写真)BYDのハイエンドブランド「仰望(ヤンワン)」が誇る高性能BEV「YANGWANG U9」(ジャパンプレミア:参考出品)
出典)©エネフロ編集部
- まとめ
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- BYD参入による価格競争に対し、国産メーカーは高付加価値戦略で応戦。
- 自動車部品メーカーが、ポータブル水素カートリッジ式FCVを提案。FCV普及の最大の課題であるインフラ不足を解決する可能性を示唆。
- 「軽EV戦争」と「水素インフラ革命」が、今後の日本のモビリティ戦略を左右する二大潮流となる。
モビリティ産業に関する最新の技術やデザインについての情報を紹介する、「Japan Mobility Show 2025」(以下、モビリティショー)を取材した。かつての「東京モーターショー」の後継イベントだ。
今回のショーでは、電気自動車(以下、EV)と燃料電池車(以下、FCV)で新しい動きがあったので紹介する。
中国製軽EVの登場
今回のモビリティショーで話題になったのは、世界のEV市場をリードする中国の自動車メーカーBYDが、日本固有の規格である軽自動車EV、「BYD Racco(ラッコ)」を市場に投入する計画を具体化したことだ。
軽自動車は、日本の全保有台数の約40%(含む軽トラック:日本自動車工業会)を占める生活の足であり、これまで海外メーカーにとってその参入の難しさから、国産メーカーの「聖域」とされてきた。
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BYDの参入は、単なる車種の追加以上の意味を持つ。その背景には、BYDが持つ垂直統合型の生産体制による圧倒的なコスト競争力と開発スピードの速さがある。
特にBYDが「ブレードバッテリー」と呼ぶ、安全性が高く比較的安価なリン酸鉄リチウムイオンバッテリーから主要部品、車体に至るまでを内製化することで、ガソリン軽自動車と競合し得る価格帯で軽EVの提供が可能になるのではと見られている。

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BYDが日本の自動車市場を徹底的に研究し、ボリュームゾーンである軽自動車市場を戦略的に選択したことがうかがえる。実際に市場に中国製軽EVが投入されたら、日本の自動車メーカーは「価格競争」を覚悟しなければならないだろう。
こうしたBYDの攻勢に対し、国産メーカーは独自の高付加価値戦略で軽EVのプレミアム化を図る戦略を取る構えだ。
例えば、日本メーカーの軽EVパイオニアである「日産サクラ」。(三菱「eKクロス EV」は兄弟車)。今回日産は、「日産サクラ」に車載用電動スライド式ソーラーシステム「Ao-Solar Extender(あおぞら エクステンダー)」を搭載したプロトタイプを展示した。

出典)日産自動車株式会社
「Ao-Solar Extender」は、電動スライド式のソーラーシステムで、走行中は車体の屋根に搭載されたメインパネルが最大約300Wの電力を生成し、停車時には収納されていた可動パネルが前方にスライドして展開、ソーラーパネルの表面積が拡張して発電能力は合計約500Wに達するという。年間最大約3,000km相当の走行に必要な電力を太陽光発電でまかなうことを目指している。
もともと軽EVは近距離走行を主とする「コミューター」として好調に販売を伸ばしてきたが、太陽光発電による充電システムが追加されることで、走行距離が短いという軽EVの短所が解消されるとともに、充電のストレスを最小限に抑えることができ、新規ユーザー層の開拓が期待できる。

