写真)富士市西部浄化センター太陽光発電所
出典)静岡県富士市HP
- まとめ
-
- 静岡県がエネルギー総合戦略を立てた。
- 「エネルギーの地産地消」を進め「エネルギー産業の振興」を進めようという戦略。
- 産業間の連携と人材育成がカギ。
「地産地消」と聞くと、どうも野菜の事を思い出してしまうのは筆者だけだろうか?しかし、エネルギーを「地産地消」しよう!と宣言している県がある。それが静岡県だ。今回は静岡県のエネルギー戦略を見てみよう。その名も、「ふじのくにエネルギー総合戦略」だ。
「ふじのくにエネルギー総合戦略」とは
東日本大震災後の原子力発電の停止があり、地域経済や住民の生活が大きな影響を受けたことから、静岡県はエネルギー供給体系を従来の一極集中型から、災害に強い小規模分散型に転換させることに舵を切った。ある意味当然の流れだったといえる。
県が掲げる「エネルギーの地産地消」とは、「地域に必要なエネルギーを地域のエネルギー資源によってまかなうこと」を言う。具体的にはどうするのか?この点について県は、「ふじのくにエネルギー総合戦略」(以下、総合戦略)の中で、「太陽光発電や水力、バイオマス、温泉熱など本県の多様な地域資源を活用し、温室効果ガスを排出しない新エネルギーを中心に地域でエネルギーを創出するとともに、その効率的な利用と省エネルギーの取組を推進することによって、エネルギーの地産地消を強力に推進する必要があります。」と述べている。
更に、総合戦略は、「エネルギー産業を振興して、地域経済の着実な成長につなげ、本県の次世代産業の柱としていくことが必要。」とも述べている。つまり、「エネルギーの地産地消」を進め、「エネルギー産業の振興」を進めようという戦略なのだ。そして、前者の「地産地消」を「創エネ」と「省エネ」の2つに分け、「経済活性化」と共に全部で3つの戦略とした。それが以下だ。
- 戦略1<創エネ> 地域資源の活用による多様な分散型エネルギーの導入拡大
- 戦略2<省エネ> 建築物の省エネ、ライフスタイル・ビジネススタイルの変革
- 戦略3<経済活性化> 地域企業によるエネルギー関連産業への参入促進
総合戦略は平成29年度から32年度まで4年間となっている。具体的に見てみよう。
対象エネルギー
エネルギーの分類としては、「新エネルギー」、「再生可能エネルギー」、「地産エネルギー」などがあるが、総合戦略では、導入拡大対象エネルギーと産業振興対象エネルギーを表1のとおり整理している。
総合戦略では、「新エネルギー」を含めた「再生可能エネルギー」、需要地に近接した「小規模火力発電」(15万kw未満)、「エネルギーの高度利用」を「地産エネルギー」と定義し、それに将来利用が期待される「水素エネルギー」を加えて、対象エネルギーとしている。
「新エネルギー」(以下、新エネ)の内訳は、
- 太陽光・太陽熱
- 風力
- バイオマス
- 水力(1,000kW 以下)
- 温度差熱利用
- 温泉熱発電(バイナリー)
となっている。
- ※1:新エネルギーに、エネルギーの高度利用(天然ガスコージェネレーション、燃料電池、ヒートポンプ)及び海洋再生可能エネルギー等を加えたものを「新エネルギー等」とする。
- ※2:安定供給と経済性の向上に資するものとして有効活用を図る。
- ※3:石油燃料による熱電併給システム
- ※4:現状のエネルギーの需給状況を踏まえた、省エネルギーの推進や安定供給の確保に向け、従来の一極集中型のエネルギーについても、安全性の向上・安定供給に係る産業については対象とする。
出典)静岡県「ふじのくにエネルギー総合戦略」
一方、総合戦略の指標は以下の通りだ。
では現状、静岡県の新エネの導入状況はどうなっているのだろうか?
