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Vol.51 2025年大総括!エネフロ編集部大座談会~今年は「天然水素」「砂電池」そして「AI」!~

写真)座談会の様子

写真)座談会の様子
出典)Ⓒエネフロ編集部

まとめ
  • 今年よく読まれた記事は、「天然水素」や「砂電池」といった次世代エネルギー技術が中心。
  • 「直播・節水型栽培」、「CO₂バター」など、食に関する新技術にも注目が集まった。
  • 2026年は、エネルギーや社会課題に対するAIの活用に注目。

早いもので、今年も1年を振り返る時期がきた。2025年もさまざまな記事を掲載してきたが、エネルギーフロントライン(以下、エネフロ)では今年も恒例の年末座談会を開催した。今回は5名の学生インターンが参加し、この1年の印象的な記事や、今後知りたいテーマについて語ってもらった。

座談会参加者

司会:
安倍宏行(エネルギーフロントライン編集長)

エネフロ編集部:
トエ

インターン:
リンノ (大学4年生)
トモカ (大学3年生)
アオイ (大学2年生)
ロコ  (大学2年生)
コウタ (大学2年生)

まずは、今年読まれた記事ランキングTOP10を紹介する。

1. 新エネルギーの"ゴールドラッシュ"となるか!?「天然水素」とは
2. 直播・節水型栽培による環境負荷の低い米生産が日本の農業を変える
3. 多機能路版「マルチペイブ™」が拓く道路インフラの新基盤 ―将来の路面機能拡張に向けて
4. 環境負荷ゼロへ「CO₂バター」は食の未来をどう変える?
5. フィンランド発「砂電池」:再生可能エネルギーの長時間貯蔵を可能にする革新的技術
6. スペイン・ポルトガルの大規模停電:日本への警鐘 電力システムの脆弱性と再生可能エネルギーの課題
7. スリーマイル島原子力発電所、再稼働に向け始動! 原子力発電が再び脚光を浴びる理由
8. インフラ整備最前線 高さ70m天空の城塞 その正体は?
9. 太陽光パネルの下で神木が育つ ソーラーシェアリングの可能性
10. 原子力発電所の解体撤去物がアート作品に クリアランス金属が拓く可能性

1位と5位にランクインしたのは「天然水素」や「砂電池」といった、新たなエネルギー源や蓄電技術に関する記事。脱炭素とエネルギーの安定供給の両立が求められる中で、"次の主力エネルギーは何か"を探る関心の高まりを感じた。

2位、4位、9位に輝いたのは食や農業などの暮らしに直結する技術に関する記事。節水型栽培、CO₂バター、ソーラーシェアリングなど、私たちに身近なテーマが、多くの読者を惹きつけた。

3位、6位、8位は社会インフラや電力システムに関わるテーマ。人口減少やインフラ老朽化が進む中、インフラを「エネルギーの供給や情報機能を兼ね備えた新たな基盤」として再構築する動きが注目を集めた。

7位、10位は原子力発電に関連した記事。再生可能エネルギー拡大による需給調整の難しさや、国際的な原子力政策の変化などを踏まえて、原子力発電への注目が高まっていることが窺える。

編集部座談会

安倍さて、今回は5名の学生インターンにエネフロの1年を振り返ってもらいました。みなさんには、普段、エネフロの記事のリサーチなど手伝ってもらっていますが、早速お聞きしたい。今年とくに気になった記事はどれですか?

コウタまず「空気からアンモニアを創る!脱炭素社会を加速させる日本の新技術」です。刺激臭のイメージしかないアンモニアが、火力発電の燃料になるということに加え、燃やしてもCO₂を排出しないという点に驚かされました。

また、「エネルギー自給の切り札!日本の地下で進む「人工天然水素開発」」も印象的でした。自分の出身地である長野県の白馬村が「人工地下水素製造」という最先端技術に貢献していると知り、嬉しく思いました。日本はエネルギー資源のほとんどを海外に依存しているとよく耳にする中で、日本列島の地下に眠るかんらん岩から水素を取り出せるこの技術に、日本のエネルギー分野に新たな可能性を感じます。

