写真)スピントロニクスの概念図(本文とは直接関係ありません)
出典)THOM LEACH / SCIENCE PHOTO LIBRARY/GettyImages
- まとめ
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- 私たちの周りにはWI-Fiやbluetoothなど、使われていない電波があふれている。
- 東北大学の研究により、その電波から電力を生み出す技術が誕生。
- IoT社会を支える革新的なエネルギー源として注目されている。
私たちの生活空間のいたるところに飛び交っている微弱電波。BluetoothやWi-Fiなどがそうだ。もしこれらを電力として活用することができたら、電池や電源がなくとも電子機器を動かすことができる。そんな夢のような技術が現実のものとなろうとしている。
自然エネルギーや不要なエネルギーを収集し、電力として利用する技術を「環境発電」という。以前の記事(Vol.42 暮らしの中の小さなエネルギーで発電する未来 2022.09.27)で紹介した「エネルギーハーベスティング」とほぼ同義だ。
東北大学が実証実験に成功
改めてこの技術を紹介しよう。
開発したのは、東北大学電気通信研究所の深見俊輔教授、そして先端スピントロニクス研究開発センターの大野英男教授だ。2人は、シンガポール国立大学のヤン・ヒョンス(Hyunsoo Yang)教授らと共同で、「スピントロニクス」の原理に基づくナノスケールの「スピン整流器」を開発、微弱な電波から高効率で電力を生み出す原理実証実験に成功した。-27dBm (デシベルミリワット:電波や光ファイバ通信で使われる単位)の強度の電波で発電して市販の温度センサーを駆動した。
スピントロニクスはなじみがないかもしれないが、エレクトロニクスは聞いたことがあるだろう。
電子には、電荷を持つという性質の他に、「スピン」という磁石の性質がある。トランジスタやダイオードなど、電子が持つ電荷の流れを制御し、さまざまな機能を引き出す技術が「エレクトロニクス」だ。それに対し、これらの2つの性質を両方とも利用した工学応用や新しい物理現象を研究する分野を「スピントロ二クス」という。(参考:東北大学工学部電気工学物理工学科)
スピントロニクスの原理でつくられたデバイスは、従来の電子デバイスよりも機能性に優れ、微弱なエネルギーからでも電力を生成できる。また、微細な構造でつくれるため、小型で軽量なものになる。こうした特徴から、スマートフォンやIoT機器に組み込み、振動を電力に変換したり、体温や廃熱、磁場の変化などを電力に変換したりすることができる。
IoT社会では、身の回りに無数のセンサーやプロセッサーが配置され、これらをとおして社会活動やインフラが効率化されている。しかし、端末への電源の供給や電池の寿命・交換が障壁となっている。スマートフォンの電池などは劣化すると丸一日もたないこともあり、外出先で充電するために電源を探すはめになったことのある人も少なくないだろう。
環境発電の分野で、スピントロニクスの技術を応用することで、より効率的で、より幅広い用途に使うことができる。将来的には、私たちの身の回りにあるさまざまなものが、スピントロニクス技術によって駆動されるようになるかもしれない。
電波から電力を生み出すしくみ
無線からどのようにして電力を生み出すのか。
Wi-FiやBluetoothなど我々が普段利用している無線通信技術は、データの送受信に高周波(Radio Frequency:RF)の電波を利用している。この電波は常時放出されているが、実はスマートフォンなどの電子機器によって利用されていない時は、そのエネルギーは捨てられ続けている。
そこで、PCやスマートフォンで使用されている電波以外から発電することで電子機器を駆動させ、無駄な電力の消費をなくそうというのだ。
そうしたなか、同大学が開発したのが「スピン整流器」というものだ。電波がスピン整流器にあたると、スピン整流器内のスピンの集合(磁化)が電波に従って振動(歳差運動)する。この振動によって電圧が発生し、電気エネルギーになる仕組みだ。
今回の研究では、このスピン整流器を10個直列接続することで、極めて微弱な高周波入力信号から電力を生成し、市販の温度センサーの駆動に成功した。
出典)東北大学
課題と今後の展望
このスピン整流器だが、より多くの電力を得るためには変換効率や耐久性に改善の余地がある。
今後は、スピン流を効率的に生成することができる材料の開発が求められる。またスピン整流器の高密度集積化も課題だ。
これらの課題が解決されれば、より大規模な環境発電システムの構築が可能になる。IoTデバイスだけでなく、ウェアラブルデバイスや、センサーネットワークなど、さまざまな分野への応用が期待される。今後の研究開発の進捗に注目したい。
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