写真)オーデンセのデータセンター
出典)Odense Deta CenterFacebookページ
- まとめ
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- デンマークは経済成長を遂げつつも、エネルギー消費をコンスタントに減少させている。
- しかし、国際IT企業の大型データセンター設立増で2030年頃からエネルギー消費増える見込み。
- その為、データセンターの排熱を地域暖房に活用し、風力発電の電気を使うことでエネルギー消費を最小限にする。
グリーン電力推進国デンマーク
デンマークは過去30年ほどエネルギー消費量の増加率が小さい(1988年を基準)。一方で、経済成長180%弱増を達成している。経済成長を遂げつつも、エネルギー消費をコンスタントに減少させている国デンマークは、確かに、環境に優しい国を標榜するだけある。特に直近10年では、エネルギー消費量を減らしていると同時にGDPも増加傾向にあり、経済成長のためには、かならずしもエネルギー利用の増加が不可欠であるわけではないことを体現していると言えよう。
出典)デンマーク統計局のデータをもとに、北欧研究所作成
一方、注目されるのが今後の変動である。2007年の経済危機を契機に減少傾向がみられていたデンマークのエネルギー消費量は、2030年に向けて再度増加の見込みだ。それはなぜなのだろうか。
大型データセンターの増加
理由は近年、エネルギー関係でデンマークメディアを騒がせてきた話題と関連する。国際IT企業がデンマークでの大型データセンター設立に関するプレスリリースを相次いで発表したのだ。データセンターとは、インターネット用のサーバやデータ通信、固定・携帯・IP電話などの装置を設置・運用することに特化した建物を指す。アップル、グーグル、フェースブックといった企業が、過去数年の間に次々にデンマークに大規模な土地を購入し、一部はデータセンタ設置、もしくは将来的に設置の意向を表明しているのである。
先駆けとなったのは、アップル社だ。2015年2月には、アップルが17億ユーロ(約2,287億円)をかけて、ユトランド半島の古都ヴィボー(Viborg)にデータセンターを設立することを発表した。
広さは166,000平方メートル、データセンターは近年中に操業開始の見込みだ。さらに、2017年7月には、デンマーク国内2つ目のデータセンターをデンマーク南部の人口約1万5千人の町オーベンロー(Aabenraa)に設立することを発表し、2019年の運営開始予定だ。
出典)編集部作成
興味深いことに、その後、その他の巨大IT企業も同様の動きを見せ始めている。
グーグルは、2017年11月、アップルのオーベンロー・データセンターに隣接する1.31平方キロメートルの広大な敷地を購入した。実は、グーグルはオーベンローから北に80kmに位置するフレデリシア(Fredericia)にも0.73平方キロメートル(東京ドーム15.6個分)の敷地を所有している。購入された敷地がどのように使用されるかは未決定とのことであるが、「ヨーロッパにいつでもデータセンターを建設できるようにするため」だとされている。
さらに、SNSの雄フェイスブックも、現在、オーデンセにデータセンター設置を進めており、2020年に操業開始予定である。
出典)Digital innovation summit 2018を参考に編集部作成
巨大IT企業が保有する大型データセンターは、今まで、膨大な電気量、大型コンピュータの排熱の問題で、自然環境への負荷が非常に大きいと指摘されてきた。そして、このデータセンターの設立が、前段で述べたデンマークで電気使用量が増加するとみられている主要因なのだが、環境大国を標榜するデンマークがそれでいいのだろうか?もちろん解決策は考えてある。デンマークにデータセンターを設立することで、どれもが解決できてしまうという夢のようなことが起きているのだ。実はこれが、大手国際IT企業のデータセンターをデンマークが誘致に成功している理由である。
グリーン、安全、安価
こうして消費が増えるエネルギーにデンマークはどう対応していこうとしているのか?ヒントは、どのデータセンターも、「環境への配慮」を謳っている点にある。例えば、フェイスブックが進めるオーデンセのデータセンターは、センターの大型コンピュータからの排熱で水を温め、さらにヒートポンプを利用し維持した温水を地元の地域暖房企業フィアンヴァーメ・フュン(FjernvarmeFyn)社の地域暖房システムに活用する予定である。