出典)日産自動車株式会社
ホンダは軽EV「Super-ONE Prototype(スーパーワン・プロトタイプ)」を展示。2026年より日本を皮切りに、小型EVのニーズの高い、英国やアジア各国などで発売を予定している。既に発売されている軽自動車EVの「N-ONE e:」がベース。
専用開発の走行モード「BOOSTモード」を搭載、出力を拡大することで、パワーユニットの性能を最大限に引き出し、力強く鋭い加速を可能にした。新しいEVの「操る喜び」を提供するとしている。もともと加速がよいEVの特性を存分に生かし、従来軽自動車に期待されていなかった「走り」に振った戦略だ。
また、資本関係にあるトヨタ・ダイハツ・スズキの3社は、軽自動車向けEVシステムを共同開発した。なかでも、ダイハツ「KAYOIBAKO K(カヨイバコK)」は、過疎地での移動手段だけでなく、小口配送などの用途を視野に入れている。配送業務における荷物の出し入れを容易にするため、助手席側に大開口スライドドア1枚だけという左右非対称デザインを採用した。将来的には、無人の自動運転で車両を玄関口まで呼び出すなど、人工知能(AI)を活用した完全自動運転も見こむ。
日本車メーカーが取り組む軽EVの高付加価値化にBYDがどう挑むか、2026年以降、軽EV市場から目が離せない。
一方、EVと比べ話題に上ることが少ない「究極のエコカー」、燃料電池車(FCV)の動向はどうなっているのだろうか?
燃料電池車の未来形
燃料電池車は、水素と酸素の化学反応で発電し、走行中にCO₂や有害な排気ガスを一切出さず、排出するのは水だけという高い環境性能を持つ。トヨタやホンダが開発に先鞭をつけたが、日本市場のみならず、海外でも普及のスピードは遅い。原因として、水素ステーションの不足とインフラ整備の遅れに加え、車両価格の高さが挙げられる。
こうしたなか、トヨタ自動車の関連会社である豊田合成株式会社が興味深いコンセプトカーを展示した。ポータブル水素カートリッジ式燃料電池車、「FLESBY HY-CONCEPT(フレスビ― ハイ-コンセプト)」がそれだ。

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トヨタの燃料電池車「MIRAI」にも装備されている高圧水素タンク1本に加え、車体後方に「ポータブル水素カートリッジ」を3本搭載している。水素が満充填されていれば、最大約200km走行できるという。重さ1本8.5kgの交換可能なカートリッジのおかげで、充填の待ち時間がなくなるのは大きなメリットだ。ガソリンスタンドやコンビニなど、既存の流通網を使ってカートリッジを供給・回収すれば、高い建築費を使って水素ステーションを建設する必要はなくなる。
また、カートリッジ化された水素は、燃料電池車だけでなく、家庭用電源、工場、そして災害時の非常用電源など、モビリティ以外の幅広い分野で汎用的に利用可能だ。水素エネルギーをまるでモバイルバッテリーのように、「手軽に持ち運べる共通のエネルギー媒体」へと変えることで、FCV単体の市場だけでなく、「水素社会」全体の突破口を開くことが期待される。
FCV市場は、これまで長距離・高負荷走行が必要な大型トラックやバスなどの商用分野がメインとみられてきた。しかし、ポータブル水素カートリッジは、燃料電池車が将来的に乗用車市場でもEVと競合し得る状況を創り出す可能性を示唆している。
水素インフラの遅れという課題を、日本の技術とサプライチェーンの知恵で克服する試みは、今後のグローバルなモビリティ戦略においても注目される。
あとがき
軽EV市場を舞台にした中国メーカーBYDと日本メーカーとの競争は、今後の日本の自動車産業における注目点の一つだ。海外勢にとって初めて参入する軽自動車市場に、BYDが強いコスト競争力を背景に参入することで、日本のメーカーは独自技術と高付加価値戦略で応戦するという、ダイナミックな展開が予想される。
一方で、これまで普及の遅れが指摘されてきた燃料電池車の分野で、豊田合成が提案するポータブル水素カートリッジは、「インフラ不足」という最大の課題を解決し、FCVをEVと競合し得る存在へと押し上げる可能性を秘めている。
「軽EV戦争」と「水素インフラ革命」というふたつの波は、日本の自動車産業にとって変革の引き金となり得る。日本の技術とサプライチェーンの知恵が、EVとFCVの両面でグローバルな競合他社に対して競争力を持ち、次世代モビリティの未来をリードしていくことを期待したい。
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