写真)蛇紋岩
写真)蛇紋岩

出典)tyak_factory/GettyImages

トモカ私は「電力需給2050年予測の衝撃 DXとGX時代に必要な原子力発電戦略」です。再生可能エネルギーを増やす、原子力発電を動かす、火力発電をどこまで残す、といった前提を少し変えるだけで需給バランスが大きく揺れ、どんな未来を選んでも簡単ではないことが分かりました。

また、「「日本の生命線」南鳥島沖レアアース:経済安全保障と産業競争力強化の鍵」も気になりました。レアアースが産業政策と安全保障の境界にある存在だという点が面白かったです。

リンノ大学で経済安全保障についての講義を受けたことがあり、資源の供給リスクや地政学的依存の問題には関心があったので、私もその記事は強く印象に残りました。深海という新しい資源採掘領域への挑戦は、環境配慮と技術革新の両立が問われると感じます。

安倍リンノさんが他に気になった記事はありますか?

リンノまず「電力×金融:異業種連携で生まれる新たな顧客体験とは?」ですね。電力と金融という異業種の連携が、意外と親和性が高いと知り、驚きました。電力は社会にとって欠かせないインフラであり、金融分野ではインフラファンドなどにも組み込まれる動きが出てきているとの報道も目にするため、今後連携が一層加速しそうだと感じました。

他にも「充電不要の太陽光EV登場 EV市場に一石を投じるか?」が気になりました。少し前に日光のいろは坂で電気自動車が充電切れで立ち往生したニュースを見て、EVの「充電インフラ依存」という課題を実感したことを思い出しました。この新技術は、その課題を解決できる提案であり、需要とともに話題性も高いと感じました。

写真)Aptera Solar EV
写真)Aptera Solar EV

出典)aptera motors

安倍なるほど。ロコさんはどうですか?

ロコ私も車に関する記事で「ロボタクシー、東京を走る:実証実験からサービス開始までの道のり」が気になりました。私には一緒に暮らしている92歳の祖母がいるのですが、長時間の歩行が難しい祖母にとってタクシーは生活に欠かせない移動手段です。しかし、近年はタクシーの運転手不足が深刻であり、祖母のような高齢者にとっては死活問題なので、運転手のいらないロボタクシーという新しい選択肢に強い関心を抱きました。

写真)日本で走行するWaymoのロボタクシー
写真)日本で走行するWaymoのロボタクシー

出典)日本交通株式会社

また、「スギ花粉9割減へ!1日2,320億円の経済損失を救う新技術とは」も興味深かったです。私は重度の花粉症で、花粉の季節になると毎年苦しんでいるため、「スギ花粉9割減へ!」というタイトルにとても惹かれました。林業従事者が減少する中、花粉の少ないスギへの植え替えには長い時間が必要です。そんな中、既存のスギすべてに応用可能で、「雄花を枯らして花粉を出させない」という新技術は非常に革新的だと感じました。コストや散布方法など課題はあるものの、早期の実用化に大いに期待しています。

安倍アオイさんはどうですか?

アオイ魚+植物の循環革命:アクアポニックスが変える食の未来」が印象に残りました。江戸時代中期から始まったとも言われている動物性堆肥の農業活用を現代型にアレンジした循環の仕組みは、まさに「持続可能な農業」の理想系だと考えます。また、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンで展示された、アクアポニックス「いのちの湧水(いずみ)」を実際に見学したのですが、外観の特殊性や神秘性から人々の興味を惹いており、記事内で示された懸念についても十分に解消の余地が見られたため、期待を寄せています。

写真)アクアポニックスに特化して開発されたパッケージシステム「アクポニ温室」内観イメージ
写真)アクアポニックスに特化して開発されたパッケージシステム「アクポニ温室」内観イメージ

提供)株式会社アクポニ

また、クッキーやケーキが大好きなので「環境負荷ゼロへ「CO₂バター」は食の未来をどう変える?」にも興味を惹かれました。21世紀の食品技術はとうとう空気まで原料にしてしまうのかと感銘を受け、科学の可能性と人間の想像力に脱帽しました。一方で、「美味しいのか」という味の部分や、他の材料とちゃんと混ざって分離しないかなどの既存レシピとの親和性も気になるところではあります。