静岡県新エネ導入状況
同県の新エネの導入量は下図のように順調に伸びている。
県によると、平成27年度の新エネルギー等導入量は、前年度から 15%増加し、約93万klとなった。静岡県というと太陽光発電が1番多いような気がするが、表1で定義する「新エネルギー等」の導入量に占める割合が1番大きいのが、天然ガスコージェネレーション(42%)で、太陽光発電(31%)は2番目だ。
ガスコージェネレーションとは、熱併給発電とも呼ばれ、石油や天然ガス等の燃焼による熱を動力や電力に変換し、その排熱を熱源として利用するシステムだ。
静岡県は東海道新幹線の駅が6駅もある。東西に長く、また伊豆半島が太平洋に突き出している。従って地域の特性によって、また新エネの普及の度合いも異なる。例えば、伊豆半島エリアでは、風況に恵まれていることから、 風力発電の導入が進んでいる。
東部エリアは、富士山周辺の森林資源を利用したバイオマス発電が多く、富士・富士宮地域では、製紙業をはじめとする工場でコージェネレーションシステムの導入が進んでいる。中部エリアは、駿河湾から南アルプスに至る多様な自然を有し、年間の日照時間が長いことから、メガソーラーやバイオマス、小水力などの導入が進んでいる。
西部エリアは、浜名湖や遠州灘、天竜川、森林等の自然環境を有し、ものづくり技術が集積する地域で、特に遠州灘に面した海岸地域は風況が良いことから、風力発電の導入が進んでいる。また日照も多く、太陽光発電の導入も盛んだ。
出典)静岡市HP
経済活性化の現状
このように新エネ導入の環境が整っている静岡県だが、やはり地域経済の活性化とセットでなければならないだろう。その点、県はどう考えているのだろうか。総合戦略の3つ目<経済活性化>「地域企業によるエネルギー関連産業への参入促進」の中身を見てみよう。
総合戦略では戦略3の「経済活性化策」を以下の3つに分けている。
- エネルギー関連産業への参入促進
- 新たなエネルギー関連産業の創出
- 多様な産業との連携による地域経済の活性化
1番目が「エネルギー事業への参入促進」だ。具体的には、小水力、バイオマス、温泉熱・付随ガスを活用したエネルギー事業への参入を支援するとともに、許認可・手続きの効率化や関連企業の誘致により、地域企業のエネルギー事業参入を促進する、としている。鍵はやはり規制緩和だろう。地域企業がエネルギー事業に新規参入する為には煩雑な手続きを簡素化することが不可欠だ。
2番目が、「エネルギー機器・部品の開発促進」だ。もともと静岡県、特に西部地域には自動車部品メーカーなど製造業が数多く集積している。そうした中小企業の蓄積してきた技術開発力が生きるだろう。
県は重点取り組みとして、中小食品工場、業務用施設等の経営改善に寄与する、食品廃棄物を活用した安価な小型メタン発酵プラント(静岡版メタン発酵プラント)の事業化と普及に取り組む計画だ。県内の食品製造業等から出る食品廃棄物をエネルギー源として有効活用するユニークなアイデアで他県にも参考になろう。販路拡大も不可欠だ。
そして、さらに重要なのが、2)新たなエネルギー関連産業の創出 であろう。その重点取り組みとしてまず、①「エネルギー需給における IoT 技術の活用」を上げている。具体的には、最新の IoT 技術を活用し、新エネルギーの発電設備や蓄電池、節電の取組を統合的に制御し、地域内で効率的に需給を調整する「地産地消型バーチャルパワープラント」の構築を指す。
「バーチャルパワープラント」は「仮想発電所」とも呼ばれ、多数の小規模な発電所や、電力の需要抑制システムを一つの発電所のようにまとめて制御を行う。大きなメリットは、電力網の需給バランスを最適化できることで、大規模な投資が必要なく、小規模発電施設を効率的に利用できるため、経済的である。静岡県は2017年に本プロジェクトの事業化に着手している。こうした先進的な取り組みも他県の参考となろう。
次に、②「次世代自動車関連産業の振興 」。電気自動車や燃料電池自動車、自動走行システ ム関連技術や部品の開発に向け、研究開発を推進する。更に③「エネルギーの貯留、伝導技術(中古蓄電池、直流送電等)の開発促進 」、④「水素エネルギーなど新たなエネルギーの利活用 」、⑤「エネルギーの安全性の向上・安定供給に係る技術の創出」、⑥「新たなエネルギー産業の創出に向けた担い手の育成 」と続く。
戦略3)の最後は「多様な産業との連携による地域経済の活性化 」だ。「新エネルギーの農林漁業等における有効活用」などが柱となっている。エネルギーは全ての産業の根幹をなすものであり、それなくして日々の企業活動はありえない。そのエネルギーを最大限利用して県の経済活動を活性化させるには、ただ新技術を組み合わせるだけではなく、様々な産業間の連携が不可欠だ。
静岡県のエネルギー総合戦略は、創エネ、省エネ、経済活性化が相互にリンクしている点で優れている。しかし、一にも二にも必要なのは人材だ。人手不足やエンジニアのミスマッチが顕在化する中、どう優秀な人材を確保するか、また、育成していくか、が最重要課題となるだろう。
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