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出典)Dragon Claws/GettyImages
- まとめ
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- 世界各国が宇宙太陽光発電の研究開発を加速させている
- 日本は、ワイヤレス給電技術で世界をリードしている。
- 技術を核にして日本がプロジェクトのリーダーシップをとり、宇宙太陽光発電の実現を早めようとしている。
地球に届かなかった日射エネルギーの一部を宇宙空間でマイクロ波もしくはレーザーに変換し、地表に届けて有効利用する「宇宙太陽光発電」(Space Solar Power Systems:SSPS 「以下、SSPS」)。4年前の記事、「米中しのぎ削る「宇宙太陽光発電」とは(2020.05.26)で紹介した。今回はその最新状況について紹介したい。
世界のSSPS開発状況
世界のSSPSの開発の歴史は意外に古い。1968年アメリカのピーター・グレイザー教授が提唱したのが最初だとされる。それから実に56年が経とうとしている。
なかなか実現できなかった理由の一つに、ロケットの打ち上げコストの高さがあった。しかし、米テスラやX(旧Twitter)のCEOとしても知られる、イーロン・マスク氏が2002年に創業した宇宙開発企業、スペースX(Space X)の誕生で流れが変わった。同社が、ロケットの打ち上げの低コスト化を実現したのだ。
宇宙空間に、巨大な太陽光発電所を建設するためには、大量の資材を宇宙に運ばねばならない。打ち上げコストの削減は、SSPS開発にとって追い風だ。
また、地球温暖化問題もSSPSを再評価する要因となっている。宇宙から地球に送電するこの技術は、まだ実現していない核融合などより現実的だとの見方がある。
こうした環境面からSSPSの研究開発を推進しているのが、EU(欧州連合)だ。欧州宇宙機関(European Space Agency:ESA)は、SSPSの調査プロジェクト「SOLARIS(ソラリス)」を2022年に立ち上げた。
同プロジェクトは、クリーンエネルギーの国際競争において、EUがリーダーとなることを目標に、高効率太陽電池、ワイヤレス電力伝送、軌道上ロボット組立てなどの最先端技術を開発するとしている。
EUが環境面からSSPSの開発を進めているのに対し、アメリカは、宇宙から地上軍への電力供給など軍事利用を視野に入れている。米空軍研究所(Airforce Research Labolatories : AFRL)が、防衛関連産業のノースロップ・グラマンと共同で進めているのが、「Space Solar Power Incremental Demonstrations and Research Project SSPIDR(スパイダー)」と呼ばれるプロジェクトだ。
そして、欧米に追いつけ追い越せと、近年SSPSの研究開発に力を入れているのが中国だ。宇宙開発競争の文脈で研究開発が進む。人工衛星の開発などをおこなっている、中国空間技術研究院(China Academy of Space and Technologies :CAST)の予算で、西安、重慶、四川などの大学がSSPSの研究開発を推進している。
日本の研究開発の現状
各国がSSPSの開発にしのぎを削る中、日本の立ち位置はどうなっているのか。この分野の第一人者である、京都大学生存圏研究所・教授の篠原真毅氏に話を聞いた。
篠原氏は、SSPS研究開発では、予算の規模で日本は他国に大きく劣っているだけでなく、ロケットや電池の分野の技術開発でも後れを取っている、と現状を分析した。
その上で、「唯一日本が勝てる道として、ワイヤレス給電の技術を中心にしてやるのが一番ではないか」と話す。
© エネフロ編集部
実は日本はワイヤレス給電技術で他国をリードしている。今から15年前の2009年に策定された「宇宙基本計画」に、すでにSSPSが盛り込まれていた。その後、経済産業省が主導してプロジェクトが進行しており、2050年ごろの実用化を目指している。
2019年5月には、マイクロ波送電用「フェーズドアレイアンテナ」によるワイヤレス電力伝送を世界で初めて成功させた。このシステムの開発を中心に、長距離マイクロ波送電の技術実証や、ドローンへのワイヤレス給電等のスピンオフビジネス(注1)の推進など、多角的に研究開発をおこなっている。
そしていよいよ2025年度に無線送電実証実験衛星OHISAMA(On-orbit experiment of HIgh-precision beam control using small SAtellite for MicrowAve power transmission)を打ち上げ、世界初となる宇宙空間から地上へ方向を制御されたマイクロ波ビームで電力を伝送する実験を実施する予定だ。
こうした日本のSSPS研究開発の流れは、アメリカのような軍事利用でもなければ、EUのクリーンエネルギー、中国の宇宙開発などの文脈でもない。篠原教授は、「技術オリエンテッドで産業応用を念頭に置いた研究開発である点に特徴がある」という。
実際、京都大学発のベンチャー、Space Power Technologies社らが、空間伝送型WPT(Wireless Power Transfer/Transmission : ワイヤレス給電)のビジネスを開始している。
この背景には、日本が2022年5月、世界に先駆けてマイクロ波(920MHz、2.4GHz、5.7GHz)のワイヤレス給電を制度整備したことがある。
出典)総務省
今年5月には、ワイヤレス給電に関する世界最大の国際学会であるIEEE WPTCE(Wireless Power Technology Conference & Expo)2024が京都大学で開催される。欧米・中国の研究機関やベンチャー企業から、総勢300人ほどが集まる予定だ。日本の空間伝送型WPTの技術が世界から注目されている証左でもある。
「ワイヤレス給電の技術とシステム設計の部分で、(世界各国が)日本に習う雰囲気になってきているので、その流れでいけるのではないかと思っています」と篠原教授は期待感を示す。ワイヤレス給電技術を核にして日本が宇宙太陽光発電という壮大なプロジェクトのリーダーシップをとり、その実現を早めようとしている。
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