トエCO₂繋がりでいうと、「海からCO₂を回収 新技術DOCが描く持続可能な未来」という記事もありましたね。海水と大気の両方からCO₂を回収できるようになれば、現状の環境負荷の大幅な改善になり、これからの発展が楽しみな技術です。

写真)Caputura社のDOC(直接海洋回収技術)設備
写真)Caputura社のDOC(直接海洋回収技術)設備

出典)CAPUTURA

今後知りたいテーマ

安倍ありがとうございます。では、来たる2026年にみなさんが知りたいトピックを教えてください。

リンノ私は「再生可能エネルギー×AI」の分野に注目しています。再生可能エネルギーの需給の変動が課題となるなか、AIが気象データや需要データを解析し、リアルタイムで最適な制御をおこなう取り組みが進んでいます。こうした「人の感覚ではできないエネルギー運用の未来」を掘り下げたテーマが読みたいです。

また、ウクライナ侵攻や中東情勢の変化で、「エネルギー安全保障」がますます重要になっています。LNG調達、原子力政策、再生可能エネルギーの国際連携など、日本がどう"エネルギー自立"を進めるのかも気になるテーマです。

コウタ僕は、気候変動によって「夏の生活がどう変わるのか」が気になります。酷暑が常態化するなかで、働き方や街づくりなども変わっていくはずで、その「新しい夏の暮らし」を特集してほしいです。

また、最近話題となっている「クマ被害」について、AIやデータ解析を使って人里への接近を防げないのかなど、"テクノロジー×野生動物"の視点に注目しています。

ロコ私は家庭部門のエネルギー消費が大きい今、「エネルギー×住宅」をもっと知りたいです。太陽光や蓄電池を組み合わせたZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及に向けて、初期費用や地域差などの課題がどう克服されていくのか知りたいです。

また、地震・台風など自然災害が多い日本において、「エネルギーインフラ」を災害に強くすることは極めて重要だと思うので、分散型電源、家庭用蓄電池、EVを電源として活用するV2H(Vehicle to Home)や、地下送電網の整備など、最新技術を組み合わせた"停電に強い社会"の設計を深掘りしてほしいです。

アオイ私は「教育分野のDX」に関心があります。AIを使って個々の得意不得意に最適化された「子(個)別学習」や、端末1台で学べる学習プラットフォームが普及すれば、地域や家庭環境による教育格差の解消につながると思います。

また、「海」にも注目しています。アメリカでは、廃車となった地下鉄やバスを海に沈めて人工岩礁としてリサイクルする取り組みがあります。この取り組みは江戸時代の日本でおこなわれていた慣習を参考にしたらしく、日本での同様の取り組みについて深掘りしてほしいです。

安倍なるほど。AIに注目している人が多いですね。再生可能エネルギー普及や社会課題に対してAIがどこまで有効かは今後大きな論点になりそうです。

SDGsに関する知識をZ世代はどこで身につけている?

安倍皆さん、エネルギー関連の情報について沢山の知識を得ているようですが、普段どうやってそういった情報を得ているのですか?

ロコ私はXで見ることが多いです。気になったニュースには必ずいいね!を押すようにしていて、そうするとアルゴリズムによって関連したニュースがどんどん流れてくるようになるので、結果として多くの知識を身につけることができています。

アオイ私はInstagramのリール動画で知ることが多いです。特に「SUSTERRA」というアカウントは、動画の構成が上手くて、ついつい見てしまいます。

安倍やはり皆さん、SNSから情報を得ているんですね。皆さん、今日はどうもありがとうございました。

2025年も多くの方にエネルギーフロントラインをお読みいただきました。編集部一同、心よりお礼申し上げます。2026年もエネルギーの未来を深掘りする記事をお届けしますのでよろしくお願いいたします。

それではみなさま、良いお年をお迎えください。

安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
・日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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