オーデンセ市は、フュン島に位置する人口約17万5千人のデンマーク第3の都市である。このフェイスブックのデータセンターは、まずサーバーからの回収された排熱を利用して温水を作り、さらにそれをヒートポンプ設備で増強して地域暖房システムに送る計画だ。フェイスブックはこれにより6900世帯の暖房を賄うことができるとしている。
前述のアップル社が進めるヴィボー市のデータセンターは、フェイスブックと同様、余分な熱は地域都市の地域暖房に利用する予定である。つまり、環境に配慮した地域との共生を前面に打ち出しているのである。
そしてなにより、各データセンターは、再生可能エネルギー由来の電力を利用する予定だ。これ以上のグリーン(Green :「環境に優しい」という意味)なデータセンターがあるだろうか?デンマークは2016年冬に初めて、風力発電の発電量が国内で利用する電気の発電量の100%超を記録した再生可能エネルギー先進国の一つだ。
風力発電は変動性が高く、いつも風が吹いているとは限らないのだが、立地の利により安定した水力発電が見込まれる隣国ノルウェーと協力することで、ほぼ100%再生可能エネルギー利用の電力を供給することも不可能ではない。例えば、ヴィボーのデータセンターは、洋上風力発電所およびノルウェーの水力発電所からの電気を受けとっている変電所のすぐに脇に建設されている。
出典)Orsted
この立地により100%確実に再生可能エネルギーを用いた電力を確保することが保障されている。つまりデンマークは、使われる電気は全てグリーンであることを売りにし、環境に負荷を与えないエネルギー源を呼び水に、大型データセンターの誘致を進めているのだ。
デンマークは、風力発電電力を利用でき、電力余剰の見込みがあれば、発電を止めるなどの措置が簡単であるため、より安価なエネルギー源を提供できている。さらに、寒い地域であること、また地域暖房ネットワークとの連携により巨大コンピュータの排熱を有効利用でき、さらに環境に優しい、といったような利点により、大型データセンターの誘致に成功している。
いいことだらけ?
こんなにいいことだらけというのは、にわかに信じがたいという人もいるだろう。デンマークにデータセンターを設立するにあたりマイナスの点はないのだろうか?もちろん、ある。データセンターは大きな産業を生み出すわけではなく、建設に関わる以外の雇用を大きく生み出すわけではないので、それがマイナス点といわれれば確かにそうだろう。
しかしデンマークでは、産官が一丸となって環境に配慮する政策を作り、環境技術開発に力を入れている。こうした後押しを受け、国際IT企業は、地元の関連パートナー企業との協働を進め、再生可能エネルギーの利用環境を向上させると共に、他の環境支援プロジェクトを進めていくと見込まれている。新データセンターが環境に与える影響が小さいということを示し、ビジネス的にも費用対効果が高いということになれば、世界的な注目がさらに集まると予想される。
歴史のある古都の一つであるヴィボーはバイキングの移住が行われた8世紀後半から宗教と政治の中心地であったが、現在は目立った産業はない。大規模データセンターの設立により、過疎化している地域の市民が、「自分たちは国際的な企業の一翼を担っている」という誇りを取り戻しつつあるのは国内的にも良いことではないだろうか。
出典)flickr:cowgirl_dk
洋上風力発電の発展
現在、デンマークでは洋上風力発電所の建設が、まさに佳境を迎えている。未来のグリーンエネルギー需要を見越した洋上風力発電所の建設が花盛りで、陸上風力発電所の大型化も継続して進められている。
- 参考)デンマークエネルギー庁ホームページ
- 参考)日本気象株式会社
風力発電で作られたエネルギーは、環境に優しい再生可能エネルギーの主役として、デンマークの都市の63%に敷設される地域暖房ネットワークと連携しつつ、増加が見込まれるデータセンターに必要なエネルギーを賄っていく予定だ。風力発電に適した地の利がある北欧ならではの国家戦略ではあるが、我が国にとっても参考にすべき点があるだろう。
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