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エネルギーと私たちの暮らし

Vol.09 次世代エネルギーパークを回ってみた。静岡市の環境学習プログラム

写真)メガソーラーしみず
©エネフロ取材班

まとめ
  • 静岡市は環境学習に力を入れている。
  • 動物園では小学生から環境問題を楽しく学べるプログラムも。
  • 私たちも普段からエネルギーに関心を持つことが大切。

エネルギーは人間が生きていく上で無くてはならないものですが、普段は空気のように意識しないものです。資源に乏しい日本に暮らす私たちは、エネルギーの大切さを忘れないようにしたい。そう頭でわかってはいても、普段家庭でエネルギーを話題にすることは少ないのではないでしょうか?

そんな時は、子どもを連れて、もしくはパートナーと動物園にでも行ってみてはいかがですか?私たち取材班は、「驚きと感動、そして夢のある動物園」として平成25年度にリニューアルし、行動展示を主体に生き生きとした動物の姿を様々な角度から間近に観察ができる静岡市立日本平動物園に来ました!

写真)静岡市立日本平動物園入口
写真)静岡市立日本平動物園入口

©エネフロ取材班

こちらの一番人気は、ホッキョクグマのロッシーとバニラ!ガラスのトンネルの上で遊びまわる姿は圧巻!子供たちも大喜びです。

写真)ホッキョクグマのロッシー
写真)ホッキョクグマのロッシー

出典)静岡市立日本平動物園

さあ、こちらの動物園の素晴らしいところは、動物を見て楽しむだけではなく、色んな勉強が出来るところなんです。それが、こちら、「どうぶつエコクイズ」です。

どうぶつエコクイズ
どうぶつエコクイズ
どうぶつエコクイズ

出典)静岡市立日本平動物園

ホッキョクグマが困っていることは?という質問の答えは「地球温暖化」。温暖化の影響で氷が溶けてしまうことを自然に学べるようになっているのです。ちゃんと子供用と保護者用のシートに分かれているんですよ。素晴らしいですね。小学校低学年から動物の観察を通して環境問題について楽しく学べるプログラムなんです。静岡市の環境創造課の石川貴之さんによると、こうしたシートは園の入り口に誰でも手に取ることが出来る“セルフガイド式”になっているので、園内を回る時に便利だということです。

写真)どうぶつエコクイズ他学習プログラム
写真)どうぶつエコクイズ他学習プログラム

©エネフロ取材班

写真)筆者(左)と静岡市役所環境局環境創造課 石川貴之さん(右)
写真)筆者(左)と静岡市役所環境局環境創造課 石川貴之さん(右)

©エネフロ取材班

また、市主催で「どうぶつ・エコ教室」や「どうぶつ・エコクイズラリー」というイベントも年に3~4回開かれており、市がかなり環境学習に力を入れているのがわかりました。

そして、さらに興味深いのは園内のエネルギー関連施設。太陽光パネルを利用した、ソーラー水浄化装置や、風レンズ風車と呼ばれる小型風力発電施設などもあります。

写真)風レンズ風車
写真)風レンズ風車

©エネフロ取材班

風レンズ風車は、一般家庭の消費電力を3,600kWh/年とすると、約1世帯分に相当する電力を年間を通して発電することができます。実際には園内の授乳室とトイレで全量消費されています。レンズによって、集風効果が得られるので高効率で発電でき、バードストライクの危険性が少なく、騒音も少ないといった特徴があります。

写真)風レンズ風車 左下にいるのが筆者
写真)風レンズ風車 左下にいるのが筆者

©エネフロ取材班

また動物園のフライングメガドーム内の池と野鳥の森の池を浄化するために、ソーラー水浄化装置があります。園内の池は、夏季になると富栄養化が進み、アオコが発生するなど水質悪化が課題でした。この水浄化装置は、ソーラーパネルで発電した電力で水中のプロペラを回し、池に水流を作り、水を撹拌することで、水を浄化しています。エコな仕組みを学ぶことが出来るんです。

写真)ソーラー水浄化装置
写真)ソーラー水浄化装置

出典)静岡市立日本平動物園

こうした様々な取り組みについて、市がアンケートを取ったところ、子どもや保護者にシートが効果的に使われていることがわかる一方で、再生可能エネルギー施設が園内にあることの認知度はまだまだ低く、更にPRが必要なようです。

