写真)中国江蘇省如東で建設が進むGESS
出典)エナジー・ボールト社
- まとめ
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- 中国で重力蓄電システムの商用化が間近に迫る。
- 構造がシンプルでコストが比較的低いこと、化学物質を使わないことなどがメリット。
- 超高層ビルに組み込むことで、大都市でも建設の可能性がある。
以前「重力蓄電(GESS:Gravity Energy Storage System)」(以下、GESS)を紹介した。(参考:ローテク“重力蓄電”は再エネの救世主か 2021.11.02)
コンクリートなどの重りを上げ下げすることで、電気エネルギーを位置エネルギーに変換する蓄電方法である重力蓄電は、再生可能エネルギーの持つコスト面や効率面における懸念を補完する新たな蓄電システムとして注目されている。
位置エネルギーを運動エネルギーに変えて発電する点において、先日紹介した揚水発電と考え方は一緒だ。(参考:揚水発電に革命!?高密度水力貯蔵システム「HD Hydro」とは 2024.08.13)
重力蓄電のメリット
重力蓄電を使用する大きなメリットはおもに以下の4つ。
・開発コストが安い
物体を上下させる構造の施設を建設すればよく、複雑な設備が必要ないため、開発・建設コストは比較的安くすむ。
・耐久性が高い
構造がシンプルであり、劣化しやすいバッテリーと比べて寿命が長い。そのため、メンテナンスコストも抑えられる。
・応答時間が短い
電力需要に応じ、迅速に発電・蓄電を切り替えることができる。
・環境負荷が低い
化学物質を使用しないため、環境への影響が少ない。
一方、デメリットとしては、建設場所の制限が挙げられる。重量物を上下させるにはそれ相応の高さの建造物が必要だ。日本のように平地が少ない国では、建設用地が見つからない可能性がある。
GESS初の商用化は中国
このGESS、中国で着々と商用化が進んでいる。建築とその運営に携わっているのが、スイスを拠点とするEnergy Vault(以下、エナジー・ボールト)だ。同社はGESS技術を世界に先駆けて開発した。
世界最大のCO₂排出国である中国にとって、脱炭素化は重要な政策課題であり、「エネルギー貯蔵」にかねてから重点が置かれてきた。これまで出力変動の平準化に貢献してきた揚水発電以外に、リチウムイオン電池による蓄電システムも増やしてきたが、稀少金属であるリチウムを使う必要がなく、建設コストも抑えられる重力蓄電が検討され始めたのは自然な流れと思われる。
そしていま、中国東部の江蘇省如東で、世界初となる商用のGESSが建設中だ。
施設の高さは約150mで、蓄電できる電力量は10万kWh。すでに地域の送電網と接続し、充放電が可能な状態になっている。今年5月に試運転をおこなった。商用化の時期はまだ発表されていない。(参考:「エナジー・ボールト、China Tianying初のEVx 100MWh重力エネルギー貯蔵システムの試験と試運転に成功」)
エナジー・ボールトは、中国のエネルギー企業、China Tianying(CNTY:中国天楹)と、中国国内で合計370万kWhを超える8つのGESSの建設で合意するなど、同国内でのビジネス拡大が期待されてい
GESSの可能性
重力蓄電の今後を占う上で、最近気になるニュースが飛び込んできた。
米大手建築設計事務所のスキッドモア・オウイングス・アンド・メリル(以下、SOM)が5月30日に、エナジー・ボールトと戦略的パートナーシップを結んだというのだ。
SOMは、映画「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」の舞台にもなったことで一躍有名になった、世界一高い建築物、ブルジュ・ハリファ(ドバイ:828m)の設計にかかわったことで知られる。
出典)ブルジュ・ハリファ
そのSOMが今年5月、エナジー・ボールトと戦略的パートナーシップを締結した。その一環としてSOMは、エナジー・ボールトの重力蓄電システムを組み込んだ都市の超高層ビルや自然環境の構造物を、今後独占的に設計することで合意した。
出典)SOM
今後超高層ビルにシステムを組み込んだ場合、コストや耐久性がどうなるか、などの課題はあるだろうが、他の蓄電池のように化学物質を使わないことや、構造がシンプルな点は評価できる。
日本でこのシステムの導入に名乗りを上げている企業はまだないが、電力系統の安定化に貢献する蓄電システムのひとつとして、今後検討する余地はありそうだ。
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