6月27日)をインフラに投資するもので、大統領の「Build、Build、Build!」のかけ声とともに、国内の開発が続く。
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これらを背景に、フィリピンに進出する日系企業が増加している。外務省の統計によれば、フィリピンを拠点とする日系企業数は2017年が1,502社。これは世界第8位の数字で、2010年の823社から倍近くに伸びている。
その分野はインフラ、製造業のほかに、IT、飲食、サービスなどさまざまで、日系企業はフィリピンを生産拠点だけでなく、一大市場と捉えつつあるといえるだろう。
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まだ外資の進出規制があり、フィリピンにも足場を持とうとする企業は大手中心だが、今後は規制緩和も予想され、中小の増加も見込まれる。
しかし、フィリピン進出にはデメリットもまた多い。そのひとつが「電力」である。フィリピンの電力料金は、ASEAN(東南アジア諸国連合)でも突出して高額なのだ。一般用の電気料金こそ1kwhあたり0.1米ドルと、東京0.16~0.25米ドル、シンガポール0.15米ドル、プノンペン0.15米ドルに比べて低額だ。
出典)JETRO
しかし大量消費する業務用料金となると逆転する。1kw/hあたりジャカルタが0.07米ドル、クアラルンプールが0.08米ドル、バンコクが0.07~0.14米ドル、東京が0.12米ドルなのに対して、マニラは0.21米ドルだ。やはり日系製造業の進出が続くインドネシア・ジャカルタの実に3倍弱。大量の電力を常に必要とする大型工場などにとっては死活問題だ。
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理由のひとつが送電ロス率の高さ。これは発電量に対する、使用者に届く電力の割合を表した数字だ。フィリピンは整備不良などが多く、国際エネルギー機関によれば11%。対してマレーシアやタイは6%に留まっている。東京電力は4.1%だ(2016年)。つまりフィリピンは発電量を110%以上に保っていないと需要を満たせない。これが料金を押し上げる。
加えてフィリピンではエネルギー業界に対する補助金がないことも一因だ。インドネシアやマレーシア、タイなどでは、発電の原料となる石油などに補助金を投入し、企業負担を少なくしている。燃料コストを減らすことで低額な電気料金を実現しているのだ。しかしフィリピンにはこれがない。
そしてもうひとつの理由は「好景気」そのものだ。人口増と高度成長の社会が、電力需要を高めている。それに供給が追いついていない。だからフィリピンは電力を一部、輸入に頼っている。
しかしこの「電力不足」は、日本にとってのチャンスでもある。フィリピンは電力自由化の先進国でもある。2001年に電力産業改革法(EPIRA)がスタートし、発電から配電まで民間産業の投資を認めた。いまでは電力の小売にまで民営化は進んでいる。
そしてこの分野には、外資も進出できるのだ。天然資源の採掘を伴う場合などをのぞき、発電事業については外資の出資制限などはない。すでに水力発電や石炭火力発電プロジェクトなどで、日系企業の進出が見られる。
そのひとつが、丸紅と関西電力が共同で運営に参加しているサンロケ水力発電所だ。ルソン島北部にあるこの巨大発電所は、高さ200メートル、長さ1,130メートルのダム湖を擁し、その貯水量は東京ドーム700杯分。436MW(メガワット)の設備容量はアジアでも最大級だ。発電だけではなく、灌漑、洪水対策、水質浄化まで可能な多目的発電所である。総事業費は1,000億円。2003年から電力の供給を始めている。
出典)関西電力
また東電と丸紅は、ルソン島南部にパグビラオ石炭火力発電所を建設、2017年から本格稼動を始めている。両者が50%ずつ出資し、建設工事は三菱日立パワーシステムズと韓国企業とのコンソーシアムが担った。設備容量は735MWと、こちらも強力だ。
出典)TEPCO
東電はこのほかにも、フィリピンで積極的に電力事業への投資を進めている。これまでに投資した4つの発電所における総設備容量は4,000MWに達する。(TEPCO)これはフィリピン全体の総設備容量の1/4という量だ。
もちろん電力事業への出資にはリスクもある。まず莫大な初期投資が必要となること。加えてフィリピン政府の電力買い取り保証もない。銀行の融資も受けづらいという。
しかし日系企業による参入の余地、うまみは大きい。フィリピンのインフラ開発に寄与するという社会的な意味もある。そこで日本政府が補助金をつけるなど、日本が官民一体となって取り組む意義も指摘されている。
フィリピンはまた、再生可能エネルギーの分野では大きな可能性を持っている国でもある。とくに地熱発電だ。フィリピンは火山国だけあって、インドネシア、アメリカ、日本に次ぐ世界第4位の地熱資源を有している。
以前はあまり重要視されてこなかったが、2009年に再生可能エネルギー法案が施行されると、設備投資も進んだ。いまでは地熱発電設備の容量はアメリカに次ぐ規模で、設備容量は1,920MWとなった。これはフィリピン全体の約11%となる。
地熱発電は2030年までに現状の約8倍、約15,000MWを目指す計画(一般財団法人新エネルギー財団 P.7)で、環境保護も視野に入れた事業は日本企業の得意分野、発電だけでなく付随したさまざまな産業への進出が見込まれる。
2017年には、マニラ北部タルラック州で、出力150MWのメガソーラーが稼動を始めた。30万世帯に電力を供給できるという。熱帯の気候を生かせば、火力発電よりも太陽光発電のほうがコストが安くなるという試算もあり、すでにフランスや中国の企業が参入している。また日本のセイコーエプソンは、2017年に3MWのメガソーラー発電装置を備えた自社工場を建設し、話題になった。
電力が高いということは、改善の余地がある、参入の意味があるということでもある。日系企業にとってはチャンスのある場所といえるが、その中でも注目されているのは、「省エネ関連ビジネス」だ。
例えば消費電力を抑えたエアコンなどの家電製品は、少しでも電気料金を安くしたい1億人の市場に受け入れられるはずだ。またショッピングモールなどの商業施設、大型のプラントや工場の電力を削減できるシステムづくり、効率化やメンテナンスといった分野も需要があるだろう。
コストを圧縮し、よりエネルギー効率を高めていく。それは資源の少ない日本で生まれ育った企業だからこそ可能なことでもある。そしてフィリピンの電力コストの低減が実現すれば、さらに日系企業の投資は増えていくだろう。
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