さて、今回のガイド役、市の環境創造課の石川さんが私たちを乗せてくれたのが、このかっこいいブルーの車。こちらがトヨタ自動車の燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」なんです!筆者も初めて乗る究極のエコカーに大興奮。

写真)燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」
写真)燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」

©エネフロ取材班

県内の自治体として初めて、水素を燃料にして走る燃料電池自動車(FCV)を公用車として導入した静岡市。このMIRAIは水素で作った電気でモーターを駆動して走行。排出するのは水だけで、排出ガスによる大気汚染の心配がありません。今回、車両は静岡トヨタ自動車(株)、ラッピングデザイン制作は静岡デザイン専門学校が関わり、水素社会の実現に向けてまさに産官学が連携した取り組みといえます。「街中を走っているとその派手なラッピングのせいか、めちゃめちゃ見られます。」(石川さん)宣伝効果は抜群のようです。

写真)静岡市役所環境局環境創造課 石川貴之さんと燃料電池自動車
写真)静岡市役所環境局環境創造課 石川貴之さんと燃料電池自動車

©エネフロ取材班

次に訪れたのが、風力発電施設「風電君」。取材当日は風も強めで3枚の羽が大きく回っていました。風電君は高さ100メートル幅70メートル。風車は風速3.5メートル/秒から発電を開始し、風速13メール/秒以上では最大1,500kwまで発電することができます。プロペラは効率よく風を受けられる様に自動的に角度を変えられます。

写真)風電君
写真)風電君

©エネフロ取材班

風電君の年間発電量は、約165万kWhで、これは一般家庭約500世帯が年間に使用する電力量に相当します。発電された電力は全て風電君の目と鼻の先にある下水道施設、中島浄化センターで使われています。中島浄化センターの年間消費電力量の約10パーセント弱が風電君によって賄われています。平成16年に建設されたもので、耐久年数が約17年と言われています。そろそろ取替も検討する時期が近づいているとのことでした。取り壊しも新設も費用が掛かりますが、なんとかこうした施設は維持したいものです。

写真)風電君
写真)風電君

©エネフロ取材班

写真)下水道施設 中島浄化センター
写真)下水道施設 中島浄化センター

©エネフロ取材班

そしてこの日最後に訪れたのが、清水区三保にある、「メガソーラーしみず」。1枚当たり縦1,638mm×横982mmの太陽光パネルを約3万枚も設置しています。2015年1月から営業を開始したメガソーラーしみず。メガソーラーが1年かけて発電する840万kWhは、火力発電所の発電量に比べたら少ないものですが、CO₂排出を削減できるのが大きなメリットです。具体的には年間約4,300トンの削減が期待できます。これは一般家庭約660世帯が年間に排出するCO2量に相当します。

写真)メガソーラーしみず
写真)メガソーラーしみず

©エネフロ取材班

こうしたさまざまな施設を「次世代エネルギーパーク」(注1)として市民が見て回れるようにしている静岡市の取り組みは大きく評価できるものでしょう。特に子どもたちの環境教育に力を入れることはとても大切な事だと思います。市の環境創造課の石川さんは、「これからは市北部のダムなど水力発電やバイオマスボイラーの施設を見学するツアーなども企画していきたい。」と意欲を語ってくれました。

しかし、こうした市民が見て回れる取り組みやツアーも私たちが利用しなかったら宝の持ちぐされです。冒頭にも言ったようにエネルギーの大切さは普段気付かないもの。こうした施設を見学した後、親子や友達同士でエネルギーの話をさりげなくできたらもっと素晴らしいな、と思った一日でした。

  • (注1)次世代エネルギーパーク
    次世代エネルギーパークは、小学生から高齢者まで国民各層が、再生可能エネルギーを中心に日本のエネルギー問題への理解の増進を深めることを通じて、エネルギー政策の推進に寄与することを期待するものです。次世代エネルギーパークの計画の認定・公表を行います。平成29年3月現在で、全国で64件の施設が次世代エネルギーパークとして認定されています。(参考:経済産業省
参考)
静岡市次世代エネルギーパーク計画図
安倍宏行 Hiroyuki Abe
安倍 宏行  /  Hiroyuki Abe
日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。
株式会社 安倍宏行|Abe, Inc.|ジャーナリスト・安倍宏行の公式ホームページ
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